『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

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第19話 颶風の射手――新たなる風

第19話 颶風の射手――新たなる風

 

 

 妖精の尻尾に、ルーシィ・ハートフィリアが仮加入してから数日。

 

 ハートフィリア家を取り巻いていた緊張は、ほんの少しだけ和らいでいた。

 

 もちろん、ルーシィを狙う闇ギルドの脅威が消えたわけではない。

 

 それでも、彼女の護衛をフウマ一人が背負う必要はなくなった。

 

 妖精の尻尾という大きな家族が、彼女を守っている。

 

 それは、フウマにとっても大きな意味を持っていた。

 

「……よし」

 

 朝。

 

 妖精の尻尾の依頼掲示板の前で、フウマは一枚の依頼書を手に取った。

 

「これにしよう」

 

「どんな依頼?」

 

 隣からルーシィが顔を覗かせる。

 

「風車村の護衛依頼。最近、街道を通る商人が魔獣に襲われてるみたい」

 

「魔獣退治?」

 

「うん。ついでに原因も調べてほしいって」

 

「なるほど……」

 

 ルーシィが依頼書を読んでいると。

 

「フウマさん!」

 

 背後から聞き慣れた声が飛んできた。

 

「俺も行くッス!」

 

 ガンマだった。

 

 灰色のツナギ姿で、尻尾でも付いているかのようにフウマの後ろに付いている。

 

「ガンマも?」

 

「もちろんッス!」

 

「じゃあ、お願いしようかな」

 

「任せるッス!」

 

 ガンマが拳を握る。

 

 その様子を見て、ルーシィが笑った。

 

「相変わらずフウマのこと大好きよね、ガンマ」

 

「命の恩人ッスから!」

 

「そんなに?」

 

「そんなにッス!」

 

 即答だった。

 

 フウマは苦笑する。

 

「じゃあ、三人で行こうか」

 

「はい!」

 

「了解ッス!」

 

 こうして三人は、依頼先へ向かうことになった。

 

 そして。

 

 この依頼が、新たな一人の魔導士との出会いを生むことになるとは――。

 

 この時のフウマは、まだ知らなかった。

 

     *

 

 風車村。

 

 その名の通り、村のあちこちに大きな風車が立ち並ぶ小さな集落だった。

 

 丘の上に建てられた風車が、吹き抜ける風を受けてゆっくりと回っている。

 

 だが。

 

 村人たちの表情は明るくなかった。

 

「最近、魔獣が街道に出るようになってな……」

 

 村長が困った顔で話す。

 

「商人も怖がって来なくなってしまった」

 

「魔獣の種類は?」

 

 フウマが尋ねる。

 

「狼型が多い。だが、妙なんだ」

 

「妙?」

 

「ああ。魔獣そのものは強くない。なのに、近づいた者を執拗に追い回す」

 

 フウマは考える。

 

「縄張り争い……という感じではなさそうですね」

 

「そうなんだ」

 

 村長が頷く。

 

「だから、原因も調べてほしい」

 

「分かりました」

 

 フウマは依頼書をしまう。

 

「調査と討伐、両方引き受けます」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

     *

 

 村の外れ。

 

 三人は街道を歩いていた。

 

 風が吹く。

 

 木々の葉が擦れ合い、さらさらと音を立てる。

 

「……静かね」

 

 ルーシィが辺りを見回す。

 

「魔獣がいるようには見えないけど」

 

「だからこそ注意しよう」

 

 フウマが立ち止まる。

 

「……」

 

 目を閉じる。

 

 風の流れを感じる。

 

 空気。

 

 匂い。

 

 音。

 

 遠くの木々が揺れる音。

 

 鳥の羽ばたき。

 

 そして――。

 

「来る」

 

「え?」

 

 直後。

 

 森の奥から、複数の魔獣が飛び出してきた。

 

「きゃっ!」

 

「ルーシィ!」

 

 フウマが前へ出る。

 

 風が渦巻く。

 

「風よ――」

 

 しかし。

 

「待ってください」

 

 その声は、森の奥から聞こえた。

 

 フウマが動きを止める。

 

「……?」

 

 魔獣たちが一斉に足を止めた。

 

 そして。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 森の木々の隙間から、一人の女性が姿を現した。

 

 深緑色のミディアムヘア。

 

 青みがかった緑色の瞳。

 

 常に半目のような、どこか眠たげな目。

 

 口元はアイボリーホワイトのネックウォーマーで隠されている。

 

