『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

12 / 12
第12話 可愛い大地竜は、着せ替え人形!?

第12話 可愛い大地竜は、着せ替え人形!?

 

 

 ハートフィリア家に、束の間の平穏が戻っていた。

 

 闇ギルドによる襲撃から数日。

 

 エルザが敵の拠点を見つけ、さらにその情報を持ち帰ったことで、屋敷の警戒態勢は以前にも増して厳しくなっている。

 

 庭には見張りが配置され、屋敷の出入口も常に確認されていた。

 

 フウマは相変わらずルーシィの側を離れない。

 

 エルザも必要に応じて屋敷内外を巡回している。

 

 ヴェロニカは敵の動向を探り、ガンマは――。

 

「……暇ッス」

 

 屋敷の一室。

 

 窓辺の椅子に座ったガンマ・アトラスは、頬杖をつきながら外を眺めていた。

 

 オレンジ色の髪は無造作に伸び、淡い緑色の垂れ目はどこか眠そうだ。

 

 灰色のツナギ姿。

 

 その姿だけを見れば、どこにでもいる小柄な少年にしか見えない。

 

「……暇ッスねぇ」

 

 もう一度呟く。

 

 任務中なのだから、暇なのは悪いことではない。

 

 敵が来ない。

 

 つまり、それだけ平和だということだ。

 

 しかし、ガンマにとっては退屈でもあった。

 

「フウマさんはルーシィさんと一緒」

 

 指を一本立てる。

 

「エルザさんは巡回中」

 

 二本目。

 

「ヴェロニカさんは情報集め」

 

 三本目。

 

「俺は……暇」

 

「何してるの?」

 

「うわっ!?」

 

 突然背後から声を掛けられ、ガンマは椅子から飛び上がった。

 

 振り返る。

 

「ルーシィさん!?」

 

 そこにはルーシィが立っていた。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃない」

 

「いやいや、急に後ろから声をかけられたら驚くッスよ!」

 

「ごめんごめん」

 

 ルーシィは笑いながら、ガンマの隣へ座った。

 

「暇そうだったから」

 

「まあ……暇ッスね」

 

「じゃあ、あたしとお話ししない?」

 

「もちろんッス」

 

 ガンマは嬉しそうに笑った。

 

「ルーシィさんと話すの、楽しいッスから」

 

「そう?」

 

「そうッスよ」

 

 ガンマはマイペースだ。

 

 しかし、決して人付き合いが苦手なわけではない。

 

 むしろ人懐っこい。

 

 特にフウマには、まるで飼い主を見つけた子犬のように懐いている。

 

 ルーシィも、そんなガンマのことを少しずつ気に入っていた。

 

「ねえ、ガンマ」

 

「はい?」

 

「前から思ってたんだけど……」

 

「何ッス?」

 

 ルーシィはガンマの顔をじっと見た。

 

「……ガンマって、可愛いわよね」

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙。

 

「……はい?」

 

 ガンマが固まった。

 

「いや、だから」

 

 ルーシィは改めてガンマを見る。

 

 無造作なオレンジ色の髪。

 

 淡い緑色の垂れ目。

 

 小柄な身体。

 

 女の子のように整った顔立ち。

 

 そして本人は、それをまったく気にしていない。

 

「女の子みたいで、すごく可愛い」

 

「……」

 

 ガンマの顔が引きつった。

 

「……俺、男ッスよ?」

 

「知ってるわよ」

 

「ですよね?」

 

「でも可愛いものは可愛いじゃない」

 

「……」

 

 ガンマは嫌な予感を覚えた。

 

 それは大地竜としての危機察知能力よりも鋭かった。

 

「ルーシィさん」

 

「なに?」

 

「その目、なんなんスか?」

 

「え?」

 

「なんか……獲物を見る目になってるッス」

 

「気のせいよ」

 

「絶対気のせいじゃないッス!」

 

 ガンマが椅子から立ち上がる。

 

 だが。

 

 ルーシィも立ち上がった。

 

「ちょっと待って」

 

「何をッスか!?」

 

「試してみたいことがあるの」

 

「嫌な予感しかしないッス!」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

「その言い方は大丈夫じゃない人の言い方ッス!」

 

 ガンマが後ずさる。

 

 しかし、部屋の扉へ向かおうとしたところで――。

 

「……あ」

 

 目の前にルーシィが立っていた。

 

「逃がさないわよ」

 

「ひぃっ!?」

 

 大地竜が怯えた。

 

 戦場では敵の魔法を真正面から受け止める少年が、たった一人の少女を前にして後退している。

 

「ルーシィさん……」

 

「なに?」

 

「俺、戦闘なら負けないッスよ?」

 

「知ってるわ」

 

「でも今は戦えないッス」

 

「そうね」

 

「卑怯ッス!」

 

 ルーシィは楽しそうに笑った。

 

「ちょっとだけだから」

 

「何がちょっとだけなんスか……」

 

「服を着替えてみましょう」

 

「……」

 

 ガンマの思考が停止した。

 

「……服?」

 

「そう」

 

「着替える?」

 

「うん」

 

「俺が?」

 

「うん」

 

「……男物?」

 

「もちろん」

 

 ガンマがホッとする。

 

「なら――」

 

「女の子用」

 

「嫌ッス!!」

 

 即答だった。

 

     *

 

「どうしてこうなったんスか……」

 

 数十分後。

 

 ガンマは鏡の前に立っていた。

 

 その姿を見て、本人は絶望している。

 

 一方、ルーシィは満面の笑みだった。

 

「やっぱり似合う!」

 

「似合わなくていいッス……」

 

 ガンマが着せられているのは、淡い色合いのワンピースだった。

 

 もちろん本人の趣味ではない。

 

