魔法少女と “魔法律家” 作:バレテーラ
あれ? シルバーウィークなのに忙しい……妙だな。
「まさか、なのはが男の子を連れてくるなんて。もうそういったことに興味を持つ年頃なのね~。あ、たくさんあるから遠慮なくおかわりしてね?」
「お母さん! 界くんはそういうのじゃなくてー!」
学校での一件を終え、なのはに誘われて逢真は彼女の家にやってきていた。
最初は自分の娘が夜遅くに男を連れてきたということで家族から少しばかり騒がれたものの、なんとか一同から歓迎され、なのはの母親――桃子から特製の料理を振舞われていた。
「……うまい」
ひと口食べ、思わず賞賛の声をこぼす。
「そうだろうそうだろう。桃子の料理は世界一だからな! ……それはそれとして、君はなのはとどんな関係なんだい?」
「……クラスメイト」
「本当にそれだけかい? 友達以上の気持ちを抱いていたり、手をつないでお買い物とかしていたり……」
「……今日初めて話した」
「ふむ、今まではなくともこれからはあるということか」
「……???」
「もうっ! お父さんもお兄ちゃんも変な勘ぐりしないで! 界くんがご飯食べてるでしょ!」
なのはの父親と兄――士郎と恭也から何故か圧のある笑顔で話しかけられ、なのはが怒り、さらにはなのはの姉――美由紀から「弟がいたらこんな感じなのかなー」と抱きかかえられて、またなのはが怒ったり……。
騒がしくも賑やかな家族を前に、逢真は料理に舌鼓を打っていった。
「まったくもうっ。ごめんね界くん、騒がしくしちゃって……」
「……賑やかだった」
料理を食べ終わり、なのはの自室へと戻ってくるやいなやプリプリと文句を垂れる。
逢真は謝られたものの、全然気にしてはいなかった。
一息吐いたところで、なのはがクッションを用意し、二人は対面するように座る。
傍には喋るフェレットもいる。
「まずは、あらためて自己紹介から。私は界くんと同じクラスの高町なのは。それでこっちがユーノくん」
「ユーノ・スクライアです。よろしく」
「……界逢真」
「えっと、それだけ……?」
「にゃはは、転入してきたときも界くんはこんな感じだったから」
当時のことを思い出して苦笑いを浮かべるなのは。
一方で逢真はじっとユーノを見つめていた。
「……ユーノは、地獄の使者?」
「へ? ち、違う違う!? 僕はそんな物騒なものじゃないよ!」
突然、地獄からの使いなんて言われ、全力でユーノは否定する。
逢真の知り合いに “雲竜鼠” という地獄の使者がおり、その類いかと思われたが違っていたようだった。
「えっとね、ユーノ君はそういうのじゃなくて、実は別の世界からきた魔法使いさんなの」
なのはとユーノの話によると、今自分たちが暮らしている地球とは別に次元世界というものがいくつも存在し、ユーノはそのうちの一つからやってきたのだと言う。
何故ユーノが地球に来たのかといえば、自身の失態を清算する為。
ユーノは別世界の遺跡調査でジュエルシードという「手にした者の願いを叶える石」を発見し、それを護送してもらったのだが、その道中で護送船が事故に遭い、この地球に散らばってしまったらしい。
ジュエルシードは不安定で、暴走する危険性が高い。
先程、学校で起こった砂嵐がまさにそれである。
その為、全てのジュエルシードを回収すべく、偶然出会ったなのはの力を借りて奔走しているとのこと。
彼女の奮った桜色の力というのも、別世界で使われている『魔法』であるらしい。
「――ってことなんだけど……」
「……ほえー」
気の抜けた顔で感嘆の声を漏らしているが、これでも逢真はちゃんと理解できていた。
「こっちの話はこれくらいかな? それでそっちのことなんだけど……あの人体模型は一体なんだったの?」
「……あれは幽霊」
「幽霊? 幽霊って、お化けってこと!?」
「……そう」
驚くなのは、ユーノも少なからず仰天していた。
「じゃ、じゃあ、あの人体模型の霊を呑み込んだアレは何だったの? 突然地面から現れて、なんだかすごい不気味だったんだけど……」
「……あれは魔法律。『蠅王の宝箱』っていう地獄の使者」
「魔法律? それが君が使ってみせた力のこと?」
こくり、と頷いた逢真は懐から魔法律書を出して二人に見せる。
「……魔法律書。これで契約した使者を呼び出して、霊を裁く」
「裁く?」
「……霊は危ない奴ばかり。だから悪霊には魔法律を使う」
「…………成程。つまり、人に危害を加えたり悪さをする霊を罰する為に魔法律っていうのがある、と」
「……そんな感じ」
言葉足らずな部分はややあるが、それでも大まかには二人に伝わったようだった。
なのはは「ふえ~、私の周りにそんなのがいるなんて……」と怖がる様子を見せ、ユーノは眉を寄せてなにやら思案顔で考えていた。
「……あの界さん、少しお願いがあるんですが」
「……わかった」
「まだ何も言ってないよ!?」
「……聞かなくてもわかる。ジュエルシードの回収の手伝い」
「ッ、考えていたことは同じだね」
「えっと、どういうこと??」
二人の会話についていけず、なのはだけはあたふたする。
「考えてもみてよ、なのは。ただでさえ一般人が持っていても危ないジュエルシードを、もし彼の言うような悪霊が手にしたら――」
「……あ」
そこまで言えば、なのはも流石に理解した。
ジュエルシードは本来、手にした者の願いを叶える石……。
もし、それを逢真のいう理性のない悪霊がふとしたことで手にして、その胸に抱く悪意のままに願いを叶えてしまったらどうなるか?
