俺の人生の目的は、おっぱいに触れることだ 作:いらちん丸
少々長いですが最後まで読んでくださるとありがたいです。
ふんふんふーん。
今日はいい日だな〜。
思わずスキップでもしちゃおっかなー。
「今日はやけに、機嫌がいいですね、先輩♪」
前言撤回だ。
急がば回れだ。
「ちょ! ちょっと! どこ行くんすか!」
おい、止めんじゃねぇよ。
俺は絶賛帰りたいんだよ。
なんでお前がこんなところにいるんだよ。
「そんな厄介者みたいに接しなくてもいいじゃないっすかぁ」
実際、厄介者だからね。
お前が関わると色々めんどくさいんだよ。
覚えてる?
お前が猫を渡してきて、その猫が姿を変えた魔物で俺の家がめちゃくちゃになったの。
それと、エリザのお気に入りのチョコを勝手に食って怒られたのも、お前のせいだからね。
「それはうち関係ないっすよね!?」
まぁ、それは関係ないとしても、他にも色々あんだろうがよ!
忘れたとは言わせねぇぞ?
あとな、俺はめんどくさい奴とは関わらない主義なの。
わかったら、そこを退いてくれると助かる。
「またまたそんなこと言ってぇ。聞きましたよぉ〜。新人騎士の子に決闘を挑まれて、ちゃんと受けたの〜」
げっ。
なんでお前がそれ知ってんだよ。
ていうか、前々から思ってたけど、喋ってもないのに人の心読んで会話すんのやめろや。
「確か、新米騎士の子の名前、グレイシアって言いましたっけ? 知ってるっすよ〜。なかなかいい剣してますよねぇ〜」
あ、全く聞いてない感じね。
都合がいい部分だけ聞こえちゃってる感じね。
オーケー。
っていうか、あの決闘を申し込んだ女の子はグレイシアというのか。
綺麗な名前だし、可愛いし、おっぱい大きいし。
覚えておこう。
メモメモっと。
「……チッ」
ん?
今、舌打ちした?「チッ」って聞こえたよ?
「気のせいっすよ、気のせい。ところで、今回の決闘は見応え満載な決闘だったっすねぇ〜」
そうか?
確かにあの子の剣捌きは見事だったが……。
客観的に見て、あまり見応えのある戦いはしなかったと思うが。
「あー、戦いの方じゃないっすよ。見応えがあったのは、自分の全力をかけた剣を止められた彼女の顔っすよ」
うわぁ。
そこかよ……。
「あの、自分の才能と努力を全部壊された時に見せる顔、たまんないっす。まっ、仕方ないっすよね。先輩と戦えば、あんな顔をするのは」
なんだよそれ。
なんか俺が悪いことしちゃってるみたいじゃん。
「田舎でちょっと才能があるからって調子に乗ってるからこうなるんすよねぇ。ほんと、身の程を弁えてほしいっすよね〜」
そこまで言わなくても……。
俺は全然、巨乳で可愛い子だったら身の程を弁えなくて結構だけどね。
むしろ俺、コミュ障だから、あっちから話しかけてくれて嬉しいし。
「……へー。って、そうだ。先輩は何しにここに来たんすか? もしかして団長に用があるとかっすか?」
そそ。
エリザから仕事もらおうと思ってね。
だからここをどいてもらえると助かる。
あと、何故かは知らんが、俺の手を掴むのもやめてもらえると助かるぞ。
「あー、それは無理っすね。あと団長なら今、留守っすよ」
なにぃ!?
いつも外交の時とかも副団長に任せっきりで、団長室にこもってるあの引きこもりエリザ騎士団長殿がぁ!?
「団長のことそう思ってるの、多分先輩だけっすよ。あと、それ聞かれたら殺されるっすよ」
大丈夫でぇーす。
心の中で喋ってるのでぇ〜。
お前みたいに人の心を読めるやつ、そうそういないからー。
「私のこれは先輩専用っすよ!」
俺専用ー?
めちゃ嬉しいんですけどぉー……とはならんよ?
普通に全然嬉しくないんだけど。
人の心読むって、それただのプライバシーの侵害だからね。
心の壁を、粉砕機で思いっきり砕いてんのと一緒だからね。
「プライバシー? 粉砕機? まぁよくわかんないっすけど、ところで先輩、今暇っすか?」
あー、確かこの後ピアノのお稽古が入ってたな。
遅れたら「お前のピアノねぇーから」とか言われて、窓からピアノ落とされちゃうから暇じゃねぇわ。
ごめん。
「そんなピアノ教室があったら一度は行ってみたいっすけど……って、先輩がピアノ習ってたなんて聞いたことないっすよ。で、暇っすよね?」
だから暇じゃねぇつってんだろ!!
