吸血霊鬼のレイカさん   作:ラティーシャ

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最終話B【Down with your Love】

 

 

 あたしとカイト、時々ヒナちゃんの日常は続いていた。

 

 カイトが高校三年生になった春、あたしも紗霧ちゃんに力を借りてお仕事を始めた。

 紗霧ちゃんに連れてこられたのはお洒落で静かな喫茶店。あたしで大丈夫かなって思ったけど、マスターも他のバイトの子も優しくてすぐに溶け込めた。

 仕事内容もコーヒーを淹れたり、軽い料理を作ったり、あとはお客様に笑顔で対応したり。あたしの得意な事ばかりで安心した。

 

 そうそう、最初の頃は男の人にナンパされる事も多かったんだけど、ある時カイトが鬼の形相で入ってきてナンパしてきた人を追い出して以来めっきりなくなった。

 カイトったらその日、帰ってからすっごく甘えてきたんだ。あの時のカイト、すっごく可愛かったなぁ。

 

 最初のお給料はカイトの為に使った。カイトに似合いそうだなって思ったピアスを買ってプレゼントした。あたしは穴があかないからピアスつけられないけど、カイトは吸血霊鬼になる前からあけてたから今でもピアスがつけられるの。

 それであたしからピアスを貰った時のカイト、珍しく顔真っ赤にして照れてたんだ。カイトはあたしが自分で欲しい物を買うと思ってたみたいで、カイトの為に使ったのが凄く嬉しかったんだって。

 そんなカイトの笑顔があたしの一番欲しかった物なのにね。

 

 ヒナちゃんも相変わらず遊びに来る。あたしからカイトの事奪ってやる! って言ってる割には、あたしの事も一緒に構ってくれる。ヒナちゃん、あたしの事も好きなんだよね。あたしもヒナちゃんの事好き。

 ヒナちゃんはカイトと歳を取れない事が一番嫌だって言ってた。だから今はあんまり二人の邪魔したくないんだ。ほら、どうせあたしとカイトには何百年もあるけど、ヒナちゃんの欲しい時間は今だけだから。

 それにカイトがヒナちゃんと仲良くしてるのは、実はそんなに嫌じゃなくて。二人ともあたしの事忘れないでいてくれるっていうのもあるけど、なにより三人で居るのがあたしは好きだから。

 …………大人になったらヒナちゃんと二人でカイトの事襲っちゃおっかな、なんて。

 

 ヒナちゃんの誕生日、あたしの誕生日、カイトの誕生日、いつも三人でお祝いしてた。

 そうそう、ヒナちゃんはカイトの成長が止まったらって悲しそうにしてたんたけど、ここ最近でカイトの身長ぐんぐん伸びて、ヒナちゃんすらドン引きしてた。男の子の成長期ってすごいなって。

 あたしの事もあっという間に抜かれちゃった。もう一八〇センチ近いんじゃないかな。

 今のカイトに迫られるの、凄そう…………♡

 

 カイトとヒナちゃんは大学生になった。同じ大学に受かったみたい。

 あたしも喫茶店での仕事に大分慣れてきて、いつの間にかバイトリーダーを任される様になった。

 カイト達の大学はあたしの喫茶店の近くみたいで、カイトはよくお昼ご飯を食べに来てくれる。

 カイトのおかげでかなり減ったナンパも、カイトが頻繁に来る様になったら一人も来なくなった。

 まあそうだよね、こんなにかっこいい彼氏がずっと近くに居るんだもん。

 

 そんな生活を続けて、二人も二年生になってた。

 ヒナちゃんが一番誕生日早いから、まずはヒナちゃんの二十歳のお祝いをした。

 ヒナちゃんだけはお酒が飲める歳になったけど、初めてのお酒はカイトと飲みたいんだって。可愛いよね。

 あたしはあんまりお酒に興味ないけど、二十歳になったら一回くらいは飲んでみたいな。カイトとヒナちゃんと一緒に。

 ……あれ、吸血霊鬼も二十歳でお酒飲めるの?

 

 

 

 それで、ヒナちゃんの誕生日が過ぎれば、次に来るのはあたしの誕生日。

 そう、あたしの……十八歳の誕生日だ。

 

 

 ◇

 

 

「誕生日おめでとう、レイ」

「ありがとカイト!」

 

 ろうそくの立てられたケーキをカイトと二人で囲む。

 ヒナちゃんは居なかった。何故か今回はあたしとカイトの二人きりだった。

 

「………………ぅ」

 

 何故かだなんて、自分に言い聞かせてるのかな。

 あのヒナちゃんだよ、察してるに決まってる。っていうかきっと覚えてるんだ。あの日カイトが大声で宣言してた事。

 

「すぅ〜っ…………ふぅ~っ!!」

 