たとえ願いが叶えられなかったとしても、ジュエルシードは不安定な状態である。
暴走した思念体、歪な形で変貌してしまったペット、そしてつい先ほどの砂嵐と、ユーノと出会ってから今までなのはは実際にそれを見てきた。
そんな風に霊の秘める思いが歪んだ形で叶えられてしまったら?
トンデモない事態になるのは想像に難くなかった。
そして、その考えには逢真も至っていたがゆえにユーノの頼みに即答したのだった。
「もっといえば、ジュエルシードを手に入れる為になのはや僕が狙われるかもしれない。そうなったら僕たちには対抗できる手段がないんだ。だから正確には、界さんに頼みたいのは僕たちの護衛と何かあったときのフォローかな」
「……わかった。でも、あくまでこっちは霊関連だけ。ジュエルシードについては完全にそっち頼み」
「もちろん! ジュエルシードは私がなんとかするから!」
むんっ、となのはは両手の拳を握って可愛らしく頑張る姿勢をみせ、すると今度は手を逢真の前に差し出し、逢真は何だろうかと首を傾げた。
「これからよろしくの握手だよ。ほらっ」
「……」
一瞬だけ迷った逢真だったが、すっとその手を握るとなのはが笑う。
「せっかくだから名前で呼んでいいかな? 私のこともなのはって呼んでいいから!」
「……ご自由に」
「じゃあ、逢真くん! これから一緒に頑張ろうね!」
「僕からもよろしくお願いします。あ、僕のこともユーノで呼んでくれていいから」
「……ん」
危険な未来を避ける為、お互い出来ないことがある為の協力関係、それなのになんだか胸がぽかぽかした逢真だった。
「でも、びっくりしたな~。まさか逢真くんがそんな力を持ってたなんて」
「……こっちの台詞」
別世界の魔法と魔法律。
違いはあれど、超常的な力を扱う人間がこんな近くにいたとはお互い思いも寄らなかったことだろう。
「にゃはは、こうして逢真くんと関われてよかった。学校だとなんだか近づきがたい雰囲気があったから、声をかけようにも遠慮しちゃってたし。あ、別に怖いって意味じゃなくてね!?」
「……気にしてない」
嘘である。
内心では「そうだったのか……」としょげていたりする。
「……それより、そっちの魔具は何?」
「レイジングハートだよ。この子のおかげで私は魔法が使えてるの」
「デバイスっていうんだけど、逢真でいう魔法律書みたいなものかな」
『Nice to meet you』
ピカピカと光って挨拶してくる赤い玉――レイジングハートに逢真はぺこりと頭を下げる。
「魔法律書といえば、さっきの『はえおうの宝箱』? はすごく怖かったけど、他の使者さんもあんな風に怖い感じなの?」
「……地獄の住人だから、おおよそ」
「ふぇぇ……本当に地獄ってあるんだね」
「……ん、悪さをすれば地獄送り。もし、なのはが悪さをしたらすぐに送るから安心して」
「全然安心できないよっ!?」
そんな風に冗談? を言ったり、
「逢真くんみたいな魔法律家って人たちは他にもいるの? どんな人たち?」
「…………お母さんみたいな師匠と、ボケボケお爺さんと、お酒大好きの運送屋と、腹黒名門当主と、ぶっきらぼうなタマネギ?」
「最初の人以外、まともに聞こえないよ!?」
「最後にいたっては人ですらないし……」
お互いのことを知る為に雑談に興じていると、やがて逢真はウトウトと舟を漕ぎ始める。
それもその筈、もう夜は深く、子供ならばすでに寝ている時間帯。
さらにいくら神童と称される逢真といえど体は子供、魔法律の行使による負担や疲労は普通以上にかかる。
今はなのはが魔法と出会ってからの奮闘劇を語っている最中なのだが、自分の意思に反して瞼が次第に重くなっていく。
「でね、ユーノくんったら怪我が治ったら一人でどうにかするって言い出してね――」
「……」
「にゃあっ!? お、逢真くんっ!?」
とさっ、と。
とうとう睡魔に負けてしまった逢真は体を支えられなくなり、そのまま目の前にいたなのはの膝の上に倒れ込んでしまう。
「…………えっと、逢真くん?」
「……完全に寝ちゃってるね」
最初はあやふたしていたなのはだったが、逢真が何もアクションを起こさないことに気づいてユーノと一緒に顔を覗いてみれば、完全に目を閉じて規則正しい寝息をたてる逢真の寝顔がそこにあった。
起きる様子はない。お泊り確定である。
「……おやすみ、逢真くん」
それを見てなのはは目を細めて微笑み、そっと逢真の頭を優しく撫でたのだった。
尚その後、二人の様子を見に来た桃子と士郎がやってきてその光景を目撃してしまい、逢真が知らないところでひと悶着あるのだが、それを知る由はあったり……なかったり……。
原作ではムヒョが寝ちゃうのはロージーと繋がっているからみたいな理由ですが、オリ主の場合は純粋に魔法律を使ったゆえの疲労にしました。
何せ、まだ子供だし。
なんなら、なのはもこの回ではぶっ倒れてるし。