英雄。
誰しもが夢見た、お伽噺の中の存在。圧倒的な強さで敵を蹴散らし、世界を救う奇跡の勇者。
或いは、救いの手を求めるものに手を差し伸べ続ける救済の具現。
憧れに焦がれ、心に焼き付いたそれになるためならば、人々を救える高潔な存在になれるならば俺は
この身を、犠牲にすることすら厭わない。
結果、俺は死んでしまった。
魔力、魔力と叫ぶ男とともに、トラックに轢かれて。
「9879、9880、9881...」
早朝、何の変哲もない一軒家で、必死にバイトして稼いだ給料を叩いた錘付きの模造刀を振り、自身にも錘を着けた状態で自己鍛錬をする。
いつも新聞を届けてくれる配達の人に「今日も頑張ってるねぇ」と言われた金髪の青年はにこやかに「いつも配達ありがとう!」と元気な声で返した。
傍から見ればそんな変わった光景を今や日常風景としてしまうほど見慣れていた配達の人は「倒れるなよ」と一声かけて次の場所へと向かう。励まされてやる気を出した青年は、模造刀を振り、自己鍛錬に励む。肉体の超回復を促すため休息をとる日もあるが、特訓は欠かさない。
「9997、9998、9999、10000!」
怪物的な量の素振りを笑顔で終えると、額に流れた汗を拭う。そろそろ両親が起きてくるころだ。はやくシャワーを浴びて朝食を作らないと。そう息巻いて、スケジュールより早く行動する。五分前行動!そうすれば遅刻や欠席はない!
「よっと...」
名倉と書かれた看板が掛けられた家の扉を開けて、玄関に入る。まだ起きていないといいのだが。
靴を脱ぎ、着ていたジャージを脱ぐ。靴からはおおよそなってはいけない重そうな音が響く。
ジャージをそっと洗濯籠の中に入れる。ゴトリ、と重厚感のある音が響くそれは、汗でびしょびしょなうえに重くて臭いという三重苦を洗う側に背負わせていた。これを毎日洗ってくれている母親に感謝しないと...
「...~♬」
シャワーを冷水にして、汗を洗い流す。火照った体に冷水が染みわたり、体が安らいでいく...安心感があふれ出す。これこれ。この瞬間が一番気持ちいいんだ。
「ふぅ、やっぱりお風呂は日々二回だよね」
汚れや手汗の一滴すら残さないほど体を洗いさっぱりすれば、いつも通り体を拭いて学校の制服に着替える。
朝からどたどた騒がしく、手を洗ってから朝食や父親、自身の弁当の準備を始める。今日はベーコンとピーマンの野菜炒めと半熟目玉焼きを朝食にする。汁物は昨日の夕飯のコンソメスープがあるから、それを温める。
「お弁当は鮭にしょうかな。俺は今日は、ドカベンの気分♪」
自分の弁当だから雑に作るわけではなく、彼は単純で豪快な飯を好む傾向にある。父親の者は副菜にほうれん草と人参のバター炒めとナムル。主菜に昨晩作ったたっぷり味の染みた唐揚げと、豚肉のピリ辛炒め。うま味たっぷりのだし巻き卵を入れたら、白米を詰めたお弁当に冷凍の鮭のハラミを入れる。こんなものでいいだろう。
そうやって出来た朝食と、保冷剤と一緒にくるんだ弁当を机に並べていると、父親と母親が寝室から出てきた。
「おはよう!お父さん!お母さん!」
彼は今日も元気な声で、両親に挨拶を。眠い目をこする母親と、すでにしゃきっとしている父親で対比になっている。
「もう、凜ったら...お母さんがご飯とお弁当作るから、早起き頑張らなくていいっていつも言ってるのに」
「お母さんはお父さんが手伝うからな!凜はもう少し寝てから鍛錬をしたっていいんだぞ?」
「ありがとう。でも俺のわがままに付き合ってもらってばっかりじゃ悪いだろ?だから、いつもお礼をしたいんだ」
「この子ったら。そんなこと、貴方がいつも言ってる、”消防士になりたい”って夢を叶えて、お金にゆとりができてから、少しだけでいいって言ってるでしょ?」
こんなの、貰いすぎよ。なんて困ったようにきれいなブラウンの髪を揺らした母親が笑った。灰色の髪をした父親は、「この親孝行ものめがー!」とくしゃくしゃと頭をなでて抱き着いてくる。少しむさくるしいけど嬉しいものだ。こういう家族のコミュニケーションは。
「それに、昨日はほら、ちょっとお楽しみ中だったみたいだからな。少し遠慮しておいたんだ」
「...ちょっとパパ。やっぱり激しすぎたんじゃない?」
「えぇっ!?ま、ママこそ声が大きすぎるんじゃあないのか?」
