今回、ファザー視点→三人称→ジーク視点と、視点がコロコロして分かりにくいかもしれません。
申し訳ありません。
最近は平和そのものだ。
アインハルトちゃんはチームのみんなとインターミドル目指して本格的に鍛え始めたので、ノーヴェちゃんが面倒を見てくれてる。
「調子はどうだ?」
「問題ありません」
だから俺はたまに顔を出しては、そう答えるアインハルトちゃんの頭を撫でる程度で済んでいる。
何かあると言ったら、たまにジークに襲撃されては、飯と寝床をねだられるくらいだ。
あいつの生存確認もできるから、許してやるが。
そう、少し前まではイベントがありすぎたんだ。
適当に仕事して、酒とタバコで1日を締める。
隣に美女がいればなお良い。
ギャンブルで勝てれば儲け物。
退屈だがこれが日常ってやつよ。
今日も平和な1日が始まる……予定だった。
「すぅ……すぅ……かんにんしてや〜あと5分〜」
じゃあなんでジークが隣で寝てるんですかね⁉︎
昨日の夜は飲んでて……それから?
……なんも覚えてないんだが⁉︎
きのうはお楽しみだったのか⁉︎
……やっべぇ。
一気に血の気が引く。
たぶん俺の顔はいま真っ青だ。
とりあえずそっと布団をめくる。
服は着ている。
ジークも普通に服を着ている。
……それなら。
…………いや。
それでも安心できない。
俺が何か、とんでもないことをしている可能性は――。
「う〜ん」
その時だった。
隣で眠っていたジークが、もぞもぞと動いた。
そして、ゆっくりと目を開ける。
「……ファザー?」
「…………」
「おはよぉ」
「オハヨウ」
片言の挨拶を返すと、ジークが抱きついてきた。
あっ、やっぱりそういう事なんだ。
オワタ。
俺の人生、終わった。
そんな俺の内心など知る由もなく、ジークは俺の胸元に顔を埋める。
「朝からファザーと逢えるなんてええ夢や。このまま一緒にもうちょっと寝ようや」
「オーセノトーリニ」
「スンスン……ちょっとお酒とタバコ臭い。でもファザーの匂いやな」
ジークが俺の胸元に顔を寄せたまま匂いを嗅いだ。
「ゴメンネ、クサクッテ」
「そう思うんやったら控えてぇな」
「ソレハムリ」
「ウチの夢なんやし、言うこと聞いてくれたってええのに……」
そう言いながら、ジークがムニムニと俺のほっぺを摘んでくる。
「アノ、ジークサン」
「なんやー、ファザーのほっぺやわこいな」
「キノーナニガアッタカオボエテラッシャルデショーカ」
「え、昨日?……昨日はやな……ッ!」
そこまで言って、ジークの顔が真っ赤に染まる。
9回裏スリーアウトゲームセットってところか。
ここからでも入れる保険ってあるかな?
「なあ……これって、ウチの夢やないん?」
「ところがどっこい夢じゃありません。これが現実、現実です」
そう答えると、無言でそっと俺から離れ、頭から布団を被るジーク。
そして……
「にゃぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」
ジークの絶叫が俺の家に響き渡った。
「その……やっぱ最後まで行ったんか?」
「してへんよ!せやけど……!」
布団にくるまったままジークが話す。
「うちの純情を弄んだんや!」
最後までしてないと言うのにこの反応、マジで何やったんだよ昨日の俺。
「昨日のファザーはなぁ……」
ジークは布団から顔だけ出した。その顔は真っ赤である。
そして、昨日の出来事を話し始めた。
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回想
「ファザー、頼みがあんねんけどー」
ジークが合鍵で玄関を開けた瞬間、へべれけが出てきた。
「……おー、ジークちゃんじゃん?どーしたの?」
「なんでもう出来上がってんねん」
「ちょうど可愛い娘に釈をしてもらいたかったんだよ。入って入って」
「か、可愛いってあんた……」
ジークの顔が思わず赤くなる。
「ほらほら」
「もう酔ってるやん……」
「まだ酔ってない」
「どう見ても酔っ払いや」
「そうかもー」
そんな様子で、ファザーは台所へ向かった。
「今飯作るから」
「……ええの?」
「それが目的で来たんだろ?」
「……それだけやないねんけど」
ジークは少しだけ言葉を濁した。
「明日話すわ」
酔っ払いに今話しても無駄だ。
そう判断したらしい。
そして、酒を片手に料理を始める。
酒を飲みながら料理をする、いわゆるキッチンドランカー状態だ。
それでも手際は悪くない。
「ほら、できた」
「おお……」
ジークの前に料理が並べられる。
