アインハルトちゃんとヴィヴィオちゃんの手合わせの後、アインハルトちゃんを家に送る前に、俺とアインハルトちゃん、ランスターさん、スバルちゃん、ノーヴェちゃんの5人で、近くの点心屋で食事をする事になった。
俺以外、全員女の子。
なんという素晴らしい状況だろう。
今日のツケはこれで精算された。
「ランスターさんと食事ができるなんて、夢のようだ」
「『みんな』で食事です」
「よしお前ら帰れ、お疲れ様でした」
「なら私も帰りますよ」
ランスターさんが呆れた顔をする。
「何帰ろうとしてんだ、食事はみんなで楽しくとったほうが美味しいに決まってるだろ」
「コイツ本当に……」
ノーヴェちゃんが頭を抱える。
「ファザー、ブレないねー」
スバルちゃんが楽しそうに笑った。
「そんなだから避けられてしまうのですよ?」
アインハルトちゃんまで真顔で追い打ちをかけてくる。
辛辣ー!
なんでこの子たちは俺にだけ厳しいんだ。
……まあ、原因はだいたい俺なんだけど。
「ご注文は以上でよろしいですか?」
注文をとりに来た店員が確認する。
「酒……」
「管理局員の前で飲酒運転とは良い度胸ですね」
ランスターさんが即座に遮った。
「とてもつらい」
「懲りねーなお前」
「飲みすぎては体に毒ですよ?」
ノーヴェちゃんがさらに呆れ、アインハルトちゃんが心配そうに言う。
「中学生に言われてるよ、いいの?」
そしてスバルちゃんが笑いながら指摘した。
「…………」
昨日も同じようなことがあった気がする……
食事が運ばれ、他愛もない話をしながら少し食べ進んだところで、デバイスを操作する。
ここは個室なので、外との通信もできる。
「ちょっとカリムに報告する、いいか?」
「いいよー」
「変なとこで真面目だなお前」
「俺はいつでも真面目だが?」
「女性を口説く時は、ですか?」
ランスターさんが淡々と返した。
「エサクタ!」
通信がつながる。
『どうしました、ファザー』
「おーカリム、報告だ」
『遅いと思ったら食事中ですか?』
「さっき終わったんだ、お腹空かせちゃった子がいてな」
「私は……別に……」
アインハルトちゃんが小さく抗議する。
「スバルちゃんのことだ」
「でへへ」
『……なるほど』
画面のカリムが少しだけ苦笑する。
『まぁ、いいでしょう。それでどうでした?』
「見てわかるだろ?」
ピッとアインハルトちゃんを指差す。
「弱すぎて話にならん! この覇王の拳を満足させられる猛者はどこか! ……だとよ」
「そ、そんな風には思ってません!」
アインハルトちゃんが慌てて否定する。
『では、どのように?』
画面の向こうのカリムが穏やかに問いかけた。
その問いに、アインハルトちゃんは少し黙った。
そして。
「……まっすぐな心の方でした」
静かに言葉を選ぶ。
「だからこそ、私が戦うべき王ではないと。覇王の拳を向けていい相手ではないと感じました」
「アインハルト……」
ノーヴェちゃんが心配そうに呟く。
俺は黙ってアインハルトちゃんを見る。
未だ覇王の記憶に引きずられている少女。
けれど。
ほんの少しだけ、自分の目で相手を見ていた。
『そうでしたか』
カリムの声が柔らかく響いた。
「……で、お前自身は? アインハルトちゃんとしてはどうだった?」
「それは……」
アインハルトちゃんは考え込む。
しばらくして、正直に答えた。
「まだ、分かりません」
まぁ、会ったばかりだもんな。
「次、それが形になるといいな」
『次、ですか?』
「来週、試合するんだとよ。今度は本気で」
『ではファザー』
「わーってるよ、いきゃいいんだろ?」
ため息をつきながら返答する。
『やけに物分かりがいいですね?』
「言われると思ったからな……」
『ではそのように』
「はいはい」
通信の向こうで、カリムが小さく笑った。
ここまでが報告。
だが、一つ聞いておきたいことがある。
「ところでカリム」
『なんですか』
「ヴィヴィオちゃん、いい子じゃないの。なんでわざわざ俺から遠ざけたん?」
高町ヴィヴィオ。
聖王オリヴィエの遺伝情報から生まれた少女。
いわゆる、クローン。
教会にも何度か来ていた。
それくらいのことは、俺も知っている。
だが。
これまで、俺とヴィヴィオちゃんが直接顔を合わせる機会はなかった。
カリム達が意図的に合わないようにしていた。
まぁ俺も、わざわざ会いに行こうとはしなかったが。
『悪影響ですから』
