とある鎮守府の乱雑な運営日誌   作:臨機高来

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鳳翔とあの子の話です。
史実では鳳翔とあの子が50航戦(練習部隊)でした。
まぁ、そんな二人のお話です。



鳳翔とあの子

私があの子と知り合ったのは、ある日提督に呼ばれた為でした。

 提督室のドアの前。

 ノックを4度。

 

「航空母艦、鳳翔。入ります」

 

 そう言いながら、私は提督室のドアを開けます。基本、艦隊から離れ、新しく入隊する艦娘の教育をする教導官役である私としては、この部屋はあまり馴染みのない部屋でした。

 

「ああ、よく来てくれたね」

 

 そういう提督の手元には、なぜか箒・・・そして、壮年とも若年ともとれる顔には作戦後とは違う疲れた顔をしています。提督室は、お世辞にも整っているとは言えず、色々なものが煩雑に置かれています。ティーセット、ジュークボックス、掛け軸等々・・・床には落書きの跡が見えます。一度、皆さんに提督室が何たるものか言わなければいけないのでしょうか。

 

「提督、出直しましょうか?」

 

「いいや、いい。話は直ぐに終わる」

 

 そういって提督は椅子に座ります。流石と言ったものか、提督の執務机と椅子の周りは整理ができており、艦娘の提督室侵攻を寸でのところで食い止めていました。

 

「鳳翔。あなたを呼んだのは、預かってもらいたい人がいるからだ」

 

 そういって提督は隣に目を向けます。そこには少し特徴的な髪形・・・耳のあたりでぴょこんと髪を跳ねさせ、長い髪を二つに縛っている少女が、提督の隣に座っていました。

 その子は私と目が合うと一度の会釈を、そして笑いかけてきました。

 

「彼女は魚大 京子<うおひろ きょうこ>。ある艦との適合率が高いのだが、まだその艦が何なのか判明していなくてね、学生なので艦学に編入させたのだが寮の使用条件を満たしていない。」

 

 艦学とは艦娘学校のことで、艦娘となった少女達が教育を受ける自由を尊重するために作られた教育機関です。私は大学卒業後、艦娘となったのでどういったものはよくわかりません。しかし、小中高大までの付属学校で飛び級制度があり、その他は普通の学校とはそこまで変わらないと聞いています。

 寮は、艦娘となり実家を離れることを余儀なくされた子に充てられるもので、入寮条件は色々ありますが、彼女は「艦娘であること」という条件をまだ満たしていないようです。

 

「確か、あなたは寮母だったはず。艦が判明するまでの間、彼女を預かってもらいたいんだ。彼女にとっても、寮近くで生活できれば入寮したときに色々とスムーズに溶け込めるしね。」

 

 寮母は、寮の近くに居を用意されています。私はそこを『居酒屋鳳翔』として改装し、寮暮らしの子、そうでない子達のコミュニケーションの場として提供しています。・・・あっ寮も私の家も、学校もすべて基地内にあるので、一般の方が利用することはまずないと思います。自衛隊の方などは時々来られますが。

 

「彼女が住む家がないというのは、提督のせっかちのせいではないでしょうか?」

 

 私は少し困った顔をしながら言います。本当は困ってはいないのですが、ちょっとだけ言い返したくて。

 

「居酒屋を開くという、ワガママを聞いたんだ。私のワガママも少しくらい聞いてくれ」

 

 そういうと提督は彼女・・・魚大さんと少し話し、話が終わると魚大さんは私の前に来て。

 

「鳳翔さん。よろしくお願いします!」と言いい、ぺこりと頭を下げて笑顔を見せました。

 

「・・・ふふっ、冗談ですよ。京子さん、よろしくお願いしますね」と私も彼女にぺこりと頭を下げた。

 提督室から出る時、提督に「その子は居酒屋で働かせるといい。いい働きをすると思うぞ」と言われたのだったのだった。

 

 

