山あり谷あり敵襲あり、例え水の中、森の中、なかなかどころでは無い大変な旅路の末、ようやくジークの保護者代わりの住んでる屋敷へやって来た。
——いやおかしくね?
なんで長編RPGみたいな大冒険してんだよ。旅の途中にこいつのトレーニングに付き合ってたら、魔王でも倒しに行くのかってほど過酷な道のりだったわ。そりゃチャンピオンにもなるわ。
「で、ここが旅の終わりか…でけー屋敷だな」
ここで別れても良かったんだが、ジークがお礼したいと言うのでありがたく招待を受けることにする。
旅路の宿泊代と食事代は全部俺(カリム)持ちだし、もてなしてもらうくらいバチは当たらないだろう。
まぁ、聖王様がが「バチを与えに来ました」とか言って出てきたら、ぶん殴って説教して追い返すけどな。
え?いつの間にか呼び方がジークになってる?
長いし面倒だから短く呼ばせろって言ったら、本人から「ジークでええで」と言ってきたんだよ。
だからジークだ。
「ヴィクター貴族やから」
「誰だよ。名前言われてもわかんねーよ」
どうやらそのヴィクターというのがジークの保護者代わりらしい。
名前からして女だよな。
貴族のお嬢様か…ふへっ。
「なにニヤニヤしとるん?」
まだ見ぬお嬢様に想いと期待を馳せていると、ジークがムスッとした声で聞いてくる。
俺が他の女性に気を取られるのが気に入らないとでもいうのか?
飯を食わせていただけなのにここまで懐くなんて、チョロすぎて神父さん心配。
「もうちょっと危機感を持ちなさいよ」
「なんや唐突に?ほな呼ぶで」
ジークが屋敷のインターフォンを鳴らすと、若い執事が出て二言三言交わすと奥へ引っ込み、女性に変わった。この娘がヴィクターというお嬢様だろうか。
……若いな、俺やジークとそう歳が変わらないように見える。
「ヴィクター、きたでー」
「ジーク、いらっしゃい。…そちらの殿方は?」
「ヴィクターに紹介しとこうと思って連れてきたんや」
「ちょっと待ってなさい!」
大慌てな様子でインターフォンを切ったお嬢様。屋敷の中からどったんバッタンすってんどーんとすごい音がして門が開いた。
中から現れたのは、先ほどの女性。ただし、先ほどとは姿がまるで違っていた。
斧と鎧という完全武装。
凛々しくも美しいその姿は、まるで物語に出てくる姫騎士そのものだった。
「へぇ、美人…『兜割!』なんじゃぁぁぁぁぁ!」
「ファザー!?」
雷を伴った手で頭部を掴まれ、俺は地面と熱烈なキスを交わした後、地面に叩きつけられた反動で跳ね上がり、そのまま後方へ吹っ飛んだ。
「ここらでお遊びはいい加減にしろってところを……ガクッ」
か、身体中が痛い。
指一本すら全くうごかねぇ。
嗚呼…川の向こうでご先祖様が楽しそうに手を振っている。
あはははは…ファックユー!死ね!死んでるか!
「ファザー!ファザー!嫌や!目ぇ開けてぇな!!」
「うぅ…ジーク?」
「ファザー!よかった、よかったよぉ」
ご先祖くたばれと気合いで目を開けると、大粒の涙を浮かべたジークがそこに。そのまま抱きついてくる。
おいよせ身体がズタボロなんだよそんな強く抱きつかれたら身体が痛い痛い痛い死ぬ洒落にならんまさかジークに殺されるとはもっと胸の豊満な子の感触を感じながらがよかったって抱きついてる力が強くなったぁぁぁぁ!
「ジーク…死ぬ…」
「邪な気配を感じたんや」
「あのお嬢様は……?」
「ガイった」
エレミアの真髄とかいうスーパーモードでの必殺技により、お嬢様も俺と同じ状態ひんしになったようた。
こうして2人の尊い犠牲により、俺たちの旅は終わりを迎え、エレミア(魔王)の脅威は一時的に封印されたのだった……
(死んでませんわ!)