「いただきます」
「うん、食え食え」
ジークが料理に手をつける。
そしてファザーは満足そうに笑い、酒瓶を手に取った。
「ほら、俺にも」
「うちにお酌させる気なん?」
「嫌か?」
「……別に嫌やないけど」
ジークが酒を注ぐ。
「はい」
「ありがとう」
ファザーが素直に礼を言い、グラスで受け取る。
一杯。
二杯。
三杯。
「ファザー、流石に飲みすぎやで」
「可愛い娘にお酌をして貰ってんだ、飲むのが礼儀だろ」
「またんな事を言う……」
ジークは呆れながらも、どこか嬉しそうだった。
そんなジークを見ながら、ファザーはぼんやりと呟く。
「……ジーク」
「ん?」
「お前、可愛いな」
「……へ?」
箸が止まった。
「可愛いなぁ、ジークちゃん」
「またそれかい!」
「可愛い可愛い」
「やめぇや!」
「なんで?」
「恥ずかしいねん!」
「照れてる?」
「照れてへん!」
「顔真っ赤だぞ?」
「酒のせいや!」
「ジークは飲んでないだろー?」
「……」
ジークは言い返せない。
ファザーは楽しそうに笑っている。
そして、さらに酒を飲む。
「好きだぞ」
「…………は?」
「俺、お前好きだわ」
ジークの顔が一気に赤くなる。
「な、何言うてんの!?」
「可愛いは嫌なんだろ?」
「そういう問題ちゃうやろ!」
「じゃあ、もっと言うか?」
「言わんでええ!」
「好きだぞー」
「やめぇ!」
「ジーク可愛い」
「やめろー!」
顔を真っ赤にしたジークを見て、ファザーはさらに楽しそうに笑った。
「ははは、なんだお前。面白ぇな」
「ファザーの方がおかしいやろ!」
「そうか?」
「そうや!」
「じゃあ――」
ファザーは酔いの回った頭で、何気なく口にした。
「嫁にするか」
「…………」
「…………」
ジークの動きが完全に止まった。
「…………へ?」
「…………」
言った本人はというと。
「……ふぁ……」
「ちょ、ファザー?」
そのまま机に突っ伏した。
「寝るんかい!」
完全に酔い潰れていた。
「……もう……」
結局、ジークはファザーを寝室まで運んだ。
そして。
「よいしょ……っと」
なんとか身体を支えながら、ベッドに寝かせようとしたところで――
「うわっ⁉︎」
酔っ払いがジークの腕を掴んだ。
「ファザー⁉︎」
「…………」
「ちょ、離してぇな!」
しかしファザーは完全に寝ている。
「……もう」
仕方なく、ジークもベッドの端に腰をおろした。
そして……
「……すぅ……」
ファザーは眠ったまま、ジークの腕を離さない。
「……しゃあないなぁ」
結局、ジークもそのままベットで横になることになった。
回想終了
⸻——————————————————————
ウチは大体の経緯を説明して、しばらく黙っていた。
「好き」とか「嫁にするか」とか言われたことは話していない。
昨夜のことを思い出すだけで、胸の奥が妙に騒がしくなる。
ファザーはベッドの上で頭を抱えていた。
「…………」
そして、しばらくして。
「俺、昨日なんか変なこと言ったか?」
「……うん」
ウチは小さく頷いた。
「何言った?」
「…………」
言えるわけがない。
「ジーク?」
「……忘れてぇな」
「無理だろ。俺が覚えてないんだから、お前が説明してくれ」
「……ファザーが酔っ払って、ウチのこと……」
そこまで言って、口を閉じた。
「こと?」
「……変なこと言うた」
「変なこと?」
「うん」
「例えば?」
「……それは……」
顔がまた熱くなる。
「……言いたくない」
「おい」
「ほんまに言いたくないねん!」
「俺が何したか分からない方が怖いんだが」
「別に何もしてへん!」
「じゃあ何言ったんだよ」
「……だから、変なこと」
「具体性がねぇ!」
ウチ布団を抱えたまま、そっぽを向いた。
「……とにかく、ファザーが酔っ払って、ウチに変なこと言うたんや」
「それで?」
「……ウチが、その……ちょっと困った」
「困った?」
「うん」
昨夜。
酔っ払ったファザーに何度も「可愛い」と言われた。
「好き」とも言われた。
そして最後に――。
「嫁にするか」
あの一言。
その瞬間。
頭の中が真っ白になった。
もちろん、酔っ払いの戯言だ。
ファザー本人だって覚えていない。
きっと深い意味なんてない。
そう思う。
そう思っている。
なのに。
なぜか、その言葉だけが頭から離れなかった。
ウチはファザーに何度もご飯を食わせてもらった。
空腹で倒れていた時、助けてもらった。
泊めてもらったこともある。
危ないことをするなと叱られた。
困ったら頼れと言ってくれた。
