ファザーにとって最大の敵が現れる……
「くぁ……眠い」
『某は何度も注意いたしましたよ』
胸元から、聞き慣れた小言が飛んでくる。
昨日、これまで調べてきたことを整理し、皆に話したことで、改めて見えてきたものがあった。
そして、アインハルトちゃんの記憶によって、新しくわかったこともあった。
そのせいで、すっかり考え込んでしまったのだ。
まぁ、夜更かしの理由はもう一つあって……
「もう、髪ボサボサやで? ちゃんとせなあかんよ」
そう言いながら、指先で俺の髪を梳かしてきた、このはやてさんだ。
昨夜、ちょっと話し込んでしまった。
……だと言うのに、この人はなんで平気そうなんだ?
管理局ってこれで平常運転なのか?
なんか逆に心配になってきたんだけど。
ちなみに今日のはやてさんは、肩も太ももも大胆に露出した服装だ。ちょっとドキドキする。
「元からです。癖っ毛なので」
「昨日はもうちょっと男前やったで」
はやてさんはそこまで背は高くない。だから、俺の髪に手を伸ばすのに、少し背伸びをしている。
その姿がまた可愛らしくて、俺は無意識に、はやてさんの頭を撫でていた。
「こ〜ら。女の子の髪を勝手に撫でたらあかんよ」
「……すみません」
眠気で頭が回っていなかったとはいえ、これは失礼だった。
素直に手を引っ込める。
はやてさんは一瞬だけ目を丸くしたあと、困ったように笑った。
「まだぼーっとしとるみたいやね……いつもの3人。運んだって」
その言葉を合図にしたかのように、左右と後ろから気配が近づいてくる。
「ファザー、シャキッとしぃ!」
「八神司令にご迷惑をかけてはダメですよ?」
「目的地まで誘導しますね」
右手をジーク、左手をアインハルトちゃんに取ら、背中をヴィヴィオちゃんに押される。
いつも通り俺は包囲され、目的地に連行されて行った。
「ほんま……大人をからかうのもいい加減にしぃ……」
「顔、赤いですよ」
「見たらあかん」
後ろではやてさんとノーヴェちゃんが何か話してる様だが、残念ながら連行されていく俺にはよく聞こえなかった。
「寝不足にならんようにって言ったのあんたやろが」
「一体何してたんですか?」
左右から詰め寄られる。
あー……昨夜?
昨夜は確か……
「タバコ吸いに行って、迷った。……人生という道にな」
「なんですか、それ?」
後ろからクスクスと笑われた。
ああ、そうだったな。
俺は解散した後の事を思い出していた。
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解散した後、俺はそのまま部屋には行かず、一本吸えば頭も整理できるだろうと喫煙室へ行った。
だが考えはまとまらず、気づけばロビーの椅子に腰を下ろしていた。
どれくらい思考に耽っていたかはわからない。
そんな中、いつの間にかはやてさんが隣に座っていた。
「どうしたんですか?」
「オオカミさんが出とらんか見回りにな。君は?」
「そう思ってやってきた狩人さんを食べちゃおうかと」
俺の返答に、はやてさんは楽しそうに笑った。
「やっぱり君っておもろい子やな」
「はやてさんだから、ですよ」
軽口を返すと、はやてさんはまた楽しそうに笑う。
この人と話していると、妙に調子が狂う。
こっちがふざければ乗ってくるし、真面目な話をすれば、こちらが言葉にしていないところまで見透かしたようなことを言う。
年齢だけなら、そう大きくは離れていないはずだ。
それなのに、こちらの考えを見抜かれているような気がする。
管理局で二佐にまで上り詰めた人間というのは、こういうものなのだろうか。
「……言いたくないなら言わんでええんやけどな」
「はい?」
しばらくの沈黙の後、唐突に切り出され、俺は首を傾げた。
はやてさんは
「あの子らにとっては当たり前すぎて、気づかんかったみたいやけど……君の司書資格の名前、ファザーやったな」
流石に、この歳で二佐になってる人は目のつけどころが違うな。