今からメアリー先生の猿でもわかるピアノ教室に行くっつってんだろ!!
「そうっすか……。残念っす。あーあ、せっかくデートの誘いしようとしたんだけどなぁ」
誰だよメアリーってやつ。
英語の教科書にでも出てきそうな名前しやがって。
猿でもわかるピアノ教室?
じゃあ実際、猿にピアノ教えたことあんのか?
どうせできて『猫ふんじゃった』レベルだろ?
ピアノ舐めんじゃねぇーよ! この野郎!
「うわぁ、この人、息を呑む速さで手のひら返ししてるんすけど……」
大体、猿ごときが人間様舐めんじゃねーぞ。
こちとら、お前の『猫ふんじゃった』の何倍もの速さで『猫ふんじゃった』弾けちゃうもんね。
三倍速まで可能だもんね。
「聞いたことない曲っすけど、多分どっちも同じ曲じゃないっすか?」
うるせーやい、この野郎!!
「で? 行くんすか? デート」
うにゅ、行きましゅ。
そりゃ、いくら厄介者のシアだとはいえ、レディはレディ。
レディからのデートのお誘いを、このいぶし銀な俺が断るわけないんだよなぁ。
「……まっ、そういうことにしとくっす」
何?
今の間?
もしかして俺がデートに誘われて嬉しくてデートするって思ってる?
勘違いもいい加減にしなさいよね!
全然!
女の子にデートに誘われて嬉しくないんだからね!
「何口調変わっちゃってるんすか。ほら、早く行きますよ、先輩♪」
ひゃい。
――――
シアさん、シアさんや
「なんすか? 先輩」
デートっていうのはさ。
街でショッピングしたり、海辺で砂の上を走り回ったり、レストランでお食事したりするもんじゃん?
これが普通とされるデートじゃん?
「まぁ、大体はそうっすね」
じゃあさ。
なんで俺たちは今、薄汚ぇ洞窟みたいなところにいんの?
あー、あれ?
最近できた新手のホラーアミューズメントパークかなんか?
もう、意外とこういうところが好きなら最初から言ってよね!
この、いけず!
「気持ち悪いっす。それと、半分以上何言ってるかよくわかんないっすけど、多分違うっすね」
うっせ!
そんなもんわかってんだよ!!
デートだと思ってたら、騙されたことに気づいて現実を認めたくねぇだけだよ!
本当にここどこなんだよ。
ザ・敵のアジトみたいな感じ出ちゃってるんですけどぉ。
いかにも地面から上から敵出てきそうな勢いなんですけどぉ。
「何言っちゃってんすかぁ。デートっすよ、デート」
本当に!?
ほんとの!?
「はい! 今からすんのは『屍』狩りデートっすよ♪」
そうかー。
『屍』狩りデートかぁ。
よーし、僕ちんいっぱい狩れるように頑張るぞー!
って……ならねえよ!
何、いちご狩りみたいな容量で言ってんのお前?
アホなの?
バカなの?
顔面バロットなの!?
あと『屍』って、なんか最近噂になってるやべぇ集団じゃなかった!?
「そうっす。『屍』は全騎士団の壊滅を目標に掲げた組織。全構成員は騎士を恨み、騎士を殺すことしか考えていない者で構成されてる、イカれた集団っす。ちなみに今いる場所は『屍』たちのいる仮拠点っす」
なるほどなるほど。
ご丁寧に説明ありがとう。
猿でもわかりやすい、いい説明だったよ、シアくん。
「どうもっす」
なぁ、一つだけ言っていいこと言っていいかな?
「はい、どうぞー」
なんで俺がそんなやばい連中の拠点なんかにいんの?
俺、帰っていいかな?
黙らされて、泣きながら無様に帰っちゃってもいいかな!?
泣きながら「うわーん、うわーん」言いながら街中走り回ってもいいかな!?