「ハハッ! ちげぇねぇ」
思わず笑ってしまう。
カリムらしい答えだ。
俺がヴィヴィオに与える影響。
それを考えれば、遠ざける理由なんていくらでもある。
酒。
煙草。
賭博。
女好き。
仕事嫌い。
教会の神父としては、どう考えても模範的とは言えない。
今回、アインハルトちゃんというイレギュラーのために、なし崩しで会う羽目になっただけなのだろう。
「まあ、確かに俺みたいなのと付き合わせるのは教育上よろしくないわな」
『それだけではありませんが』
「……ん?」
カリムの言葉に、俺はわずかに眉を動かした。
『貴方自身が、彼女をどう見るのか』
「…………」
『それも理由の一つです』
箸が止まった。
「俺が、どう見るかねぇ」
誤魔化すように笑う。
「まぁ、驚きはしただろうな……実際驚いたし」
そのやりとりを聞いていたアインハルトちゃんは、じっと俺を見ていた。
「……ファザーさんは」
「ん?」
「聖王オリヴィエを、尊敬していないのですか?」
「……どうだろうな」
宙をみつめる。
俺の知るオリヴィエの歴史を思い浮かべる。
「半々ってとこかな……」
「聖王教会の神父さんがそんなんでいいのー?」
スバルちゃんが目を丸くする。
「ダメだろうなぁ」
「ダメなんかよ!」
ノーヴェちゃんが突っ込む。
「理由をお聞きしても?」
「そうだなぁ……」
少し考える。
そして、ふと口から出たのは、まるで別の質問だった。
「戦争って、どうやったら終わると思う?」
「いきなり何⁉︎」
スバルちゃんが目を丸くする。
「会話の流れがぶっ飛んでるぞ」
ノーヴェちゃんも困惑している。
「ついに痴呆が……」
ランスターさんまで呆れた顔をした。
ひどいなぁ。
『…………』
「……もしかして、古代ベルカの戦争の事ですか?」
カリムとアインハルトちゃんは、言葉の意図を理解したらしい。
「エサクタ!」
正解したアインハルトちゃんの頭を撫でる。
「あぅ……」
照れとる。
カワイイ。
「戦争にはスポーツみたいに明確な終わりって基準が無いからな、ならどこで終わらせたらいいと思う?」
「いきなりとんでもない話になってきたな」
「戦争の終わらせ方か……」
「うーん、どこで? かぁ……」
4人がそれぞれ考える。
が、誰かが答える前に、さらに問いかける。
「敵であるものを全て滅ぼして、か?」
「「「「……ッ!」」」」
この場のみんなの息が止まる。
もちろんそれは普通なら飛躍した話だ。
しかし……
「オリヴィエはそれをやっちまったからなぁ……」
フォークを持った手を高く上げる。
「空からこう、ゆりかごで……ドーン! と」
そのままスバルちゃんの皿へ突き刺す。
「あたしの肉ー!!」
そのまま肉を口へ放り込んだ。
「ああああ〜!」
マジ泣きだ。
食べるの好きすぎだろ。
ちょっと前に知り合った黒髪のツインテールを思い出す。
俺は苦笑しながら、残っていた自分の料理をスバルちゃんの皿へ移した。
「俺はこっちの終わらせ方がいいと思うけどな」
「いいのっ?」
さっきまでの泣き顔は何処へやら、一瞬で笑顔になる。
「現実にそんな簡単な方法はないけどな」
俺は続ける。
「戦争を終わらせて、平和な世にした。それ自体は評価してるさ」
そこは嘘じゃない。
聖王オリヴィエが成し遂げたことを否定するつもりはない。
彼女がいなければ、古代ベルカの戦乱がどうなっていたのか。そんなこと、俺には分からない。
ただ――。
「そのために、どれだけの命を奪ったんだって考えると、どうしても……な」
言葉が止まる。
オリヴィエ。
聖王。
教会が信仰する存在。
多くの人間にとって、偉大な救世主。
俺だって、その偉業を否定するつもりはない。
けれど。
人を救うために、人を殺す。
戦争を終わらせるために、大勢を殺す。
その結果として平和が訪れたとしても――。
彼女の行いを、『正しかった』とは俺は思えない。
誰も口を挟まない。
俺は少しだけ視線を落とす。
「ほら、神父だからよ俺。人の命は軽く考えられないじゃん」
湿っぽい話を終わりにするように、茶化しながら言った。
「だからよ、オリヴィエを『英雄』としては拝めないな」
「……」
「そう考えると8:2で尊敬できないな……なんか腹立ってきた」
「どういう理屈⁉︎」
スバルちゃんが思わず突っ込む。
「さっきまで半分は評価してたじゃねぇか!」
ノーヴェちゃんも呆れる。
「いや、功績は評価する。人としての選択には納得できない」