「まぁ、本名ですから。教徒として洗礼を受けて、名前貰ってるんで。この名前にしてくれって申告したやつですけどね」
「元の名前はどうしたん?」
「……熱心な教徒は、それまでの名前を捨てて、教徒としてもらった名前を本名にするんですよ」
「なら当てはまらんなぁ……」
はやてさんの声には、からかうような響きがあった。
けれど、笑顔のままこちらをじっくり観察している。
「知りたいですか?」
「素直に教えてくれるん?」
「俺の嫁さんになってくれれば」
「ふぅん?」
はやてさんは少しだけ目を細めた。
「そのくらい親密になって、ようやく明かせる内容ってわけやな」
「……はやてさんだって、闇の書のことを根掘り葉掘り聞かれるのは嫌でしょ?」
その言葉に、彼女の笑顔がほんの少しだけ変わった。
「……せやねぇ」
それ以上、はやてさんは何も言わなかった。
俺も、あえて続けることはしなかった。
誰にだって、他人に踏み込まれたくない過去くらいある。
それを知ろうとすること自体が悪いわけじゃない。けれど、知りたいと思うことと、本人が話したいと思えることは別だ。
俺が自分の過去を簡単には話さないように、はやてさんにも、俺の知らない事情がある。
だからこそ、無理に聞き出すつもりはなかった。
「ところで、葉掘りってどういうことなんですかね? 葉っぱが掘れるかよ、って思うんですけど」
「話の逸らしかた雑やなぁ」
うぐぅ……
「『根掘り』の語調に合わせて付け加えられただけで、意味はないらしいで?」
チィィィイ! 隙がない。
どうにか話題を逸らそうとしたつもりだったのに!
俺は両手を顔の横に上げた。
降参だ。
「……肉親はもういないんで。心機一転、新しい自分でってことで変えたんですよ。そんだけです」
「まあ、ええわ。そう言う事にしといたる」
「嘘は言っちゃいないんだけどなぁ……」
俺は小さく呟き、背もたれに体を預けた。
はやてさんは隣で、何も言わずに笑っていた。
この人、絶対にわかってて流したな。
「じゃあ、俺からも1つ。聞きたいというか、
「うん」
はやてさんが、こちらを向く。
俺は天井を見上げたまま、言葉を選んだ。
「『覇王の記憶を色濃く宿した子の誕生』『聖王女のクローンとゆりかごの出現』『冥王の目覚め』。これらの出来事が10年以内という、歴史的に見れば短い間で起きています。
どれか2つなら偶然で片付けてもいいんでしょうけどね。はやてさんは、どう思います?」
それぞれ、発生したきっかけも経緯も全てが違う。
とはいえ、古代ベルカの王たちに関する事がこうも連続で起きては、気にならないという方が難しい。
無関係だと決めつけるには、あまりにも出来すぎている感じがする。
意図的なのか、はたまた本当に偶然か。
はやてさんは、すぐには答えなかった。
先ほどまでの軽い笑みが消え、少しだけ真剣な表情になる。
「……そうやね」
彼女は顎に手を当て、ゆっくりと言葉を探し始めた。
「三つの出来事が起きた時期が近い。それ自体は事実や。でも、それだけで全部がつながっとるとははっきりとは言えへん」
管理局司令官として、俺をまっすぐ見て言った。
「それぞれの事件には、それぞれの事情がある。表面だけ見て、ひとまとめには出来へん」
はやてさんは一度言葉を切った。
「ただな……偶然やって切り捨てるのも危険やと思う」
聖王の血。
覇王の記憶。
ゆりかごの力。
冥王の能力。
それらを特別なものと考え、手に入れようとする人間が現れたなら、俺は——
「せやから、気にかけておくようにするわ。でも、「もしも」の事があったら私らの管轄やからな。君は無茶したらあかんで?」
はやてさんは、人差し指で俺をつついて釘を刺した。
俺の恩人で尊敬する人は、カッコよかった。
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無限書庫に到着した俺たち一行を出迎えたのは、整然と並ぶ受付カウンターと、その向こうに座る職員たちだった。