「ハハハッ。ほら、早く食べよう。朝ごはんが冷めるよ」
彼のノンデリ発言で始まった痴話喧嘩を他所目にすでに席に座り、朝食を食べ始める。いつも通りの日常のワンシーン。それは、彼の心の支えとも言える重要なものだ。
朝食を済ませ、歯を磨けば準備は万端。改造して中に仕込んだもので重たくなった制服とカバン、靴を履いて、両親に行ってらっしゃいを済ませて勢いよく家を飛び出す。重さとは裏腹に、カツカツと軽快な足取りで学校へと走っていった。
彼の通う学校は家から少し遠い。だからこそ、ランニングコースとしてはうってつけなわけだ。
速いペースで走るが、息切れ一つ起こさずに通学路を走る。十一年と二月、ずっと自分の限界のトレーニングを積んできた成果ともいえる。
人気のないところでしゅっしゅっとシャドーボクシングをしながら、人が見えてきたら挨拶する。人当たりの良さが出ている天然スマイルが今朝も炸裂している。
校門が見えてきたところで、挨拶の頻度が増える。彼は学校でも名前が広く知られており、様々な人から親しまれている。挨拶をすれば返されるし、こちらからせずとも挨拶が聞こえてくる。全員に挨拶を返しながら、校門の先生に
「おはようございます!」
と一声かけて校門を抜ける。「今日も名倉は元気だなぁ」と、生活指導の先生は感慨深そうに言った。
「おはよう、西野さん!」
「ええ、おはよう。名倉くん」
つづいて挨拶するのはこの学校のマドンナ、西野アカネさん。学校の人気者で、クラスメイトの一人。才色兼備を絵にかいたような秀才...ある意味、彼がお手本にしている相手でもある。
名倉さんと話すことはあまりない。けど、今日は少し疲れてるみたいだしそっとしておいた方がいいかな。なんて思い、早めに挨拶を切り上げて玄関の方へ。
「っと、おはよう影野くん」
「ん、ああ、おはよう。名倉さん」
「あっはは。今日は名前覚えてたんだね」
「うん。君はネームドキャラクターの中でも、結構印象強いからね。一応ネームドキャラクター全員の名前を把握してるつもりなんだけど...」
「えっと、そのネームドってのが何なのかはよくわからないけど、目をかけられてるってことでいいのかな」
目の前の青年の名前は、影野実。西野さんと同じく彼のクラスメイトの一人だ。一風変わっていて、たまに何を言っているのかわからないときもあるけど...面白くて、ついつい声をかけてしまう。いつもクラスで気配をけしてるから、多分一人が好きなんだろうなって思っちゃっても、教室やこういう朝だと話しかけてしまう。
屋上で本を読んでいるときもあるし、読書が好きなのだろうか?今度、お気に入りの本を訪ねてみよう。
あらかた挨拶を済ませたところで、彼は玄関に勢いよく入り下駄箱のところでぴたりと停止。そのまま靴を脱いで、内履きに変える。
「今日は影野くんと沢山話すことを目標にしようかな...」
少し面白そうな人だしね。と、傍から見なくてもはた迷惑な影野くん接触計画が開始する。
のもつかの間だった。
そもそも授業中に絡んだりするわけにはいかない。そんなことをすれば迷惑がかかる。彼の構ってだけに影野の成績を落とすわけにもいかない。
問題は休み中。まるで行動パターンが分かっているかのようにのらりくらりと交わされていく感覚...ま、まどろっこしい...!あまりにもまどろっこしい!どうにかして昼休みに突撃しようにも位置はつかめず...仙人か何かのように気配を消している。
まともなコミュニケーションもままならず...今日は潔く諦めた方がいいのかもしれないなぁなんて思いつつ、授業の内容をノートに書き写し握力を鍛えている。ハンドグリップを机の下で軽く握り大きなため息をついた。
まぁ、今日は夜に大きな予定がある...そっちの方は何か収穫があるといいなと。
「山の方から魔力、魔力...って言いながら武道家の真似事してる男がいるって聞いたし...いやだな。こっちは収穫があったら」
そんな不審者に会ったら真っ先に逃げたくなるぞ...と勝手に想像して背筋をぞわぞわさせていれば今日の授業が終わる。授業が終わったらホームルームを終わらせて下校...家に帰ったら特訓は今日はやめにして、その魔力男とやらの調査に行こう。
