こんにちは、不知火です。
世界が深海棲艦に侵されて早十数年が経ちます。人間が深海棲艦の脅威を認知したのはたった数年前。それより前からその脅威を感じ、そして対策をせんとしていた司令官は何年もの詐欺師の誹りを受け、研究職を追放されます。そんな中で私たちと出会い、色々な伝手を使いその研究を続けてきました。それが数年前の深海棲艦の観測によって立場が逆転。司令官の研究を国が認め、飛躍的に研究が進み、数か月前、その対抗策が打ち出されたのです。
それが艦娘という機構。司令官にその原理を聞きましたが、私たちは良く理解していませんでした。しかし、司令官の言葉を信じ、鍛錬を積むだけです。
さて、前置きが長くなりましたが、今日はその艦娘試験運用最終日。最終日と言っても、艦娘の運用は決定されたものなので、実際には実践で扱うための鍛錬、といったものでしょうか。私の近くには各艦の試験運用者、軽巡 夕張、戦艦 扶桑、正規空母 加賀に軽航空母艦 龍驤・・・そして、駆逐艦である私、不知火が水上を滑走しています。
今でこそここまで艤装を自身の手足のように扱うことができていますが、初日では散々たるものでした。まず、地上で歩くことすらままならない。艤装によって我々の身体能力が飛躍的に向上しているものですから、まるで自分の体が自分のものではないような。歩こうといつものように蹴りだすと、思っている以上の力で蹴りだしてしまう。自分の体、というものを一度見つめなおすことが必要なようです。艤装を外してしまうと今度は立てなくなる。疲れと艤装解除による身体能力のギャップによって、今まで感じたことのない脱力が襲い掛かります。宇宙から帰還した宇宙飛行士がこんな感じなのかなと、他人事のように考えては意識を途絶えさていました。
試験運用の大半を体に対する艤装の慣らしに費やし、いざ、水上訓練が始まる時には、予定に大幅の遅れが生じていました。水上訓練は、皆さんが臆することなく、遂行していたので直ぐ終わるものとなりました。
水上訓練が終わり、次が実践訓練の前夜、私の部屋にノックが3回。
「どうぞ」と私は言います。この部屋に来れる人はそう多くなく、顔を知っているので、特に気にすることなく応対をします。
「邪魔するで」「お邪魔するわね」と空母組の二人が入ってきます。
「不知火さん、明日の準備はできているかしら」言葉遣いの丁寧な加賀さんは見た目もそれに違わず、素朴で綺麗な姿をしています。それに落ち着いた表情をいつもしています。
「せやで、明日はうちらにとって重要な日なんやから、な?」少し可笑しい関西弁を操るのは龍驤さん。体躯は幼さが目立ちますが、れっきとした20歳前半。お加賀さんと同じ年の女性です。昔その変わった口調について尋ねてみましたが「昔ちょっとだけ、大阪に居たんよ。その時うつってな」とにこやかに話していました。
「ええ、準備は万全です」そういい、私は整備された砲塔を見せます。まだ、正式な部隊となっていなかった私たちには、武器庫など存在せず。個人で管理するようになっていました。
「・・・あなた達と出会って、何年くらいかしら」加賀さんがふける様に言います。
「うちと加賀は10年くらい、不知火は正式に深海棲艦が公表される前やから、5年くらいやろ。」龍驤さんは私のベッドに座り込みながら指折り数えます
「でも、提督のおかげでな。うちらは生きる理由をもらったんや。世間を恨まず生きる術を手に入れた」その言葉に私と加賀さんは大きく頷きます。
「深海棲艦。私たちにとって打つべき敵です」私は砲塔をなでながら言います。
「世間にとっては世界の敵かもしれないけれど、私たちにとっては個人的な敵ね」加賀さんが言います。
夕張さん、扶桑さんと他3人にとっては一つの成果物である艦娘。私たちにとっては唯一の敵を討つ方法。
少し長い沈黙。
「ま、明日も早いんや。早寝や」そう龍驤さんが切り出し、ベッドから立ち上がり私の部屋から出ていきます。
「そうね。おやすみなさい」加賀さんもそういって、部屋を出て扉を閉めます。
「おやすみなさい」私は二人が出ていった扉を見ながらつぶやき、ベッドに潜り込みました。
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「ちょっと不知火聞こえてるー?」
はっと物思いに耽っていた私を現実に引き戻す声を聴きます。
「な、何でしょうか伊勢さん」と私はその声の主に応答します。
「そろそろ、作戦海域に入るから気をシャキッとさせてよ」と伊勢さんは言います。
そうでした。今は実践訓練中。集中しなければ。