 緑色のジャケット。

 

 黒いホットパンツ。

 

 そして、太腿まで伸びたアイボリーホワイトのロングブーツ。

 

 彼女の手には――。

 

 風で作られた弓が握られていた。

 

「……」

 

 女性は無言のまま弓を構える。

 

 次の瞬間。

 

 風が一本の矢へと集まった。

 

「《ウィンドメイク・アーチェリー》」

 

 放たれた矢が。

 

 空中で分裂する。

 

 一。

 

 二。

 

 四。

 

 八。

 

 無数の風の矢が、魔獣たちの周囲へ降り注いだ。

 

 直接命中させるのではない。

 

 逃げ道を完全に塞ぐように、地面へ突き刺さる。

 

「……!」

 

 ルーシィが驚く。

 

 魔獣たちは怯み、その場で立ち止まった。

 

「捕捉」

 

 女性が呟く。

 

「対象の動きを確認しました」

 

 そして。

 

 一本の矢をつがえる。

 

 今度の矢は明らかに違った。

 

 圧縮された風が、矢尻の先で激しく渦巻いている。

 

「《ウィンドメイク・トルネードアロー》」

 

 放つ。

 

 風を纏った矢が一直線に飛び――。

 

 魔獣の足元へ突き刺さった。

 

「……!」

 

 瞬間。

 

 圧縮されていた風が炸裂する。

 

 爆発的な風圧。

 

 魔獣たちは吹き飛ばされ、木々の間へ転がっていった。

 

 しかし。

 

 致命傷は負わせていない。

 

「……すごい」

 

 ルーシィが呟く。

 

「風の魔法……」

 

 フウマも、じっと彼女を見ていた。

 

「……造形魔法」

 

「肯定」

 

 女性はフウマを見る。

 

「風の造形魔法です」

 

「珍しいね」

 

「肯定。使用者は多くありません」

 

「君、一人でこの魔獣たちを?」

 

「否定」

 

 彼女は首を横に振った。

 

「原因を調査していました」

 

「原因?」

 

「肯定」

 

 彼女は森の奥を見る。

 

「この魔獣たちは何かに追われています」

 

「……何かに?」

 

「肯定。正確には――」

 

 女性は耳元に手を当てた。

 

「捕捉」

 

 その瞬間。

 

 彼女の表情が僅かに変化する。

 

「地下です」

 

「地下?」

 

「肯定。約二百メートル先。地中から異常な音が聞こえます」

 

 ルーシィが目を丸くする。

 

「音が聞こえるの?」

 

「肯定」

 

 女性は淡々と答えた。

 

「私の第二の魔法です。聴覚を強化しています」

 

「すごい……」

 

 ルーシィは感心する。

 

「それなら遠くの敵も見つけられるのね」

 

「肯定。索敵には有効です」

 

 女性は淡々と答えた。

 

 その姿を見ながら、フウマは微笑む。

 

「なるほど」

 

 風を操る魔法。

 

 さらに聴覚による索敵。

 

 遠距離戦闘と後方支援。

 

 かなり優秀な魔導士だ。

 

「君の名前は?」

 

 フウマが尋ねた。

 

「……」

 

 一拍。

 

「カザネ・リューティスです」

 

「カザネさん」

 

「肯定」

 

「僕はフウマ・レインハルト」

 

「……!」

 

 その瞬間。

 

 カザネの目が、ほんの少しだけ開いた。

 

「……風神」

 

「知ってるの?」

 

「肯定。妖精の尻尾所属。二つ名――風神」

 

「そうだけど」

 

 カザネはフウマを見る。

 

 そして。

 

「疑問」

 

「何?」

 

「あなたが、この依頼の担当者ですか?」

 

「うん」

 

「……納得しました」

 

「?」

 

 カザネは静かに頷いた。

 

「風を使う魔導士として、一度お会いしてみたいと思っていました」

 

 フウマは少し驚いた。

 

「僕に?」

 

「肯定」

 

 カザネは周囲を見る。

 

「今回の依頼についてですが、地下から聞こえる音が原因です」

 

「じゃあ、そこを調べよう」

 

「肯定。案内します」

 

     *

 

 地下には、古い魔導鉱石の採掘跡が残されていた。

 

 そこには巨大な魔獣が巣を作っていた。

 

 魔獣の咆哮に驚いた狼型魔獣たちが地上へ逃げ出していたのだ。

 

「なるほど」

 

