『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

13 / 22
第13話 風神、妖精女王、紅血竜――三人の決意

第13話 風神、妖精女王、紅血竜――三人の決意

 

 

 ハートフィリア家の夜は、静かだった。

 

 数日前まで、この屋敷を包んでいた緊張感は、決して消えたわけではない。

 

 むしろ、エルザが闇ギルドの拠点から持ち帰った資料によって、事態はより深刻になっていた。

 

 ルーシィ・ハートフィリア。

 

 そして――風神、フウマ・レインハルト。

 

 二人が敵の標的として、明確に記されていたからだ。

 

 屋敷の警備は強化された。

 

 ガンマは庭を巡回し、ヴェロニカも屋敷の周囲を警戒している。

 

 そしてエルザは、応接室に集められた資料を一つずつ確認していた。

 

 その向かいには、フウマが座っている。

 

「……」

 

 机の上に置かれた資料を、フウマは黙って見つめていた。

 

 ハートフィリア家の見取り図。

 

 使用人の行動。

 

 ルーシィの生活時間。

 

 そして、自分たち妖精の尻尾の魔導士についてまで記録されている。

 

「かなり調べられてるね」

 

 フウマが静かに口を開いた。

 

「ああ」

 

 エルザが頷く。

 

「これほど詳細な情報を集めるには、それなりの時間が必要だろう」

 

「つまり、今回の襲撃は急に始まったものじゃない」

 

「そういうことだ」

 

 エルザは一枚の紙を指で押さえた。

 

「少なくとも数週間。もしかすると数か月前から計画されていた可能性もある」

 

「……ルーシィを狙う理由は、やっぱりハートフィリア家の財産かな」

 

「それだけなら、ここまで大掛かりにはしないだろう」

 

 エルザの声は低かった。

 

「私は別の目的があるように思える」

 

「別の目的?」

 

「ハートフィリア家そのものではなく――ルーシィ自身に何か価値がある」

 

 フウマの表情がわずかに曇る。

 

 彼も同じことを考えていた。

 

 敵は、ただの誘拐を企てているわけではない。

 

 何かを求めている。

 

 それが何なのか。

 

 まだ分からない。

 

「……厄介だね」

 

「ああ」

 

 エルザが資料を閉じる。

 

「だからこそ、こちらも覚悟を決める必要がある」

 

 その時だった。

 

 ――コンコン。

 

「入るぞ」

 

 返事を待たず、扉が開いた。

 

 紫色のショートヘア。

 

 鋭い目つき。

 

 青と黄緑のオッドアイ。

 

 長身でスタイルの良い女性が、堂々と入ってくる。

 

「ヴェロニカ」

 

「よう」

 

 ヴェロニカ・グレイス。

 

 紅血竜。

 

 彼女は腕を組みながら、二人を見た。

 

「やっぱりここにいたか」

 

「何か分かった?」

 

 フウマが尋ねる。

 

「少しな」

 

 ヴェロニカは椅子を引き、乱暴に腰を下ろした。

 

「さっき屋敷の周辺を見てきた」

 

「異常は?」

 

「今のところなしだ」

 

 そこでヴェロニカは一度言葉を切った。

 

「ただ――」

 

「ただ?」

 

「妙なんだよ」

 

 エルザが顔を上げる。

 

「何がだ?」

 

「敵の気配がなさすぎる」

 

 ヴェロニカは窓の外を見る。

 

「襲撃があった直後だぞ。普通なら、もっと警戒して見張りを置く。なのに周辺に魔力の痕跡がほとんどない」

 

「……撤退した?」

 

「可能性はある」

 

 ヴェロニカは頷く。

 

「だが、俺は別の可能性も考えてる」

 

「何?」

 

「次の襲撃まで、完全に姿を消すつもりなんじゃねえかってな」

 

 部屋に沈黙が落ちた。

 

 フウマは腕を組み、しばらく考えた。

 

「……次は、もっと大きな攻撃になるかもしれない」

 

「だろうな」

 

 ヴェロニカが答える。

 

「俺たちの戦力を測った。エルザのことも調べた。お前の風魔法もな」

 

「……僕のことも?」

 

「資料に書いてあっただろ」

 

 ヴェロニカが机を指差す。

 

「風神――フウマ・レインハルト」

 

 その名を口にした瞬間。

 

 フウマの瞳がわずかに細くなった。

 

「……風神」

 

「お前、自分がどう呼ばれてるか分かってるか?」

 

「一応ね」

 

「魔導士の世界じゃ、お前の名前は結構有名だ」

 