「いらっしゃいヴィヴィオ」
「こんにちは〜」
すでに顔馴染みのヴィヴィオちゃんが、先頭で受付の女性職員たちに声をかける。
「未整理区画の調査だよね? 一般人のお友達がいるって話しだったけど……」
受付嬢が端末を操作しながら確認する。
「えーと。一般人というか……インターミドル上位選手のみなさんです」
「わ!テレビで観た子がいるッ!」
「サインもらってもいいかな?」
カウンターの向こうが、にわかに騒がしくなった。
まあ、インターミドルの上位選手ともなれば、知名度もある。受付の職員たちが盛り上がるのも、無理はない。
「あと八神司令もいらっしゃいます」
「こんにちは〜」
「「お……お疲れ様ですっ!」」
先ほどまで黄色い声を上げていた職員たちが、今度は一斉に背筋を伸ばした。
はやてさんは、あのぽわぽわした笑顔で応じる。
笑顔は柔らかい。声も穏やか。
だが、その肩書きが持つ威力は絶大だった
——よし、今だ。
その隙に、そっと集団から離れた。
受付の脇を抜け、そのままゲートへ向かう。
誰にも気づかれずに通過できれば上出来だ。
足音を殺し、何食わぬ顔で歩を進めた。
「——ファザー神父?」
背後から、よく通る声がした。
足が止まる。
ゆっくり振り返ると、受付嬢が二人、にこやかな笑顔でこちらを見ていた。
「どちらへ行かれるんですか?」
「いやぁ、先に中へ入っておこうかと」
「そうですか。それはちょうどよかったです」
片方の職員が、カウンターの下から箱を取り出し、ことん、と机の上に置く。
「では、こちらに入れてください」
「……何を?」
「お持ちのものです」
「いや、特に何も持っていませんが」
「火気厳禁です」
もう一人の職員が、笑顔のまま告げた。
俺は数秒、無言で彼女たちを見つめ、諦めた。
どうやらしらばっくれても無駄の様だ。
「……はい」
観念し、懐から煙草の箱とライターを取り出し、惜しむように眺めてから、箱の中へそっと置いた。
かつん。
小さな音が、妙に重く響いた。
その隣で、もう一人の受付嬢がすかさず口を開いた。
「それから、飲食厳禁です」
「うぐっ!」
「飲食物も、こちらへお願いします」
煙草だけではない。
そちらも把握されているというのか。
懐の奥から、小型の酒瓶を取り出した。
まるで大切な友人を戦地へ送り出すかのように、酒瓶を大事に箱へ収める。
受付嬢たちは満足そうにうなずいた。
「では、予備も出してください」
「司書長から、隠してある物も必ず確認するようにと言われています」
「…………」
天井を仰いだ。
逃げ道はない。
相手は無限書庫の職員であり、しかも司書長直々の指示を受けている。
ここで無理に押し通ろうとすれば、入館そのものに支障が出かねない。
何より、相手は職務に忠実なだけだ。
彼女たちに非はない。
俺は、服の内側に隠していた煙草とライターを取り出し、箱へ収めた。
煙草。
ライター。
予備の煙草。
予備のライター。
そして、小型の酒瓶。
箱の中に並んだそれらを見つめると、胸の奥に言葉にしがたい喪失感が広がっていく。
『主人殿、表情が抜け落ちていますよ。まるで、長年連れ添った戦友たちを一度に失った男のようです。某がいるではないですか』
「お前じゃ代わりにならん」
『某があんな物以下だというのですか!』
「あんなものとは何だ! 俺の大切な相棒たちだぞ!」
『相棒は某でしょう!』
「はい。これで大丈夫ですね」
不毛な争いを続ける俺たちの横で、受付嬢の一人が満面の笑みを浮かべた。
「それでは、いってらっしゃいませ!」
「……いってきます」
俺は、うつむいたまま答えた。
こうして、無限書庫へ入る前に、心の支えを一式没収されたのだった。
「……俺は今、人生の大切な一部を失った」
ゲートへ向かう途中、深い喪失感を抱えたまま呟いた。
「ファザーさん、そんなに落ち込まなくても……」
