「ほうら、着いたぞ!」
「わ〜〜〜い!!」
「こら、走らないの!」
あっという間にやって来たレイの誕生日。
俺、ヒナ、レイの三人は一日遊び倒すつもりで開園前から並んでいた。
「楽しみだね〜カイト! 楽しみだね〜ヒナちゃん!!」
休日というのもあって俺達の他にも多くの人が並んでいたが、もう日差しも強い季節じゃないし、レイは楽しみ過ぎて全く苦に思っていないようだ。
「もう、まるで子供じゃないの」
「十四なんて正真正銘子供だろ。いや、今日で十五か……それに今日はレイが主役なんだ、大目に見てやろうぜ」
「別に叱るつもりはないけど……」
ヒナと二人で挟んでいるレイを見る。
レイは目を輝かせてアホ毛をぐるんぐるん回していた。絶好調だな。
というかそれ、錯覚じゃなくてちゃんと動かせたんだな。
「なんだか前にもこんな事あったわね」
「旅行の時か?」
「そうそう。レイカの事を二人で叱って、まるで親子みたいだねって思ったのよ」
「うぇ、ヒナも?」
「……カイトも?」
俺は苦笑いしながら頷いた。
あの時は恥ずかしくて思いっきり自分の頬を引っ叩いた。バカな妄想してんじゃねえって。
まさかヒナも同じ事考えてたなんてな。レイも俺達に両親を重ねた事あったりすんのかな、お父さんって呼ばれた事はあったけど。
「……ねえカイト」
「なんだよ」
「カイトは…………子供は何人欲しい?」
「ブッ!!?!?!?」
突然の質問、いや攻撃に吹き出してしまった。
ヒナの奴、隙すら見せなくても攻めてくる様になったか。
「二人? 三人? もっと欲しいかな」
「…………えっと」
「私、カイトの為なら頑張れるよ?」
「ヒナが頑張るとは限らねーだろ…………」
「あ、相手に頑張らせるつもりはあるんだ♪」
しまった、今度は明確に隙を見せた。ヒナからニンマリとした視線を向けられる。
「どんな風に頑張らせるんだろ、「俺の子を産め!」って言われちゃうのかな?」
「…………言いません」
「そうだよね、カイトなら「産め!」ってより「産んでくれるか?」って優しく聞くよね」
「そうじゃなくてぇ……」
ダメだぁ完全にヒナのペースだ。ずっと俺との未来の妄想を聞かされている。
こいつめ、レイがいつもと違って遊園地に夢中だからって。
「じぃ〜っ……」
「おろ?」
「あら」
と思っていたのだが、いつの間にかレイは俺達の方を睨んでいた。
流石に聞き捨てならなかったか。
「かいとぉ……」
「…………」
今すぐレイの口を閉じたかった。
俺の予想通りなら、こいつは今からとんでもない事を口走るからだ。
でも今日は誕生日、手荒な事をしたくなかった。
「あたしもかいとの赤ちゃん欲しいな……?」
「……………………ふぅーっ」
訂正、無理矢理にでも黙らせるべきだった。
「わぴゃっ!?」
「公共の場で何言ってんだ!」
「ぷぇーん!!」
レイは囁く様に呟いた。ギリギリ周りには聞こえてないだろうが、聞かされた俺の反応は丸わかりだ。勘弁して欲しい。
「ふふっ、二人ともお盛んね」
「元はといえばお前が! …………ん?」
俺達を見て笑うヒナに文句を言おうとすると、遊園地のゲートの方からアナウンスが流れて来た。
『お待たせいたしました! ただいま開園時刻となりました、本日も当園をお楽しみください!』
「あっ! カイトカイト! ヒナちゃん! 開いたって!!」
ゲートを指差し、花が咲いた様な笑顔を浮かべるレイ。
本当に嬉しそうだ、これだけでも連れてきて良かったと思わせてくれる。レイの笑顔を見てると俺まで笑顔になった。
「早く行こ!!」
「ふふっ、はいはい」
「おいおい、引っ張んなって!!」
レイに腕を引かれ、俺とヒナは他の客と共にゲートへ向かって歩き出した。
レイに釣られたのかな、それともヒナの優しい顔のせいか、レイを連れてきた立場の俺までワクワクしてきた。
◇
「カイトカイト! あれ乗ろ!」
レイが最初に選んだのはコーヒーカップだった。
今日一発目だし初っ端にしては穏やかでいい選択だと思った。
だったのだが。
「…………狭くない?」
「そうかしら?」
「いや、俺だけ狭いんだよな……」
「えへへ、カイトの事挟んじゃった♪」
