『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』 作:パスカルDX
第12話 可愛い大地竜は、着せ替え人形!?
ハートフィリア家に、束の間の平穏が戻っていた。
闇ギルドによる襲撃から数日。
エルザが敵の拠点を見つけ、さらにその情報を持ち帰ったことで、屋敷の警戒態勢は以前にも増して厳しくなっている。
庭には見張りが配置され、屋敷の出入口も常に確認されていた。
フウマは相変わらずルーシィの側を離れない。
エルザも必要に応じて屋敷内外を巡回している。
ヴェロニカは敵の動向を探り、ガンマは――。
「……暇ッス」
屋敷の一室。
窓辺の椅子に座ったガンマ・アトラスは、頬杖をつきながら外を眺めていた。
オレンジ色の髪は無造作に伸び、淡い緑色の垂れ目はどこか眠そうだ。
灰色のツナギ姿。
その姿だけを見れば、どこにでもいる小柄な少年にしか見えない。
「……暇ッスねぇ」
もう一度呟く。
任務中なのだから、暇なのは悪いことではない。
敵が来ない。
つまり、それだけ平和だということだ。
しかし、ガンマにとっては退屈でもあった。
「フウマさんはルーシィさんと一緒」
指を一本立てる。
「エルザさんは巡回中」
二本目。
「ヴェロニカさんは情報集め」
三本目。
「俺は……暇」
「何してるの?」
「うわっ!?」
突然背後から声を掛けられ、ガンマは椅子から飛び上がった。
振り返る。
「ルーシィさん!?」
そこにはルーシィが立っていた。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「いやいや、急に後ろから声をかけられたら驚くッスよ!」
「ごめんごめん」
ルーシィは笑いながら、ガンマの隣へ座った。
「暇そうだったから」
「まあ……暇ッスね」
「じゃあ、あたしとお話ししない?」
「もちろんッス」
ガンマは嬉しそうに笑った。
「ルーシィさんと話すの、楽しいッスから」
「そう?」
「そうッスよ」
ガンマはマイペースだ。
しかし、決して人付き合いが苦手なわけではない。
むしろ人懐っこい。
特にフウマには、まるで飼い主を見つけた子犬のように懐いている。
ルーシィも、そんなガンマのことを少しずつ気に入っていた。
「ねえ、ガンマ」
「はい?」
「前から思ってたんだけど……」
「何ッス?」
ルーシィはガンマの顔をじっと見た。
「……ガンマって、可愛いわよね」
「…………」
「…………」
沈黙。
「……はい?」
ガンマが固まった。
「いや、だから」
ルーシィは改めてガンマを見る。
無造作なオレンジ色の髪。
淡い緑色の垂れ目。
小柄な身体。
女の子のように整った顔立ち。
そして本人は、それをまったく気にしていない。
「女の子みたいで、すごく可愛い」
「……」
ガンマの顔が引きつった。
「……俺、男ッスよ?」
「知ってるわよ」
「ですよね?」
「でも可愛いものは可愛いじゃない」
「……」
ガンマは嫌な予感を覚えた。
それは大地竜としての危機察知能力よりも鋭かった。
「ルーシィさん」
「なに?」
「その目、なんなんスか?」
「え?」
「なんか……獲物を見る目になってるッス」
「気のせいよ」
「絶対気のせいじゃないッス!」
ガンマが椅子から立ち上がる。
だが。
ルーシィも立ち上がった。
「ちょっと待って」
「何をッスか!?」
「試してみたいことがあるの」
「嫌な予感しかしないッス!」
「大丈夫、大丈夫」
「その言い方は大丈夫じゃない人の言い方ッス!」
ガンマが後ずさる。
しかし、部屋の扉へ向かおうとしたところで――。
「……あ」
目の前にルーシィが立っていた。
「逃がさないわよ」
「ひぃっ!?」
大地竜が怯えた。
戦場では敵の魔法を真正面から受け止める少年が、たった一人の少女を前にして後退している。
「ルーシィさん……」
「なに?」
「俺、戦闘なら負けないッスよ?」
「知ってるわ」
「でも今は戦えないッス」
「そうね」
「卑怯ッス!」
ルーシィは楽しそうに笑った。
「ちょっとだけだから」
「何がちょっとだけなんスか……」
「服を着替えてみましょう」
「……」
ガンマの思考が停止した。
「……服?」
「そう」
「着替える?」
「うん」
「俺が?」
「うん」
「……男物?」
「もちろん」
ガンマがホッとする。
「なら――」
「女の子用」
「嫌ッス!!」
即答だった。
*
「どうしてこうなったんスか……」
数十分後。
ガンマは鏡の前に立っていた。
その姿を見て、本人は絶望している。
一方、ルーシィは満面の笑みだった。
