オラッお前もTS魔法少女になるんだよ! 作:インク追従体
「なるよ。魔法少女」
ㅤなるのかよ!ㅤあんなに嫌そうだったじゃん!
ㅤこの前の襲撃からきっかり一週間後。下校中の笹木くんの前に五体満足なわたしが降り立つと、彼はすぐさま結論を切り出してきた。
ㅤ他人の考えることってわかんないな。今までも断られたと思ったら意見を変えられたり、その逆もあったりした。窮地になって覚醒する子もいる。魔法少女になってくれるかどうか最後までわからない。だからわたしは男女関係なく勧誘することにしている。
ㅤ……ちなみに、わたしは一も二もなく頷いて魔法少女になったクチだ。一ミリも迷わなかった。
「ありがたいけど、乗り気になった理由を教えてくれないかなー」
「……動画、を見て。カッコ良かったし」
「動画?」
ㅤどれの話だろう。銀糸含め、色んな魔法少女がメディアに進出しているから、皆目見当がつかない。まさかわたしがボコボコにされてる裏流通の動画じゃあるまいし。
「三年前の……」
「あー!ㅤ最強の魔法少女ね」
ㅤ納得だ。
ㅤ今では一般に知られるようになった魔法少女だが、三、四年前はほとんど知られていなかった。それまでも別次元の敵と秘密裏に戦ってきたんじゃないかと言われているが……。
ㅤちょうど四年前。最初の大型外宇宙生命体が現れた。それを叩きのめした原初の魔法少女がいる。最強として知られる、正体不明の魔法少女だ。
ㅤ彼女を収めた動画は、動きが速すぎて顔を特定できないとか。知られている情報は青い衣装を着てるってことくらいだ。
ㅤただ、あまりにも強い魔法少女が人類の味方として戦っているという事実は、世界の希望になった。当時は世界滅亡だーとか何とか言って、ニュースも世間も絶望一色だったからなー。
ㅤだからこそ、彼女が行方不明になったと世間が知った時は……。
「うーん……」
ㅤ確かに、彼女に憧れて魔法少女になることを受け入れる子も今までにそこそこいた。決して珍しい話ではない。わたし以外の担当者だったら、躊躇いもなく問答無用で魔法少女にしているところだろう。わたしからすれば正気かと言いたくなるけど……。
「けど、本当にいいの?ㅤ他人への憧れなんかで決めることじゃないと思うよ?」
「なってほしいのかそうじゃないのか、どっちなんだよ……」
ㅤなってほしいに決まっている。同時になってほしくないとも思ってるけど。
ㅤ笹木少年は心外そうに片眉を上げて、びしと人差し指を突きつけてきた。変身前から整った顔立ちだから、勿体ぶった仕草が妙に様になっている。
「言っとくけど、それだけじゃない。僕はただ守られる弱いやつのままじゃいたくないって話」
「……ふ、ーん」
ㅤ男の子だ……。
ㅤまあ、そういう話なら仕方ない。確かに、絶賛そういうお年頃な中学二年生が、特別な存在になれるチケットを貰えたようなものなんだろう。断れと言う方が酷なのかもしれない。
ㅤ……あと、うん。多分これわたしが悪いな。笹木くんの目の前でボコボコにされすぎた。底抜けに優しい魔法少女向きの人間を選んだんだから、自分を守るために他人が傷つくことに耐えられないような子なのも当たり前だ。失念していた。
ㅤ生意気な口調だけど、いい子なんだよなー。餌をやっていた野良猫も既に家に迎え入れているみたいだし。こんな子に魔法少女やらせるなんて気が引けるけど、まあしょうがない。
「じゃ、多分もうすぐ敵が現れるから、それまでになっとこっか!ㅤ魔法少女!」
「わかった。どうやればいい?」
「簡単だよ!ㅤ媒体にするものを決めて、それに向かって『変身』って言うだけ!」
「媒体……?」
「なんでもいいよ!」
ㅤ変身道具、みたいなものだろうか。マスコットキャラクターみたいな奴から貰えるイメージがあったかもしれないけど、得てしてそういうのはファンシーな小物と相場が決まっている。男子中学生がそういうタイプの変身道具なんか持ってらんないよね。私物で変身した方がいい。絶対に。
ㅤわたしの場合、学生鞄につけているリボンのキーホルダーだ。身バレしちゃうから言わないけど。
「笹木くん、キミってストラップとかつけないタイプなんだね……」
「いいだろ別に」
ㅤまあ、本当になんでもいいんだけど。家の鍵とかでもいい。思い入れがあってもなくてもいい。