(まだ続くぞ。)
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「まさかお礼はお礼でもお礼参りだったとはな。やってくれるじゃねーかジークよぉ」
自分で自分に回復魔法をかけて何とか動けるようになった俺は、人差し指でジークのデコをグリグリと虐める。
さすがに悪いと思ったのかジークはされるがままだ。
「ちゃうんや、いきなりヴィクターがこんな事するなんて思ってなかったんや」
「などと犯人は供述をしており」
「ごめんなさい……」
「はぁ、いいよ。直接やってくれたのはお前じゃないしな……で、なんで被害者の俺が加害者のこのお嬢様を治療しなくちゃならんのだ」
「お嬢様にはよく言って聞かせますので何卒」
イケメン執事、エドガーに頼み込まれ、仕方なく回復魔法をお嬢様にかける。
「治療箇所が見えなくて、よくわからんな……。着ているものを剥いで――」
「…………」
「冗談だ」
ジークとエドガーが無言でデバイスを構えた。
「というより、仕返しにちょっと悪戯してやりたいと思っただけだ! だからそのデバイスをしまってくれ!」
二人にこうも睨みつけられてしまってはかなわない。
……なんか損な役回りだなぁ。
「はっ!」
おー、起きた起きた。
しっかし美人だな。
「おうネーちゃん。いきなり襲ってくるとはいい度胸じゃのう」
「申し訳ありません…少し気が動転しておりました」
「ごめんで済んだらゆりかごはいらんと聖王様もおっしゃっとるで」
「ゆるして…いただけませんの?」
上目遣い。
潤んだ瞳。
「そんな上目遣いで、目を潤ませながら言われたってなぁ!」
俺は胸を張って言い切った。
「許すに決まってんだろ! 可愛いな、おい!」
美人の子が年相応の可愛さを見せてくるのってズルくね?
「む〜」
何故かジークがむくれているが無視だ無視。
「さて。このような出会いになってしまいましたが、改めて」
俺は姿勢を正し、神父らしい笑みを浮かべる。
「私の名はファザー。聖王教会で神父をしております。貴女のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか、麗しい方?」
「……」
ヴィクターは、じっと俺を見つめる。
やがて、どこか得意げに胸を張った。
「レディの扱いには慣れているようですわね。よいでしょう」
そして堂々と名乗りを上げた。
「私こそ、雷帝ダールグリュンの血を――ほんの少しだけ――受け継ぐ子孫、ヴィクトーリア・ダールグリュンですわ!」
「なんと!」
俺は目を輝かせる。
「雷帝様は聖王家とも交流があったと聞いております。どうです? どこか落ち着いて二人になれるところで、雷帝様のご子孫のみに伝わるエピソードなどをお伺いしたいのですが」
「あら……」
ヴィクトーリアが頬に手を当てる。
「情熱的なお誘いですこと。ですが、初対面の相手にしては些か急ぎすぎた発言ですわね。もう少し下心を隠しませんと、女性は離れていきましてよ……どうしたのジーク」
「これは手厳しい。しかしそれだけ貴方が魅力的だということですよ、レディ……どうしたジーク」
まるで変なものを見るかの様にこちらを見るジーク。
「ウチが知ってる2人とちゃう!」
おい失礼だな。こちとら神父ゾ?
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さて、ヴィクターの家に招待されて、ジークの好物であるというおでんをいただきながら酒を飲んだり、雷帝の家に伝わる宝物を見せてもらいながら吸うタバコは美味かったり、デカい家や庭を散策しながらダラダラしたりしながら過ごすこと一週間ほど経ったある日のこと。
「そろそろ帰れ」
と、ヴィクター宅を叩き出されてしまった。
一体なぜ?
「当たり前でしょう!」
でもまぁそろそろ教会に戻って報告あげとくか、面倒くさいけど。
「ウチもついていってええ?」
ダメに決まってんだろ。俺の聖域だぞ。
「なんでや〜。さてはエッチなものでもあるんやろ!」
「そりゃあ俺も男だし、そんな物は一つや二つ……十個くらいあらぁな」
「なっ///この不良変態クズ神父!」
「ジーク!こんな男の家になんて行ったら孕みますわよ!」
ひっでぇ言われよう……
「失礼な。男ならそのくらい普通だ。なぁエドガー!」
「ありませんし、こちらに振らないでください」
「つまり、オカズは生ヴィクターか……」
「なっ!?」
「まあ、一緒に生活してれば、ハプニングの一つや二つくらい――」
「エドガー!?」
「…………」
『ニコッ』っとエドガーが微笑む――暗黒微笑だ
「……」
「……」
無言の笑顔でデバイスを取り出すエドガーに、流石に身の危険を感じ、俺は逃げるように退散する。
「それじゃあな!また空腹で行き倒れんなよ浮浪児!それからそのドケチな保護者、俺の事忘れんなよ!」
「また会おうな!今度はこっちから遊びに行くで、不良神父!」
「忘れたくても忘れられませんわ。貴方のようなふざけた神父は…お元気で」
俺は振り返って叫んだ。
ジークは手を振っていた。
ヴィクターは、ほんの少しだけ笑っていた。
こうして俺とジークの旅は、終わりを迎えた。
……まあ。
この時の俺は、まさかこの後すぐに、また会うことになるとは知る由もなかったのだが。