「ダメっすよぉ! 先輩がいないと誰が私のこと守るんすか! ……って、あっ」
あって言っちゃったよ。
あーあ。
全部言っちゃってるよ、この子。
もういいです。
帰ります。
帰って親父と一緒の墓に埋まるとします。
喋ったことも顔を見たこともないけど……。
「先輩、騙したことは謝るっす。だからどうか今回は許して欲しいっす! デートは後日、絶対埋め合わせしますから! ね?」
そんなこと言って、どうせ後日のデートも当日になって、
「ごめーん、飼ってる猫が体調悪くて行けなくなったー」
とか言ってドタキャンすんだろ。
女の「後日」は、男の「明日やろう」ぐらい信用ならないからな。
まっ、とりあえず早めにデートする日が決まったら言ってこいよ。
「行くんだ……」
おう、行くよ。
って、こんな話はもうどうでもよくはないが、どうでもいい!
どうせこんなことするってことは任務かなんかなんだろ?
仕方ねえ。
内容を言え、内容を!
「やっぱり先輩、切り替え速いっすねぇ。まっ、そっちの方が助かるっす。おけっす。まず任務内容は簡単に言うと、この先にいる『屍』の殲滅っす」
殲滅?
捕まえた方が良くないか?
捕まえて色々情報を引き出したほうがいいと思うが。
「奴らには特別な魔術がかかっていて、口を割ろうとしたらその魔術が発動して、辺り一帯が爆発してしまうんで、捕えた方がリスクになるっす」
うわぁ。
何その鬼畜の所業……。
騎士に情報を渡さないため+騎士を一人でも多く殺す気満々じゃん……。
ますます帰りたくなった。
「しかも奴らは騎士を殺すためなら手段を選ばない。わざと口を割って爆発させるっていう手も使ってくることがあるっす」
なんだよそれ。
覚悟ガンギマリの死にゲーみたいなことして……。
どんだけ騎士に恨みあんだよ……。
「なので奴らを殲滅させるには、こうやって集団で集まってた方がいいっす」
ほう?
なるほどな。
わかったぞ、お前の企みが!
つまりだ。
単体だと、いつ自爆してもおかしくない。
だけど集団なら仲間を巻き込む可能性があるため、自爆はできない。
そういうことか?
「企みって……一応、仲間なんすけどね、私たち。まっ、言ってることは間違ってないっす」
ふふ。
天才か、俺は。
でも、これは憶測に過ぎない。
集団で使ってくるやつもいるかもしれんぞ?
「それなら大丈夫っす。奴らには意外なことに仲間を思う心はあるのか、過去数戦、奴らが集団の中で戦闘を起こしても自爆を使うことはなかったっす」
なるほど。
ちゃんと集団では自爆を使わないエビデンスがあるなら安心だ。
それでも警戒はしておくが。
だけど、集団戦をするなら俺たち二人だけじゃなく、他の奴らも呼んだ方がよくなかったか?
なんで俺たちだけなんだ?
「さっき任務の内容は殲滅って言ったっすけど、もう一つあるっす。騎士団の地下倉庫から盗まれた豪魔石の奪還っス」
豪魔石?
豪魔石って、あの豪魔石か?
「そうっす。大魔導士アルキシオンが作ったとされる、六つしかない伝説の魔石っす。我が国リベルスが保有する豪魔石は、他の大国と比べて武力が劣る我が国リベルスを守るための貴重な防衛線っす。それを奪われたのがバレたりすると、他の大国と争いになりかねない。それに、私と先輩の二人だけで行けと言ったのは団長からの命令っす」
エリザが?
「はい。騎士団倉庫から盗まれたとなると、騎士団の中に裏切り者がいる可能性があるということで、団長から信用できる私たち二人を選んだということです」
ほーう。
なるほど、信頼か。
そう言われたら悪い気はしないなぁ。
にちゃにちゃ。
それにしても、あの厳重に警備されてる騎士団の地下倉庫から盗みを成功させるなんて、一体どういう手を使ったんだ?
「それが不思議とわかんないっすよねぇ。でも、ここに豪魔石があるのは確かっす。事前に私が情報を得たんで間違いないっす」
お前すげぇな。
毎回どこからそんな情報引き出してくるんだ?
スパイかなんかか、お前は。
まっ、そんなことは一旦どうでもいいか。
とりあえず豪魔石ってやつと敵を殲滅すればいいんだろ?
「そうっす。でも敵は多く見積もって二十はいるっす。そこから豪魔石を奪うのは困難っす。だから先輩には先に行って、敵の注意を引いて欲しいっす」
了解。
で、シアはどうするんだ?
