『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

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第18話 ようこそ妖精の尻尾へ――ルーシィ、大歓迎!

第18話 ようこそ妖精の尻尾へ――ルーシィ、大歓迎!

 

 

 翌日の昼。

 

 マグノリアの街には、穏やかな風が吹いていた。

 

 青い空には白い雲がゆっくりと流れ、街路を歩く人々の服や髪を、春めいた風が優しく揺らしている。

 

 その風に乗るようにして、一台の馬車が街を進んでいた。

 

 車内にいるのは、フウマ、ルーシィ、エルザ、ヴェロニカ、ガンマ。

 

 そして、馬車の窓から街を眺めているルーシィは、先ほどから落ち着かない様子だった。

 

「……」

 

 そわそわ。

 

 ちらっ。

 

 また窓の外を見る。

 

 そして、膝の上に置いた手をぎゅっと握る。

 

「……どうしたの?」

 

 向かいに座っていたフウマが尋ねた。

 

「え?」

 

「さっきからずっと緊張してるみたいだけど」

 

「だ、だって……!」

 

 ルーシィは頬を少し赤くする。

 

「今日、妖精の尻尾に行くんでしょ?」

 

「うん」

 

「しかも……仮加入するんでしょ?」

 

「そうだね」

 

「……本当にあたしが、あの妖精の尻尾に?」

 

 何度確認しても信じられない。

 

 ルーシィにとって、妖精の尻尾は幼い頃から憧れ続けてきた場所だった。

 

 強い魔導士たち。

 

 個性的な仲間たち。

 

 依頼をこなし、時には大騒ぎをして、それでも最後には皆が笑っている。

 

 自由で。

 

 温かくて。

 

 そして何より――。

 

 家柄や身分ではなく、仲間同士の絆を大切にするギルド。

 

 そんな場所に、自分が入る。

 

 そう考えるだけで胸が高鳴った。

 

「……なんだか夢みたい」

 

 ルーシィは小さく呟く。

 

 すると、隣に座っていたヴェロニカが口を開いた。

 

「夢じゃねえよ」

 

「え?」

 

「もうすぐ着く。そしたら嫌でも現実だって分かるだろ」

 

「嫌でもって……」

 

 ルーシィが苦笑する。

 

 その向かいでは、ガンマが楽しそうに笑っていた。

 

「ルーシィさん、大丈夫ッスよ~」

 

「ガンマ……」

 

「妖精の尻尾はみんな優しいッスから!」

 

「本当?」

 

「本当ッス!」

 

 ガンマは胸を張る。

 

「まあ、ちょっと騒がしいッスけど」

 

「ちょっと?」

 

 フウマが苦笑する。

 

「……かなり、じゃないかな」

 

「フウマさん、それは言っちゃ駄目ッスよ~」

 

「事実だよ」

 

「うぅ……」

 

 ガンマがしょんぼりする。

 

 そんなやり取りを見ていたルーシィは、自然と笑っていた。

 

 緊張していた身体から、少しだけ力が抜ける。

 

「……うん」

 

 そして。

 

 ルーシィは窓の外を見た。

 

 もう、ギルドは近い。

 

「行こう」

 

 その声には、先ほどまでの不安よりも強い期待が込められていた。

 

     *

 

 妖精の尻尾。

 

 いつものように、ギルド内は騒がしかった。

 

「だぁぁぁっ! それ俺のだぞ、グレイ!」

 

「うるせぇナツ! 先に取ったのは俺だ!」

 

「何だとぉ!?」

 

「やるか!?」

 

「おい、二人とも!」

 

 ドンッ!!

