『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』 作:パスカルDX
第11話 妖精女王――エルザ・スカーレット
夜が明けた。
昨夜の襲撃によって荒れた庭園には、まだ戦いの痕跡が残っていた。
地面には大きく抉れた跡があり、折れた木々がいくつか倒れている。
それでも、屋敷そのものは無事だった。
使用人たちが朝早くから後片付けに追われる中、ハートフィリア家の庭では、昨夜戦った魔導士たちが拘束されていた。
「……こんなに派手にやったんスね」
ガンマが地面を見回しながら呟く。
「俺たちも人のこと言えねぇだろ」
ヴェロニカが腕を組む。
「そうッスね~」
二人がそんな会話をしている少し離れた場所では、フウマが庭の状態を確認していた。
そして、その隣にはエルザが立っている。
「屋敷への被害は最小限だな」
「うん。エルザがルーシィを守ってくれたからね」
「私は何もしていない」
「そう?」
「ああ。昨夜の敵を倒したのは、ほとんどお前だ」
エルザはそう言ってフウマを見る。
「私はルーシィを守ることを優先した。それが今回の任務だからな」
「……それでも、ありがとう」
フウマが微笑む。
エルザは一瞬だけ目を細めた。
「礼を言うのはまだ早い」
「え?」
「昨夜の襲撃で終わったとは思えん」
その言葉に、フウマの表情も真剣になる。
「僕もそう思う」
昨夜の敵は強かった。
しかし、それ以上に不自然だった。
戦力を探るための襲撃。
ルーシィへの縁談。
そして、その裏で動く闇ギルド。
すべてが一本の線で繋がっているように思える。
「……敵は、次に何をしてくるんだろう」
フウマが呟いた。
その時だった。
「次は――私が動く」
エルザが静かに言った。
「エルザ?」
「昨夜の戦いで分かったことがある」
エルザは屋敷の外へ視線を向ける。
「敵は、この屋敷を直接攻めるだけではない」
「うん」
「ならば、こちらから敵の動きを止める必要がある」
その瞳には、強い意志が宿っていた。
「マスターからも、必要と判断した場合は敵の拠点を調査して構わないと言われている」
「……一人で行くつもり?」
「ああ」
「危険だよ」
「だから私が行く」
あまりにも迷いのない返答だった。
フウマは苦笑する。
「エルザらしいね」
「褒めているのか?」
「もちろん」
そこへ――。
「エルザ!」
ルーシィが駆けてきた。
「どこか行くの?」
「ああ」
「敵を探しに?」
「そうだ」
ルーシィの顔が曇る。
「危なくないの?」
「危険だろうな」
「……」
エルザはルーシィの頭へ手を置いた。
「だが、心配する必要はない」
「本当に?」
「私は妖精の尻尾のS級魔導士だ」
エルザは堂々と言った。
「そう簡単には負けん」
「……うん」
ルーシィは少しだけ安心した。
「エルザ、気をつけて」
「ああ」
エルザは頷いた。
「君もな」
「え?」
「自分を狙う者がいるからといって、恐怖に負けるな」
「……分かった」
「そして――」
エルザはフウマを見る。
「彼の言葉を信じろ」
「フウマの?」
「ああ」
ルーシィがフウマを見る。
「……うん」
その返事を聞いて、エルザは満足そうに頷いた。
*
数時間後。
ハートフィリア家から少し離れた山道。
エルザは一人で歩いていた。
昨夜捕らえた魔導士の持ち物から、闇ギルドの活動拠点と思われる場所を特定したのだ。
山の奥。
人の気配がほとんどない。
鳥の声すら聞こえない。
エルザは足を止めた。
「……ここか」
目の前に、古びた廃鉱山がある。
入口には誰もいない。
だが――。
中から魔力の気配がする。
エルザは腰の剣に手を添えた。
「隠れているつもりか?」
返事はない。
「ならば、こちらから行く」
エルザが一歩踏み出した瞬間。
「来たぞ!」
「一人だ!」
「妖精の尻尾の女だ!」
周囲の岩陰から、次々と魔導士たちが姿を現した。
一人。
二人。
三人。
十人。
さらに奥からも現れる。
数は二十を超えていた。
「……なるほど」
エルザは周囲を見渡した。
「罠だったか」
「そうだ!」
一人の男が笑う。
「貴様を屋敷から引き離すための作戦だ!」
エルザの瞳が鋭くなる。
「……私を誘き出したのか」
「そういうことだ!」
「ならば――」
エルザは剣を抜いた。
朝の光を受け、刃が輝く。
「後悔するといい」
「たった一人で何ができる!」
魔導士たちが一斉に襲いかかった。
炎。
氷。
雷。
土。
無数の魔法が飛び交う。
しかし――。
エルザは動じなかった。
「換装――!」
光が彼女を包む。
次の瞬間。
身に纏っていた鎧が変わる。
「――天輪の鎧!」
背中に幾本もの剣が現れる。
エルザが腕を広げた。
「行け!」
無数の剣が一斉に飛翔する。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
ヒュンッ!
「ぐあっ!」
「うわぁ!」
「何だ、この剣は!」
剣は敵の魔法を正確に打ち消しながら、魔導士たちを次々と地面へ叩き伏せていく。
「まだだ!」
敵の一人が巨大な魔法を発動する。
「《黒獄砲》!」
漆黒の魔力がエルザへ向かって放たれた。
エルザは一歩も退かない。
「――換装」
光が再び弾ける。
「炎帝の鎧」
炎を纏った鎧へ変わったエルザが、巨大な剣を構える。
「受けてみろ」
振り下ろす。
――ズドォォォン!!