 ルーシィが屋敷の衣装部屋から持ってきたものだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ちょっと!」

 

 ガンマは裾を摘まむ。

 

「これ、完全に女の子の服じゃないッスか!」

 

「そうよ」

 

「どうして俺が……!」

 

「だって可愛いんだもの」

 

「その理由で人の服を変えるのはどうなんスか!?」

 

「いいじゃない」

 

「よくないッス!」

 

 しかし、鏡に映る姿は妙に様になっていた。

 

 女顔の整った顔立ち。

 

 小柄な身体。

 

 そして垂れ目。

 

 服装だけ変えると、本当に少女のように見える。

 

「……」

 

 ルーシィはしばらく眺める。

 

「ガンマ」

 

「なんスか……」

 

「似合ってる」

 

「言わないでほしいッス」

 

「すごく可愛い」

 

「追い打ちやめてほしいッス!」

 

 ガンマは両手で顔を覆った。

 

「フウマさんに見られたら……」

 

「どうなるの?」

 

「俺、恥ずかしくて大地に埋まりたいッス……」

 

「ふふっ」

 

 ルーシィは笑う。

 

 そんなガンマの姿を見ていると、闇ギルドとの戦いで張り詰めていた心が少しだけ軽くなる。

 

「ねえ、ガンマ」

 

「はい……」

 

「あたし、こういう時間好き」

 

「……?」

 

「敵のことばかり考えてると、疲れちゃうじゃない」

 

 ルーシィは椅子へ腰掛けた。

 

「だから、こうやってくだらないことで笑える時間って大切だと思う」

 

 ガンマは少し驚いた。

 

 そして――。

 

「……そうッスね」

 

 小さく笑った。

 

「俺も、こういうの嫌いじゃないッス」

 

「本当?」

 

「まあ……服は嫌ッスけど」

 

「そこは嫌なんだ」

 

「そこは譲れないッス」

 

 二人で笑う。

 

 その瞬間。

 

「おや?」

 

 廊下から声がした。

 

 二人が同時に振り返る。

 

「フウマさん!?」

 

 ガンマの顔が真っ青になった。

 

 扉のところに、フウマが立っていた。

 

 その隣にはエルザもいる。

 

「ただいま」

 

「…………」

 

「……ガンマ?」

 

 フウマが首を傾げる。

 

「その服……」

 

「見ないでほしいッスぅぅぅぅ!!」

 

 ガンマが両手で顔を覆った。

 

 ルーシィは笑いを堪えきれない。

 

「フウマ、どう? 似合ってるでしょ?」

 

「うん」

 

 フウマは素直に頷いた。

 

「可愛いと思うよ」

 

「フウマさぁぁぁん!?」

 

「え?」

 

「そこは否定してほしかったッス!」

 

 フウマは困ったように笑う。

 

「でも、本当に似合ってるから」

 

「褒められてるのに嬉しくないッス!」

 

 エルザまでガンマを見る。

 

「……確かに似合っている」

 

「エルザさんまで!?」

 

「何なら別の服も試してみるか?」

 

「やめるッス!」

 

 ガンマは本気で逃げ出した。

 

 しかしルーシィが素早く腕を掴む。

 

「まだ一着目よ」

 

「一着目!?」

 

 ガンマの顔が引きつった。

 

「まさか……」

 

「まだまだあるわよ」

 

 ルーシィが笑顔で言った。

 

 その後ろ。

 

 いつの間にか、衣装が何着も用意されていた。

 

 ワンピース。

 

 スカート。

 

 ブラウス。

 

 可愛らしい帽子。

 

 そして、髪飾りまで。

 

「……」

 

 ガンマは絶句した。

 

「俺……」

 

 大地竜の少年は、遠い目をする。

 

「今日、生きて帰れるッスかね……」

 

「大丈夫よ!」

 

 ルーシィは笑顔で言った。

 

「ちゃんと可愛くしてあげるから!」

 

「そういう問題じゃないッスぅぅぅぅ!」

 

 屋敷中に、ガンマの悲鳴が響き渡った。

 

 フウマは苦笑し、エルザは腕を組みながらその様子を眺めている。

 

 そして――。

 

 騒がしい声を聞きつけたヴェロニカまで部屋へやって来た。

 

「何だ、騒がしいな」

 

「ヴェロニカさん! 助けてほしいッス!」

 

 ガンマが救いを求める。

 

 ヴェロニカは彼を見る。

 

「……」

 

 数秒。

 

「……似合ってんな」

 

「ヴェロニカさんまでぇぇぇぇ!」

 

 ハートフィリア家に笑い声が響く。

 

 闇ギルドが暗躍する中。

 

 危険な任務が続く中。

 

 それでも――。

 

 仲間たちが笑える時間は確かに存在していた。

 

 そしてルーシィは、そんな時間を過ごしながら思う。

 

 妖精の尻尾に入ったら。

 

 きっと、こんなふうに笑える日々が待っている。

 

 怖いこともある。

 

 戦わなければならないこともある。

 

 それでも――。

 

「……早く、みんなと一緒にいたいな」

 

 ルーシィは小さく呟いた。

 

 その横では。

 

「次はこれッスか!?」

 

 ガンマの悲鳴が響いている。

 

「そうよ!」

 

「これは絶対女の子ッス!」

 

「だから女の子用だって言ってるでしょ!」

 

「俺、男ッスぅぅぅぅ!」

 

 再び屋敷中へ響き渡る声。

 

 フウマはそんな二人を見ながら、穏やかに笑った。

 

 ――嵐の前の、ほんの短い平穏。

 

 それは、仲間たちにとって大切な時間だった。




感想、評価、お気に入り、オリキャラ募集よろしくお願い致します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。