そこまで修業したいなら家で修業すれば変な噂も流れないのに...とは思うけど。でもまぁ、岩を拳で壊すってのも楽しそうだよね。わかる。
「馬鹿なこと考えてないで、早く準備して帰ろ」
調査の前に家で宿題を終わらせないといけないし。
夜20時。宿題も完璧に終わらせ、夜ご飯も就寝の準備も完璧に済ませた状態で二階から華麗に着地して脱出してきた。玄関から錘のない靴も持ってきたし、服装は動きやすいようにシンプルな夏服に統一。これなら万が一襲われても問題なく対応できる。
夜も深くなるっていう時期に山籠もりね...確かに一目にはつかない場所かもしれないけど、しっかりここは道路も通ってるし山には管理者がいたりする。あまり騒がれるとそういう人の迷惑になっちゃうし今のうちに対処しておくべきだろう...じゃあ警察でもいいんじゃないの?とは思うけど。
というよりこんな自警活動するよりよっぽどいい手なのでは?
だんだん自分の行動に疑念を持っていく。調査だのなんだの言っても、自分がルールを破ってちゃあいけないよ。それじゃあ山籠もりの不審者と何も変わりない。
落ち葉を踏みしめる音を皮切りに足音が止む。
「...帰って通報しよ」
踵を返すように反転して一歩踏み出す瞬間、反対方向から声が聞こえる。
「...?」
微かだが、風の音ではなく確かに人の声。あるでうめき声のようだが、救助を求める人間特有の呼吸音は聞こえてこない。しかし聞き間違いではない。聞こえてくる方向に行けば、物音とともにその声は非常に大きくなっていく。
何を言っているのかさっぱり分からないがそれはどんどん鮮明になり、耳の奥で不気味に木霊する。
十分な距離まで近づいたその時、それは確かに聞こえた。
「魔力...」と
男性、魔力という声。噂の魔力男!この物音は地面を強く踏みしめてる音からして鍛錬中。警察に通報するよりも、自分で言った方が早い。
木陰に身を隠しながら素早く魔力男がいるところまで接近する。
足取りを掴んだからにはそれを離しはしない!決して!
落ち葉を踏みしめる音があたりに響く。影から忍び寄る追跡者は、確実に声の元へと近づいている。
「まずは、正体の確認...!?」
素早く忍び寄り、謎の男の正体を観察する。
その正体とは
「魔力...!魔力...!」
狂ったように魔力を求め続けるクラスメイトの、影野の姿であった。
...いやいやいやいや、驚いている場合じゃあない。一にも二にも確認。確認しないと!もしかしたら似てるだけの人違いかもしれないし。
「えっと、影野、くん?」
「魔力...!」
ダメだ、こちらの声が完全に聞こえていない。意識が外界とシャットアウトされている。おそらく魔力とやらを求めて鍛錬をしているのだろうがそれに夢中になりすぎてこちらを認識していないと見える。
「あー、影野くん。もしも聞こえていればなんだけど」
「魔力...!魔力...!」
正直見るに堪えない姿をしている。岩に思いっきり頭を打ち付け、魔力魔力とのたまうクラスメイト。さすがの彼もドン引きだ。何よりも恐ろしいのはそれだけ激しく打ち付けて、出血しても尚気絶する気配がないところ。どんな耐久力をお持ちなのだろうか。
「出来れば修業はこういう山とかじゃなくて、もうちょっとこう家でというか」
「魔力ぅ...魔力ぅ~...」
「...これ、聞こえてるのかな?」
十中八九聞こえていないだろう。頭を打ち付けすぎて壊れたのか、それとも元からこうなのか。彼は前者を信じるが紛れもなく後者だ。この影野実という男は、ある種凜とはベクトルの違う最強の中二病であった。
彼は最低限の良識はあるし高いコミュニケーション能力がある。人当たりも悪くないし、捻じれ狂ってる面も全面的に出すことはほとんどない。それを抜いたらどうなるか
「魔力ッ、魔力ッ」
こうなる。凜は彼にない必要なものを、すべて持ち合わせているグレードアップ版ともいえよう。
「影野くん。どうしたの急に振り向いて」
動揺しながらも、クラスメイトの動向を視線で追う凜。視線の先には夜道をハイライトで照らすトラック。
「魔力、魔力、魔力魔力魔力魔力!!!」
「冗談にしては笑えないな!?」
トラックのライトを魔力と勘違いし突っ込んでいった影野を、同等の速度で追う。
(この坂、少しぬかるんで!?)