「とはいっても、相手はただの案山子、動かない的だ。そう緊張するな」と日向さんの声が聞こえます。その後ろで騒いでいる伊勢さんの声が聞こえ
「いい。絶対壊すようなへまをしないで頂戴ね」と恨めしそうな山城さんの声が聞こえます。
その後、3人で言い争う声が聞こえてきます。
戦艦としてこの試験運用に参加している、扶桑さん。そして、オペレータ役の伊勢さん、日向さん、山城さん。この4人は研究職を追放された司令官についてきた研究者であり、艦との適合率の高く、今後も戦艦の艦娘として籍を置くことが決定しています。彼女たちにとって艦娘とは研究の結晶であり、その結晶が実るかどうかは今後の戦火にかかっています。そのこともあり、4人はこの試験運用に熱が入っています。
一先ず、言い争っているオペレータとの通信を切り、前を向きます。一面に広がるのは青い海。何も私の視界を隔てることはありません・・・あれ?作戦では夕張さんが前に出ているはず。
「ちょっちょっと。不知火ちゃん速過ぎない?お、おいていかないでー」と私のすぐ後ろで夕張さんの声が聞こえてきます。
「おや、夕張さん。機械トラブルですか?」と私は言います。
「わかって言ってるのそれ!不知火ちゃんより私は遅いのよ」とプンプン怒るような声が聞こえます。そうでした。最大速力は35.5ノットと同じなのですが、通常時には私は18ノット、夕張さんは14ノットと4ノットほど私の方が速いんでした。
私は速力を落とし、夕張さんに先頭を譲ります。「すみません。夕張さん」とすれ違う途中で言ってはみましたが、夕張さんはプクーと頬を膨らませ応答をしてくださりませんでした。不知火に落ち度でも?
夕張さんは、この中では一人だけ珍しい、研究室に就職してきた子でした。工業の専門学校出身で、主に艤装の設計などを手掛けており、例にもれず艦との適合率が高かったため、今後も艦娘と設計の二束の草鞋を履いて活動することになるそうです。
ちらりと、後ろを見ます。私の後ろにいるのは扶桑さん。少し通信を通してか話をしています。多分、山城さんと話をしているのでしょう。
その後ろでは並走している加賀さんと龍驤さんの姿が、あの二人は気が合うのか一緒にいる姿をよく見ます。多分、この中では一番親交のあるコンビなのではないでしょうか
「作戦海域進入。空母部隊発艦せよ」日向さんの作戦実行の合図が言われます。
「さぁ仕切るで! 攻撃隊、発進!」待ってましたと言わんばかりに、龍驤さんが巻物を広げ、発艦させます。巻物の甲板はまるで風など吹いてないかのように、重力などないかのように水面と水平にして動くことがありません。式神形式の艦載機が、巻物の上を通るたび、本当の形に姿を変え、発艦されていきます。
「攻撃隊、発艦します」龍驤さんに遅れて加賀さんも弓矢をもって、艦載機を発艦させていきます。放たれた矢は、艦隊の上を飛んでいき、敵艦隊と中心程の位置になると艦載機に姿を変え、作戦実行をしていきます。
「戦艦、砲撃開始!」伊勢さんの号令が聞こえてきます。それに合わせ扶桑さんが
「主砲、副砲、撃てぇ!」と35.6cm砲の爆音を響かせます。
「砲撃の着弾確認し、不知火と夕張は、最大速力で敵艦隊に突撃。翻弄後に魚雷を浴びせて」と山城さんの命令。
「着弾、確認よ」と扶桑さんの通信が入ります。
「さぁ!色々試してみても、いいかしら!」と先ほどの速力で鬱憤のたまっていたのか、夕張さんが速力を上げていきます。
「徹底的に追い詰めてやるわ。」と私もそれに追従する形で速力を上げていきます。
敵との距離はどんどん縮んでいきます。相手は動かない的。そうはいってもこちら側のミスで激突することはあり得ることです。細心の注意を払い。作戦を実行していきます。・・・動かない的をどうやって翻弄させればいいんでしょうか。
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作戦終了、そして帰投。多分作戦実行はできたと思います。伊勢さんが満面の笑みで迎えてくださったので。
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「いやー。みんなお疲れ!大成功大成功」と試験運用終了での宴会の場で伊勢さんが言います。
「ん?そうなん」と龍驤さんが料理をつまみながら聞いています。
「そうそう。今日の実践訓練。あれってさ、実践に託けたパフォーマンスなんだよ」と伊勢さんが言います
「・・・どういうことですか」私は少しの不快感を示しながら訪ねます
「いや、遊びでやったって訳じゃなくてね不知火ちゃん」と少し腰を引きながら答える伊勢さん