「先輩が敵を蹴散らしてる間、私は隙を見て豪魔石を奪うっす」
よぉし、わかった。
じゃあ早速――。
『屍』殲滅&豪魔石奪還任務、出陣じゃあぁぁ!!
「ちょっ、テンションおかしいっすよ!!」
うるせえ!
行くぞ!
――――
「これが豪魔石ねぇ。思ったより小さいのね」
ウェーブのかかった長い黒髪に、紫の瞳。
艶やかな顔立ちをした女性――マリア・スゲロウは、手に持った紅く輝く魔石を見つめていた。
(本当にこれが、一国を守ることができる魔石なのかしら)
マリアは豪魔石を見つめながら、そんなことを考える。
豪魔石。
この世界に六つしか存在せず、他の大国と比べて武力が劣るリベルスを守る伝説の魔石。
これを今いる場所まで運び、アジトに持ち帰れと、マリアは上から命じられていた。
だが、見た目だけなら普通の魔石と何ら変わらない。
こんな石が、本当にそんな大層な代物には見えなかった。
(まぁ、それは別にいいとして、そろそろ豪魔石が盗まれたことにあっちは気づく頃合いね。早くここから立ち去らないといけないわね)
マリアは豪魔石を小さな宝箱にしまい、部下たちに命令する。
「貴方たち、そろそろここを移動するわ。全員、警戒を解かず移動の準備に取り掛かりなさい」
マリアがそう言うと、部下たちは働き蟻のようにテキパキと動き始める。
そんな光景を見て、マリアは微笑んだ。
(ふふ。本当にいい子たちね)
マリアの部下たちは、マリアが厳しく一から育てた『屍』の精鋭たちである。
死ねとマリアが言えば自害し、あれをやれと言えば逆らわずに従う。
そんな従順な
(それにしても……彼は、あんな石を使って何をするのかしらね)
彼。
マリアが忠誠を誓う『屍』のリーダー。
そのリーダーが、この豪魔石を欲していた。
なぜ、全騎士団壊滅を掲げる騎士殺しの私たちが、こんな魔石を欲しているのか。
マリアには、その理由がわからなかった。
だが、リーダーの命令は絶対だ。
(まぁ、とりあえずは命令通りにするしかないわよね)
疑問に思いながらも命令に従うマリアもまた、『屍』の
「敵襲!! 敵襲!!」
その時だった。
マリアがいる『屍』の仮拠点、その入り口から味方の声が響いた。
敵襲。
こんな場所に来る敵は一つしかない。
「騎士よ! 騎士が来たわ! 全員、戦闘準備!!」
敵襲の声が聞こえてからのマリアの行動は早かった。
すぐさま部下たちに指示を飛ばし、臨戦態勢を取らせた。
(もう来たっていうの!? どういう速さしてるのよ)
そろそろ気づかれる頃だとは思っていた。
だが、あまりにも早い騎士たちの襲撃に、マリアは驚きを隠せない。
(どこから漏れた? まさか、裏切り者が!?)
マリアは武器を手に取り、構えを取る部下たちを見る。
(いや、いるわけがない。いたとしても、喋ることも紙で伝えることもできない。てっことはただ単に、思っていたより相手さんが優秀だったってことね)
チッ、と思わずマリアは舌打ちを漏らす。
自身の武器である鉤爪を装着し、こちらへ近づいてくる足音を静かに聞く。
「く、来る!」
部下の一人が叫んだ。
だが、それでは遅かった。
「速――」
ドスッ。
言葉を最後まで言い切る前に、男の胸に穴が開いた。
「ごふっ……」
血を吐き出し、その場にボロ雑巾のように崩れ落ちる。
胸に穴を開けた人物の姿は、どこにも見当たらない。
「どこだ! どこに――」
ドスッ。
「ゴポォ……」
また一人。
姿すら見えないまま、胸に穴を開けられて倒れる。
「速いぞ! 気をつけ――」
ドスッ。
また一人。
瞬く間に、部下たちの数が減っていく。
「そこだ! そこにいるぞ!」
その時、部下の一人が襲ってくる敵の姿を視認し、指を差した。
マリアは、指差された方向を見る。
(どうやら、とんでもないのが相手に来たらしいわね)
そこに、一人の男が立っていた。
灰色の髪に無機質な瞳。
武器すら持たず、血に染まった手刀。
マリアは、その姿に見覚えがあった。
「知っているわ。貴方、クシロフ・アルメイダでしょ?」
クシロフ・アルメイダ。
その名前は、騎士以外にも知られている。
武器を使わない騎士として有名な男。
だが、もう一つ。
クシロフには、騎士になる前に言われていた他にはあまり知られていない呼び名があった。
「まさか相手が、あの『騎士殺し』だなんてね驚きよ。」
――騎士殺し。
その名前を聞いた瞬間、マリアの部下たちは騒ぎ出す。
「騎士殺しって……あの騎士殺しか?」
「まさかこいつが……?」
「本当だったら何故こいつが騎士に……?」
「……」
クシロフは何も喋らない。
ただ無機質な目で、目の前にいるマリアの胸元をじっと凝視している。
「一つだけ聞いていいかしら? なんで騎士殺しとして呼ばれていた貴方が、騎士になり、今騎士として私たちと戦うのかしら?」
マリアがクシロフに問いかける。
だが、クシロフは答えない。
ただ、うっすらと笑みを浮かべるだけだった。
「それは、喋る気はないという答えでいいかしら?」
確認のためにそう聞く。
当然、クシロフが答えるわけもない。
「そう。残念だわ。私達好みのいい男なのに……殺すことになるなんて」
マリアはそう言い残すと、身体に魔力を流し込む。
次の瞬間。
バキィッ!!
