こんにちは。不知火です。
鎮守府が完成し、いよいよといった感じでしょうか。日本の深海棲艦への反撃が始まろうとしています。そのためには先ず、戦える人員を増やすことをしなければなりません。今日から3月、春休みに入ろうかという時期、艦娘学校への転入が終わり、艦娘候補生が集まり艦娘の育成が本格的に始まります。私が担当するのは駆逐艦。まぁ当然といったものでしょうか。それに扶桑さんが補助として支えてくれます。
軽・重巡は夕張さんと日向さん。空母は加賀さんと龍驤さん。戦艦が伊勢さんと山城さん。ちゃんと教えられるか緊張します。一応は早期入隊組というのが何人かいて、その指導に当たっていたので教える・・・ということはしてきたのですが、少し心許ないと感じます。
今、教える皆さんとの顔合わせをする部屋の間にいます。
「・・・扶桑さん、緊張した時には何をすればいいでしたか」緊張して蒸れる手袋を外しながら私は聞きます。
「よく言われるのは、手のひらの人を3回書いて飲み込むかしら」頬に手を置きながら扶桑さんが答えます。今、彼女の背には艤装が着けられていません。まぁ、あんなに大きいものを屋内で着けられていては邪魔言うものです・・・
扶桑さんに言われるがまま、人を3回手のひらに書き飲み込む・・・緊張が解けたようには思えませんが、手が蒸れからいくらか解消されたので、手袋をつけて、一言。
「行きましょう。扶桑さん」臆していては何も始まらない。一歩、前に。
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ガラリ、とドアを開ける。その部屋は広く、しかし部屋の広さを感じさせないような人数の少女たちがいました。音に引かれて顔をこちらに向けます。一瞬たじろぎましたが、気を持ち直して、前に立って言います。
「今日から、艦娘としてあなたたちの教導をします、不知火です。よろしくお願いします」そういい私は頭を下げます。
「教導補助の扶桑です。よろしくお願いいたします」と幽雅な仕草でお辞儀をします。
「この中で、適合艦が判明している方はいるでしょうか」私は見渡します。
適合艦の有無を調べるのは時間が掛りませんが、適合艦を解明する検査に時間が掛ります。私達も艦娘という機構が完成して半年程がたち適合艦を判明しました。ですから、検査から間が経ってない今、それが判明しているのは非常に稀と言ってもいいでしょう。
見渡すと5人程他の方たちと離れた場所に座っています。その前の椅子には適合艦アリとの張り紙・・・多分、そうなのでしょう。5人の前に行き確認すると、そうだと返答が返ってきました。
確認をとれたので扶桑さんと2、3言葉を交わし「では、私は先ずその5人を指導しますので、ほかの子の指導を扶桑さん、お願いします」と5人を引き連れ部屋を後にします。
「はい、それでは、基本的なことを学びましょうか」と閉めたドアの奥から聞こえてきました。
6人で廊下を歩きます。その間に会話はありません。少し気まずそうに黒髪の子がキョロキョロします。
「今日から新しい生活が始まりますね」黒髪の少女に私は言います。
「は、はい!そうですね!えっえっと・・・」
「不知火で大丈夫です」
「は、はい、不知火さん!」と少しほっとした顔で彼女は私に顔を向けます。
「自己紹介、しましょうか」少し緊張を解すためにも提案します。
「は、はい!」今までと違い少し活気を取り戻した黒髪の少女が食いつきます。
「ですが、ここでの名前は適合艦としての名前でお願いします。別々の名前で呼ばれては面倒でしょう」それを聞くと青い髪の少女が
「じゃ、じゃあ私からしますね」とだいぶ緊張した面持ちで話し出します。
「私は白露型 6番艦 五月雨って言います!えっとえっと・・・あの、私ちょっとおっちょこちょいで迷惑かけてしまうかもしれませんが・・・よ、よろしくお願いします!」と大分慌てたように言います。確かに、ちょっと身振り手振りが少し大仰に見え、周りが見えてないような雰囲気があります。
「じゃあ、次は私がしますね」最初の自己紹介を遮られたせいか少し威嚇を含んだ声で、黒髪の少女が言葉を切り出します。
