「そして私は帰ってきた!!」
……とは言ったものの、すっかり遅くなっちまった。
教会への顔出しは明日でいいか。
まずは我が家――俺にとっての聖域へ帰るとしよう。
酒とつまみを買って……煙草も今の箱が最後だったな。
そんな事を考えながら歩いていると、何か巨大なものを踏んだ。
「oh、シザース。チョキチョキ。デジャヴか?」
足元には再び巨大G……ではなくボロボロの緑髪のようI"ょがいた。
「おーい、死んでんの?お祈りくらいしてやろうか?」
げしげしと足先でつつきながら、改めて観察する。
……うわ。
これ、St.ヒルデ中等部の制服じゃねぇか。
聖王教会が運営する学校だ。
こんなところに生徒を放置したなんて知られたら、カリムやシャッハに何を言われるかわからん。
仕方ない、もう少しだけ様子を見るか。
ーーーーガシッ
「……なんだ生きてるじゃんか」
つついてる足を強めに捕まれた。
「しゃーない救急車呼んでやるか……ってイデデデデ!」
まるで「病院だけは勘弁してくれ」とでも言うように、脚を握る手の力がどんどん強くなる。
どこにこんな力があるんだ、このロリ!
「おい離せ! 痛い痛い! 足の関節が増えちゃうでしょ!」
「……ぅ…………」
「無意識かよ!」
どうやら本人にその気はないらしい。
「わかったから! 呼ばないから! 俺が手当てしてやるから離して!!」
「…………ぅ……」
ようやく脚を握っていた手が離れる。
……こいつもしかして起きてるんじゃないだろうな?
「仕方ねー。家に救急セットあったよな」
ロリを背負って家路につく。
ここで魔法を使って応急処置することはできる。だが、目が覚めるまでこんなところで待っているには、さすがにちと寒い。
だからといって放置すれば、今度こそカリムやシャッハに怒られる。
ジークの時といい……俺、女難の層でも出てんのかな。
————————————————————————
「うぅ……ここは……?」
「知らない天井とか言ったらブッ飛ばすぞ」
今から回想に入られちゃかなわん。
「貴方は……?」
「あー、待て待て。目ぇ覚めたんならもう良いよな?吸うぞ」
確認を取る前に煙草を一本取り出し咥える。
流石に怪我して気絶してる未成年の横で吸うというのはどうかと思い、ずっと我慢してたからもう限界よ。
「どうぞ……」
返事が終わる前に火をつける。
ふー。ようやく落ち着いた。
「とりあえず誘拐とかじゃ無いからな。ちゃんと治療してあるだろ? 救急呼ばれたく無いみたいだったから俺が手当しただけさ」
換気扇へ向かって煙を吐き出しながら改めてロリッ娘を見る。
十分整った顔立ち。
青と紫のオッドアイ。
そして銀碧の髪。
「えっと……助けていただいたんですよね、申し訳ありませんでした。私はアインハルト・ストラトスと申します。それで……貴方は?」
さらに『ストラトス』ねぇ……
「ファザーだ」
「神父さんというのは服装でなんとなくわかりますが……」
「ファーザー(神父)のファザーだ。言葉に出す分には変わらんからファザーで良い」
「はぁ……ではファザーさんと。このご恩は忘れません」
「忘れて良いよ、俺が上に怒られるから助けただけだから。それより、もう遅いけどどうする? まだ体調も万全じゃ無いだろ。泊まって行くか?」
外はすっかり暗くなってだいぶ経つ。もう中等部の生徒が出歩く様な時間じゃない。
「いえ、そこまでご迷惑をお掛けするわけには……ううっ……」
まだ痛みが残っているのだろう。立ち上がろうとして、ストラトスは苦痛に顔を歪めた。
治療魔法ってのは、所詮は自然治癒の延長でしかない。
傷を治すことはできても、失った体力まで一瞬で戻せるわけじゃないし、後遺症が消えるわけでも無い。
「……まぁ、痛みが無くなるまでゆっくりしていけ。メシは食えるか?固形物が無理なら粥にするが」
「そこまでして頂くわけには……」
「お前さんの看病してて俺もまだ食ってないんだよ。一人分作るのも二人分作るのも同じだから食ってけ」
迷惑をかけたくないという彼女の意見を組みつつ、長居させる理由を作る。
出来る神父は辛いねー。
「何から何まで……申し訳ございません」
……まったくこのガキは、謝ってばっかでしょうがない奴だ。
「違うだろ? お前さんまだガキなんだから人の好意に甘えたって良いんだよ。こういう時はごめんじゃなくて?」
「えと……ありがとう……ございます。その……お粥で……」
「100点だ」
グシャっと頭を撫でて、そのまま台所へ向かう。
まーた迷える子羊を導いてしまったか。
見ろよ、うっすらだが頬を染めて笑みを浮かべてやがる、これで少しは人に甘える事を覚えた事だろう。
さすが俺、聖王よりもよっぽど人を救ってるぜ。
…….帰ってきたばっかで米と缶詰しか無かったわ。
やっベーな、焼き飯でも良いか聞くか?