 

 テーブルが揺れる。

 

「また始まったぞ!」

 

「今日も元気ねぇ」

 

「誰か止めてくれ!」

 

 いつも通りの光景。

 

 ミラジェーンはカウンターの奥で微笑みながら、その様子を眺めていた。

 

「ふふっ。今日も賑やかね」

 

 その時だった。

 

 ――ギィ。

 

 大きな扉が開いた。

 

「ただいま」

 

 穏やかな声。

 

 その瞬間。

 

 ギルド内の空気が一瞬だけ止まった。

 

「……あれ?」

 

 誰かが呟く。

 

 入ってきたのはフウマだった。

 

 その後ろにはエルザ、ヴェロニカ、ガンマ。

 

 そして――。

 

 最後に、一人の少女が入ってくる。

 

 金色の髪。

 

 明るい表情。

 

 星霊魔導士の鍵を腰に下げた少女。

 

 ルーシィ・ハートフィリア。

 

「……」

 

 ルーシィは入口で立ち止まった。

 

 目の前に広がる光景を見て。

 

 息を呑む。

 

「ここが……」

 

 幼い頃から憧れ続けた場所。

 

「妖精の尻尾……」

 

 胸が高鳴った。

 

 しかし――。

 

 次の瞬間。

 

「フウマ!」

 

 赤髪の少年が飛び出した。

 

「お帰り!」

 

「ただいま、ナツ」

 

「……ん?」

 

 ナツの視線がルーシィへ移る。

 

「そいつ誰だ?」

 

「え?」

 

 ルーシィが目を瞬く。

 

 するとナツは、ずいっと顔を近づけた。

 

「新しい奴か?」

 

「ちょ、ちょっと近い!」

 

「へへっ!」

 

 ナツは笑う。

 

「俺、ナツ! よろしくな!」

 

「あ、あたしはルーシィ・ハートフィリア!」

 

「ルーシィか!」

 

 ナツは嬉しそうに笑った。

 

「よろしく!」

 

「う、うん!」

 

 その直後。

 

「おい、ナツ!」

 

 グレイがやって来る。

 

「お前だけ先に挨拶するなよ」

 

「なんでだ?」

 

「普通はそういうもんなんだよ」

 

 グレイはルーシィを見る。

 

「俺はグレイ。よろしくな」

 

「よろしく!」

 

 すると。

 

「待ちなさい」

 

 エルザが二人の後ろから現れた。

 

「まだ正式な説明が終わっていない」

 

「エルザ!」

 

「……ああ」

 

 ナツとグレイが同時に姿勢を正した。

 

 ルーシィは思わず笑う。

 

「ふふっ」

 

「何がおかしい?」

 

「だって……」

 

 ルーシィは二人を見る。

 

「本当に、あのナツとグレイなんだって思って」

 

「どういう意味だ?」

 

「いや、なんとなく!」

 

「?」

 

 ナツとグレイが首を傾げる。

 

 その光景に、ギルド内から笑い声が上がった。

 

     *

 

「みんな!」

 

 エルザが声を張る。

 

 騒がしかったギルド内が、少しずつ静かになっていく。

 

「紹介したい者がいる」

 

 全員の視線がルーシィに集まった。

 

「彼女はルーシィ・ハートフィリア」

 

「……!」

 

 名前を聞いた瞬間。

 

 何人かの魔導士がざわついた。

 

「ハートフィリアって……」

 

「あのハートフィリア家?」

 

「お嬢様じゃないのか?」

 

 ルーシィの表情が少し固くなる。

 

 やはり家柄を見られる。

 

 そう思った。

 

 しかし。

 

 エルザは続けた。

 

「今回、ルーシィは妖精の尻尾へ仮加入する」

 

「仮加入?」

 

「そうだ」

 

 エルザが頷く。

 

「彼女は現在、闇ギルドから狙われている。そのため、フウマ個人ではなく、妖精の尻尾全体で彼女を保護することになった」

 

 その言葉を聞いて。

 

 ギルドの空気が変わった。

 

「……闇ギルド?」

 

「ルーシィを?」

 

「それなら話は早いな」

 

 最初に声を上げたのはナツだった。

 

「じゃあ、ルーシィは仲間ってことだろ?」

 

「まあ、仮加入だがな」

 

 グレイが答える。

 