地面が割れるほどの脚力で地面を蹴り、クシロフとの間合いを一瞬で詰めた。
「死になさい!」
電光石火のごとく、手に装着した鉤爪を振り下ろす。
カキィィィン!!
甲高い金属音が洞窟内に響き渡った。
マリアの鉤爪は、この世界で最強とされる種族――黒竜の爪を使って作られた武器。
あらゆるものを切り裂き、その爪に傷つけられた者は黒竜の呪いに侵され、死に至る。
この世界で最高品とされる魔剣や聖剣に比べても、決して見劣りしない武器だ。
だが――。
そんな武器の一撃を、目の前の男は素手で受け止めていた。
何の躊躇もなく。
「……!」
マリアは一瞬だけ目を見開く。
だが、すぐに笑みを浮かべた。
素手で受け止められたとしても、動揺する必要はない。
むしろ、好都合だった。
マリアはもう片方の鉤爪を振り上げ、クシロフの顔を狙う。
クシロフは受け止めていた片方の手を離し、後方へ跳んで距離を取った。
「呪いか……」
その時、クシロフの口が初めて動いた。
「ご名答。本来、その呪いを食らったら三秒で、どんな強大な魔物でも動けなくなって、身体を呪いが蝕むんだけど……貴方、どうなっているの?」
クシロフは先ほど受け止めた右手を見る。
そこには、浅い引っ掻き傷があった。
そして傷口からは、普段の赤い血ではなく――ドス黒い血が、ポタポタと滴っている。
だが。
クシロフは表情を変えない。
焦る素振りすら見せない。
そんな冷静沈着なクシロフを見て、マリアは苦笑した。
(痩せ我慢……ってわけではないわね)
まぁいい。
マリアの役目は終わった。
あとは、呪いが身体全体に行き渡るまで時間を稼ぐだけ。
稼ぐだけで相手は死ぬ、そう、マリアは確信した。
「貴方たち、やってしまいなさい!」
マリアが叫ぶ。
部下たちは一斉にクシロフを囲み、襲い掛かった。
(さぁ、呪いで蝕まれたその身体で、どう動く?)
黒竜の呪いを受けたクシロフの顔には、すでに竜の鱗のような黒い痣が浮かび始めていた。
この症状が出た場合、呪いがもう身体全体に行き渡る寸前。
マリアには、それがわかっていた。
――勝った。
マリアがそう確信した、その瞬間。
クシロフが動いた。
「死ね」
ブンッ!!
襲い掛かってきた部下たち。
その数人の胴を――。
クシロフは、ただ横へ手刀を一閃した。
ズバァッ!!
肉を断ち切る音が響く。
マリアの自慢の部下たちが、悲鳴すら上げる暇もなく胴から真っ二つにされた。
ドサッ。
二つに分かれた身体が、地面へ落ちる。
マリアはただ呆然と、その光景を見ていた。
(どういうことよ何故まだあんなに動けるのよ? 呪いは効いているはずよ?)