いや、具を細かく切ってタレで味付けした粥に『ピンポーン!』
……なんだよこんな時間に、無視だ無視
とりあえずコレとコレと……米だ『ピンポーン』
再びチャイムがなる。しつこいな!
「あの、お客様みたいですけど出なくて良いんですか?」
「こんな時間に来るやつなんてろくな奴じゃないんだ、無視無視」
『おかしいな、電気付いてるし換気扇回ってるからいると思うんだけど……しょうがない、あとで弁償するからぶっ壊して……』
待て待て待て!
なんちゅう乱暴な奴だよ!
「本当にろくな奴じゃ無いっぽいな……追い返すから静かにしててくれ」
玄関に移動し、ドア越しに対応する。
「どちらさま?」
『すみませーん、管理局ですけどー!』
「ふぁっ!!」
え、管理局⁉︎ 管理局なんで⁉︎
ヤバイヤバイヤバイ!
今のこの状況……客観的に見れば女児誘拐、不純異性交友⁉︎
もしかしてストラトスを背負って家に入ったのを誰かに通報されたのか⁉︎
『開けてもらって良いですかー?』
「風呂入ろうとしてたとこで裸なんで少し待ってもらって良いですか?」
『はーい!』
とりあえず出ないと余計怪しまれる!
しっかりチェーンをかけて、ストラトスと口を合わせないと!
「おいストラトス、なんか知らんが管理局が来てる。なるべく玄関で追い返すように努力するが、もし入ってきたら俺の妹って設定で口を合わせろ」
「は、はい……に、兄さん……」
……照れとる、かわいい。
とりあえずそれでいこう。
よし、ドアを開けるぞ。
「なんですかこんな時間に……非常識ですよ」
悪い事なんて何もして無い風に、いかにも迷惑そうに応対する。
「遅くにすみません。私、時空管理局のスバル・ナカジマと言います。」
「パイオツカイデー」
「ぱ、パイ……?」
「気にしないでくださいただの奇声です。それで何のようです?」
「人を探してまして、銀碧の髪でオッドアイの女の子なんですけど。みてませんか?」
「見てないですね」
俺じゃ無くてストラトスかよ!
厄介な子を拾っちまったなぁちくしょう!
急いでチェーン分開いたドアを閉めようとするも、ドアが全く動かない。なんだこの力、本当に女かよ!
「おかしいですね、発信機の反応はここで間違いないんですけどね。ホラ」
発信機⁉︎
そんなもん付けられてたんか⁉︎
何やらかしたんだよストラトス。とんだ爆弾じゃねぇか!
「しーりーまーせーんー。帰ってください、警察呼びますよ」
「私が俗に言う警察ですよ」
うっさいわ!
犯人隠匿罪とか洒落にならん‼︎
「ふぬぬぬぬぬぬ!」
「……………えいっ」
「おわっ!」
パイオツネーちゃんがドアを少し強く引っ張るとチェーンは簡単に引きちぎれ、俺はそのまま外へ投げ出される。そして地面に顔面から激突。
「ぐえっ」
……なんか最近も同じようなことがあったなぁ。
「おじゃましまーす!」
「いててて……まったく乱暴な奴だ」
顔に治療魔法をかけながら起き上がると、目の前にオレンジ色のロングヘアーにキリッとした目つきの美人がいた。
「大丈夫ですか? うちのバカがすみませんでした」
「見っともないところを見られてしまいましたね」
俺は立ち上がり、礼儀正しく頭を下げる。
「私はファザー。貴女のお名前をお聞かせ願えますか? 美しい方」
「ふぁっ⁉︎……こほんっ」
一瞬、顔を赤くした後、美人は咳払いした。
「わたしは時空管理局執務官のティアナ・ランスターと言います。実は暴力事件の被疑者を探していまして」
暴力事件⁉︎ ストラトス何やってんの⁉︎
訳ありだとは思ってたけど、あんな大人しそうななりで不良だったんかい。
道で絡んできた奴を絞めたとかそういう感じ?
