とある鎮守府の乱雑な運営日誌   作:臨機高来

7 / 8
汝ハ何者ナルヤ

 木曾さんの雷巡への改装が今日行われます。今、私大井はその改装が終わるのを待つためにある海域へ来ています。理由は木曾さんに雷巡の動きを教えてくれと言われたから。北上さんが遠征に出ているため、暇つぶしにそれを承諾しました。

 

 この海域は敵が比較的少なく、人も少ない。遮蔽物も少ないので、ダミーを使っての訓練にはちょうどいいかしらと、ここを選定しました。

 

 木曾さんが来るまで手持無沙汰なので、意味もなく水上を歩きます。滑走は燃料を使うので使いません。何もない海を、代わり映えのしない風景を楽しみます。

 

 少し飽きたかなーと思っていると、どこかしらか水を掻く音。敵かしらと慎重にその現場に急行します。水音が近づくにつれ、小く声も聞こえてきした。

 

「…あ、あれ?おかしいな、体が浮いちゃうよ!?」流暢な日本語に少し安心。どうやら敵ではなさそう。

 

 少し気持ちを緩ませて、声の主と対面します。彼女は白いスク水を着ていて、突然の来訪者である私に目を丸くしています。

 

「えっえっ・・・艦娘さんですか」彼女はおずおずと私に聞いてきます。

 

「はい、重雷装巡洋艦、大井です。よろしくお願いしますね」私は怖がられないように笑顔を湛えながら言います。

 

「初めまして・・・」彼女は少し緊張が解れたのか、安堵の表情を見せます。

 

「あなたのお名前は」

 

「初めまして…まるゆ、三式潜航輸送艇のまるゆといいます」恥ずかしそうに答えます。

 

「まるゆちゃんね、わかったわ」私たちが自己紹介を終えたころ、私のポケット震えます。スマホに着信が来たようです。相手は木曾さんでした。まるゆちゃんに断りを入れて電話に出ます。

 

 ちなみに艦娘の専用通信アプリ「艦娘最前線」というものがあります。センスなさを感じてしまいますね。他の通信方法で情報漏えいをさせないために、平時はこのアプリを使用しての連絡を義務付けられています。

 

「はい、大井です」

 

「木曾だ。わかっていると思うが念のためにな」木曾さんは少し嬉しそうな声でした。強くなるのが嬉しいのでしょうね。

 

「それで木曾さん。どうかしたんですか」そういうと木曾さんは不満そうに言葉を返します。

 

「おいおい、いつも言ってるじゃねぇか大井姉さん。姉妹なんだ、呼び捨てでいいってさ」やれやれと木曾さんが頭を振っているのが目に見えるようです。

 

「・・・はいはい、分かったわ。木曾」「いや、口調まで変えなくても・・・まあいい」木曾さんが本題を言います。

 

「少し改装に手間取っていてな、訓練時間が大幅に遅れるかもしれない」申し訳なさそうに木曾はいう。

 

「しかたないわ。作戦は予定通りに進まないことなんかしょっちゅうでしょ」私はそれほど気にしてないと意思表示をします。

 

「そして、これが本題なんだが」木曾が言う。

 

「改装中に読もうとしていた本が延長によって品切れた。改装中はここを離れることもできねぇ。終わるまで話し相手になってくれないか」退屈であることを声に滲ませて言ってきます。

 

「別にいいわよでも、話し相手はもう一人増えるけれどいいかしら」

 

「別にいいぜ。構わない」

 

 一度木曾との電話を切り、まるゆちゃんのIDを聞いて3人のグループを作ります。

 

「2人共、聞こえる」

 

「はいぃ、大丈夫です」まるゆちゃんの声が2重に聞こえます。

 

「おう、大丈夫だ。そいつか?もう一人ってのは」木曾がまるゆちゃんを画面越しに見ながら。

 

「お前、潜水艦か?」と聞いてきました。水着で分かったけれど確信が持てないという感じでしょう。

 

「はい、三式潜航輸送艇のまるゆです」胸を張りながらまるゆちゃんは言います。

 

「お前、潜れるのか」茶化すように木曾が言ってきました。

 

「むー!潜れますよー」怒り顔でまるゆちゃんがいいます

 