ㅤわたしの説明を聞いて、笹木くんはリュックの中をゴソゴソ探り出した。無骨な黒いペンケース。教科書。ノート。なぜか入っていたバネ。
「なんでバネが?」
「最近の授業で余った。じゃあこれにする」
「かっるいなー……」
ㅤわたしが言えたことじゃないかもしれないが、こんなに軽く済ませていいものだろうか、魔法少女の初変身って。
ㅤ困惑中のわたしを待たず、笹木くんはバネを手に取って呟いた。えっもう?ㅤもうちょっと心の準備とか……
「変身」
ㅤ強い光が目を焼く。
ㅤ次の瞬間、わたしの目の前に立っていたのは新しい魔法少女だった。
ㅤ髪は鈍い赤錆色。明るい薄紅色のスカートが風に靡く。
ㅤどう頑張っても笹木ハルカくんその人だとは親族すらわからないだろう、原型をとどめていない姿である。
「おー!ㅤかわいいじゃん!ㅤわたしの目に狂いはなかった!」
「えっこれ顔採用なわけ……?」
「違う違う!」
ㅤ違うけど、元の素材の顔が良ければ変身後もかわいい女の子になるのは当たり前だ。
ㅤ別にどんな人間が変身したって美少女にはなるけど、元々が美少女あるいは美少年なら魔法少女としての見目にも大きく影響する。要するに、地味な美少女かド派手な美少女かの差だ。銀糸も、変身前がいいからあんなに華やかなんだろうなー。
「……変身したのはいいんだけどさ、この服、どうにかなんない?」
「うーん、無理だね!」
ㅤ新生魔法少女は、例に漏れずフリフリしたアニメチックな衣装を身にまとっていた。元男の子には馴染まないのも当然である。
「変身する時、魔法少女のイメージとして笹木くんが思い浮かべていたのがその姿だよ。次からは何も考えなくても同じ姿で変身することになる」
「最悪だ……スカートとか……」
ㅤ打ちひしがれている姿が懐かしい。今まで勧誘してきた元男系魔法少女も、最初はこんなだったなー。すぐに慣れちゃって、中身が見えそうなのも構わずアクロバティックに動き回るようになるんだけど。イメージがどうとか先に説明したら余計な思考が入っちゃうしなー。
ㅤまあ、笹木くんもきっとすぐに慣れるだろう……あ。
「魔法少女名、何にする?ㅤこの一週間で考えたっ?」
「いや。それって必要?」
「必要だよー。わたしが怒られちゃう!」
ㅤ一応、魔法少女を登録する機関に雇われて何年もこんなことをやっているのだ。呼称なしだなんてかっこいい魔法少女入れちゃったら大目玉だろう。
「じゃあスプリング。魔法少女スプリングで」
「バネ!?」
ㅤテキトーだなーこの子。大丈夫かな。魔法少女稼業は真面目にやってくれると思ってるけど……。
ㅤどうせあと少しで魔法少女はいらなくなる。それがわかってるから、まあいいか。
「……あ」
「!?ㅤ何!?」
ㅤぐ。世界が引き伸ばされるような感覚があった。
ㅤこの激烈に気持ちの悪い揺れは、敵が来る予兆に他ならない。
「ちょうどいい時に来たね。魔法少女スプリング、初陣だよ!」
ㅤ集中して【視る】。他の魔法少女がここに辿り着くよりは、笹木くん改めスプリングが全部終わらせる方が早そうだ。うん、チュートリアルには最適だよね。
ㅤ銀糸なんかは強いし教えるのも上手いだろうけど、戦闘狂のきらいがあるからなー……。スプリングの練習なんて気にもしないで片付けてしまいそうだ。他の魔法少女もそういうところあるけど、あいつは特に凄まじい。それを考えると、今いる魔法少女がわたしとスプリングだけっていうのは好都合だろう。
ㅤ地面を蹴る。
「じゃあ行こっか!」
「えっちょっ、待てって!ㅤどうやったら飛べるわけ!?」
「イメージだよイメージ」
ㅤわたわたしているスプリングに微妙な顔になってしまう。わたしってば教えるの向いてないんだよね。
ㅤだから、ここから先は実戦形式だ。
ㅤいけっスプリング!ㅤがんばえー!
☆
「死ぬかと思った……」
ㅤ頑張った。スプリングもわたしも。
ㅤいくらスプリングが確実にわたしより強いといっても、ぶっつけ本番の初戦で一対多は無理だ。無理だったので、結局わたしは後方腕組み先輩面もできず、ヒイヒイ言いながらスプリングの撃ち漏らしを延々と倒しまくることになった。
ㅤ一週間前のは巨人型だったけど、今日のは群体型だ。潰しても潰してもキリがなかった。今や中堅になった銀糸でも手こずるレベルだろう。全然ちょうどよくなかったよね!
