「ややっ! あなたはカリピーさんではありませんかニャ!?」
「そーですよ、なにかご用ですかー?」
「ジブンに、狩猟笛の演奏を聞かせて欲しいんです!」
はーい、カリピーちゃんです!
里を歩いていたら、なんだか錆色と白色の混じったアイルーさんに声をかけられました。
アイルーさんはソリストという名前で、なんでもあたしの笛にインスピレーションを見出したとか。
「ジブン、アイルーの使うアイテムの開発をしているんですニャ!」
「すごーい! あの、おっきなブーメランとか、回復してくれる木の苗も!?」
「ええ、ええ、みなみなジブンの発明品でありますニャ! そして、新しい道具の開発にカリピーさんの力を貸して欲しいのニャ!」
「にゃ、にゃんですとー!?」
まさかの責任重大アイデア担当に!
アイルーたちは、ガルクと一緒でオトモとしてハンターの仕事をお手伝いする……。
時に攻撃、時に回復、ときにぶんどり……。多種多様なアシストで、ハンターさんを支援して戦うのだ。
つまり、あたしの手伝った道具が、前線で使われるかもしれないってコト!?
そしたら、カリピーの名前も狩猟笛の知名度もアップ間違いなし! かも!?
「やるやる! やりまーす!」
「おお、ありがたい! 早速聞かせて欲しいニャが……カリピー殿は、笛はカムラノ鉄笛しか持っていないのかニャ?」
「ううん! この前ね、増えたんだ、一個!!」
そう、あれは猛き炎さんの見事な弓矢捌きを見た時……テンションが上がっていたあたしは、カムラノ鉄笛で里に伝わる唄を吹いた。
その時は、ただ自分の中で高まった感情とか、興奮を処理したくて吹いたものだったけど。
とっても風通しが良かった晴れの日だったから、その音が運ばれてギルドや里にも伝わってたみたいで……。
あとから「いい音色だったぞ」とか「流石の腕前だね!!!」って褒められて、嬉し恥ずかしー引きこもりたくなっちゃった!
ううーん、鍛治の音が修練場にまで聞こえてきてるんだから、こっちの音もそりゃ流れていくだろうに……気づかなかったの。その時は。
あたしとしては? 演奏で褒められることも嬉しいけど? 本当はハンターの腕前を褒めて欲しいっていうか?
それこそ、上位ティガレックスをソロで狩って、「流石カリピストのカリピー!」なんて呼ばれてみたかったり、うへへ。
「カリピーさま?」
「あ、いけないいけない、ちょっと未来予想が……。ええっとね、新しく増えたのはこのコ! ウィンドウホルンだよ!」
鉱石派生のひとつ、シンプル笛なウィンドウホルンくんでーす。
カッチカチな見た目だけど、意外と音色は柔らかいよ!
えへへ、ウツシ教官が、「愛弟子があれ以来調子が良くてね!!! 狩猟笛にはさまざまな旋律効果があるだろう? それを実感してみてくれ!!!」ってくれたの。
猛き炎さんは、あれから上位に上がった。
そこで色々モンスターを狩って装備を整えたりしてるみたい。まだ上がったばっかりなのに、この前は弓じゃなくて太刀を担いでたの。
いろんな武器を使える人は里にもいるけど、弓と太刀って全然違う武器に見える。
それなのに、上位のクエストをすんなりクリアしてきたんだって!
やっぱり、憧れのハンターさんは違うや。
でもでも、あたしもそんな彼に負けないよーに、今回のお仕事、頑張らなきゃ!
ソリストさんは、音爆弾を元に、そこに狩猟笛の効果も混ぜた、そんなアイテムを作りたいみたい。
音爆弾に狩猟笛の音って、合うのかなぁ?
何に使えるのか、全然わかんないけど。
えーと、ウィンドウホルンの旋律効果はみっつ。
高周衝撃波。
スタミナ回復速度アップ。
防御力アップ。
どれを選ぶんだろう?