 フウマが頷く。

 

「これなら話が繋がるね」

 

「肯定」

 

 カザネが弓を構える。

 

「ターゲットを捕捉しました」

 

「僕が前に出る」

 

「了解」

 

「ガンマはルーシィを守って」

 

「任せるッス!」

 

 ガンマが巨大な岩の腕を構える。

 

「ルーシィさんには指一本触れさせないッス!」

 

「ありがとう、ガンマ!」

 

 そして。

 

 戦闘が始まった。

 

 巨大な魔獣が突進してくる。

 

「《大地竜の剛拳》!」

 

 ガンマの拳が魔獣を真正面から受け止めた。

 

「ぐっ……!」

 

 地面が大きく沈む。

 

「止めるッス!」

 

 その隙に。

 

「ウィンドメイク――」

 

 カザネが弓を引く。

 

「アーチェリー」

 

 無数の矢が飛ぶ。

 

 魔獣の足を正確に狙い、動きを封じる。

 

「今です」

 

「ありがとう!」

 

 フウマが踏み込む。

 

「――風竜の……」

 

 風が巻き上がる。

 

 しかし。

 

 フウマは途中で魔法を止めた。

 

「……いや」

 

 風が静まる。

 

 そして。

 

 拳を握る。

 

「僕一人じゃないんだ」

 

 風が彼の周囲を舞う。

 

 カザネが目を細める。

 

「……」

 

 フウマは微笑んだ。

 

「一緒にやろう」

 

「肯定」

 

 カザネが矢を放つ。

 

 風が魔獣の動きを封じる。

 

 ガンマが地面を隆起させる。

 

「逃がさないッス!」

 

 魔獣の身体が地面へ固定される。

 

 そして。

 

「風竜の――」

 

 フウマの風が、一点へ集まった。

 

「――衝撃!」

 

 轟音。

 

 巨大な風圧が魔獣を吹き飛ばした。

 

 戦いは終わった。

 

     *

 

 依頼を終えた一行は、村へ戻った。

 

 村人たちから感謝される中。

 

 カザネは少し離れた場所に立っていた。

 

 フウマが彼女のところへ向かう。

 

「カザネさん」

 

「はい」

 

「一つ聞いていい?」

 

「疑問。何でしょうか」

 

「どうして一人でここまで調査してたの?」

 

 カザネは少し黙った。

 

「……妖精の尻尾に加入するためです」

 

「え?」

 

 ルーシィも驚いて振り返る。

 

「妖精の尻尾に?」

 

「肯定」

 

 カザネは静かに頷いた。

 

「以前から、妖精の尻尾への加入を希望していました」

 

「だったら――」

 

 フウマが微笑む。

 

「一緒に来る?」

 

「……」

 

 カザネの目が僅かに見開かれる。

 

「今回の依頼で君の実力は分かった」

 

 フウマは続ける。

 

「遠距離支援も索敵もできる。ギルドにとって頼もしい仲間になると思うよ」

 

「……」

 

 カザネはしばらく黙っていた。

 

 やがて。

 

「肯定」

 

 小さく頷く。

 

「よろしくお願いいたします」

 

 ルーシィが嬉しそうに笑う。

 

「やった! 新しい仲間ね!」

 

「……まだ加入希望を出しただけです」

 

「でも、きっと大丈夫よ!」

 

 ルーシィが笑う。

 

 カザネは少しだけ彼女を見る。

 

「……肯定」

 

 そして。

 

「あなたも、妖精の尻尾の方ですか?」

 

「うん!」

 

「あたしはルーシィ・ハートフィリア!」

 

「……」

 

 カザネの視線が少しだけ変わった。

 

「ハートフィリア……」

 

「?」

 

「いえ。何でもありません」

 

 カザネはそう言って、空を見上げた。

 

 風が吹いている。

 

 彼女の深緑色の髪が揺れる。

 

「……良い風ですね」

 

 フウマも空を見上げた。

 

「うん」

 

 二人の間を、一陣の風が通り抜ける。

 

 風神。

 

 そして、まだその名を持たない一人の射手。

 

 この時はまだ。

 

 彼女は風神衆ではない。

 

 ただ、妖精の尻尾という新しい居場所を求める、一人の魔導士だった。

 

 だが――。

 

 いつの日か彼女は。

 

 風を操る弓使いとして、その名を轟かせることになる。

 

 ――颶風の射手、カザネ・リューティス。

 

 その物語の第一歩が、今始まった。




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