マリアは動揺を隠せない。
だが、クシロフは相手の動揺が収まるまで待つほど優しくはない。
一歩。
また一歩。
クシロフはマリアに近づいていく。
「マリアさん!! 離れ――ぐぶぉ」
マリアに近づくクシロフを止めようと、部下の一人が攻撃を仕掛ける。
だが、何も為せぬまま胸を貫かれた。
「近づくんじゃねえ!!!
クシロフに向かい、部下の一人が魔術を放つ。
しかし、それもクシロフはスッと腕を振るだけでかき消した。
そして横にスッとまた手を振る。
その瞬間、鋭い斬撃が飛び、魔術を放った部下と、その周囲にいた者たちまでまとめて切り裂いた。
「とんだバケモノね」
その時マリアはクシロフに恐怖した。
(このままだと確実に殺されるわね......。)
クシロフはマリア以外を視認していない。
自身に襲ってくるマリアの部下たちにも見向きもせず殺し続け、ただ無機質な眼光でマリアを射止めていた。
どんどんとクシロフがマリアに近づく。
それに続き、マリアの部下たちも残りわずかになっていた。
(このままではジリ貧ね……チッ。)
このままではまずい。
マリアはそう思い動いた。
「
目にも止まらぬ速さで踏み込み、クシロフへ技を繰り出す。
鉤爪を装着した両手で、高速の突きを千に及ぶ数繰り出す。
だが――。
クシロフは、その全てを弾いた。
カキィン! カキィン! カキィン!
甲高い金属音が洞窟に何度も何度も響き渡る。
プシャッ。
プシャッ。
クシロフの手から黒い血が出続ける。
(ふふふ呪いだとわかっていながら素手で対処し続けるなんて、それはあまりにも悪手よ)
クシロフはマリアの攻撃を防ぐのに精一杯だ。
それに呪いもある。
心なしかクシロフの動きも鈍くなってきている。
これが続けば勝てる。
マリアはそう思っていた。
だが、目の前のクシロフは、それが通じるほど甘くはなかった。
「返すぞ」
そう、マリアの耳に聞こえた。
その瞬間。
防戦一方だったクシロフの手が、マリアの胸元へ突き刺さった。
「ぐふぉっ」とマリアは思わず声を漏らした。
「確か……
クシロフはそう言いマリアが使った技をそのまま返した。
マリアの体に無数の衝撃が身体全体を襲う。
体のいかなる箇所が凹み歪み骨が軋む。
(ぐっ……呼吸ができない!!)
何度も何度も、マリアの身体へクシロフの手刀が高速で突き込まれる。
マリアの身体は激しい衝撃に襲われ、息をすることすらままならない。
だが、不思議とクシロフの手刀は、マリアの身体を貫くことはなかった。
やがて、クシロフの手がピタリと止まった
そしてクシロフは後ろへ飛び退いた。
「な、なぜ殺さない?」
マリアは痛む身体を抱え、絶え絶えになった息で立つのがやっとの状態だった。
ここから反撃をするにはどうしても無理だ。
そんなマリアの状態を見て、自分を殺さず後ろへ下がったクシロフを見て疑問に思った。
「まさか……気づいてたの?」
マリアは、クシロフが先ほどまで何も持っていなかった左手に、小さな瓶を持っていることに気づいた。
その中には透明な液体が入っていた。
(まさか体を貫かなかった理由は……私が《解呪薬》を持っていると見込んで......!)