「なら――」

 

 ナツは笑った。

 

「仲間じゃん!」

 

「……!」

 

 ルーシィの瞳が揺れた。

 

「ナツ……」

 

「俺たちが守ればいいんだろ?」

 

 あまりにも簡単に。

 

 当たり前のことのように。

 

 ナツは言った。

 

「な?」

 

「……そうね」

 

 ミラジェーンがカウンターから出てくる。

 

「妖精の尻尾に来た以上、ルーシィちゃんは私たちの仲間よ」

 

「ミラさん……」

 

「困ったことがあったら、何でも言ってね」

 

 柔らかな笑顔。

 

 その言葉が、ルーシィの胸に染み込んでいく。

 

 すると。

 

「よっしゃあ!」

 

 誰かが叫んだ。

 

「新入り歓迎会だ!」

 

「まだ昼間だぞ!」

 

「関係ねぇ!」

 

「酒持ってこい!」

 

「待て待て!」

 

 一瞬にしてギルド内が大騒ぎになった。

 

「えええ!?」

 

 ルーシィが目を丸くする。

 

「ちょっと待って! 話が早すぎない!?」

 

「妖精の尻尾だからな」

 

 フウマが苦笑する。

 

「これくらい普通だよ」

 

「普通なの!?」

 

「うん」

 

「……」

 

 ルーシィはギルド内を見回した。

 

 大声で笑う魔導士。

 

 テーブルを囲んで騒ぐ魔導士。

 

 新しい仲間を歓迎しようとする魔導士。

 

 そこには――。

 

 ハートフィリア家の令嬢を見る目など、どこにもなかった。

 

 ただ。

 

 新しい仲間を見る目だけがあった。

 

「……」

 

 ルーシィは胸元に手を当てる。

 

 温かい。

 

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 

「……こんなの」

 

 声が震える。

 

「こんなの、嬉しすぎるよ……」

 

     *

 

「ルーシィ!」

 

 次々とギルドメンバーが集まってくる。

 

「俺はマカオだ!」

 

「よろしく!」

 

「ワカバだ。困ったら相談しな」

 

「よろしくお願いします!」

 

「ビスカよ!」

 

「ジェット!」

 

「ドロイ!」

 

「よろしく!」

 

 名前を覚えるだけでも大変だった。

 

 しかし。

 

 嫌ではなかった。

 

 むしろ嬉しかった。

 

「ルーシィちゃん!」

 

 カウンターからミラジェーンが声を掛ける。

 

「はい!」

 

「ギルドの中を案内してあげるわ」

 

「お願いします!」

 

 ミラジェーンと一緒に歩き出す。

 

「ここが受付」

 

「うんうん」

 

「ここが食事をするところ」

 

「なるほど……」

 

「そして、あそこにいるのが――」

 

 ミラが指を向ける。

 

 そこには、金髪の青年がいた。

 

「ラクサスよ」

 

「!」

 

 ルーシィが目を輝かせた。

 

「ラクサス……!」

 

 雷神。

 

 妖精の尻尾でも屈指の実力者。

 

 そして――。

 

 フウマの親友。

 

 ラクサスはルーシィを見る。

 

「……」

 

 そしてフウマを見る。

 

「お前が連れてきたのか?」

 

「うん」

 

「そうか」

 

 ラクサスはゆっくりと近づいてくる。

 

「俺はラクサス」

 

「ルーシィです!」

 

「知ってる」

 

「え?」

 

「フウマから聞いてる」

 

 フウマが少し驚く。

 

「僕、そんなに話したっけ?」

 

「何度かな」

 

「そうだっけ……」

 

 ラクサスはルーシィを見る。

 

「困ったことがあれば言え」

 

「……!」

 

「このギルドにいる以上、仲間だ」

 

「ラクサス……」

 

 ルーシィは思わず笑った。

 

「ありがとう!」

 

 ラクサスは少しだけ笑った。

 

「気にするな」

 