「まぁ、不知火そう不快そうな雰囲気を出すな」と日向さん
「しかし、不知火は実践のためと思って、懸命にやりました。それをパフォーマンスと言われては」と私は素直に言う。
その言葉を聞いてか日向さんが「まだ、艦娘をよく思っていない者が、政府や行政、自衛隊や研究者の中にいるんだよ」と私をなだめるように言います
「そ、そうそう!まだ私たちの実態が掴めていないお上が多いんだよ。そんな人たちを今回の訓練に招待してさ、艦娘の機能性とか、色々、見てもらったんだ。そのために大立ち回りな訓練になったけど・・・」と日向さんの言葉に伊勢さんが補足する。
「つまり、実戦形式ですが、ある程度のオーバーアクションが含まれていたと」私は少し納得したような顔を見せます。
「提督は、研究職・・・学会を追放されていましたから。そんな方の研究を認めないという方々があるのですね。権威主義というか・・・」扶桑さんが困った顔をしながらうんうんと頷いています。
「一番の理由は提督を追放、詐欺師扱いしておいて、自分たちの推測がデタラメだったのを私達に証明されて、妬んで僻んでいるだけ。自分の勝手で失脚しておいて、その理由を私たちに擦り付けてるだけ」と吐き捨てるように山城さん。
この4人は学会を追放された司令官についてきた研究者。今はこの上なく上機嫌でしょう。正しいとついてきて、その正しさを半ば証明できたんですから。
「愉快だったよ。最初は懸命に提督を嘘つきだとか、言い伏せようとしていた連中が、訓練が開始されると段々とトーンが下がり、終わるころには、ぐうの音も出せなくなる。」日向さんがその時を思い出してか笑みがこぼれます。
「あ、そうそう。みんな艤装の使用感教えてくれないかしら?」と思い出したかのように紙を配る夕張さん。
「今後は艦娘も増えるでしょ。今のうちに改善できるところは改善していきたいの」と付け加えます
「ん~うちは今のままでもいいかな」と龍驤さんが紙を返します。
「ダメ。ちゃんと枝葉末節、小さいところまで思い出して」と夕張さんは紙を受け取りません。
「は~面倒くさいなぁ」とため息を零す龍驤さん
「ああ。私たちも今後のために、訓練の最適化をしておかなければな」と日向さん
「訓練の度に、海に出るまでにあんなに時間掛けちゃいけないよねぇ」伊勢さんが資料を取り出します。
「特に最初はそうね。最初にどれだけ時間がかかるかで、情勢が変わってくるわ」と真剣な表情で資料に目を通します。
「やっと、スタートラインを引くところまで行けたのねぇ」と扶桑さんが感慨深く思いに耽っています
不知火としても、やっとという気持ちになります。なす術なく5歳程で一人社会に投げ飛ばされ、孤児院へ、その孤児院でも上手く行かず、少し特殊な孤児院へ転院。しかし、その転院があったおかげで、不知火は友達と呼べる人を見つけることができ、司令官と知り合い、今に至ります。
「そういえば、司令官はどこに」私はあたりを見回し、司令官がいないことに気が付きます。
「提督?提督なら、色々な書類とかで忙しいからいないわよ」と資料に目を通す山城さんが投げやりに答えます。
「あれ、なんで提督って呼ぶようになったんだっけ」と伊勢さんがふと思い出したかのように聞きます。
「たしか、艦娘というのは、昔の艦と適合することによってある種の力を手にする。だから、その艦を指揮する自分は提督だ・・・とかそんな感じだったか」少しお酒の入った日向さんが曖昧な言葉で返します。
「後は、所長とかそういう、学会や研究室を思い出すような言葉は嫌っていたのが理由だったかなと・・・」オレンジジュースを両手で持つ扶桑さんが答えます。
「加賀は何か覚えてるん?」と龍驤さんが加賀さんに目を向けると
「おかわり、いただいてもいいかしら」と特製の大盛りお茶碗を龍驤さんに向ける加賀さんがいました。
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この後、正式に艦娘が日本の防衛機関として任命され、海上自衛隊からいくらかの出向、鎮守府とそれに付随する施設が作られ、艦娘候補生を色々な方法をもって募集し、深海棲艦と戦う力を日本持つことになるのです。
この鎮守府は不知火・加賀・龍驤・夕張・扶桑・山城・伊勢・日向がプロトタイプ。鎮守府が正式にできるまでの間深海棲艦を迎撃してきた子達です。
鎮守府ができたすぐの頃ははもっぱら裏方(教導官)として尽力し、前線に出ることはありませんでした。
ある程度の艦娘が運用可能となって鳳翔さんが教導官となった後は前線にではる様になりました。