「もちろん、全部ですニャ!!」
「全部ぅ!?」
「ハンターさんのスタミナ回復や防御も助けつつ、敵に衝撃波を送る音爆弾……そんなモノが完成するはずなんですニャ!!」
「そんなことできるのかなぁ……?」
なんだか不安になってきたけど、お仕事なからには真面目にやんないとですね。
私はウィンドウホルンを担ぎ、その吹き口を咥える。
そういえば、ホルンは吹いて弾くから今回は自然だね。
金管のマウスピースに違いそれに、私は息を吹き込んだ。
ブォ〜ォオオ〜オ〜オォ〜♪
重低音ながら、どこか厳かで寂しい音。
ホルンが神事に使われるかは知らないけど、もういなくなった神様を、ずっと待ってるお社みたいな緊張感と切なさが混じる音だ。
なんとなく、カムラの鉄笛とは違う。
音は当然違うけど、もっと何か……元になった調べが、違うんだ。
音楽って不思議。
その音の響きを聞いただけで、心の中に感情が湧いてくる。勝手に、突然湧いてくる。
カムラノ鉄笛は、里を守りたいって思う。この故郷を、絶対に消しはしないって。
なんだか、そう覚悟が決まるような歌。
けれどウィンドウホルンは、もういない何かを求めるみたいに、胸の中に寂しさと、ほんの少しの希望が、灯っていく。
旋律が違うと、使う肺の力も違う。
どこで吸って、吐くのか。
どこで止めて、どこで伸ばすのか。
拍ごとに、目まぐるしく空気が体内で変わっていく。
そういう、「息づかい」によって、ハンターの身体は刺激されて、秘められた力が顔を出す。
ウィンドウホルンは、とっても息を吐くからお腹にグッと力が入る。体幹を使っている。
そうしていると、お腹の血が巡り始めて、身体がグッと硬くなる。
パッと息を離すたび、吸い込まれていく新しい空気に肺が反応して、より良い息の吐き方を思い出す。息を効率よく、使えるようになる。
それが、きっと旋律で強くなることの一つの答えなんだと思う。
教官は、そんな違いも教えるために私に2個目の笛をくれたのかな。
でも、使ってるのが修行じゃなくてアイルーの道具開発なのは、ちょっと申し訳ないかも。
あたしだって、ちょっと有名になれるって思っちゃったし。
「どう、かな?」
「…………!」
あたしの演奏を聴いたソリストさんは、なんだか音爆弾を弄る手を止めて、こっちに耳を向けていた。
なんだかほうけて見えて、声をかけてしまったけど……数秒硬直してたソリストさんは、なんだか感情を溜めてから爆発させた。
「スッバラシイ!! ですが、これでは音爆弾に組み込むのは勿体無いほどですニャ!! これを爆発させるなんて、ああ勿体無いニャ」
「そ、そんなにぃ!?」
ソリストさんは、なにやらあっちこっちからガラクタみたいな道具を取り出して、がちゃがちゃと組み立て始めた。
「な、何作ってるんですか?」
「このスッバラシイ音楽を留めておくためのアイテムですニャ! 音は消え物! だからこそそばに置いておきたいモノなのニャ!!」
「わー、職人魂に熱が入っちゃったみたい……」
カンゼンに瞳が炎で燃えているソリストさん。
手元で組まれていくのは、ウィンドウホルンと同じ鉱石でできた小さな箱みたいなモノ。
なんだか、金色のトゲトゲパーツが組み込まれて、小さなパーツも集まりだした。
そうして、数十分待っていたら、ソリストさんの叫びで居眠りから起きちゃった。
「これですニャ!! 我が傑作、『アイルーオルゴール』!!」
「あいるー、おるごーる?」
オルゴールは知ってるよ? あの音がキラキラかわいいやつでしょう?
それが今回の重低音と何が関係あるのかなーなんて考えてたら、ソリストさんがオルゴールのネジを回した。
ブォ〜ォオオ〜オ〜オォ〜♪
「えっすごい!!」
「フフン、ジブンにかかれば、ウィンドウホルンの繊細な低音もこの通り! 留めることができるんですニャ!!」
そこから響いたのは、間違いなくあたしが弾いた重低音の寂しさと崇高さだった。
「アイルーは大抵、重低音の音楽は好きなのですニャ」
「それはどうして?」
「母の喉の音、自分や兄弟の喉の音、心臓の音……。そんな、身体の暖かさを、思い出させてくれる音なんですニャ」
「へぇ……」
私にはとっても寂しい切ない曲に聞こえるけど、アイルー達には安心と生まれた時の曲に聞こえるのかな。
人によって変わる。音楽って、不思議。
その後、オルゴールは一部の里のアイルーに向けて売り出されることになりました。
武器でもなんでもないけど、思ったよりも好評で、私もアイルーたちからたくさん褒められちゃった!
でも、「ああ、オルゴールの!」って覚え方は、ちょっとイヤかも……?
あと教官もいつの間にか持ってたけど、どこで買ったんだろう……。