「吹雪型 1番艦 吹雪です。よろしくお願いしますね。不知火ちゃん。五月雨ちゃん。」と周りに嫌みのない笑顔を向けながら、黒髪の彼女は言います。
「よろしくね!吹雪ちゃん」とつないだ手をブンブンと振り回す五月雨さん。
そのほほえましい姿に少しほほえましさを感じていたら。
「あら・・・あんたも吹雪型なの」ともう一人の水色の髪の子が言葉を放ちました。
「え、もしかしてあなたも吹雪型なんですか!」と吹雪さんが当の子に詰めかけます。
「そう、吹雪型 5番艦 叢雲よ」とそっけなく返します。
「わー。まさかこんな早く同じ艦に会えるなんて!」とさっきの五月雨と同じようにブンブン手を振り回しています。
「落ち着きがないのねえ…大丈夫?」と少し辟易した素振りを見せ、私に顔を向ける。
「なんですか。叢雲さん」と少しジト目で対応すると。
「あんたが教導官ね。ま、せいぜいがんばんなさい」と返してきました。
「ええ、頑張らせていただきます。そちらの方、自己紹介をどうぞ」と挑発を受け流して茶色の少女に促します。
指名され、少しビクッと反応し、しばらくし「い、電です・・・」と小さい声でつぶやくのが聞こえました。
「ねえ何型?吹雪型?」と同じ型の少女がすぐ近くにいた吹雪さんは上機嫌で聞いて
いきます。
「い、いえ・・・ちがうのです。暁型 4番艦 電です。どうかお願いしますね」といい、彼女はおずおずと目立たない位置に戻っていきました。
「・・・では、最後にどうぞ」桃色の少女に最後の自己紹介を託します。彼女は
「え?私」と手に持ったスマホから私に顔を向けます。
「ええ、はい」と私が言うと何やらスマホに打ち出し画面をみんなに見せます。
【漣←これ、何と読む?】
「レン・・・でしょうか」「わー見たことないです」「・・・そっそれがどうしたのよ。早く自己紹介したらどう?」「な、なんて読むんですか・・・?」各々わからず頭をひねらせます。
「教導官さんは、わかるでしょ」と画面を私に向けてきます。
少し前の私にはわからなかったことかもしれません。しかし、今の私にはわかります。なんせ、私たちの適合艦の源流、第二次世界大戦中日本が従えていた軍艦を勉強してきましたから。
「さざなみ、ですね綾波型 9番艦」とすこし得意げに答えます。
「ちぇー。みんな答えられなかったらメシウマだったのに。メシマズー」と少し不満げな顔を少し見せ。
「綾波型 9番艦 漣です。こー書いてさざなみって読みます。よろしくね」と不満そうな顔を見せたとは思えないほどの笑顔を見せたのだった。
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その後も他愛もない話をしていたら、目的地に着きます。その名も地上練習場。言葉そのままに地上での艤装使用の練習をする場です。艤装を装着するにあたっての注意点等を一通り教え「それでは、実際に装着し、歩いてもらいましょう」
結果は昔の私と同じような事に・・・やはり、そんじょそこらの人ではこれに簡単になれることはできないのでしょう。周りには阿鼻叫喚と悲鳴が轟きます。
ある程度、情報が集まったのか工員さんがこちら来て、彼女たちの艤装を調整します。
「何をしているんですか」吹雪さんが私に聞いてきます。
「いま、出力を調整しています。さっき体験してもらったのはのは最終段階の出力です。その結果を踏まえて、今体に負担がかからない出力に各々変えてもらってるんです」研究者組がうんうん頭をひねった結果、これが一番安価で簡単、大勢に施せる上達方法だと至ったようです。
そこから少し世間話をしてると。
「最終的には水の上に立つんでしょ」唐突に叢雲さんが聞いてきます。
「はい、そうなりますね」「あんた、立てるの?」私の回答に間を置かずに聞いてきます。
その言葉に5人の視線が私に向きます。期待しているような、不安の色があるような。
私は立ち上がり工員さんのところへ行き「すみません。不知火の艤装の修理は終わってますか」その後何度か工員さんと言葉を交え、私の艤装をもってきてもらいました。