とんでもない娘を拾っちまったなぁ……
「あっ、ティア来てたんだー。いたよー!」
「こらバカスバル! この人怪我してるじゃない!」
パイオツネーちゃんがストラトスを連れて出てくると、親しげに美人さんと話す。
そして美人さんもさっきとは打って変わった言葉遣いになった。気の知れた仲のようだ。
「それで、その子で間違いないの?」
「うん、おっきくなってたのは変身魔法だって」
「そう……暴力事件を起こしたのは彼女で間違いないようです。それで、貴方と彼女の関係は?」
おいおいおいおい!
仲間なんかに認定されるなんてまっぴらだぜ。
ストラトスには悪いが——
「なんも関係ないで『妹です!』……おっふ」
2人から何その目怖っ! と言う顔で見られた。
あー……。
そっかー。
そうだよなー。
そういう設定だったよなぁ……
これに関しては俺のせいだわ。
こうして俺は、初めて管理局にお世話になることになった。
……まじで初めてだからな!
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「出せー、これは不当な監禁だー」
「だからね、君がどうしてあの子を連れ帰ったのか教えて欲しいんだ」
「べーんーごーしーをーよーべー」
管理局の取調室に連れてこられ、パイオツネーちゃんに事情聴取を受ける事になった俺。
ちなみに隣ではストラトスが美人さんに取調を受けている、変わってくれ。
「こちとら聖王教会の神父ゾ。教会を敵に回す事になるゾ」
「それも騎士カリムに確認取ってる所だから」
「治療してやっただけだって。俺は悪くねえ!」
「うんうん、そうみたいだね。」
パイオツねーちゃんがニコニコしながら続ける。
「それで、兄さんって呼ばれてるのはなんでなのかな?」
「………………」
「どうしてそこで黙っちゃうのかな〜」
ここで管理局をやり過ごす為って言ったら、やましい事をする為にストラトスを連れ込んだと誤解されてしまう。
しかし黙ったままでは俺も事件の仲間なのかと疑われてしまう。
これ詰んでね?
どどどどど、どーすんの?
どーーすんの??
①天才神父ファザーは状況を打破せよ!する案を思いつく。
②仲間が来て助けてくれる。
③助からない。現実はいつだってこんなはずじゃなかった事ばっかりだよ。
⑨アタイったら最強ね!
「………」
「お姉さんに話して欲しいな、力になるよ?」
答え……③「騎士カリム、ご到着されました!」……②
勢いよく開いたドアから現れたのは我らが聖王協会トップのカリム・グラシア。一応管理局准将という肩書きも持ってるぞ。
勝った!パイオツネーちゃん、完!!
「何やってんだファザァァァァァァ!!」
「再会5秒でシャイニングウィザー……ぐえっ!」
座ったまま顔面に膝をめり込まされた俺はそのまま椅子から転がり落ち、馬乗りになったカリムに胸ぐらを掴まれて上半身だけ引き起こされた。
「貴方という人は!!! 女性に相手にされないからって中等部の子に手を出すなんて恥を知りなさい!!!」
「手は出してないって……へぶっ!!」
「言い訳するな!!!」
「落ち着いてください騎手カリム!」
訳を話す前に平手打ちをくらう俺。
なおビンタしてくるカリム。
それを何とか止めようとするナカジマ局員。
この場は完全な混沌に包まれた。
——————————————————————
「……で、俺がここにいるって訳」
「なるほど〜。それだったら正直に言って欲しかったですね」
「ハァ……貴方という人はまったく……」
ぐっ……。
保身に走った結果がこれか。
「とりあえず女児誘拐未遂の件はわかりました」
「やっと解放される……」
「でも勝手に旅に出た件と私のカードを持って行った件があるのでしばらく留置所で頭を冷やしてください」
「ゔぇ……で、でもちゃんと信者は増やしてきたぞ!」
「そこはちゃんとやるんですよね貴方は、ハァ……」
「えっと、あとはご身内同士でお話しして頂いて、この件はひとまず大丈夫です」
やっっっっと解放される。
長く辛い戦いだった……
さて。
「で、あの子覇王の関係者だろ? なんであんなとこで倒れてたんだ?」
「覇王⁉︎ 事実なのですか、スバルさん!」