 その隣でフウマも微笑んでいる。

 

「……いい友達ね」

 

 ルーシィが小声で言う。

 

「うん」

 

 フウマも頷いた。

 

「僕にとって、大切な親友だよ」

 

「そっか」

 

 ルーシィは二人を見る。

 

 風神。

 

 雷神。

 

 ギルドでも特に強い二人。

 

 けれど。

 

 今こうして並んでいる姿は、ただの仲の良い友人同士だった。

 

     *

 

「ところで」

 

 ラクサスがフウマを見る。

 

「お前、今日はどうする?」

 

「僕?」

 

「ああ」

 

「ルーシィのこと?」

 

「そうだ」

 

 ラクサスは腕を組む。

 

「今日からは、お前一人で護衛する必要はないんだろ?」

 

「うん」

 

「なら、少し肩の力を抜け」

 

「……」

 

 フウマは黙る。

 

 図星だった。

 

「僕、そんなに力入ってた?」

 

「入ってる」

 

 ラクサスは即答した。

 

「お前は責任感が強すぎる」

 

「……そうかな」

 

「そうだ」

 

 ラクサスはルーシィを見る。

 

「ルーシィはもう一人じゃねえ」

 

「……」

 

「俺たちがいる」

 

 フウマはしばらく黙って。

 

「……ありがとう」

 

 そう言って笑った。

 

     *

 

 その頃。

 

 ルーシィはガンマと一緒にギルドの奥を歩いていた。

 

「ここが依頼掲示板ッス!」

 

「わあ……!」

 

 大量の依頼書。

 

 ルーシィの目が輝く。

 

「本当に依頼がいっぱい!」

 

「そうッスよ~」

 

「ねえガンマ、この依頼は?」

 

「それは山岳地帯の鉱山調査ッス」

 

「こっちは?」

 

「魔獣退治ッス」

 

「じゃあ、これは?」

 

「迷子の猫探しッス」

 

「……」

 

 ルーシィは少し考える。

 

「最後のだけ妙に平和ね」

 

「妖精の尻尾は何でもやるッス!」

 

「なるほど……」

 

 ルーシィが笑う。

 

「ねえ、ガンマ」

 

「はいッス?」

 

「これからよろしくね」

 

「!」

 

 ガンマの顔がぱっと明るくなる。

 

「もちろんッス!」

 

 そして。

 

「フウマさんの仲間は、俺の仲間ッス!」

 

「……」

 

 ルーシィは少しだけ驚いた。

 

 そして。

 

「ふふっ」

 

 優しく笑った。

 

「ありがとう」

 

     *

 

 やがて。

 

 ギルドの中央へ戻ったルーシィ。

 

 そこには、いつの間にか大勢の魔導士が集まっていた。

 

「ルーシィ!」

 

「はい!」

 

 誰かが手を差し出す。

 

「ようこそ!」

 

「……!」

 

 その一言を聞いた瞬間。

 

 ルーシィの胸が大きく震えた。

 

 ようこそ。

 

 その言葉。

 

 ずっと欲しかった言葉だった。

 

 ハートフィリア家の娘としてではない。

 

 貴族としてでもない。

 

 ただ――。

 

 ルーシィとして。

 

「……うん!」

 

 ルーシィは差し出された手を握る。

 

「あたし――」

 

 笑顔になる。

 

「よろしくお願いします!」

 

 その瞬間。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 ギルド内から歓声が上がった。

 

「よろしくな、ルーシィ!」

 

「困ったら言えよ!」

 

「依頼に行くなら俺たちも手伝うぜ!」

 

「歓迎するぞ!」

 

「飲めーっ!」

 

「だから昼間だって!」

 

 再び大騒ぎになる。

 

「もう!」

 

 ルーシィは笑いながら叫んだ。

 

「みんな、騒ぎすぎよ!」

 

 だが。

 

 その顔は、嬉しそうだった。

 

 フウマはそんな彼女を少し離れた場所から見つめていた。

 

