『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』 作:パスカルDX
第20話 新たなる仲間――妖精の尻尾へ
風車村での依頼を終えた翌日。
マグノリアの街には、いつもと変わらない穏やかな風が吹いていた。
街路樹の葉がさらさらと揺れ、建物の間を抜けた風が、石畳の上を軽やかに駆け抜けていく。
その風を感じながら、フウマ・レインハルトは妖精の尻尾へ続く道を歩いていた。
隣にはルーシィ。
少し後ろにはガンマ。
そして――。
「……」
さらにその後ろを、一人の女性が静かについてきている。
深緑色の髪。
青みがかった緑色の瞳。
アイボリーホワイトのネックウォーマーで口元を隠し、緑色のジャケットと黒いホットパンツを身に着けた女性。
カザネ・リューティス。
昨日、フウマたちと依頼先で出会った魔導士だった。
「ねえ、カザネ」
「肯定」
「緊張してる?」
「否定」
即答だった。
「緊張はしていません」
「本当に?」
「肯定。多少の不安はありますが、緊張とは異なります」
「……それを緊張って言うんじゃない?」
「疑問。そうなのですか?」
「たぶん」
「納得」
淡々とした会話。
ルーシィは思わず吹き出した。
「ふふっ……カザネって面白いわね」
「疑問。面白い、ですか?」
「うん」
「……理解不能です」
「そこも面白い!」
「……」
カザネは黙り込んだ。
その様子を見ていたフウマが、穏やかに笑う。
「カザネはそのままでいいと思うよ」
「……肯定」
カザネは小さく頷いた。
だが。
その瞳には、ほんの僅かに期待が宿っていた。
今日。
彼女は妖精の尻尾への加入を正式に希望する。
それは、彼女にとって大きな決断だった。
*
妖精の尻尾の扉が見えてくる。
カザネの歩みが、ほんの少しだけ遅くなった。
「……」
巨大な建物。
その壁に掲げられた、妖精の尻尾の紋章。
これまで遠くから見ていた場所。
そこへ、今から自分が入ろうとしている。
カザネは立ち止まった。
「……」
「どうしたの?」
ルーシィが振り返る。
「確認」
「うん?」
「本当に、私が加入を希望しても問題ないでしょうか」
「もちろん!」
ルーシィが笑う。
「昨日フウマが言ってたじゃない。きっとみんな歓迎してくれるって」
「……」
カザネはフウマを見る。
「フウマさん」
「何?」
「私は……このギルドに必要でしょうか」
フウマは少しだけ考えた。
そして。
「必要かどうかを決めるのは、これからだと思う」
「……」
「でも」
フウマは優しく微笑む。
「昨日一緒に戦って、僕は君と一緒に戦いたいと思ったよ」
「……!」
カザネの瞳が僅かに揺れた。
「君の索敵能力はすごく頼りになる。遠距離からの援護もできる」
「……」
「だから、僕は歓迎する」
「……肯定」
カザネは静かに頭を下げた。
「ありがとうございます」
「うん」
「……行きましょう」
カザネは今度こそ歩き出した。
その足取りに、迷いはなかった。
*
ギィィィ……。
扉が開く。
「ただいま」
フウマの声が響いた。
「おかえりー!」
「フウマ!」
「帰ってきたか!」
いつものように、ギルド内から声が飛んでくる。
そして。
「……あれ?」
誰かが気付いた。
「後ろにいるの、誰だ?」
一斉に視線が集まる。
カザネは入り口で立ち止まった。
何十人もの魔導士たち。
その視線が自分へ向けられている。
「……」
表情は変わらない。
しかし。
手が僅かにジャケットの裾を握った。
ルーシィが小声で言う。
「大丈夫よ」
「肯定」
カザネは一歩前へ出た。
「紹介」
ギルド内が静かになる。
「私はカザネ・リューティスです」
淡々とした声。
「昨日、風車村の依頼でフウマさんたちと共に行動しました」
「へえ!」
ナツが興味津々に近づいてくる。
「お前、風の魔法使うんだろ?」