「え、ええ。確認は取れていませんが、本人が言うには子孫だと。なんでも覇王の強さを証明するために強い武闘家に勝負を挑んでいたとか」
覇王・インクヴァルト。
我らが聖王さま(笑)と同時代に生きたの王であり、交流も深かったという。
そのあだ名の通り、凄まじい力でいくつもの国を蹂躙して回ったらしい。
ま、俺に言わせりゃ、ただの殺人鬼だ。
「ストリートファイターだったのか。で、返り討ちにあって倒れてたってわけ?」
「正確には引き分けというか、痛み分けといった感じですが……そこに君が通りかかった訳だね」
「ほーん」
「ほーん、ではありませんよ」
カリムが呆れたように言う。
「聖王教会にとって無関係とは言えませんし。スバルさん、その子とお話しさせてもらいたいのですが」
「では、聴取が終わりましたら……」
「いや、今日はもう遅いから明日にしろよ」
俺は口を挟む。
「あの子まだ中等部だろ? もう日が変わっちゃうぜ」
「ではファザー。彼女につないでおいてくださいね」
えっ、俺⁉︎
「やれ」
「はい」
即答だった。
——————————————————————
と、言うわけで翌日。
約束を取り付けたアインハルトちゃんを、相棒(バイク)にまたがり学校で出待ちをしていると、しばらくして目的の推しの子が現れた。
「そこの愛らしいお嬢ちゃん、これからドライブでもどうだい?」
「ご機嫌ようファザーさん。その、学園で待つのはちょっと……変に目立ってしまいますし」
アインハルトちゃんは少し困ったように微笑む。
周りを見ると、同じく下校する生徒がこちらをチラチラと見ていた。
……なんか『あのストラトスさんがあんなチンピラみたいのと』とか聞こえてくるんだが。そこのガキ共ぶっ飛ばしていいかな?
「なんだよ。表の顔は優等生なのか?」
俺はニヤリと笑う。
「裏ではストファイで相手をしばき回ってたってのに」
「そ、それはご内密に……」
恥ずかしくて赤くなっとる。
かわいい。
「まあいいや。教会でカリムたちが待ってる。乗ってくれ」
「他にもいらっしゃるのですか?」
「なんかいっぱい来てるらしい。みんな、お前さんの話が聞きたいんだと」
俺はエンジンをかける。
「いい大人が寄ってたかって中学生を問い詰めるような形はやめた方がいいとは言ったんだがなぁ……」
「いえ。こちらにも非がありますし、きちんと説明させていただきます」
……なんだよ、素直ないい子じゃん。
でもストリートファイターなんだよな。
「お前さんいい子なのか悪い子なのかわかんないな……」
「神父なのにやりたい放題な貴方の方がわからないのですが……」
「おいおい、見てわからんかね」
当然悪い人だよ!
————————————————————
「到着だ!」
「ひどい運転でした……もう勘弁して欲しいです」
ああ、懐かしの我が職場、働きたくない。
でも金は欲しい。
教会の敷地へ入ると、早速声をかけられた。
「なんじゃ、帰って来たのか悪ガキ」
「生きてたかシローのジジイ」
「お前より先には死なんわ!」
「ならまだまだ大丈夫そうだな!」
「おかえりなさいファザー」
「アイナの婆さん、体調、良くないのか? 見てもらったかい?」
「病院は嫌いでねぇ」
「付き添うからちゃんと行こうな」
それからも何人かと挨拶を交わしながら進んでいく。
「人気なんですね」
アインハルトちゃんが感心したように言う。
「これも俺の人徳が成せる技よ……っと!」
その場で急にしゃがみ込むと、頭の上でビュンという凄まじい風切音がした。
「なんで⁉︎」
「感」
俺の頭をトンファーでかち割ろうとしたこのクソガキは、シスター見習いのシャンテ。
動揺して透明化が解除されて急に空中に現れたそいつをつかむ、そして。
「筋肉バスター」
「クゲッ!」
見事な空中殺法が決まり、のびたシャンテを地面に放り投げる。
「しまえ、汚ねえケツを」
「ふぎゃ!」
倒れて突き出すかたちになったケツを蹴っ飛ばす。
見事、悪は退治された。
「……何をしているんですか、貴方は」
アインハルトちゃんが呆れたように呟く。
「神の御業だ」
「絶対に違います」
「じゃあ聖王のだ」
「あり得ません」
即答された。
長く感じた今回の旅は、こうしていつも通りの日常へと戻っていくのだった。