 ヴェロニカはニヤリと笑う。

 

「風を操る第二世代の滅竜魔導士。しかも通常の風魔法も一流。S級クラスの実力を持つ魔導士――」

 

「そこまで言わなくていいよ」

 

「照れてんのか?」

 

「そういうわけじゃないよ」

 

 フウマは苦笑する。

 

 ヴェロニカはそんな彼を見て、小さく笑った。

 

「相変わらずだな、お前は」

 

「何が?」

 

「強いくせに、妙に謙虚なんだよ」

 

 ヴェロニカの表情が少しだけ柔らかくなる。

 

「……だからこそ、俺はお前が気に入ってる」

 

「ありがとう」

 

「礼を言うところじゃねえだろ」

 

 ヴェロニカが呆れたように笑う。

 

 その様子をエルザが静かに眺めていた。

 

「二人は付き合いが長いのか?」

 

「まあな」

 

 ヴェロニカが答える。

 

「フウマとは妖精の尻尾に入ってから、それなりに一緒に戦ってる」

 

「そうなんだ」

 

 フウマが頷く。

 

「ヴェロニカは頼りになるよ」

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

 ヴェロニカは少しだけ視線を逸らした。

 

「面と向かって言われると、なんか調子狂うな」

 

 エルザが微笑む。

 

「なるほど」

 

「何だよ」

 

「いや。お前も案外素直なのだなと思ってな」

 

「うるせえ」

 

 ヴェロニカが眉を寄せる。

 

「俺は元々こういう性格なんだよ」

 

「そうか」

 

「……ったく」

 

 そのやり取りを見ていたフウマが、思わず笑った。

 

「二人とも仲良くしてよ」

 

「フウマ」

 

「何?」

 

「お前は少し黙っていろ」

 

「そうだな」

 

 ヴェロニカまで頷いた。

 

「なんで僕だけ?」

 

 三人の間に、僅かな笑いが生まれた。

 

 だが――。

 

 笑いが消えると、再び現実が戻ってくる。

 

 ルーシィを狙う闇ギルド。

 

 その背後にいる何者か。

 

 そして、まだ見えていない敵の目的。

 

「……フウマ」

 

 エルザが呼びかけた。

 

「うん?」

 

「お前はどうするつもりだ?」

 

 その問いに、フウマは少し黙った。

 

 窓の外を見る。

 

 月明かりに照らされた庭。

 

 その先にある暗闇。

 

「僕は――」

 

 ゆっくりと口を開く。

 

「ルーシィを守る」

 

 迷いのない声だった。

 

「この依頼を受けた時から、それは変わらない」

 

「敵がS級魔導士だったとしても?」

 

「うん」

 

「お前自身が狙われても?」

 

「それでも」

 

 フウマは静かに笑う。

 

「僕が受けた依頼だから」

 

 エルザはしばらくフウマを見つめていた。

 

 そして、ゆっくりと頷く。

 

「分かった」

 

「エルザ?」

 

「ならば私も最後まで付き合おう」

 

 エルザは立ち上がる。

 

「今回の任務は、もはや単なる護衛任務ではない」

 

 腰に手を添える。

 

「妖精の尻尾の仲間を守る戦いだ」

 

「……ありがとう」

 

「礼はいらん」

 

 エルザは真っ直ぐフウマを見る。

 

「私も妖精の尻尾の魔導士だ。それに――」

 

 少しだけ口元を緩める。

 

「ルーシィを放っておくと、あの子は無茶をしそうだからな」

 

「ああ……」

 

 フウマも苦笑した。

 

「それは僕も心配してる」

 

「なんだよ、お前ら」

 

 ヴェロニカが腕を組む。

 

「まるで母親みたいだな」

 

「ヴェロニカ」

 

「何だよ」

 

「からかわないで」

 

「悪かったよ」

 

 そう言いながらも、ヴェロニカは笑っている。

 

 だが、次の瞬間。

 

 彼女の表情が変わった。

 

「……ただな」

 

「?」

 

「俺も同じだ」

 

 フウマとエルザがヴェロニカを見る。

 

「俺も最後まで残る」

 

 その声には、いつもの荒々しさとは違う強さがあった。

 

「ルーシィを守る。妖精の尻尾を守る。それに――」

 

 拳を握る。

 

「俺たちの仲間に手を出した連中を、好き勝手にはさせねえ」

 

 フウマは静かに微笑んだ。

 

「ヴェロニカらしいね」

 

「だろ?」

 

 ヴェロニカは笑う。

 