時々、子供扱いされる。
それが嫌なわけじゃない。
むしろ――。
ファザーのそばにいると、なんとなく安心する。
でも。
「嫁にするか」
その言葉だけは、今まで聞いたことがなかった。
胸の奥が、妙にざわつく。
何なんやろ。
これ。
ウチは自分でもよく分からなかった。
ただ、考えれば考えるほど恥ずかしくなってくる。
思い出すだけで、胸が妙に騒がしくなる。
「ジーク?」
「……なんや」
「顔赤いぞ」
「まだ昨日の酒が残っとるんや!」
「お前飲んでないだろ」
「うるさい!」
ウチは両手で頬を押さえた。
「……もう、ほんまに忘れてぇな」
「わかった」
ファザーは少しだけ真面目な顔になった。
「とりあえず、俺がおまえを困らせたってことだな」
「せや……」
「……悪かったな」
「え?」
ファザーが頭を下げる。
その仕草に、ウチは少し驚いた。
「酔ってたとはいえ、嫌な思いをさせたなら謝る」
「反省してる?」
「ああ」
「なら……」
私は少しだけ考えた。
そして、顔を上げる。
「うちのお願い聞いてくれる?」
「俺ができる範囲のことなら」
「インターミドル、もう3日後に始まるやろ?」
「ああ」
「せやから、しばらくこの辺に拠点がほしいねん」
ファザーは黙って私を見る。
インターミドル。
私にとって、大切な大会。
試合が近い以上、会場へ通いやすい場所に拠点を置きたい。
その考え自体は、ファザーにも理解してもらえると思った。
「こんな都心でキャンプすんなってファザーも言ってたやろ」
「確かに」
ファザーは頷いた。
「それで?」
「せやから――しばらくファザーん家に泊めてや」
私は両手を合わせた。
「断る」
「即答⁉︎」
「当たり前だろ」
「お願い聞いてくれるって言ったやん!」
「昨日みたいなことが起きたらどうする!」
「そこはお酒控えぇや!」
「う……そこは反省してる」
ファザーが言葉に詰まった。
「…………」
「…………」
沈黙。
ファザーは腕を組み、考え込んだ。
「他に候補は?」
「ない」
「ヴィクターのところは?」
「悪いやろ?」
「俺んところも悪いとか思わんの?」
「なんで?」
「こいつ……」
ファザーが頭を抱え込む。
「お前、俺の家を何だと思ってる?」
「宿」
「ホテルじゃねぇ」
「無料の宿」
「もっと悪い」
思わず笑ってしまう。
「せやから頼むわ」
ウチはもう一度お願いする。
「な?」
「…………」
「ええやん。家事くらいするで?」
「お前がぁ? 家事ぃ? ……ハッ」
ファザーが鼻で笑った。
「失礼やな!ウチやって1人でキャンプ生活やったんやから最低限の事はできるで」
ファザーからの評価にウチは顔を膨らませる。
「ふむ、確かにそうか……だかな」
「なんや」
「男と女が一つ屋根の下だ、間違いが起きたらどうする。今回は平気だったみたいだけどよ!」
「ファザーが? ウチを? ……ハッ」
思わず鼻で笑ってしまった。
だってヘタレやん。
「言ってて無いなとは思ったけどよ」
「なく無いわ! これでも人気者なんやで!」
「それはチャンプとしてのアイドル的人気だろ」
「せやけど一割くらいはウチ自身を見てる人おるやろ!」
「まぁ、それは否定できんが」
ウチは胸を張る。
「せやろ! 大体ファザーが襲ってきてもブッ飛ばせるで」
「それは逆に、お前に襲われたら終わりなのでは?」
「う、ウチから襲う訳無いやろ!」
「ならまぁ……いいか」
ファザーは腕を組み直した。
しばらく考えた後。
「分かった」
「ほんま⁉︎」
「ただし」
「俺が飲んでる時は距離を取れ」
「昨日の反省やな」
「勝手に他人を家に入れるな」
「分かった」
「あと俺の酒とか煙草を勝手に捨てんなよ?」
「体に悪いで?」
「社会人はな、ストレスが酷いんだよ」
「自由気ままにやっとる様にしか見えへんけど?」
「仕事行きたくねぇなとか、働かずに金が手に入らないかなとか、働きたくねぇとかな」
「全部働きたくないだけやん」
「そうとも言う」
「うち社会人になってもファザーみたいなダメ人間になりたないや」
「いい反面教師だろ?」
「それは威張って言うことやないんやで」
「よし」
ファザーは立ち上がった。
「じゃあ、泊まれ」
「やった!」
思わず声が出た。
「今日からでええ?」
「今日からかよ」
「もう荷物持ってきてるで」
「……お前」
ファザーは呆れた顔をした。
「最初から泊まる気満々だったな?」
「えへへ」
私は悪びれず笑った。
こうして、私の仮住まいが決まった。
……まあ。
ファザーの一人暮らしに、私が居候するという形やけど。