「それ、尊敬できないっていうより評価が厳しいだけじゃない?」
ランスターさんが指摘する。
「そうかもしれん」
もっと別の道があったんじゃないか、と。
もっと別の終わらせ方があったんじゃないか、と。
そんなことを、何百年も後に生きる俺が考えても仕方がないけどな。
それでも――。
いや、よそう。
ifなんて考えてたらキリがなくなっちまうからな。
「では、覇王も?」
不意に、アインハルトちゃんが尋ねた。
「……ん?」
「覇王クラウス・イングヴァルトも、同じように考えるのですか?」
「…………」
俺はアインハルトちゃんを見る。
「そうだな、覇王クラウスは……」
覇王のことを考える。
そして、横にいるその子孫の事を考える。
「考えうる限り、最低だな」
「え……」
アインハルトちゃんの目が悲しみに暮れる。
「ちょっとファザーさん、アインハルトの前で!」
ランスターさんが抗議する。
だが俺は、視線を逸らさない。
「自分の子孫に後悔の記憶を継がせるとか最悪だろ? そのせいでアインハルトちゃんがこんなに苦しんでるじゃねーか」
「あ……」
俺はアインハルトちゃんを見る。
「クラウスがどれだけ偉大だったとしても、どれだけ強かったとしても――」
一度、言葉を切る。
「お前の人生まで、あいつの後悔で決めていい理由にはならない」
アインハルトちゃんは何も言わなかった。
「……だからさ」
俺は再び、いつもの軽い笑みを浮かべる。
「アインハルトちゃんは、クラウスの続きを生きる必要なんてない」
「……」
「お前はお前の人生を生きろ」
アインハルトちゃんが、ゆっくりと顔を上げる。
「……はい」
小さな返事だった。
まだまだ割り切れない。
そんな返事。
けれど。
その言葉を聞けて、俺は少しだけ嬉しかった。
それでいい。
それだけでいい。
少しずつだ。
アインハルトちゃんが俺を見る。
「教会の神父さんって、皆さんこんな感じなんですか?」
「まさか」
俺は胸を張った。
「俺が特別なんだよ」
『自慢することではありません』
笑い声が響いた。
……正直、王として英雄としてどうか聞かれたのに、人としてで返すのは逃げだったと思う。
その話はまた今度、な?
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というわけで、再戦日。
場所はノーヴェちゃんか世話になってるという救助隊の、訓練として使われる廃倉庫。
全力を出すため、2人がそれぞれ変身魔法を使う。
身体が光に包まれ、少女だった二人の姿が一気に成長する。
「「アインハルトさんも大人モード!?」」
リオちゃんとコロナちゃんが興奮した声で言う。
大人モード、将来の姿の先取りか。
「2人とも将来が楽しみなこって……」
ポケーとしながらボソリと感想を口に出す。
「相変わらずッスねぇー」
横からウェンディちゃんが呆れたように言った。
「褒めるなよ」
「褒めてないッス」
「そうか」
さて。
そんなやりとりをしている間にも、二人の準備は整った。
「それでは――」
ノーヴェちゃんが試合場を見る。
「始め!」
さて、試合だが。
この前より激しい攻防が続き、打ち合いの中、ヴィヴィオちゃんの渾身の一撃をなんとかガードしたアインハルトちゃんの必殺技「覇王断空拳」が決まり、ヴィヴィオちゃんは吹き飛ばされ、一本となった。
今回もアインハルトちゃんの勝利であった。
吹き飛ばされたヴィヴィオちゃんは目を回している。
ディードちゃんが駆け寄り、彼女を抱き起こし、自分の膝へ頭を乗せた。
「ファザー、陛下に治療を!」
目を回しているヴィヴィオちゃんを膝枕しながら、ディードちゃんが叫ぶ。
「ジャケットの防御は抜かれてないから怪我はねぇ、気休めにしかならんぞ」
「それでもです!」
オットーちゃんも心配そうにヴィヴィオちゃんを覗き込む。
「陛下、大丈夫ですか?」
「……うぅ……」
ヴィヴィオちゃんが小さく呻く。
2人がこんなに心配するとは、ヴィヴィオちゃんの人徳だな。
……どうしてその気持ちを、もっと俺に分けてくれないんだ。
「やれやれだぜ……」
ヴィヴィオちゃんに回復魔法をかける。
淡い魔力がヴィヴィオちゃんの身体を包み込む。
さっきも言ったが外傷はない、疲労や衝撃による負担を和らげる、なんとなく気分が良くなってきた程度の効果だ。
しっかし、2人から陛下って呼ばれてんのかよ、嫌じゃないんかね?