カップの中は四〜五人は余裕もって座れるスペースはあったのだが、案の定というかレイとヒナは俺にピッタリとくっついてきた。
お陰で全体のバランスも非常に悪い事に。
「それじゃ〜、ぐるぐる〜っ!!!」
「………………うん!?」
「ちょっ、早っ!?」
元気良くハンドルを回し始めたレイ。
しかし今日のレイははしゃいでいる。加えてコーヒーカップは人間の子供の力でも充分回るアトラクションだ。そんなものをレイが思いっきり回すとどうなるか。
「あっははははははっ!!! はや〜い!!!」
「まっ、待てレイ!?」
「うぅ、目が回る……」
「それ〜っ♪」
レイは全く手を緩めない。俺が止めようにも二人に密着されていて上手く動けない。
あ、ヤバい。どんどん世界が回って……。
「……あれ? カイト? ヒナちゃん?」
「うぅ……」
「おぶぇ……」
時間いっぱい大回転は続いた。
一瞬だけ死んだ母さんが苦笑いしてた気もするが、とりあえず大丈夫だ。
レイも楽しんだみたいだし、良かったよ。
「二人とも大丈夫?」
「………………ええ、なんとか」
「まあ…………」
俺達もいい経験をさせてもらったよ。
吸血霊鬼の全力でコーヒーカップを回してはならない。覚えておこう。
◇
「次は何乗りたい?」
「えっとねぇ……これ!」
パンフレットを眺めながら、レイが指差したのはジェットコースター。
午前中からジェットコースターは早すぎないかと思う部分もあったが。
「どうかな?」
「…………まあ」
「……いいんじゃないかしら」
「やった!」
ヒナと二人で顔を見合わせる。
さっきのレイ式コーヒーカップを経験してしまったらジェットコースターくらい何ともないのでは、俺とヒナは無言で頷いた。
となればチケットを買って並ぶだけなのだが。
「……で、どう座る?」
ここのジェットコースターは一列に二つの座席。また俺の隣を奪い合うとすれば、コーヒーカップの時みたいにはいかない。
「じぃっ……」
「はぁ…………」
もじもじしながらヒナを見つめるレイ。
対するヒナはやれやれと言いたげな顔でため息をついた。
「今日はレイカの誕生日だもの、レイカの好きにしなさいよ」
「ほんと!?」
「ええ、私は別に後ろでも…………えっ?」
ヒナはレイに俺の隣を譲るつもりだったらしい。
しかしレイが取ったのはヒナの手。
「それじゃヒナちゃん、一緒に乗ろ!」
「わ、私!?」
「カイトの隣はさっきやったから、今度はヒナちゃん!!」
レイはそう言ってヒナの手をグイグイと引っ張る。
オロオロとしながらヒナは俺に助けを求めるが、俺は手をひらひらさせて二人を送り出す。
「レイの好きにさせてやるんだろ? 俺は待ってるから行ってこいよ」
「えっ、でも……」
「ヒナちゃ〜ん……お願〜い?」
「うぅ……わかったわよ!」
「やった~っ♪」
ヒナの了承を得たレイはニコニコだ。ヒナにぎゅっと抱きつくレイ。
元々三人でと言ったのはレイだ。俺を独り占めするつもりなら最初からそうしてるはず。
三人で来たいって事はお前とも一緒に居たいって事なんだよ。
「もう……レイカったら可愛いんだから」
「えへへ〜♪」
ヒナとレイは仲良く手を繋いだまま、ジェットコースターの列に向かっていった。
「…………二人とも可愛いっつの」
ついうっかりと、素直な気持ちを溢していた。
二人が近くに居なくて本当に良かった。
◇
「…………マジでやんの?」
「うんっ!!」
「……レイカの好きにさせてやるって言ったのはカイトでしょ?」
「そうだけどさ……」
あっという間に昼飯時になり、俺達は園内のレストランにやって来た。
俺達三人とも余り大食いではないので軽く済ませたのだが、ここでもレイのお願いが炸裂した。
「お待たせしました! デラックスラブリーパフェになります♪」
華やかなエプロンを身にまとったウェイトレスが俺達のテーブルにパフェを運んできた。欲しがったのはもちろんレイ。
しかもただ食べるだけではない。レイのお願いには続きがあった。
「カイト! あーんして!」
「…………わかったよ」
「この大きなパフェをみんなで食べさせ合いたい」というのがレイのお願いだった。
俺は付属のスプーンを持ち、てっぺんのバニラアイスをひと掬いしてレイの口に運んでやった。