ヴィヴィオちゃんが困ったように慰めてくれる。
優しい子だ。
こんなときでも俺を気遣ってくれるとは。
「せやで。帰りには戻ってくるんやろ?」
ジークも、どこか呆れた様子で言った。
「そういう問題ではない。これは心の問題だ」
「煙草とお酒を預けただけですよね?」
アインハルトちゃんが冷静に指摘する。
「持っているのといないのでは、心の持ち様が違うのだ」
「……そうですか」
アインハルトちゃんは、それ以上何も言わなかった。
その沈黙が、逆に心に刺さる。
怒られるよりも、呆れられるよりも、何も言われないことのほうが堪える場合もあるのだ。
普段から面倒を見ている年下の子にそういう反応をされると、なおさらである。
「ところで、ファザーさんは、スクライア司書長のことをご存じなんですか?」
ヴィヴィオちゃんが、話題を変えるように尋ねてきた。
「以前大目玉を喰らった」
「何したんですか⁉︎」
「いや、普通に本を読んでたんだけど……無意識のうちにタバコを咥えていたらしい」
「ファザーさん……」
ヴィヴィオちゃんの声に、なんとも言えない響きが混じった。
「火はつけてないぞ! 集中していて、口元が寂しくなってつい無意識で咥えてたんだ。それをたまたまスクライア司書長に見つかってな……」
「怒られたって訳ですか」
「あれ以来、入館審査が厳しくなった」
「なら毎度のことでは?」
「だから毎回こんな感じだ」
ジークが、呆れたようにため息をついた。
「毎回注意されるって分かっとるんやったら、最初から持ってこんかったらええんとちゃう?」
「それとこれとは話が別だ」
「何が別なんですか……」
アインハルトちゃんの声は、先ほどよりも少しだけ低くなっていた。
いけない。
このままでは、俺の尊厳が危うい。
「君たちも酒やタバコを嗜むようになればわかるさ」
「「「絶対やりません」」」
見事な三重奏だ。
そんなにも俺の趣味を否定しなくてもいいじゃないか。
『三人とも、実に健全な判断をなさっていますね。主人殿もその考え方を見習うべきかと』
タクティカリバー!
このッ…裏切りもんがあぁああ!
俺はいっそう落ち込むのだった。
————————————————————————
「では、こちらのゲートから入ります!」
ゲート……巨大な転送装置の前へつくと、ヴィヴィオちゃんが内部の注意点を話しだした。
書庫の中は無重力であり気分が悪くなる人もいる。そうなったらすぐに伝えるようにと。
みんなが手を挙げ、元気に了解の返事をする。
「それでは古代ベルカ区画に……ゲート・オープン!」
ヴィヴィオちゃんが端末で座標を入力すると、俺たちは無限書庫内の目的の区画に転送された。
書庫内は無重力空間である。
そのため、皆、転移と同時にふわりと宙へ舞い上がった。
「わわわっ!」
「あっと……! 大丈夫ですか?」
「す、すみません」
転移して早々、ミウラちゃんがバランスを崩し、近くにいたヴィヴィオちゃんがすかさずそれを支えた。
「わはは、どーした抜剣娘! 体幹バランスがなってねーぞ!」
「リーダーも割とヤバい感じッス!」
そう笑いながら、ハリーちゃんは宙返りを繰り返している。ゲッタン状態だ。
「普段飛びなれてない子は、無重力はちょうキツいかなー?」
「ですわね」
はやてさんの言葉にヴィクターが同意する。
「えーと……他に慣れてない方は……」
「オレぁ大丈夫だ。すぐに慣れんだろ」
ハリーちゃんは、相変わらず宙を回りながら答える。
「ウチも……あれれ……っ⁉︎」
思うように身体を制御できず、宙でふらついたジークを、アインハルトちゃんがしっかりと支えた。
「おーきに」
「いえ……」
ジークの素直な感謝に、アインハルトちゃんは照れていた。
この中でもジーク、ハリーちゃん、ミウラちゃんは、この空間での身体の動かしかたに慣れないらしく、かなりふらついてあちらこちらで姿勢を崩し、周囲の仲間に助けられている。
俺?