「ほら、アインハルトちゃんも来な」
アインハルトちゃんを手招きをする。
「私は大丈夫で……あれ」
ふらついたアインハルトちゃんが、ランスターさんの胸に倒れ込む。
「かわれ!……じゃねぇ、ほら見た事か」
ランスターさんが軽蔑の目で見てくる。
そんな目で見つめるなよ……
興奮しちゃうじゃないか……
「最後カウンターがかすったろ?時間差で効いてきたか」
審判のノーヴェちゃんが、アインハルトちゃんに解説をする。
「だ、大丈夫で……あれ」
1人で立とうとするも、またもふらつき、スバルちゃんに抱えられたアインハルトちゃんを呼び寄せ、治療魔法を行う。
「片手で1人ずつ……器用だね⭐︎」
スバルちゃんが感心したように言った。
「カリムに蹴られ、シャッハに殴られ続けてけきた賜物だな」
「褒めるところではないと言う事ですね」
オットーちゃんが淡々と返す。
「褒めてよ」
「どこをですか?」
「泣くぞ」
「どうぞ」
「わァ……あ……」
「泣いちゃった!!!」
ディードちゃんまで小さく笑う。
「——で、ヴィヴィオはどうだった?」
ノーヴェちゃんがアインハルトちゃんに問いかけた。
「彼女には謝らないといけません。先週は失礼な事を言ってしまいました——訂正しますと」
「そうしてやってくれ、きっと喜ぶ」
アインハルトちゃんはヴィヴィオちゃんの手を取る。
「はじめまして……ヴィヴィオさん、アインハルト・ストラトスです」
「それ、起きてる時に言ってやれよ」
「恥ずかしいので嫌です」
アインハルトちゃんか顔を赤くする。
そんなノーヴェちゃんとアインハルトちゃんの2人のやりとりを聞いて、皆が笑っている。
では、ここでネタバラシだ。
「そうか、それは残念だったな」
俺はヴィヴィオちゃんの額をトントンと指で叩く。
「起きてるよな?」
すると、舌を出しながらヴィヴィオちゃんが目を開けた。
「えへへ、ごめんなさい」
「ハウッ、どこから……」
「初めからだよな?」
「あうぅぅぅぅ」
更に真っ赤になって恥ずかしがるアインハルトちゃん。
その手をヴィヴィオちゃんが取る。
「高町ヴィヴィオです。改めて、よろしくお願いします」
「はい」
先ほどまで真っ赤だったアインハルトちゃんの顔が、一瞬で柔らかくなる。
そして。心から嬉しそうに笑った。
これが、彼女達の出会い。
聖王のクローンとして産まれた少女と、覇王の記憶を継ぐ少女。
その出会いは必然か、偶然か。
ただ一つ言えるのは、格闘技が好きな二人の少女が出会い、拳を交え、互いを知り、認め合って、友人となった。
それだけだ。
これからの彼女たちのvivid(鮮烈)な物語は、聖王でも覇王でもなく、『彼女たち』自身のものだ。
だからよ。
あんま邪魔してやんなよ?
聖王様に覇王さんよ。
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「ところで2人同時に回復魔法なんて、ファザーさんってすごいんですね!」
「俺の味方はヴィヴィオちゃんだけだ!うっ……」
その瞬間。
突如、俺の脳内に溢れ出した存在しない記憶。
『今日も疲れたよー』
『お疲れ様』
『もうダメかもしれんね』
『お兄ちゃんの仕事は、みんなを導く立派な仕事だよ。がんばれ、がんばれ』
「……はっ」
俺は頭を押さえる。
「これが啓示か!?」
「え?」
ヴィヴィオちゃんが首を傾げる。
なるほど。
つまり――。
「俺たちは兄妹だった……?」
「え?」
「お兄ちゃんって呼んでいいぞ」
「あはは……考えておきます」
「天使!」
ようやく1巻終了
次回、合宿編
長くなったので修正に時間がかかってます
少々お待ちください