「あ! カリピーちゃん!」
「コミツちゃん! どうしたの?」
お団子屋近くを通りかかった時、りんご飴を売っているコミツちゃんに声をかけられました。
歳の近い女の子同士、コミツちゃんとは何かと遊んだりしてるのだ。お団子をおやつに食べてたりすると、ヒノエさんがどこからかやってきて、山積みのお団子を持ってきたりもします。どこに隠してたんだろう……?
あたしは今日は修練が終わって、焼き栗を食べながらてきとうに散歩をしていたところです。
盛り上がるような筋肉をつけるのは、もっとあたしが成長してからって言われていて、修行も笛を振り回す訓練はあるけど、ほとんどが勉強だったりするんです。
モンスターのことを知るのもハンターの努めだそうで。あたしもそれは賛成なので、頑張ってるんですが……。
それぞれのモンスターの打撃耐性とか、属性とか、やられ状態とか、覚えることが多すぎて大変大変です。
頭が硬かったり、上の方にあると狩猟笛では上手く工夫しないと戦えません。
そうやって、実戦の前にデータを知ることも戦いのひとつなんですね〜。
話が逸れました。
コミツちゃんは、なんだかあたしを前にもじもじと、聴いて欲しいことがあるみたいに両手を後ろに組みました。
なんとなく、飴が刺さってる稾の裏に何かが見えてます。
「あれ? コミツちゃん、あれはなあに?」
「! これはね、ジャジャーン!!」
「わぁっ!!」
現れたのは狸獣ブンブジナのぬいぐるみ!! ──を使った狩猟笛、狸獣の草笛です!
ブンブジナの素材を使った狩猟笛で、上部にはブンブジナぬいぐるみがかわいく縫われています。でも、打撃ダメージも結構あるんです!
ぬいぐるみなのに硬いって、どうなってるんでしょう?
まぁ、かわいいからいいや!
「すごーい! これ、どうしたの?」
「あのね、コミツがブンブジナかわいいって言って、思いついた狩猟笛のレシピをあげたの! そしたらね、ハンターさんが余分に作ってもらって、コミツにくれたんだ!!」
「ええっ!? あの“猛き炎”さんが!?」
なんということでしょう! この狩猟笛の出来は見事で、ハモンさんの作とはわかりましたが、まさか作成依頼主がかの猛き炎さんとは。
コミツちゃんはブンブジナ好きですからね、プレゼントとしてはピッタリです!
でも、コミツちゃんはその嬉しそうな顔を、少し曇らせました。
「でもね、コミツは狩猟笛吹けないでしょ……? せっかくの笛なのに、勿体無いなって」
「そうかなぁ、ハンターさんは持ってるだけで良いって思ったんじゃない?」
「でも、カムラの里では武器は使ってなんぼ、だよ! だからね、カリピーちゃんに使って欲しいの!!」
「あ、あたしに?」
確かに、あたしはいつかカムラの里でいちばんの笛使いになって、カリピストとしてギルドに名を轟かせる予定ですが……。
他人の笛を貸してもらうのは初めてで、驚きました。
コミツちゃんは、確かに笛を担ぐのもキツそうですが、このブンブジナはコミツちゃんのなわけで……。
でも、コミツちゃんが狸獣の草笛を見る目は真剣で、だからこそ吹いてあげたいって思っちゃったあたしもいるんです。
「わかった! 貸してもらうね!」
「うん、明日、ウツシ教官さんにこれを使わせてあげてって言ったのー! よかった!」
はぇ、根回し済みだったのぉ!?