 ろうそくの火を勢いよく消す。一息のうちに全ての火を消し終わる。

 

「おー、よく消えたな」

「えへへ……」

「太いの一本、細いの八本もあったのにな」

「え、えへへ……」

 

 あたしの十八歳を表すろうそく達。

 なんでだろうな、カイトの顔がさっきから怖いんだ。

 いつもと変わらないのに、笑ってるのに、含みがあるっていうか。

 

「さ、ケーキ切り分けるぞ」

「うん!」

 

 カイトはケーキを四分の一に切り分けた。小さめのケーキだったけど、あたし達二人じゃ一回で食べ切るには少し大きかった。

 

「……んお〜! やっぱここのケーキ美味いよな!」

「…………あはは」

 

 あたし達の誕生日を祝う時にいつもケーキを買うお店。一回食べてからみんなここのケーキの虜だった。

 ただ、今はちょっと味がよくわからなかった。

 

「…………あむ」

 

 頭の中がピンク色でいっぱいだったから。

 

 

 ◇

 

 

 ケーキも食べ終わり、残りは冷蔵庫に入れておいてひと休み。

 ごめんねケーキさん、明日はちゃんと味わうから許してね。

 

「はふ…………」

 

 コーヒーに映った自分の顔を見て、香ばしい匂いとともに頭を落ち着かせる。

 

(…………無理!)

 

 そんな事出来る訳なかった。

 ちらっとカイトの顔を覗き込む。

 

「ん? どうした?」

「ひぅ!?」

 

 カイトと目があった。一瞬見ただけなのに。

 もしかして、ずっとあたしの事見てた?

 

「レイ」

「はっ、はい!」

 

 思わず敬語で返してしまった。

 でもカイトはあたしをからかうような事は無くて。

 

「……本当に綺麗になったな」

「……え?」

「メイクも覚えてさ、髪型もいじるようになって、どんどん美人になってく」

「う、うん。ありがと……」

 

 あたしはカイトと違って、もう身長は伸びなかった。

 だけど紗霧ちゃんに聞いて、鏡に映らない吸血霊鬼でもメイク出来る様に黒い金属の手鏡もどきを貰ってから、自分でもメイク道具を揃える様になった。

 メイクも覚えたし、ヘアアレンジも調べた。

 カイトにもっと、可愛いって言われたかったから。

 カイトにもっと、綺麗だねって言われたかったから。

 

「カイトに……喜んでもらいたかったから」

「そっか、嬉しいよ」

「カイトも……かっこよくなったよね」

「俺が?」

 

 カイトはこの三年で凄く成長した。

 身長以外にも顔の輪郭とか骨格とか、どんどん男の人って感じになってて。

 カイトは後から吸血霊鬼になったけど、関係あるのかな。

 最近ヒナちゃんもカイトと会う度にメロメロしてるもん。メスが出てる。

 

「ふーん……俺もねぇ」

 

 カイトはあたしの言葉を聞いて少し考えてた。

 何を考えてたんだろう、すぐにカイトはにっこりと微笑んだ。

 

「それってさ、レイの好みになったって事か?」

「っ!?」

 

 近い!

 カイトの顔がぐいぐい近付いてきた。

 まるでキスしちゃうんじゃないかってくらい。

 

「ちゅっ」

「!!?!?」

 

 しちゃうんじゃないか、じゃない!

 本当にキスしてきた!!

 

「はははっ! んだよレイ、その顔。別にキスなんてしょっちゅうしてるだろ。つーか付き合う前はお前の方からガンガンしてきたじゃねえか」

「そっ、そぉだけどぉっ……!」

「俺のファーストキスだって奪った癖に、随分ウブな反応すんじゃねーか。もう十八になったってのに」

「っ…………」

「あ、それとも…………」

 

 カイトが意地悪な顔でニヤリと口角を上げる。

 

「…………十八になった(・・・・・・)からかァ?」

「!!?!?!?」

 

 カイトの言葉にびくっと身体が跳ねる。

 

「もしかして……図星か?」

「ぅ…………」

「よく覚えてたなぁ。俺の言葉」

 

 忘れるわけなかった。

 今日という日が近づく度に、否が応でも意識させられた。

 

『…………その代わり、三年後は本気で容赦しねえから覚悟しとけよ』

 

 三年前、あたしはカイトに「あたしの事好きにしていいよ」と言った。無知ゆえではない、恋人としてそういう関係になってもいいと思っていたから。

 でもカイトは首を横に振った。あたしが年下で、二人ともまだ子供だったから。

 その時にカイトははっきりと言った。十八になったら覚悟しておくようにと。

 今日、あたしは十八になった。

 

「レイ」

「ひっ……!?」

 