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 彼女との生活が始まり数日が過ぎましたが、別段と私の生活が変わることはありませんでした。それもその筈で、彼女は十分一人暮らしするには困らないだけの生活ができていたからです。朝も5時起床ということで、最初は戸惑っていましたが今ではちゃんと20分前には起きています。学校でも問題も起こさず、お友達ができ、そのお友達をお店に連れてくることもあります。

 

 変わったとするなら、お店の仕事量。仕込みも何もすべてやっていた時と比べれば、劇的に仕事は減りました。教導官の仕事も、艦学が終わった後なので、その間に帰ってきたあの子に仕込みをしてもらったり、お店のお掃除をしてもらったりで大助かりです。

 

 ですが、一番変わった事は、私の気の持ちようでしょうか。育ちのいい子供を持った気分。まだ、若いはずなのですけどね・・・。

 

「鳳翔さん。やっぱり鳳翔さんのご飯は美味しいです!」

 

 お客さんが捌けた後の二人のお夕飯。そう彼女はいいます。よく食べる子です。

 

「どうやったらこんなにおいしくなるんでしょう?」と、彼女はムーとご飯を見ています。

 

 そんな彼女の仕草がかわいくて少しだけクスリと笑ってしましました。

 

「それはですね」

 

「はい!」バッと目をキラキラさせながら顔を私に向けます。

 

「食べる人の顔を思い浮かべながら作るからですよ」

 

「食べる人の顔を・・・」京子ちゃんは顔を上げて思い浮かべます。

 

「どんな顔をしていました?」

 

「おいしそうな顔をしていました!」

 少し言葉が足りていない表現にまたクスリと笑ってしまいます。

 

「今は、それくらい思い浮かべばいいですよ」

 私は、色々見てきました。居酒屋鳳翔で、食べながら愚痴を言う人、おいしそうに食べる人、仲間を失い

嗚咽を漏らしながら食べる人・・・1年。この戦争はまだ続いています。

 

「どうしたんですか?鳳翔さん」彼女が私の顔を覗いてきます。

 

「い、いえ。大丈夫ですよ。なんでもないです」まだこの戦争に寄与していない女の子に、私は精一杯の笑顔を見せました。

 

 

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 1か月程経ってでしょうか。提督に、京子ちゃんと一緒に提督室に来るように言われました。多分、ある艦が特定できたのでしょう。

 

 提督室のドアの前。

 

 ノックを4度。

 

「航空母艦、鳳翔。入ります」

 

「入れ」

 

 提督の声が聞こえます。私はその言葉に従い、ドアに手を掛けドアを開けました。

 

「待っていたよ」

 

 今日の提督はこの前と比べ厳格な雰囲気を醸し出しています。提督としての仕事だからでしょうか。しかし、散らかった提督室のせいでその雰囲気は霧散していると言わざるを得ません。

 

「提督。今日呼ばれたのは、京子ちゃんのことですか。」自分の名前を呼ばれピンと伸ばした背筋が一層伸びている京子ちゃんを見て提督は「そうだ」と一言いい、続けます。

 

「魚大 京子。貴官に『潜水母艦、大鯨』の任を与える」

 

「は、ひゃい!」彼女が上ずった声で答えます。それを気にも留めず

 

「そのため、大鯨には寮に入ってもらう。」私たちの顔が少し引きつります

 

「鳳翔」呼ばれ私は思わず「あの、提督」と言葉を出しますが、提督は聞き耳を持たず

 

「魚大 京子保護の任を解除する」私の聞きたくなかった言葉が聞こえます・・・

 

「あの、提督・・・鳳翔さんと一緒に・・・」京子ちゃんはおずおずと聞きます。

 

「ダメだ。潜水母艦は潜水艦との連携があって初めて活きるもの。寮に入り潜水艦達とコミュニケーションを取ってもらわなければならない。部屋も彼女たちと近くになっている」

 

 京子ちゃんはその後も提督に食い下がりますが、提督は聞き耳を持ちません。

 

「鳳翔さん!」京子ちゃんが私に縋る様にみます。

 