正直、ちょっと嬉しい。
ファザーと一緒に暮らせる。
そう考えると、さっきまで胸の中にあった妙なざわつきも、少しだけ薄れた気がした。
……たぶん。
たぶんやけど。
「それとなんやけどな」
「まだなんかあるのか?」
「ファザーにうちのセコンドについて欲しいんや」
「……難しいな」
「嫌なん?」
「いや、付いてやりたいのは山々なんだが、休みが合うかわからねぇ」
「インターミドルは基本休日開催やで?」
「休日ってのはな、礼拝日なんだよ。と言うより、礼拝日が休日になったってのが正しいか。だから聖王教会ってのは基本的に年中無休なんだ」
「はえー、なんかファザー、神父さんっぽいで」
「神父さんなんだよ、不良だけどな」
やっぱり自分で不良って言うんや……。
「まぁ、他にも神父はいる。交代制だから、試合の予定が分かればなるべく休みになるよう調整するが」
ファザーはそこで一度言葉を切った。
「流石に全部は無理だぞ」
「しゃあないか」
少し残念ではある。
でも。
「たまにでもついてくれるんなら、百人力やで。それに本番は都市本戦やしな」
「おっ、チャンピオン様にもなると余裕だな。予選の相手じゃ話にもならないってか?」
「そ、そうやないんやけど……」
「どうした?」
ウチは少し迷った。
けれど、せっかくなら話しておきたい。
「ちょっと真面目な話なんやけど」
「……なんだ?」
ウチは、自分の中にあるものについて話す。
「ウチの中にはな」
一度、息を吸う。
「『鉄腕』エレミアの一族が、代々培ってきた戦闘経験が刻まれとるんや」
「…………」
「ざっと五百年分くらいな」
ファザーの表情が変わった。
さっきまでの軽い雰囲気が、ほんの少しだけ消える。
「せやから、まぁ……」
ウチは肩をすくめる。
「そう簡単には負けへんのよ」
ファザーは黙って聞いていた。
そして。
「まて……」
それを聞いたファザーが頭に手を当て何かを考える仕草を取る。
「まてまて!鉄腕エレミア!?」
突然、声が大きくなった。
そしてそのまま頭をグリグリと、何かを思い出す様に圧迫する。
「もしかして、おまえヴィルフリッド・エレミアの子孫なのか?」
思わず目が丸くなる。
「なんで知っとるん⁉︎」
「そりゃお前知って……いやあんま詳しくは知らんのだが。オリヴィエの資料に何回かだけ出てきた名前だ」
「ファザーが古代ベルカ史に詳しいのはしっとったけど、そこまで知っとるとはな」
ファザーは顎に手を当てる。
「ただ、資料によってまちまちでな」
「まちまち?」
「男だったり女だったり。オリヴィエの師匠だったり、オリヴィエを取り合った覇王のライバルだったり」
「なんやそれ……」
「いまいち、どれも信憑性に欠ける」
ファザーの目が、完全に歴史を調べる人間の目になっていた。
「だから、本当にいたのかも怪しくて、重要視してこなかったんだが……」
そして。
「ちょっとヴィルフリッド・エレミアの資料を洗い直さなきゃならんな」
「ファザーが厄介な歴史オタク状態になってもうた……」
ウチは思わず頭を抱えた。
ファザーはそんなウチを気にすることなく、真剣な顔でこちらを見る。
「お前にも後で色々話を聞きたい。いいか?」
「せやけどファザー」
念のため言っておく。
「ウチが受け継いどるんは戦闘技術だけで、記憶は受け継いどらんのやで?」
これは大事なことだ。
ウチの中にあるのは、エレミア一族が長い年月をかけて培ってきた戦闘経験。
けれど、それはヴィルフリッド本人の記憶を、そのまま私が持っているということではない。
ファザーも、それは分かっているらしかった。
「それでもなんか思うこととかあるだろ?頼むよ」
「まぁええけど……」
「ありがとよジーク。愛してるぜ!」
「なっ///」
さっきまで引いていたはずの熱が、一気にぶり返した。
顔が熱い。
胸が苦しい。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「ファザーのバカァァァァぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ウチは思わず叫んだ。
……ほんま、この人は。
なんでこういうことを平気で言うんや。
……意識してまうやん。
だからウチは、昨日のこと絶対忘れへん! って、固く心に誓った。
お詫び。
書き溜めがここまででして、次回以降、更新頻度がかなり落ちます。
申し訳ありません。
評価・感想いただいた皆様、本当にありがとうございます。
励みにして次話以降を作ってまいります。