先程のショックが抜けず、無重力に任せてぷかぷか上下に浮いているよ。
もちろん無重力への適応に問題があるわけではない。
ただ、心にぽっかりと穴が空いているだけだ。
煙草……酒……
今頃、あいつらは受付の箱の中で、寂しい思いをしているに違いない。
『主人殿。そろそろ現実に戻ってきてはいかがですか』
「着くまでもうちょいこのままでいさせてくれ」
『着くまでですよ?』
「やっぱ身につけていないと落ち着かないんだよ」
『それは依存というものではありませんか』
否定できん。
こいつは正論を言ってくるから、俺はうるさいと感じるのだ。
「では、目的のエリアに向かいま〜す!」
ヴィヴィオちゃんの声を合図に、皆がそれに続く。
俺も、最後尾からそれを追った。
————————————————————————
「このあたりが諸王時代のベルカ棚になりま〜す」
ヴィヴィオちゃんが楽しそうに解説している。
相変わらず最後尾をぷかぷかとついて回る俺には、実にありがたい光景が広がっていた。
ほら、スカートはいてる娘も多いし……わかるだろ?
「ファザー、止めて!」
鋭い声と共に、ジークがこちらへ向かって飛んできた。
「おっと」
反射的に、まだ無重力に慣れていない彼女の身体を抱き止めた。
「どうしたよ?」
「あんたがいつまでも落ち込んどるからやろ。いい加減気合い入れぇな」
「わかったわかった」
腕の中の彼女に、俺は適当に返事をする。
「……で?」
ジークが、じっと俺を見上げていた。
「何だ?」
「さっきから、どこ見とるん?」
「どこって、そりゃあ……桃源郷?」
ジークの目が、すうっと細くなった。
「へぇ……ちなみにどんな景色なんや?」
「白、ピンク、縞々、水玉、縞々、紐、黒のレースだと?」
「なにスカートの中覗いとんねん!!」
ジークのその言葉に、前を行く娘たちが一斉にスカートを押さえた。
そして、瞬時にジークの関節技が決まった。
こういう時だけ俊敏に動きやがってぇぇぇ!
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ! 関節はそっちには曲がらないよぉぉぉ!!」
「この変態神父!!」
「変態じゃない! 仮に変態だっだとしても、変態という名の紳士だ!!」
「そんなもんがあるかぁぁぁ!!」
コキッ⭐︎
周囲から向けられる視線が痛い。
腕も痛いのだが、それ以上に社会的な信用が削られた事が痛む。
俺は解放された腕をさすりながら、周囲の視線からそっと目を逸らした。
「もうあんた先頭行きぃ!」
ジークに睨まれ、俺は渋々うなずいた。
「……わかったよ」
俺はジークを抱えて、先頭まで最高速度でブチ抜いた。
「きゃっ!」
「わわっ!」
「ちょっ! 早い、早いて!!」
高速で動いたことで突風が起きスカートが翻っているが、これはジークに言われたことなのでしょうがない。
「ほら」
そして先頭に出た後、ジークをアインハルトちゃんへリリースした。
「女の子を雑に扱ったらあかん!」
「俺にくっついていたかったのか?」
「そ……そんなわけないやろ……アホ」
「そうかい……行くぜ、目的地はこっちだ」
赤くなったジークを尻目に。ヴィヴィオちゃんに代わりみんなを先導する。
ジークのせいで、眠気も落ち込んだ気分も吹き飛んでしまったぜ、全く。
「ーーーーあれです!」
そうして辿り着いたのは巨大な扉の前。
「ここが今回の目的の場所!」