 最初に出会った頃。

 

 彼女はハートフィリア家の屋敷の中で、不安を抱えていた。

 

 自分が狙われている理由も分からず。

 

 何を信じればいいのかも分からず。

 

 ただ一人で恐怖に耐えていた。

 

 それが今は。

 

 大勢の仲間たちに囲まれて笑っている。

 

「……よかった」

 

 フウマは小さく呟いた。

 

 すると。

 

「何が?」

 

 隣にエルザが立つ。

 

「ルーシィだよ」

 

「そうだな」

 

 エルザもルーシィを見る。

 

「彼女にとって、ここは良い場所になるだろう」

 

「うん」

 

 フウマは頷いた。

 

「これなら僕一人で守る必要もなくなる」

 

「それだけではない」

 

「え?」

 

「ルーシィ自身も、この場所で強くなる」

 

 フウマは目を細める。

 

「……そうだね」

 

 その言葉通り。

 

 ルーシィは今。

 

 新しい人生の一歩を踏み出した。

 

     *

 

 その日の夕方。

 

 妖精の尻尾の壁には、一つの新しい印が刻まれた。

 

 正式な紋章ではない。

 

 まだ仮加入。

 

 それでも。

 

 ルーシィはその印を見つめていた。

 

「……」

 

 指先でそっと触れる。

 

「これが……妖精の尻尾」

 

 その横にフウマが立つ。

 

「気に入った?」

 

「うん」

 

 ルーシィは笑った。

 

「大好き」

 

「そっか」

 

「ねえ、フウマ」

 

「ん?」

 

「あたし、ここで頑張る」

 

 ルーシィは真っ直ぐ前を見る。

 

「守られてるだけじゃなくて、自分でも戦えるようになりたい」

 

「……うん」

 

「いつか正式に加入できるくらい」

 

 フウマは優しく微笑んだ。

 

「その時は、みんなが喜ぶよ」

 

「本当?」

 

「うん。今日の歓迎を見たら分かるでしょ?」

 

「……そうね」

 

 ルーシィはギルドを見る。

 

 そこにはまだ、仲間たちの笑い声が響いている。

 

 ナツとグレイは相変わらず喧嘩している。

 

 エルザは二人を叱っている。

 

 ガンマは誰かに捕まって服を着せ替えられそうになっている。

 

「ちょ、ちょっと待つッス! なんで俺に女の子みたいな服を持って近付くんッスか!?」

 

「似合うからよ!」

 

「嫌ッス~!」

 

 ルーシィは吹き出した。

 

「ふふっ……!」

 

 フウマも笑う。

 

 その時。

 

 窓から風が入り込んだ。

 

 ルーシィの髪を揺らす。

 

 フウマの銀髪も揺れる。

 

 まるで。

 

 新たな仲間を祝福するように。

 

 穏やかな風が、二人の間を通り抜けていった。

 

 ――こうして。

 

 ルーシィ・ハートフィリアは、妖精の尻尾へと仮加入した。

 

 それは単なる護衛のための措置ではなかった。

 

 彼女にとって。

 

 初めて、自分自身で選んだ居場所。

 

 そして――。

 

 彼女を守るために集まった仲間たちと共に歩む、長い物語の始まりだった。

 

 だが。

 

 その一方で。

 

 妖精の尻尾の外。

 

 誰にも知られぬ場所で。

 

 一枚の古文書を前にしていた男が、静かに口元を歪めていた。

 

「……ハートフィリアの娘が、妖精の尻尾へ入ったか」

 

 その目には、異様な執念が宿っている。

 

「ならば、次の手を使うまでだ」

 

 男の指が、古文書に記された文字をなぞる。

 

 ――星喰いの門。

 

「今度は……あのギルドごと、巻き込んでやる」

 

 闇はまだ、動いている。

 

 そして。

 

 ルーシィが妖精の尻尾へ入ったことで――。

 

 物語は、新たな段階へ進もうとしていた。




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