「あ……あーん」
「あ~むっ♪」
嬉しそうにアイスを頬張るレイ。なんて嬉しそうな顔しやがる。
レイは舌をペロッとし、俺の手からスプーンを奪った。
「今度はカイト! はい、あ~ん♪」
「あ、あー…………む」
スプーンに食いつきながら、ちらちらと周囲を見渡す。流石にこんだけ甘ったるいやりとりをしていれば他の客にも目立っていた。何人か俺達の事をガン見している。
ヒナも気付いてるみたいだが、恥をかくのは俺だけじゃないからな。
「はい! ヒナちゃんも!」
「うっ……」
俺の時と同じ様にアイスを掬い、今度はヒナの口に向けるレイ。
ヒナはうろたえていたが、どうせ逃げ道が無い事を理解したのか、観念して口を開いた。
「あーん!」
「…………あむっ」
「おいしい?」
「……恥ずかしくて、よくわからないわよぉ」
恥ずかしさのあまりヒナは顔を覆ってしまった。
しかしレイのお願いはまだまだまだまだ終わらない。
「ねえねえ、ヒナちゃんもあーんってして?」
「へぇっ!?」
「あーん…………」
「……っ、もう!」
顔を真っ赤にしたヒナがレイの手からスプーンをひったくり、生クリームをこんもりとスプーンに乗せた。
「ほら食べなさい!」
「ぷぁっ!」
ヒナが掬った生クリームはかなり多く、レイの小さな口には全て収まらなかった。
口からクリームが溢れて頬や唇に付いてしまった。
「あーあー、何やってんだ」
俺はレイの頬にくっついたクリームを指で掬い取った。
でもどうすっかな、このまま拭き取るのもなんか勿体ないし、かと言って舐めるのもな。
「……ぱくっ」
「ばっ!?」
などと悩んでいると、あっという間にレイが俺の指に食い付いてきた。
レイの舌の感触が俺の指先を這い回る。
くすぐったさに声が出そうになった所でようやく解放された。
「……えへ、美味しいねカイト」
「お前さぁ…………」
今まで無邪気な顔をしていたのに急に妖しい視線に変わる。なるほど、今のはわかっててやったと。
そういやレイとの家デートの時もこんな事あったな。デザート代わりに指先噛まれて、こんな風に指先をレイの唾液まみれにされて。
余計な事言われる前にさっさと拭こう。
「…………ん?」
「……………………」
ふとヒナの方を見ると、いつの間にか頬にクリームをくっつけたヒナがこっちを見ていた。
わかったよ、わかったからそんな目で見るな。
「ほら、顔寄せろ」
「んっ…………」
レイにしてやった時と同じ様にクリームを指で掬い取った。
んで、このクリームどうしたものか。
「…………れぇ」
「…………ですよね」
口を開けて待ち構えるヒナ。
いやでも勝手に舐め取ったレイと違って、俺から指突っ込むのなんかアレだな。
「…………
「……ほらよ」
こういうのは迷えば迷っただけ恥ずかしくなるんだ。
覚悟を決めて俺はヒナの口目掛けて指を突っ込んだ。
「れろ……ちゅ」
ヒナは俺の手を押さえてない。離そうと思えばいつでも離せる。
俺の意思で指を突っ込んで舐めさせてるこの光景、マジでヤバいかも。
「も、もういいだろ!?」
「あっ……!」
ヒナがいつまでも指を舐めているのでいい加減指を引き抜いた。
唾液まみれの指を急いで拭き取る。
「まったく、一応公共の場なんだぞここ……」
「ちぇっ」
「まあまあカイト、あーんして?」
「ん、あー…………あ!?」
俺を宥めるために生クリームをスプーンに乗せて差し出すレイ。
さっきと同じ様に頂こうと思ったら、なんとレイは俺の頬目掛けて真っ直ぐスプーンを突き出してきやがった。
「何してんだお前!」
「あちゃ〜、カイトもほっぺにクリームついちゃったね?」
「…………はっ!?」
「それは大変ね。さっきのお礼に私達が取ってあげないと」
じりじりと俺に近寄るレイとヒナ。
二人の細い指が俺の頬からクリームを掬い取り、その指を俺の近くで待機させたままニヤニヤと俺を見つめる。
「ほら、かいと♡」
「このまま拭き取るのは勿体ないわよね?」
「…………マジかよ」
レイもヒナも俺の指を舐めて綺麗にした。その流れで同じ事をしてきたという事は、期待してる事も同じだろう。
本当に大丈夫か? 捕まらないか俺?