「確かに、一度見せておいた方が今後の展望というものがわかりますか」と5人を引き連れ、向かいの練習用出撃ゲートへと向かいました。
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鎮守府にある港は、他の港と何も変わるものはありません。港の海抜も変わらない。これは日本中に艦娘専用の鎮守府を作る事は出来ず、代替案として、海上自衛隊基地を間借りするという方法をとったためです。艦娘専用の鎮守府は今の所ここだけにしかありません。
出撃ゲートは、凹というような形をしていて、このへこんでいるところから出撃します。穴の広さは横5mほど、縦に50mほど。そして、水面からの高さ10mほど。出撃時には、最低でもこの高さを飛び下り、水上に出ることが必要とされます。この高さにも理由があるとのことですが、今はそんなことは気にしなくてもいいと、提督は教えてくれませんでした。目の前の任務をこなせと言うことかもしれません。
ふぅっと深呼吸。ちらりと5人を見ます。今から起こることへの好奇心、今後自分たちがしなければいけないことという不安といったところでしょうか。
精神を統一させて「・・・不知火、出撃します。」臆することなく勢いをつけて飛び下ります。飛び下りる時には勢いが大事です。できるだけ蹴った壁より離れるつもりで。
着水してからが本番で、慣性の法則で前に行こうとする体を安定させるために、最初は水面を走り、安定してきたらスケーティング、最後に滑走モードを起動し、体のバランスを保ち、仁王立ちする感じで安定させます。
今こそこんな不格好ですが、慣れてくれば滑走モードの間の姿勢はある程度自由にできるようになるでしょう。この工程を50m以内でこなさなければいけません。
一旦水上で止まり、5人を見上げます。五月雨さんと漣さんは目を輝かせて、吹雪さんはヒーローを見るような、叢雲さんは少しバツの悪そうな顔で、電さんは驚いて頭がついてきてないような顔をしていました。
「艤装担いで、最終的にはこのような感じになると思ってください」私は少し、恰好をつけて言いました。
艤装をつけていると10mの壁も難なく登ることができます。そのことに対しても5人は驚いてくれました。
「ほんとに水面を滑れるのね・・・」叢雲さんは信じられないという顔で言います。
「楽しそうでしたねぇ」五月雨さんが目をキラキラさせて言います。
「これをつけて、悪の組織と戦うんでしょ?燃えてキター!」漣さんの言葉に私はたまらず
「ヒーローごっこのおもちゃではありませんから」強く私は言います。
「な、なによ」漣さんが一歩足を引いて言います。
私はそれに合わせて一歩前に出ます。あたりに不穏な空気が流れ込みます。
「ま、まぁまぁ」吹雪さんが慌てたように漣さんと私の間に割って入ります。
「漣ちゃんは、別にふざけて言ったわけじゃないんです。ほら、あの、はやる気持ちをね、表現しただけで・・・あの・・・」吹雪さんが漣さんの心代弁しようとします。それでも私の怒気は引っ込もうとしません。また一歩でようとしたとき
「あ、あの・・・」と電さんが私に向かってこういいます。
「お怪我は、ないですか・・・」と私に可愛らしい絆創膏をおずおずと渡してきます。
それのおかげで、私は頭を冷やすことができ、詰め寄ることをやめました。
「大丈夫です。そんなへまはやらかしません」と絆創膏を受け取ります。
「だ、大丈夫なら、よかったのです」と一旦顔を伏せて
「か、かっこよかったのです」と私に顔を向けて言ってきました。
一般の人は、そんなものなのかもしれないと、この言葉を聞いて感じました。私は、一度も艦娘がどういう目で見られるのかを考えたことはありません。漣さんの言葉も一般的なものなのかもしれない。
「漣さん、申し訳ありません」詰め寄ったことを謝ります。
漣さんも吹雪さん影から顔を出して
「私も、言葉が軽かったかも」と謝罪なのかわかりませんが言葉をくれました。
「さぁ、調整も終わっているでしょうから、訓練場に戻りましょう」私の言葉に、皆さんついてきてくれました。