「やっぱり似合う!」
「似合わなくていいッス……」
ガンマが着せられているのは、淡い色合いのワンピースだった。
もちろん本人の趣味ではない。
ルーシィが屋敷の衣装部屋から持ってきたものだ。
「ちょっと!」
ガンマは裾を摘まむ。
「これ、完全に女の子の服じゃないッスか!」
「そうよ」
「どうして俺が……!」
「だって可愛いんだもの」
「その理由で人の服を変えるのはどうなんスか!?」
「いいじゃない」
「よくないッス!」
しかし、鏡に映る姿は妙に様になっていた。
女顔の整った顔立ち。
小柄な身体。
そして垂れ目。
服装だけ変えると、本当に少女のように見える。
「……」
ルーシィはしばらく眺める。
「ガンマ」
「なんスか……」
「似合ってる」
「言わないでほしいッス」
「すごく可愛い」
「追い打ちやめてほしいッス!」
ガンマは両手で顔を覆った。
「フウマさんに見られたら……」
「どうなるの?」
「俺、恥ずかしくて大地に埋まりたいッス……」
「ふふっ」
ルーシィは笑う。
そんなガンマの姿を見ていると、闇ギルドとの戦いで張り詰めていた心が少しだけ軽くなる。
「ねえ、ガンマ」
「はい……」
「あたし、こういう時間好き」
「……?」
「敵のことばかり考えてると、疲れちゃうじゃない」
ルーシィは椅子へ腰掛けた。
「だから、こうやってくだらないことで笑える時間って大切だと思う」
ガンマは少し驚いた。
そして――。
「……そうッスね」
小さく笑った。
「俺も、こういうの嫌いじゃないッス」
「本当?」
「まあ……服は嫌ッスけど」
「そこは嫌なんだ」
「そこは譲れないッス」
二人で笑う。
その瞬間。
「おや?」
廊下から声がした。
二人が同時に振り返る。
「フウマさん!?」
ガンマの顔が真っ青になった。
扉のところに、フウマが立っていた。
その隣にはエルザもいる。
「ただいま」
「…………」
「……ガンマ?」
フウマが首を傾げる。
「その服……」
「見ないでほしいッスぅぅぅぅ!!」
ガンマが両手で顔を覆った。
ルーシィは笑いを堪えきれない。
「フウマ、どう? 似合ってるでしょ?」
「うん」
フウマは素直に頷いた。
「可愛いと思うよ」
「フウマさぁぁぁん!?」
「え?」
「そこは否定してほしかったッス!」
フウマは困ったように笑う。
「でも、本当に似合ってるから」
「褒められてるのに嬉しくないッス!」
エルザまでガンマを見る。
「……確かに似合っている」
「エルザさんまで!?」
「何なら別の服も試してみるか?」
「やめるッス!」
ガンマは本気で逃げ出した。
しかしルーシィが素早く腕を掴む。
「まだ一着目よ」
「一着目!?」
ガンマの顔が引きつった。
「まさか……」
「まだまだあるわよ」
ルーシィが笑顔で言った。
その後ろ。
いつの間にか、衣装が何着も用意されていた。
ワンピース。
スカート。
ブラウス。
可愛らしい帽子。
そして、髪飾りまで。
「……」
ガンマは絶句した。
「俺……」
大地竜の少年は、遠い目をする。
「今日、生きて帰れるッスかね……」
「大丈夫よ!」
ルーシィは笑顔で言った。
「ちゃんと可愛くしてあげるから!」
「そういう問題じゃないッスぅぅぅぅ!」
屋敷中に、ガンマの悲鳴が響き渡った。
フウマは苦笑し、エルザは腕を組みながらその様子を眺めている。
そして――。
騒がしい声を聞きつけたヴェロニカまで部屋へやって来た。
「何だ、騒がしいな」
「ヴェロニカさん! 助けてほしいッス!」
ガンマが救いを求める。
ヴェロニカは彼を見る。
「……」
数秒。
「……似合ってんな」
「ヴェロニカさんまでぇぇぇぇ!」
ハートフィリア家に笑い声が響く。
闇ギルドが暗躍する中。
危険な任務が続く中。
それでも――。
仲間たちが笑える時間は確かに存在していた。
そしてルーシィは、そんな時間を過ごしながら思う。
妖精の尻尾に入ったら。
きっと、こんなふうに笑える日々が待っている。
怖いこともある。
戦わなければならないこともある。
それでも――。
「……早く、みんなと一緒にいたいな」
ルーシィは小さく呟いた。
その横では。
「次はこれッスか!?」
ガンマの悲鳴が響いている。
「そうよ!」
「これは絶対女の子ッス!」
「だから女の子用だって言ってるでしょ!」
「俺、男ッスぅぅぅぅ!」
再び屋敷中へ響き渡る声。
フウマはそんな二人を見ながら、穏やかに笑った。
――嵐の前の、ほんの短い平穏。
それは、仲間たちにとって大切な時間だった。
感想、評価、お気に入り、オリキャラ募集よろしくお願い致します!