炎の斬撃が黒い魔法を真っ二つに切り裂いた。
「なっ……!」
「魔法を……斬っただと!?」
敵が動揺する。
エルザはその隙を逃さない。
「遅い」
地面を蹴る。
一瞬で敵との距離を詰め――。
「せいっ!」
剣の柄で敵の腹を打ち抜いた。
「ぐはっ!」
男が吹き飛ぶ。
次の敵。
その次。
エルザは一切止まらない。
敵が魔法を放てば、鎧を換える。
遠距離攻撃には天輪の鎧。
強力な魔法には炎帝の鎧。
近距離では剣技。
状況に応じて最適な力を選び続ける。
それこそが――。
妖精女王と呼ばれるS級魔導士の強さだった。
「一人ずつではない」
エルザの剣が敵を薙ぎ払う。
「ならば――」
さらに換装。
「まとめて相手をしよう」
光が爆発した。
「――黒羽の鎧!」
黒い羽を思わせる装甲。
エルザの姿が一変する。
次の瞬間――。
疾風のように敵陣へ飛び込んだ。
「速い!」
「どこへ――」
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
一人。
二人。
三人。
瞬く間に敵が倒れていく。
「ば、化け物……!」
最後に残った男が震えながら後退する。
エルザは静かに歩み寄った。
「妖精の尻尾を敵に回すということが、どういうことなのか」
剣を構える。
「その身をもって覚えておけ」
一閃。
男は地面へ倒れた。
静寂が戻る。
エルザは剣を収めた。
「……これで終わりか」
だが。
彼女はすぐに気づいた。
「……いや」
廃鉱山の奥。
微かな魔力。
まだ誰かいる。
「隠れている者がいるな」
エルザは奥へ進む。
そこには――。
大量の資料と魔水晶が置かれていた。
そして壁には、ハートフィリア家の見取り図。
「……やはり」
エルザの表情が険しくなる。
そこにはルーシィの部屋まで詳細に記されていた。
侵入経路。
警備配置。
使用人の勤務時間。
さらには――。
「フウマの行動まで……」
敵は、こちらを徹底的に調べている。
エルザは資料を手に取った。
「このままでは終わらんな」
その時。
背後から魔力を感じた。
「――!」
振り返る。
巨大な魔法陣。
しかし。
「遅い!」
エルザは剣を振るった。
魔法陣そのものを斬り裂く。
爆発。
煙が廃鉱山を包む。
エルザはその中から悠然と歩いて出てきた。
「これ以上、好きにはさせん」
*
同じ頃。
ハートフィリア家。
「……エルザ、遅いな」
フウマは庭から空を見上げていた。
「そうね」
ルーシィも隣にいる。
「大丈夫かな……」
「大丈夫だよ」
フウマは穏やかに笑った。
「エルザだからね」
その時。
遠くから馬車の音が聞こえた。
やがて屋敷の正門が開く。
戻ってきたのは――。
「ただいま戻った」
「エルザ!」
ルーシィが駆け寄る。
「無事だった?」
「ああ」
エルザは頷いた。
そして、一枚の資料をフウマへ渡した。
「敵の拠点を見つけた」
「……!」
「連中はルーシィの行動だけではない」
エルザが続ける。
「この屋敷そのものを監視していた」
フウマは資料へ目を通す。
その表情が徐々に険しくなる。
「……かなり詳しい」
「そうだ」
「ここまで調べるには時間が必要だ」
「つまり――」
エルザが頷く。
「闇ギルドは、かなり前からハートフィリア家を調べていた可能性がある」
ルーシィが不安そうに資料を見る。
「あたしのために……?」
「そう考えていいだろう」
エルザが答える。
だが、その直後。
ルーシィの肩へフウマがそっと手を置いた。
「大丈夫」
「……フウマ」
「何があっても、僕たちがいる」
エルザも頷く。
「そうだ」
ルーシィは二人を見上げた。
一人は風を操る青年。
もう一人は、妖精の尻尾を代表するS級魔導士。
二人が、自分のためにここにいる。
その事実が、ルーシィの心を支えていた。
「……ありがとう」
小さな声。
けれど、そこには確かな想いがあった。
エルザはルーシィを見て微笑む。
「礼は必要ない」
「え?」
「仲間になるかもしれない者を守るのは、妖精の尻尾にとって当然のことだ」
「……!」
ルーシィの瞳が輝いた。
「仲間……」
その言葉を、胸の中で何度も繰り返す。
そして――。
「早く、妖精の尻尾に入りたい」
ルーシィは笑った。
その笑顔を見ながら、フウマも微笑む。
しかし。
エルザの手には、まだ一枚の紙が残されていた。
そこには、闇ギルドの拠点で見つけた一つの名前が記されている。
――ハートフィリア家。
そして、その下には。
『ルーシィ・ハートフィリアを確保せよ』
さらにその隣には、別の指示があった。
『風神は可能なら生け捕り』
エルザの瞳が細くなる。
「……どうやら」
彼女は静かに呟いた。
「次に狙われるのは、ルーシィだけではないようだな」
フウマはその言葉を聞き、静かに前を見つめた。
風が吹く。
銀色の髪を揺らす。
その風は――。
まだ見ぬ敵の気配を、確かに運んできていた。
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