解呪薬。
名前の通り、呪いを解く薬だ。
その薬をマリアはいつも持参している。
理由は単純。
もし何かの間違いで自身の武器に傷つけられ、呪いを受けたら死んでしまうからだ。
そのため、一応の保険として持っていた解呪薬。
それをクシロフはマリアが持っていることに気づいていたのだ。
「貴方たち! 彼の持つ解呪薬を壊しなさい!」
マリアは、まだ解呪薬を飲んでいないクシロフを見て、一か八かの賭けに出る。
「貴方……たち? なに……を」
だが、その賭けは意味をなさなかった。
いや。
そもそも、賭けができる状態ではなかった。
先ほどまで生きていると思い込んでいたマリアの部下たちは――。
すでに全滅していた。
「なぜ......。あなたはさっきまで私と戦っていたはず!......まさか!」
マリアは何かを察し、後ろを振り返る。
すると、そこにあるはずだった小さな宝箱が消えていた。
豪魔石が入った宝箱。
それが、跡形もなく消えている。
「ふふふ……ふふふふふ……ははははは!!」
マリアは思わず高い笑い声を上げる。
「ふふふ完全にしてやられたわ! クシロフ・アルメイダ!! ふふふ……私の負けよ。完敗よ」
そう言うマリアの顔には、完全に負けを認めた人間の表情は浮かんでいなかった。
「まさかもう一人いたなんてねぇ、嬉しいわ。」
マリアは口元を歪める。
「いい?『屍』は元々、死んでいるのと同じなの。ただ、他の屍と違う点は......貴方たちみたいな騎士を一人でも多く殺すために存在する屍ってだけ。」
そう言い放つマリアの顔には、何かの覚悟を決めた表情が浮かんでいた。
その顔を見たクシロフは、マリアが今から何をするのかを察した。
無機質だった瞳が、初めて大きく見開かれた。
「やっと顔に出たわね でも、もう遅いわ」
マリアは笑う。
「私たち『屍』のリーダーは......」
ぐふぉ。
突然マリアの口から、血が溢れ出す。
「……!?」
マリアの身体が止まる。
視線を下へ向ける。
そこには――。
自分の喉元から突き出した一本の剣があった。
「……あっぶないっすねぇ」
背後から、少女の声が響く。
「それ以上言わせるわけないじゃないっすかぁ♪」
マリアがゆっくりと振り返る。
そこには、白い髪をした糸目の少女――シア・シネッドが立っていた。
その手には剣が握られている。
そして、その切っ先はマリアの喉を貫いていた。
「何故って顔してるっすね」
シアは笑う。
「いや、違うか。《いつから、私の狙いに気づいてそこに!?》だったっすね」
まるで心の声を読んでいるかのような口調。
死の間際、マリアはシアを睨みつける。
(そう……貴女、人の心が読めるのね)
「ご名答っす」
シアはあっさり答える。
「だけど、そんなんでいいんすか? 最後に言いたいことは」
(ふふふ……勘違いしないで。私たち『屍』にそんなの必要ないわ)
そして――。
マリアはクシロフを見る。
先ほどまで自分を圧倒していた、灰色の髪の男。
その男を見つめながら、マリアは最後に一つだけ思った。
(でも……そうね、最後に一度くらい……あそこの彼と話してみたかったかも)
「……」
シアの表情から笑みが消える。
そして――。
「させるわけねぇだろ」
ズブッ。
シアは剣をさらに深く突き込み、マリアにトドメを刺した。
止めを刺されたマリアの顔は笑っていた。
ーー
「先輩大丈夫っすか?」
どう見ても大丈夫じゃねえよ馬鹿野郎
危うく呪いで死にかけたわ。
呪いのせいで下半身ほぼ動かなくなったわ。
何とか気合いで動いたわ。
「普通呪いって気合いでどうこうできるものじゃないんすけど......」
いやーまじで敵さんが解呪薬持っててよかったー
気合いで耐えててもこれ死ぬわと思って、最後くらい敵さんのグラマラスなボディをいっぱい触ってから死のうと思ったら、まさかの解呪薬があって助かったわ。ラッキー。
「へーそのまま死ねばよかったすねぇー」
あ?あ?あ?
元はと言えばお前のせいでこうなったのに何だその言いようは!
お前が豪魔石取れたのも敵にトドメさせたのも俺のおかげだぞ!?
「豪魔石はそうっすけど、最後のやつは先輩完全にビックリしてたじゃないっすか」
は?ちげぇし?
別に相手が自爆しようとしてて焦ってたわけじゃねぇし?
岩の壁が人の顔に見えてビックリしただけし?
「あーはいはい」
何?その適当な感じ。
やんの?やんの?喧嘩売ってんの?あん?
「うってないっす、うってないっす。とにかく『屍』の殲滅と豪魔石奪い返せたんで帰るっすよ。」
あい。
「ところで先輩あとでいや、何でもないっす。」
なんだよ、それ。
まっいいよ。
とりあえず帰るまでが遠足だからね気をつけて帰るとしましょうや。
「遠足じゃなくて任務っすよ」
知ってるよバカやろー
「ほんと、先輩って面白いっすよね。」
褒められても何もでやしねぇぞ!?
「先輩ケーキ食べたいっす!」
うんいいよ後で買ってあげる。
「チョロ」
あぁん!?
クシロフがここまで会話できるのは現状シアしかいません
基本的にはコミュ症で人見知りです。
おもしろいなぁと少しでも思っていただけたら評価の方よろしくお願いします