人前で女の子の指舐めさせられんの?
「「じぃ〜っ…………」」
「…………」
わかったよ。
俺も再び覚悟を決めた。
「…………あむ」
「きゃっ♡」
「あむっ」
「ふふっ♡」
俺はレイとヒナの指先にぱくっと食い付き、すぐに舐め取って口を離した。
それでも二人は満足そうに微笑んでいた。
「「……………………」」
「ほら、お前らも指拭けよ」
「「……………………」」
「レイ? ヒナ??」
「「……………………」」
「拭けって!!!!」
何故かうっとりと指先を眺めるレイとヒナ。
なにをしようとしてるかなんて明らかだった。
「はい! ゴシゴシしましょうね!!」
「「あぁーーっ!!」」
俺は二人の腕を掴み、変な事をする前に綺麗さっぱり拭き取ってやった。
「あんまり人前で変態行為しようとすんなよ?」
「うー……」
「しょうがないか……」
「あと、食べ物で遊ぶんじゃありません!!」
俺に説教された後も、二人は食べさせ合いを続けた。
周りからの視線は痛かったけど、二人が満足してるなら安いもんだ。
ただ、マジでもう勘弁してね。
◇
「さて、午後はどうすっかね…………っと?」
「うぇぇぇぇぇぇん!!!」
レストランを出て三人で歩いてると、泣いてる女の子とそれを宥めている母親が居た。
「…………なるほど」
女の子の周りを見ていると、木の枝に風船が引っかかっていた。
なんともベタな、しかし小さな子供にとっては死活問題か。
「二人とも、ちょっと待っててくれ」
「あっ!」
「カイト!」
俺はレイとヒナに一言断りを入れて、その女の子の方へ駆け出した。
風船の高さは大体一軒家の屋根ぐらいか。普通だったらはしごとか使わない限り諦める高さだが、今の俺なら届く。
「よっ……と!」
勢いのまま跳び上がり、風船の紐をしっかりと掴む。
転ぶ事なく着地、上手くいった。
「ほらよ、もう離しちゃだめだぞ」
「お兄ちゃんありがとう!」
「あっ、ああ、ありがとうございます!」
女の子は俺から風船を受け取って大喜びだ。
しかし母親の方は一言礼を告げると女の子を連れてすぐに去ってしまった。
「…………ま、そうだわな」
その理由に気付かない程鈍くはない。
やることもやったのでレイとヒナの所に戻った。
「何やってるのよカイト!」
「か、カイト? なんで……」
「なんでって言われてもな」
二人も俺の事を心配していた。俺が目立つのを懸念していたんだろう。
大丈夫、わかっていた事だ。
「女の子が泣いてて、俺にその原因を解決出来そうだったから」
「簡単に言うけどね……」
「まあいいじゃねえか、こんだけ人が居るんだ、少し回ったらみんな忘れるって」
「…………まったく」
実際何人か俺の事を指差してる奴は居る。でもそれだけだ。
それにこうして変わらず俺の手を取ってくれる奴が居るんだ、それだけでいい。
知らない奴の感情より好きな奴の言葉の方が俺は大事だ。
「…………カイト、かっこいいね」
「そうか?」
「考え無しだけどね」
「へっ、反論しねーよ」
レイもヒナも俺の手を握り、さっきと同じ様に並んで歩き出した。
「…………本当に、優しすぎるんだから」
ヒナはぼそっと何かを呟き、俺の手に指を絡めた。
まったく、今日の主役はレイなんだぞ。そう思う気持ちもあったが、俺はヒナの手を離せなかった。