「・・・大鯨さん、これは、任務です」私は縋る彼女の肩を持って言います。その時の彼女の顔を私は見ませんでした・・・見れませんでした。

 

「鳳翔、大鯨の教導官としての任を与える」提督は言います。それに対し私は「了解しました」と敬礼をして答えました。

 

 こうして、彼女との生活は終わりました。大鯨は私と離れるまでの間、手をつないで泣いていました。

 

 

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 ・・・元の生活が始まり数日が過ぎましたが、別段と私の生活が変わることはありませんでした。それもその筈で、私は十分一人暮らしするには困らないだけの生活ができていたからです。朝も5時起床もいつも通り20分前には起きて。教導官として仕事と、居酒屋鳳翔の運営もうまく行っています。

 

 変わったとするなら、お店の仕事量。仕事もあの子と一緒にしていた時と比べ、こなさなきゃいけないことが増えました。教導官の仕事は、艦学が終わった後なので、その間に仕込みを済ませなければいけなく、時間のない中での切り盛りをしなければいけません。

 

 ですが、一番変わった事は、この沈んだ気持ちでしょうか。一人娘が嫁いでいったかのような感覚・・・まだ、結婚していないはずなのですけどね。

 

 そんな沈む気持ちを汲み取ってか、居酒屋開店時には扶桑さんがいつも気にかけてくださいます。他の方々も各々のタイミングで気にかけてくださいます。しかし、今私が欲しい声はあの子からしか聞くことができません。

 

 教導官として彼女と会うときには私語はありません。大鯨はまだ、私のお店に来ることはありません。元々、潜水艦の方々は日夜作戦を実行し、お店に顔を見せる事は殆どなかったので、大鯨もそうなることはわかっていました。わかっていても、来ることを期待してしまいます。

 

 お客が捌けた後のお夕飯。私のご飯と向かいに側にあるご飯。この頃ずっと、作ってしまいます。いないのはわかっていても、あの子のご飯を食べる顔を想像してしまうと、作ってしまいます。

 

 ご飯を食べていた時、一筋の涙が零れました。

 

 

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 大鯨の教導官として任を解かれ数か月。やっと元の生活に戻ることができました。あの子の顔を見なくなって却ってよかったのかもしれません。今は教導官としての仕事もなく、お店の切り盛りだけですので暇を少しだけ持て余しています。

 

 今はお店の椅子に座ってお茶を一人でしています。そんな昼下がり、居酒屋鳳翔の裏口をノックする音が。

 

 ノックの音は3回。

 

 誰でしょうか。龍驤さんかな?でも、彼女なら表口から来るはず。

 

「鳳翔さん」出てくるのを待ちきれないというような声音が聞こえてきました。その声に思わず私も顔をにやけさせます。私がずっと聞きたかった声の主・・・

 

「今開けます」声が上ずらないように慎重に声を出します。

 

 ドアを開けるとそこには、綺麗な着物を着た大鯨がいました。

 

「鳳翔さん、私に空母道を教えてください」彼女が声を弾ませて言ってきます。

 

「あなたは、空母じゃないでしょう」少しだけ、目に涙がたまります。

 

 その言葉に彼女は胸を反らしながら言います。

 

「今は潜水母艦改装空母の龍鳳です。」そんな仕草をする彼女が可愛くて。

 

「潜水母艦としての仕事がない時は、龍鳳として艦隊に従事することになりました」彼女の言葉も聞かずに

 

「だから、鳳翔さん。空母道を教えてください」思わず私は彼女を抱きしめました。ずっと会えなかった我が子のように。強く強く、抱きしめました。

 

 私が落ち着くのを待って、弓道場に行きます。まずは空母道の前に彼女に弓の使い方を教えなければいけません。

 

「鳳翔さん」歩いている途中で彼女は言います。

 

「また、鳳翔さんと一緒に歩けて、龍鳳、うれしいです」

 

「私はそうでもないですよ」そんな意地悪を言って

 

「え!?そうなんですか・・・」とすこししょんぼりする彼女を見て

 

「・・・ふふっ冗談ですよ」と笑いかけました。




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