つづきから
わたしはしょうがくせい。
なまえはゆいといいます。
きょうは、ひさしぶりにおとうさんがおゆはんにいます。
さいきんはげんきがなかったけど、いまはげんきそうでうれしいです。
でも…
「そうだユイちゃん、この石あげるよ。ムカデ模様でかっこいいぜ?」
おとうさんがつれてきたおにいさん、だれなんだろう…?あっでもこのいしかわいいかも…
いや〜お母様…ユキさん、こんな急に来たのに泊めてくださりありがとうございます。危うく野宿になるとこでしたよ、こんなご時世なのに。
「いえいえ、こちらこそごめんなさいね?あなた、せっかく研究を手伝ってくれるっていう子を忘れてたなんて…」
「ははは…最近どうにも忙しくてね、本当にすまない、隣町から来てくれたというのに。」
まぁまぁ、偶然とはいえ現地で会えたわけですし。それに気になることがあったら他のことが意識から消えちゃうってのは俺もよく分かりますよ。むしろ俺が邪魔じゃないですかね、家族全員でのお食事もお久なんでしょ?
「そんなことないわよ。なんならうちのことを実家だと思ってもいいのよ?あなたみたいにいい子なら大歓迎よ!」
あはは…お言葉は嬉しいですが、俺にも帰りたい家はありますので。そうだ、今晩お父さんを…コウイチさんをお借りしても?研究内容について、話したいことがありまして。
「ええ、もちろん。でもあまり無理はさせないであげてね、寝不足みたいだから」
「夢中になると、どうしても眠ってはいられなくてねぇ。悪い癖だとは思っているのだけど…」
寝不足は思考力も落としちゃいますし、今日は早めに寝ないとですね。いい研究はいい生活から、です…うん?ユイちゃん、どうかしたかい?
「おにいさんは、どんなことをしらべてるの?あとこのかわいいいし、どこでひろったのかなって!」
かわ…?あ〜…大体はお父さんと同じことかな。今まではこう…おばけとかを調べてたんだけど、神話とか伝承にも興味が湧いてきてね。お父さんがそれを研究してるって聞いて、となり町からきたんだよ。
「となりまちって、どんなまちなの?」
ん…この町とそう変わらないさ。昼も夜もね。あぁでも、俺の義妹…こともっていうんだけどね。ユイちゃんと同じ歳だから、すぐ仲良くなれると思うよ。ポロっていう可愛い犬もいるから、毎日が楽しいよ。
「へ〜…わたしもいつかいってみたいな、となりまち」
ユイちゃんなら大歓迎だとも、来るのを楽しみにしてるよ…ごちそうさまでした、とても美味しかったです。ユキさん、お皿はどうしたら…
「私が洗っとくから、コウイチさんについていってあげて。あの人ったら、目を離したらいなくなっちゃいそうで心配なのよ」
「いなくならないよ、そこまで言われることは…あるかもだけど」
家族を心配させちゃ駄目ですよ、コウイチさん。俺も人のこと言えないけど…じゃあユイちゃん、おやすみなさい。ん…そうだ、よかったら明日一緒に遊ばないかい?お父さんとの研究は夜からだからさ。
「うん、となりのあきちであそぼ!おやすみ!」
「じゃあもと君、僕の部屋で話すとしよう。研究の準備はもうできているからね」
えぇ、楽しみにしていましたから。早くいきましょう、もう待ちきれませんよ。
へぇ…ここがコウイチさんの部屋ですか、研究者って感じの部屋ですね…やけに片付きすぎていますが。
「…もう演技はいいよ、早速本題に入るとしよう。…キミも、『山』の声を…聞いてしまったと、言っていたね?」
ですね、数日前から『おいでおいで』とうるさくて。となり町から干渉してくるとは驚きましたよ、もっと驚いたのは…自殺する直前だったあなたですが。
「『声』に逆らうのにも、限界がきていてね…キミと会えたのは、本当に運がよかった。ムカデ様…だったか、その神様の力は凄まじいな、何も聞こえてこなくなった」
あの石にはムカデ様の加護が込められていますから、身に着けていれば『山』の声も届きません…問題は、この町ではムカデ信仰がない、ということで。もって三日といったところです。このままじゃ俺もあなたも、三度目の夜明けは見れないでしょう。
「この土地での信仰がないから、力も届きにくいんだったね。過信はできないが…縁切りをして死ぬしかなかった僕が、三日間の猶予を得られた。すぐ隣の町にこれだけ強力な神様がいるとは、研究のしがいがありそうな…」
研究は今回のが終わってからにしましょうね、まだ全然死ねちまいますし。信仰のない土地で三日間守ってくれるってのも、めっちゃ頑張ってくれてますから…これ以上時間を稼げはしないでしょう、とっとと『山』ぶっ殺して日常に戻りますよ。
「そうだ、もと君は山で会ったときから『声の主』を殺すと言っていたね。…本当に、殺せるのか?相手は大昔から恐れられている悪神なんだ、到底できるとは…」
やるしかないんですよ、俺たちは。じゃなきゃ、コトワリ様?に腕切ってもらって大人しく死ぬしかない。俺はまだ死にたくないし、やれるかもならやるしかないでしょ神殺し。せめて撃退くらいはやってみせなきゃ。一度はやれたんなら、希望を見ても仕方ないでしょう?