そんな、コミツちゃんに先を越されていたなんて……と言うか、ウツシ教官は何引き受けてるんですか。
まぁいいか、私はほくほくの焼き栗を食べながら、コミツちゃんからの笛を受け取るのでした。
「お礼に、焼き栗食べる?」
「うん、ほくほくしてておいしそー!」
*
「やぁ愛弟子!! 今日やることはコミツちゃんから聞いたみたいだね!!!」
「はい、ブンブジナの……狸獣の草笛を使うって」
「そう、でもまだキミにモンスターの狩猟は認められていない……ということで、今日の修行は『大社跡の探索』だ!!!」
「探索……」
ハンターにとって、戦う場所である大社跡。
今日は、生態や季節の関係でモンスターがほぼ出ない日らしいです。
出産期や、子育ての時期は人里が近い大社跡にはモンスターは出にくいそう。
あたしみたいな見習いハンターが実地訓練をするにはうってつけです。
「時に場所を活用した戦術もハンターの技のひとつとなる。特に周囲の生物や植生をよく観察することも大切だ!!! よって、今日は存分に大社跡を探索して、戦う場所の観察をしてみてくれ!!!」
「はい!」
「俺は陰から見守ってるからねーッ!!!」
そうして、ウツシ教官は翔蟲で消えてしまいました。
でも、あたし、ワクワクしてます!
大社跡はなかなか来ることができないハンターさんの狩場のひとつ!!
イメトレの参考にもなるかも……。
いつも薄暗い大社跡ですが、今日は日が高くけっこう明るいです。
キャンプから出て、早速探索してみることにしました。
「と言っても、何を見よう?」
猛き炎さんは、最近大社跡でトビカガチの二体同時狩猟に成功したそうです。あんな大きなモンスター相手に、すごいなぁ。
竹林の中を歩いてみたり、大きな鳥居の前に立ってみたり。
大社跡は人の痕跡が多いぶん、なんだか人とモンスターの交わる部分が面白いです。
モンスターが木を齧った跡とか、鱗の残骸だとか。
教官が見守ってくれてるとわからなければ、近くにモンスターがいそうでヒヤヒヤします……。
少し湿度のあるひんやりした空気は、肝試しに最適です。
「あれ、ブンブジナだ」
ふと、朽ちた門の辺りにブンブジナが何匹か集まっていました。
コミツちゃんが見たら嬉しがりそうな、ブンブジナの集会です。
そこで、自分が今日担いでいるのは狸獣の草笛ということを思い出しました。
「ブンブジナさん、襲わないでね……」
狩猟笛は本来武器なので、怖がられて反撃されたら怪我してしまいます。あたしはまだ狩猟の許可は貰えていないので、狩れないのです。
あたしは笛を構えました。
そして、息を吹き込みます。
ポン♪ ポン♪ ポンタタポン♪
ピーヒャラ、ピーヒャラ、ポンポンポン♪
草笛らしい高い音色と、ブンブジナがお腹を叩くみたいな軽い音が音色を作っていきます。
ブンブジナたちは、そんな演奏に気づきましたが、警戒したり怒ったりはしませんでした。ただ、じっとこちらを見ています。
ポン♪ ポン♪ ポンタタポン♪
「──!」
「ふぇ?」
なんとなく気分が乗ってきて更に吹いていると、ブンブジナの一匹がこちらに近づいてきました。
ビックリしましたが、敵意は感じません。
なんだろう、と止まっていると、そのブンブジナが隣に座って、ポコポン♪ とお腹をたたきだしたのです。
ポコポン♪ ポコポン♪ ポンポコポン♪
ポンタタポンタタ♪ ポンポンポン♪
あたしの笛と、ブンブジナの腹太鼓がセッションします。
ブンブジナのお腹はリズム良く軽快な音を響かせます。
だんだん周りのブンブジナも混ざってきて、いつの間にか大社跡はブンブジナたちの演奏会場になったのでした。
ポコポン♪ ポコポン♪ ポンポコポン♪
ポンタタポンタタ♪ ポンポンポン♪
ピーヒャラ、ピーヒャラ、ポンポンポン♪
「ありがとー! 楽しかったよ!」
いつの間にか時間になっていて、演奏の共演はあっという間に感じました。
ブンブジナたちにお礼を言って、今日もおやつに持ってきていた焼き栗をあげました。
美味しそうに食べてくれたので、感謝の印にはなったかな?
帰ると、コミツちゃんが嬉しそうに「素敵な演奏だったみたいだね!」と笑ってくれました。
「ウツシ教官さんがね! 実演付きで教えてくれたの!!」
……何してるんですか? 教官。