 どん! と目の前にカイトの手が置かれ、気付くとあたしの真横に立っていた。

 あたしの事を包囲するみたいに、カイトの視線がじっと向けられる。

 あの頃より大人っぽく、男らしくなったカイト。そんなカイトに迫られるのは圧がすごかった。

 

「覚えてるって事は、俺が何考えてるのかもわかるよな?」

「あのっ、えっとっ……」

「これからどうなるかも、わかってるよな?」

 

 カイトが一言話す度に、カイトの声があたしの脳を震わせる。

 カイトに近付かれるだけで、カイトの匂いでおかしくなりそう。

 この後のカイトを考えたら、心臓が高鳴って脚から力が抜けていくみたい。

 

「……へっ、今日はレイのお祝いだってのに何涙目になってんだよ。怖い事でもあったか?」

「う、ううん……」

「だよなぁ。だって今のお前、怖いとか悲しいとかそういう表情じゃねえもんな」

「…………へっ?」

 

 カイトがあたしの顎を掴んで、クイッと引いた。

 

 

 

「……期待が抑えきれないって感じの目してるぜ」

 

 

 

「………………ぅ、ん」

 

 カイトに心を見透かされて、小さく頷く事しか出来ない。

 カイトの言う通りだ。あたしは今日を楽しみにしていた。

 いつも優しいカイトが、ギラギラした目であたしを見下ろしてくれるこの日を。

 

「正直に言えて偉い偉い、素直な子は好きだぞ」

 

 カイトに頭を撫でられて、褒められて、胸がぽかぽかしてくる。

 だけどカイトの顔を見ればわかる。きっと今日優しくしてくれるのはそろそろ終わる。

 カイトは今日までいっぱい我慢してたんだ。恋人だったらみんなやってるような事をいっぱい。

 我慢はつらい。それに我慢したものはそれを我慢しなくてよくなった時、反動で凄い事になる。

 

「それじゃ、俺も正直になろうかな」

 

 今日のカイトは、凄い事になる。

 

 

 

「…………ベッド行くぞ」

「……………………はぃ……♡」

 

 今日のあたしは、凄い事になる。

 

 

 ◇

 

 

 カイトにお姫様抱っこでベッドに運ばれ、そのままの体勢で降ろされる。

 ギシッとベッドが軋む音がする。カイトの手が顔の横に置かれ、完全に逃げ場をなくされた。

 

「怖いか?」

「えと……ちょっとだけ」

「だろうな。悪いけど、怖くてもやめねえからな」

「あっ…………うん♡」

 

 いつものカイトならあたしが嫌がる事はすぐにやめる。

 でも今日のカイトはそれが無い。カイトがやりたい事を正直にぶつけてくれてる。

 あたしがカイトの事を受け止めてあげるって、信じてくれてるんだ。

 

(嬉しい…………)

 

 あたしはそれがたまらなく好きだった。嬉しかった。

 カイトがあたしに怒ったり、わがまま言ったり、痛くしてくれるのは、それだけ素直な気持ちをあたしに見せてくれてるって事だから。

 だからあたしは、カイトに乱暴されるのが大好きなんだ。

 

「まあ、なんだ。こんな体勢しておいて言う事でもねえんだけどさ、俺もお前も初めてだろ? なるべく優しくするつもりではあるけどよ、どうしたって少しは痛いと思うから…………」

「いいよ」

「…………レイ?」

 

 あたしはカイトの首に腕を回して、笑いながら答えた。

 

 

 

「痛いのがいい、乱暴なのがいいから…………カイトがやりたい事ぜ〜んぶあたしにぶつけて…………♡」

 

 

 

「っ…………ほぅ?」

「あっ……ひゃんっ!?」

 

 カイトに腕をほどかれ、手首を掴まれてベッドに押し付けられた。

 

(あ…………♡)

 

 カイトの目から優しい雰囲気が消えた。

 獲物を狩る時の捕食者みたいな目であたしを見下ろしていた。

 

「わざとか無自覚か、そういう風にお前に煽られて三年以上……ようやく借りを返せる訳だ」

 

 カイトの顔が耳元に近付き、耳に息がかかるくらいの距離で囁いてきた。

 

 

 

「前言撤回だ、ブッ壊れそうになるまで抱き潰してやるから覚悟しとけよ?」

「…………いーよ♡」

 

 あたしは今夜、誰よりも幸せに包まれる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「…………ふぁ」

 

 翌朝、目は覚めたけどいつもよりまぶたが重い。

 疲れが溜まってるのかな、なんて思ったけど理由はすぐにわかった。

 

「くかー……すぴー……」

「……えへへっ」

 

 隣には大好きな人。あたしと一緒で何にも着てなかった。

 

「…………ちらっ」

 