「……そうだね。僕も、死にたいわけじゃない。どこに家族を残して嬉々と死ぬ父親がいると言うんだ、一矢報いることができるのなら…!」
…作戦会議としましょうか。この三日間で、『声の主』を…神を殺すには、時間を無駄にしすぎるわけにはいかない。
「心配をかけるわけにもいかないから、昼はいつも通りに…だったか。大丈夫なんだね?夜にだけ動いて、間に合うのかい?」
俺だけなら、どう足掻いても時間が足りないでしょうが…コウイチさんの調べたモノがあれば。相手の正体も、カウンターとなる神様も分かっているんです、殺れますとも。それに、昼もやることはあります。コウイチさん頼みにはなりますが…ムカデ様の石をできるだけ多くの人に渡してほしいんです。
「それだけでいいのかい?いや理論は分かるとも、この町に石を起点とした結界を張り…少しでも足りない信仰を賄おうという算段だろう。この町の知り合いなら僕の方が多いからね、任せてくれ」
お土産とでも言って渡してください、あること自体が大切ですし…弱めのオバケくらいは対策できます、このあたりに住んでいる大人なら、無意識にでも石の加護を感じるかもだし…少しくらいは信仰も生じると良いのですが。それで、夜の動きですが。
「まずはやるべきことを整理しよう。前提として、第一にかつて祀られていたコトワリ様の神社を探す。そして第二に、『山の神』の封印された場所を探す必要がある」
最後に、『山の神』を討伐…最低でも、撃退する。『山の神』は見つけた日の中に決着をつけるとして…コトワリ様の神社の捜索を一日で済ませれば、猶予は一日だけあります。ようするに、今夜がそれなわけですが…もうさっさと寝ますよ、探索は明日の夜からにします。
「…えっ、もう寝るのかい?一日で見つかるとも限らないんだ、今日から動いた方が良いんじゃ…」
あのですね、俺は今日となり町から歩いてきて、そのまま山の探索もしています。そんで、コウイチさんは自殺する寸前まで追い込まれてからまだ数時間しか経ってないんです。コンディション最悪もいいとこでしょ、少しは休まないと、体が持ちませんよ。…俺の住んでる町の神を殺したのも、まだ昨夜のことですし…。
「それはそうなんだが…昨夜?待ってくれ、確かに山で会った時にも聞いたが…そんなに直近のことなのか?それなのに、この町まで歩いてきたのか…」
先祖代々の因縁終わらせたら、その日の内にまた変なのに絡まれたんですよねぇ…せっかく家族みんなで遊んでたのに、水を差されて不機嫌なんですよ。邪魔者には消えてもらいたいし…何より、この『声』は聞き続けている方が後戻りできなくなる。人の心につけ込んで、綿で首を絞めるように…ムカデ様の加護があっても、掻い潜ってきた相手なんです。時間をかければ、あたかも自分の意思で死んだかのように、殺される。
「…そうだね、僕も奴に誘導されていたから分かるよ。気づいたときには、ろくに抵抗はできなくなる。…分かった、今日はもう寝るとするよ。明日からは寝る時間もあまり取れないだろうし…」
そうしましょう、自分は適当なとこで寝るんで。んじゃ、おやすみなさい。
「…いやいや、ちゃんとした寝床で寝なさい。ほら、私は椅子でいいから…そこのベッドを使いなよ」
疲れてるのはコウイチさんでしょ、あなたが一番休むべきです。自分は…これ、寝袋があるので。いいでしょ、ムカデ様イメージの着ぐるみ。かっこ可愛くないですか?
「ごめん、それはよく分からない。…ま、まぁそういうことなら私はベッドで眠るとするよ…おやすみなさい、もと君」
はい。…四度目の朝を迎えられることを、祈っていますよ。
……よく分からない。よく分からない、かぁ…おかしいな、神社でも結構売れ行きいいのに。やっぱり百足は人を選ぶのかな…次のグッズどうしよ…
目 【お で い 】