「ホントかー?」と木曾さんが茶化し、まるゆちゃんが本当だという問答を何回か繰り返し、とうとうまるゆちゃんが

 

「ほっ・・・ほっといてください!」とまるゆちゃんは機嫌を損ねてしました。

 

「木曾」少し怒気をはらませながら言葉を出します。

 

「はい、なんですか大井ねえさん」木曾は少しやりすぎたという念はあるのか、私の言葉に畏まります。

 

「せっかく話相手になってあげてるのに、機嫌損なわせてどうするつもりよ」

 

「・・・おっしゃる通りです」

 

「早く謝りなさい」

 

「あー・・・まるゆ。ごめんな、いや、お前の反応が面白かったからさ、つい・・・な」とシドロモドロになりながら木曾がまるゆちゃんに謝ります。まるゆちゃんも一応は機嫌を良くし、この場では事なきをえました。

 

 3人での会話は円滑に進められ、最初の一軒以外では特にトラブルはなく、円満な時間を過ごすことがえきました。

 

「ん・・・ああ。改装が終わったようだ。今からそっちに向かう」と木曾はグループから抜けました。

 

「・・・みたいだから、私も木曾を迎えにいきますね」まるゆちゃんにそういいます。

 

「はい!わかりました」と最初にあった時とは見違えるように今ははきはきと答えます。

 

「練習、お互い頑張りましょう」

 

「はい!」

 

 

-----

 

 

 木曾へのレクチャーも順調に進み、大体は教えることができました。その辺りは勤勉家の木曾のおかげです。木曾も手ごたえがあったのか、何度か「この力、アリだな!」と力強く言っていました。

 

「大体はわかった。後は実践の中で俺に合った方法を探していこうか」木曾は満足げに言います。

 

「そういば、まるゆはどうした」少し気になっていたのでしょうか、木曾が言います。

 

「あっちの方で、練習しているはずよ」私は指をさします。

 

「1人でか」

 

「そうだけれど」

 

「武装してたか?俺にはしてなかったように見えたんだが」

 

「・・・危ないかもしれないわね」私の記憶にも武装はしていないような気がします。

 

「帰るがてら、拾っていった方がよさそうだな」木曾がそう提案します。

 

「そうみたいね」私たちはまるゆちゃんがいると思われる地点に向かいました。

 

 

-----

 

 

 訓練を切り上げ、今はまるゆのところに向かっている。だが俺と大井姉さんは電探をつけてないからどこにいるのか分からない。当たりをつけてシラミつぶしだ。もしかして先に帰ってんじゃないか?そんな気もしながら探している。

 

「木曾、あれ」大井姉さんが指をさす。そこには確かに潜れていない白い物体、まるゆがいた。スクリューを止めて遠目に観察する。話を切り上げてかなり時間が経っているが、未だに安定していないようだ。

 

「ったく、まだやってたのか。夜も近いし鎮守府に帰れなくなり前に回収するか」

 

 俺が一歩踏み出した時、もう一つの異音がきこえた。大井姉さんも気づいたらしく足を止め耳を澄ませる。音の方向に顔を向ける。島も何もない、船影もない・・・ここから導き出される一番の可能性は。俺はそれに気づくと一目散にまるゆの方へ駆け出す。滑走した方が楽だが、今は一度止めたスクリューを回す時間が惜しい。何より、この程度の距離なら走っても十分間に合う!

 

「大井姉さん。まるゆを頼む」まあ、そんなこと言わなくても、わかっているだろうけどな。

 

 俺に気付いたのか、まるゆの方向に進んでいたと思われる深海棲艦は俺の方へ方向転身する。駆逐級2体。ちょうどいい、雷巡の試し撃ちといこうじゃねえか。

 

「俺に勝負を挑む馬鹿は何奴だぁ?」

 

 

-----

 

 

 なにが起きたのか分かりません・・・私は、潜る練習をしていただけなのに・・・

 

 何かが私の方に向かっていたのはわかりました。でも、それは私の前で転身し、向こう側へ行ってしまいます。その方向には木曾さんがいました。なんで木曾さんがここにいるんだろう。

 

「まるゆちゃん。大丈夫?ケガはない」と大井さんが私の方へ向ってきます。

 