 口ではちらって言ったけど、布団をめくって二人の身体をまじまじと見る。

 二人とも吸血霊鬼だから痣とか怪我とかは無かったけど、その代わりベッドはぐちゃぐちゃだった。

 

「…………えへへへへへへっ♡」

 

 そっか、夢じゃないよね。

 あんなに痛くて乱暴にされて、あんなにカイトに愛されて、夢な訳ない。

 カイトも凄く気持ちよさそうに寝てる。あたしの為に今までずっと我慢してくれてたんだもんね。

 

「ありがと、かいと」

 

 寝てるカイトの腕に勝手に潜り込む。

 

「…………あたし、本当に幸せなんだぁ」

 

 カイトと出会って、一緒に暮らして、わかった事がある。

 カイトは凄く、凄く愛情の深い人だ。

 カイトは優しくて、よく周りを見てて、自己犠牲的で、寂しがり。それは全部、周りの人が大好きだから。大切だからカイトなりの全力で向き合うの。

 あたしに対してもそう。怒るのも、褒めるのも、撫でるのも、全部あたしが好きだから。愛してるから。信頼してるから。

 だからこうやってカイトがしたい事を正直に言ってくれる、してくれる関係になれて、あたしは本当に幸せなの。

 

「かいとぉ…………すき♪」

 

 

 

 誰よりも愛の深いカイト。

 あたしは今、あなたの愛に溺れてる。

 あなたの愛は柔らかくて、温かくて、気持ちよくて、心地いい。

 どこまでも深く、あたしの手を掴んで包み込んでほしい。

 あなたの愛で胸がいっぱいになって、窒息するくらい満たしてほしい。

 あたしの世界の全部、あなたの色で染め上げてほしい。

 空気はいらない、救助もいらない。

 ただ、あなたの愛に溺れていたい。

 大海原の様な愛に溺れていたい。

 いつまでも、どこまでも、沈んでいきたい。

 

 

 

「…………あ、そうだ」

 

 あたしはカイトの胸元に吸い付いてキスマークを付けた。

 あたしがカイトのものであるように、カイトもあたしのものだって刻みたくて。

 

「…………あぅ!」

 

 しかし忘れていた。あたし達にはキスマークが残らない事を。

 そっか、昔みたいにカイトにキスマーク付けられないんだ。残念。

 

「…………でもいいもん♪」

 

 キスマークが付かないからといって、それはカイトの身体にキスしない理由にはならない。

 あたしは引き続き、カイトの身体のあちこちに唇で触れていった。

 

 

 

「━━ガチャ」

 

 そんな時だった。

 

「カイト〜? レイカ〜? いつまで寝てるのよ。いい加減起きないと遅刻…………す…………」

「あ」

「…………………………………………」

 

 部屋に入ってきたヒナちゃんと目が合った。

 裸のあたしが、裸のカイトに、ベッドの中で抱き合ってた所に。

 

「……………………ミッ」

「━━ビターン!!!!!!!!」

「あーーっ!! ひ、ヒナちゃん!?」

 

 ヒナちゃんが倒れた。死にかけのセミみたいな声を出して。

 

「おわっ!! な、何事だ!?」

 

 ヒナちゃんが倒れた時の大きな物音でカイトが目を覚ます。

 

「か、カイト!! ヒナちゃんが倒れた!!」

「は!? ヒナ!?!?」

「ミッ……ミィ…………」

「ウワーッ!! 死にかけのセミみたいになってるーッ!?」

 

 

 

 慌てて服を着てヒナちゃんの傍に寄るカイト。

 ヒナちゃんの傍であわあわするあたし。

 うなされてるヒナちゃん。

 賑やかで慌ただしいあたし達の日常。

 あたしの大切な三人での、大切な日常。

 

 居場所を無くして一人ぼっちだったあたしの世界。

 真っ暗なあたしの世界に火を灯して、色を付けて、隣に居てくれたのはカイトだった。

 それからあたしの世界はどんどん色付いていって、カラフルになっていって、あたしの世界の住人が増えて。

 それもぜーんぶカイトのおかげなんだ。

 だからね、カイト。

 

「う、うーん……」

「ほっ、ようやくヒナが目を覚まし……」

「…………かーいと」

「えっ? んむっ!?」

「あむ、ちゅ♡」

「うう、なんだかすごい所を見た気がす…………」

「んむむ!? んむーーっ!!」

「ちゅーっ、ちゅ♡」

「…………ミィッ……」

「だっ!? ヒナーーーーッ!!!!」

 

 

 

 頑張ってカイトの事夢中にさせるから。あたしの全部カイトにあげるから。

 これからもずっと、ずっとずーーーっと、カイトの愛で溺れさせてね。

 世界で一番大好きな、あたしのカイト。

 

 

 

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