「俺はそういう面倒なことが嫌いじゃねえんだよ」

 

「そうか」

 

 エルザも頷く。

 

「ならば三人で守ろう」

 

 風。

 

 剣。

 

 血。

 

 それぞれ異なる力を持つ三人。

 

 しかし、その目的だけは同じだった。

 

 ――ルーシィを守る。

 

 ――仲間を守る。

 

 ――妖精の尻尾の誇りを守る。

 

「……そういえば」

 

 フウマが突然、思い出したように口を開いた。

 

「どうした?」

 

「マスターから連絡は?」

 

「まだだ」

 

 エルザが答える。

 

「ただ、先ほど魔水晶が一度だけ反応した」

 

「何て?」

 

「『警戒を続けろ』」

 

「それだけ?」

 

「ああ」

 

 ヴェロニカが眉をひそめる。

 

「マスターがそれだけしか言わねえってことは――」

 

「何かを知っている」

 

 フウマが続けた。

 

 三人が黙る。

 

 しばらくして、フウマが立ち上がった。

 

「僕、マスターにもう一度連絡してみる」

 

「私も行こう」

 

「俺もだ」

 

 三人が部屋を出ようとした、その時。

 

「……あ」

 

 フウマが足を止めた。

 

「どうした?」

 

「ルーシィに言うの忘れてた」

 

「何を?」

 

「今日は夜遅くまで話し合いがあるって」

 

「……」

 

 エルザが額に手を当てる。

 

「お前は本当に護衛なのか?」

 

「一応……」

 

「一応って何だよ」

 

 ヴェロニカが吹き出した。

 

「まあ、あの嬢ちゃんには後で説明すりゃいいだろ」

 

「うん」

 

 三人は再び歩き出した。

 

 その背中には、それぞれの決意があった。

 

 風神。

 

 妖精女王。

 

 紅血竜。

 

 三人のS級級魔導士に匹敵する戦力が、一つの屋敷に集まっている。

 

 それでも――。

 

 敵はまだ姿を見せない。

 

 ただ静かに、闇の中で次の機会を待っている。

 

     *

 

 その頃。

 

 廊下の角。

 

「……」

 

 ルーシィは一人で立っていた。

 

 偶然、三人の会話を聞いてしまったのだ。

 

 自分を守るために。

 

 フウマが戦う。

 

 エルザも戦う。

 

 ヴェロニカも戦う。

 

 それが嬉しい。

 

 でも――。

 

「……みんなを危険に巻き込みたくない」

 

 胸の奥が締めつけられる。

 

 自分のせいで、誰かが傷つく。

 

 その可能性を考えるだけで怖い。

 

 けれど。

 

 ルーシィは拳を握った。

 

「……あたしも」

 

 小さな声。

 

「守られてるだけじゃ嫌」

 

 まだ魔法も、戦いも、何も知らない。

 

 妖精の尻尾にも入っていない。

 

 それでも。

 

「いつか……あたしも、みんなを守れるようになりたい」

 

 その言葉を口にした瞬間。

 

 少しだけ、胸の奥が軽くなった。

 

 そして――。

 

 廊下の向こうから足音が聞こえる。

 

「ルーシィ?」

 

「フウマ……」

 

 フウマが彼女を見つけた。

 

「こんなところにいたんだ」

 

「うん」

 

「どうしたの?」

 

「……何でもない」

 

 ルーシィは笑った。

 

 まだ不安はある。

 

 怖さも消えていない。

 

 だけど――。

 

「ねえ、フウマ」

 

「何?」

 

「あたし、もっと強くなりたい」

 

 フウマは少し驚いた。

 

 そして優しく笑う。

 

「うん」

 

「笑わないの?」

 

「笑わないよ」

 

「……そっか」

 

「だって――」

 

 フウマは月明かりの差し込む窓を見る。

 

「強くなりたいって思うことは、とても大切なことだから」

 

「……うん」

 

「僕も応援するよ」

 

 ルーシィは嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう」

 

 その笑顔を見ながら、フウマは思う。

 

 この少女を守る。

 

 それだけではない。

 

 いつか彼女自身が、自分の足で未来へ進めるようにする。

 

 それもまた、護衛としての自分の役目なのかもしれない。

 

 窓の外で風が吹いた。

 

 銀髪が揺れる。

 

 そしてその風は、遠い闇の向こうへ流れていった。

 

 ――次の戦いが近づいていることを、誰よりも早く感じ取るように。




感想、評価、お気に入り、オリキャラ募集よろしくお願い致します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。