「はい。まるゆは、大丈夫です・・・でも、何があったんですか?」

 

「マイペースな子ね・・・」大井さんは、はぁっとため息をつきました。

 

「今、あなたは危険な状況だったのよ」その言葉の後で大きな水柱が立ちました。

 

 木曾さんが大声で叫びます。「弱すぎる!それで逃げたつもりなのかい?」私が置かれていた状況を理解しました。

 

「えっと・・・大井さんと木曾さんのおかげで私、助かったんでしょうか・・・」そう伺います。

 

「まぁ、そんな処ね。でも恩なんて感じなくてもいいですよ。同じ艦娘なんですから。」大井さんはニコッと微笑みかけます。大井さん、いい人だな

 

「おう、まるゆ。怪我はなかったか」満足げな木曾さんが私に向かってきます。

 

「は、はい。大丈夫です!ありがとうございます。木曾さん、大井さん」

 

「いいってことよ」「いいえ、お互い様ですよ」木曾さんと大井さんが言います。

 

「さぁ、帰りましょう。暗くなって迷ったら危険だわ」大井さんが促してきます。

 

「ま、また襲われたりしないでしょうか・・・」少し不安なので聞いてみます。

 

「不安なのか?大丈夫だ、俺を信じろ。」木曾さんが自信満々に言います。少しだけ、安心しました。

 

 

-----

 

 

 帰還途中、私はある疑問を持ったのでまるゆちゃんに質問します。

 

「そういえばまるゆちゃん」「何ですか、大井さん」きょとんとした顔で私を見ます。

 

「なんであそこで練習してたのかしら。誰かに勧められたの」

 

「隊長があそこはいいぞって言っていました」隊長・・・提督の事かしら。

 

「なんて言ってたの」さらに聞きます。

 

「今日はあそこに艦娘が何人か来るから、何かあれば言えって言っていました」へぇ、今日は何か作戦があのあたりで合ったのかしら。

 

「えっとですね、確か・・・」まるゆちゃんが思い出します。

 

「茶色の髪と目でベージュの服を着て、魚雷をたくさんつけた優しい子がそのあたりの警邏をしているからって」ふーん。そんな子いたかしら。

 

「木曾、まるゆちゃんが言ってる人、誰かわかる」そういいながら振り向くと、木曾は笑いを堪えているよう。

 

「木曾?」「ん・・・な、なんだ・・・大井姉さん」私の顔を見ないように木曾が言いう。

 

「誰か心当たりあるの」木曾を問い詰めます。

 

「い、いや、知らねえな。おう、まるゆ、もう少し鎮守府に着くぞ。」とまるゆちゃんの運貨筒を引っ張ります。

 

「あ、ちょっとー」運貨筒をひっぱられた事によって、まるゆちゃんも一緒に引っ張られていきます。

 

「大井姉さん」私より幾分か前に出ると木曾は振り向き「帰ったら鏡を見た方がいいぜ」そういって、まるゆちゃんを引っ張りながら鎮守府へ先に帰っていきました。鏡を見ろって、私の髪形崩れているかしら・・・。

 

 鎮守府に戻って、木曾に手などを洗うついでに鏡を見る。何だ、別に何ともなってないじゃない。でも誰のことだったのかしら。茶色の目と髪をしていて、魚雷をたくさんつけた・・・。鏡に映っているのは、茶色い目と茶色い髪の女の子。そして、その子は重雷装巡洋艦として、魚雷を満載に搭載しています。

 

「・・・私のことじゃない」提督・・・後で沈めておかなければいけませんね。誰が優しい子よ・・・!




木曾・まるゆ・大井の話です。
作中ではそこそこ時間が経っています。まぁ木曾改二が登場するからわかりきっていますね。

タイトルのセリフは木曾が言ったいうエピソードがありますが、
その時に木曾は横須賀で整備中でそれはなかったと言われています。
実際は大井だったというのが、文献を整理した場合に出てくる答えのようです。

大井さんは面倒見がよさそう。
木曾さんは艦娘になる前では3女の末っ子(設定)なんである程度経験でわかっていそう。
まるゆちゃんはこの話では関係ないですが、艦娘になる前では素潜り最年少記録を持っています。(設定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。