「んあ?ㅤ何、もう終わった感じすか?ㅤヴェールさんの割にやるじゃん」
「は、発言全部、余計、なんだけど……」
ㅤ疲労困憊でゼエゼエ言っていたわたしとスプリングの前に姿を表したのは、わたしにとっては馴染み深い魔法少女。スプリングにとっては先週敵をねじ伏せたのが印象深いだろう、銀色のチェーンやフリルがギラギラと眩しい。
ㅤ主役は遅れて来るって言うけど、それにも限度があることを知ってほしいものだ。
「銀糸……後輩の初陣くらい、見てやりなよ……」
「すまねっす。でも最低限の働きはしたんですよね?ㅤヴェールさんがなんも言わねえってことはサ」
「まあそうだけど……」
ㅤこいつ、わたしのこと舐めてる癖に、わたしのこと妙に信用してるんだよな。一年ちょっとの付き合いだけど、こいつの思考回路は未だにまったくわからない。まともな人間じゃないのは確実だけど。
ㅤ一応、最初の方は色々助けたり相談に乗ったりもしたが、銀糸が恩義みたいな感情を持ってるとは思えないし……。
「それに俺にも感謝してほしいくらいっす。流れ弾全部ぶっ壊したのはこの俺っすよ?」
「えっマジ!?ㅤそれはごめん」
「嘘ですけど」
ㅤなんなんだよこいつ!
「……」
ㅤスプリングは思うところがありそうな顔で銀糸を見つめていたが、何も言わないことにしたらしい。文句くらい遠慮せず言っていいのに。どうせ銀糸にはノーダメなんだし。
ㅤ軽薄な奴だ。もちろん底抜けに優しい人間ではない。他人どころか自分の命さえどうなってもいいという真性のイカレ人間、それが魔法少女銀糸だ。
ㅤ放っておけば地獄へ続く道しか歩けないような人間だったのを、このわたしの類稀な話術で一年前に魔法少女への勧誘が成功したというわけである。嘘だ。ホントはなんで魔法少女やってくれてるのかわかってない。怖い。
「敵いないんだったら来る意味もなかったですね。俺定時なんで帰りまァす」
「魔法少女に定時なんてないよ」
「そりゃそうだ!ㅤダハハ!」
「最悪だ……」
ㅤ青ざめた顔のスプリング。当たり前だ、魔法少女には休暇も休息も定時も有給もないんだよ!ㅤさながら電話が来れば患者の元に駆けつけなければならない多忙な医者のように、敵が来たら必ず対処する、これが魔法少女の仕事だ。未成年にやらせるには最悪に近いけど、敵が場所も時間も選んでくれないんだからしょうがない。
ㅤその代わり。
「はいスプリング。お給料」
「えっ?ㅤえっ!?ㅤ給料出るのかよ!?」
「何ヴェールさん、なんも説明してないんすか?ㅤ年々悪辣になっていきますねあんた」
「普通に忘れてたよー……」
ㅤ魔法少女には給料が出る。それも、敵を一体倒すにつき担当の勧誘役から手渡しで。この辺ではわたしってことだね。
ㅤいやーうっかり説明し忘れてたよ。決してわざと説明しなかったわけじゃなく。かわいそうなクラスメイトに魔法少女になってほしくなくて説明してなかったとか、まさかまさかそんなわけ。
ㅤスプリングっておかしいんじゃないかな。給料の話もしなかったのに魔法少女になることを決めるなんて。中二ってみんなそんなもん?
ㅤミラクルパワーで虚空から取り出した分厚い封筒を手渡すと、スプリングはあわあわしながらも受け取った。そりゃあ報酬として貰えるお金を拒む奴はいないよね。よほど奇特な奴だけだ。よほどとは言っても、わたしは既に二人知ってるけど。
「えっ、本当にこんなに?」
「機関がリアルタイムで敵の強さを見て、魔法少女が戦わなかった場合の損害額の六分の一……みたいな感じらしいよ。今回は群体型だったから額も大きいんだろうね」
「初参戦でこれはキマるよなァ。俺が預かってもいいぜ?」
「いえ、遠慮しておきます」
ㅤ妙に硬い表情で言うスプリング。さっきから、銀糸に緊張しすぎじゃないだろうか。先輩相手にどんな顔したらいいかわからないのか、それとも……。
「二人って知り合いなの?」
「……同じ学校、だった」
「偶然っすねェ?」
ㅤいやまあ、それは知ってる。二人を魔法少女に勧誘してるのはわたしなんだから、素性も素顔も性格も大体知ってる。こういうのって情報収集が大事だから……。
ㅤだけど、二人に接点なんかあっただろうか?ㅤ学年もクラスも部活も違うんだから、片方が意図的に接触しようとしない限りは会うこともないはず……あ。
ㅤそういえば銀糸って、一週間前にわたしがスプリングを勧誘したところ、見てるな。
「……銀糸。キミ、いつもは敵のところに来るか来ないか気分で決めてるよね?ㅤ今日はなんで来てくれたのか聞いてもいい?」
「え、そんなの決まってるじゃないすか」
ㅤ銀糸は低俗に歯を剥き出して笑った。かわいい顔が台無しだ。
「未来ある若者に、
ㅤだから嫌なんだよな、こいつの相手……。