「B009254G未整理区画……どこかの王家が所蔵してた書物庫らしいですよ」
「本だけじゃなくて、書物庫ごとおさまってるんですね」
コロナちゃんとリオちゃんが、目的地の説明する。
「それじゃあ扉を開きますね!」
ヴィヴィオちゃんが魔法陣を展開し、扉を開ける魔法をかける。
ゴゴゴゴ……! と凄まじい音がして、扉が開いた。
その先には、複雑に入り組んだ迷宮のような空間が広がっている。
「目的の本がありそうな場所はとりあえず10箇所まで絞り込みました」
「手分けして探しませんか?」
コロナちゃんがマップを出して位置を示し、リオちゃんがそう提案した。
候補地を絞り込んでいたのか。
事前に対象となる資料がありそうな場所を特定したのだろう。確かに無限書庫のような場所で、手当たり次第に棚を探していたら、いくら時間があっても足りない。
「ちょっとまて」
俺は手を伸ばしてそのマップの情報に手を加えていく。
「この箇所の中で、俺が探したことのある棚を塗りつぶしておいた。二度手間にならん様にな」
「わぁ……こんなに」
「これなら本当に見つかるかもしれませんね!」
何度も何度も足を運んでこれだけなんだ。あんまり期待しない方がいいぞ?
そう口にしかけて、やめた。
楽しそうに嬉しそうにはしゃぐ初等部3人組。
本当に宝探しの感覚なんだな……
知らない資料を見つけること。
まだ誰も読んでいないかもしれない記録に出会うこと。
そこに残された文字から、遠い昔の人々の暮らしや思いを想像すること。
そういう楽しさを、彼女たちは素直に味わっている
俺がすっかり見慣れてしまった景色の中に、彼女たちは新しい発見を見つけることが出来る。
眩しい、廃れた俺にはあまりにも眩しすぎる。
「中で迷わないように、皆さん、デバイスに入口の位置と通信コードを記録しておいてください」
ヴィヴィオちゃんの案内に従い、皆がそれぞれ記録を済ませていく。
複雑な区画で迷子になれば、探すだけでもひと苦労だ。
こうした準備を怠らないのは大切なことである。
「ま、もしもの時は私たちが助けに行くからなー」
「何かあったらすくに呼ぶ様にな」
はやてさんとノーヴェちゃんは入り口に残り、様子を見守るらしい。
「じゃあ俺も……」
「あんたはこっちや」
「私たちの組だけ検索魔法を使える人が居ないんです。居てくれないと困ります」
ジークとアインハルトちゃんに捕まった。
この中で検索魔法を使えるのはヴィヴィオちゃん、リオちゃん、コロナちゃん、エルスちゃん。
それぞれ、ミウラちゃん、ミカヤちゃん、ヴィクター、ハリーちゃんとペアを組んでいる。
だからこの2人のペアは、このままでは一つ一つ手作業で探さなければならない。
……無限書庫でそんなやり方してたら、一生かかっても見つけられんぞ。
最初からそれを見越していたのか、それとも単に俺を逃がさないつもりなのか。
……両方か。
「わかったわかった」
2人の頭を撫でながら了承する。
協力するって言ったしな。
「さー! それでは調査に入りましょうっ!」
「「「おーーー!」」」
元気な声が、未整理区画の入口に響き渡る。
こうして、無限書庫探索が始まった。
エルス、コロナ、ミウラ、ハリー、ヴィヴィオ、アインハルト、ヴィクターの順番です。
よく見たら9巻と10巻でミウラとハリーのが違ってました。アインハルトのもかな?
見つからなかったんですかね?
じゃあ、ずっとどこかに浮いたままって事?
探せ! この世の(ry