「ハァッ...!」
飛び出した影野と、それを追って転んだ形になる凜。両者は成すすべなくトラックに轢かれて死亡した。
(...ああ、これ、骨とかも完全に折れてるし、出血もひどい...もう、手遅れだね)
トラックの運転手の悲鳴をバックに、意識がどんどん消えていく
(影野君は助かられなかったし...トラックの運転手さんには悪いことをしたな)
それに何よりも彼は
(ごめん。お父さん...お母さん...俺、とんでもない、親不孝者だ...よ...)
死に行く最後、考えるのは自分のことを愛してくれていた両親のことであった。
ここまでが、英雄になりたかった青年。名倉凜が死ぬまでの課程だ。
恐らくあの世界で生きていても彼は、優秀な消防隊員にはなれていても...彼の望む英雄にはなれなかっただろう。
彼が望む英雄というのは、栄光を携えちやほやされる存在ではなく。
助けを求める手を拒まず受け入れ、世界の人々を笑顔にするような御伽話や漫画に出てくるような、そんな英雄だからだ。
人間の体では限界がある。
目の前を助けることはできても、目の届かない。手の届かない場所を助けることはできないし、地震や津波みたいな災害や、大規模なテロを一人で制圧して全員救うなんてことは、到底無理。
例えば、核爆弾が落ちてきたら...シェルターに何人か誘導できても、全員を助けることはできない。
でも、違う。それは嫌なんだ。
我儘なことはわかっている。でも、助けを求める人を。死ぬのを待つばかりの弱き人を、罪なき人間を...すべてこの手で救い取りたい。
もしそんな存在になれるなら、そのために俺はその全てを捧げられるだろう。
そしてこれは
「妥協は許されない!」
俺が陰の実力者の右腕となり
「これは、我々の運命を決する戦いである!」
自分が、その英雄になっていくための
オリ主の素性
本名 名倉 凜(なぐら りん)
性別 男性。
身長 172cm
体重 84kg
容姿
少々はねっけが目立つ金髪のショートヘアー。目の色は赤く染まっており、肌は白め。実は母親が髪を染めており、目が赤いため容姿は母親からの遺伝である。
幼げが残る凛々しい顔立ちだが、身体の筋肉はどれも仕上がっており、とても柔らかい。
常にジャージか学生服を着ているため友人たちからそれ以外はないのかとよく揶揄われるがしっかりジャケットやジーンズなど、お洒落用の服も所持している。
性格
正義感あふれる優しい性格。少々自分の興味に正直すぎる面が珠に瑕だが、手を差しだす人を放っておかず自分で引っ張る主体性から高いカリスマを得ている。
普通の学生らしい一面も持っており、テスト前は緊張するしゲームと漫画が好きで、よく技を真似している。ただし、性欲という欲に乏しく、女っ気が皆無というわけではないがあまりそういう面を見せることはない、
一方で、英雄というものに憧れておりそれになるためなら自身の何を失おうとも構わないとも考えており、それと同時に救いの手を求める罪なき人々を全員救いたいという正義感から、時に体の限界を超えても動き、助けられた人の笑顔を見ることで頑張れる。異常な訓練は、様々な人に応えるための体力づくりの一環。
誰かに役に立ちたい。そのためなら頑張れる。頑張ろうの精神を持っており、もはや狂気の域に達している。
同時に生まれついて戦闘という行為が必要なら迷わず選択できる。また、本人自体戦いが嫌いではなく現代社会では見せなかった闘争心を戦闘時に見せて、喜び勇み、口は笑っているが目は笑っていない。口調が変わるということが度々多発する。イメージはFateのリチャード一世。
上記の特性が相まってか、戦闘センスが抜群にいい。それは自身が訓練を始めてから聞きかじった武術の知識で自己流の流儀を作り上げ、それを実戦投入可能な領域に持ち込めるほど。
シャドウとは別方向にステータスを伸ばした同類である。