「肯定」
「俺、炎!」
ナツが拳に炎を灯す。
「よろしくな!」
「よろしくお願いいたします」
カザネが頭を下げる。
「堅ぇな!」
ナツは笑った。
「もっと普通でいいぞ!」
「疑問。普通とは?」
「え?」
「……」
「……まあいいや!」
ナツが笑う。
「仲良くしようぜ!」
「肯定」
カザネは頷いた。
*
「カザネさん」
ミラジェーンが近づいてきた。
「私はミラジェーン。よろしくね」
「よろしくお願いいたします」
「ふふっ。そんなにかしこまらなくても大丈夫よ」
「努力します」
「うん。それで十分」
ミラジェーンは優しく微笑んだ。
その笑顔に、カザネの緊張が少しずつ解れていく。
すると。
「で、魔法は?」
グレイが尋ねる。
「風の造形魔法です」
「造形魔法?」
「肯定。風や空気に形を与え、武器として使用します」
「へえ」
「主に弓を使用します」
「弓か!」
ナツが目を輝かせる。
「遠くから攻撃する奴だな!」
「肯定」
「じゃあ俺が前で戦って、お前が後ろから撃てば強そうだな!」
「肯定。合理的です」
「よし! 今度一緒に依頼行こうぜ!」
「……肯定」
カザネの口元がネックウォーマーの下で僅かに緩んだ。
*
その時。
「ちょっと待ちな」
低い声が響いた。
ラクサスだった。
カザネを見る。
「弓使いか」
「肯定」
「どれくらい遠くまで届く?」
「条件によります」
「例えば?」
「現在の魔力なら、数キロ先まで」
「……」
ギルド内が静かになった。
「数キロ?」
グレイが目を丸くする。
「肯定」
「聞き間違いじゃねぇよな?」
「否定」
ラクサスは少しだけ口元を上げた。
「面白ぇ」
その言葉にカザネがラクサスを見る。
「雷神、ラクサスさん」
「知ってるのか」
「肯定。フウマさんの親友であることも」
「……フウマから聞いたか」
「肯定」
ラクサスはフウマを見る。
「お前、随分と信頼されてんな」
「そうなのかな」
「そうだろ」
ラクサスは笑う。
「まあ、悪くねぇ」
そしてカザネへ向き直る。
「歓迎するぜ」
「……」
「俺も、お前みたいな奴は嫌いじゃねぇ」
「感謝」
カザネは頭を下げた。
*
やがて。
ギルドマスターの前へカザネが立った。
正式な加入の確認。
彼女の顔には、いつもの無表情が浮かんでいる。
だが。
胸の奥では、これまでにないほど心臓が速く鼓動していた。
「加入希望、か」
マスターが尋ねる。
「肯定」
「理由は?」
カザネは少しだけ沈黙した。
そして。
「……居場所が欲しいからです」
ギルド内が静かになる。
「私は一人で仕事をすることが多く、誰かと共に行動することも少ない人間でした」
「……」
「ですが、昨日フウマさんたちと依頼をして理解しました」
カザネはフウマを見る。
「仲間と共に戦うということが、これほど心強いものなのだと」
フウマは静かに微笑んだ。
「だから――」
カザネはギルドの紋章を見る。
「私も、この場所の一員になりたいです」
しばしの沈黙。
そして。
「……よし」
マスターが笑った。
「妖精の尻尾へようこそ」
「……」
その言葉を聞いた瞬間。
カザネの瞳が大きく揺れた。
「……」
声が出ない。
代わりに。
「……肯定」
小さく頷いた。
その瞬間。
「よっしゃあ!」
「新入りだ!」
「歓迎会だ!」
「また騒ぐのか!?」
ギルド内が一気に沸き上がった。
「えっ……」
カザネが僅かに後ずさる。
「これは……?」
ルーシィが笑う。
「妖精の尻尾の恒例行事よ」
「疑問。恒例……?」
「歓迎会!」
「……理解しました」
だが。
その瞬間。
「乾杯!」
「おおおおおっ!!」
グラスがぶつかる音。
笑い声。
音楽。
大騒ぎ。
カザネは目を瞬いた。
そして。
気付けば。
自分もその輪の中にいた。
*
「カザネ!」
ルーシィが隣に座る。
「これ食べてみて!」
「?」
「美味しいわよ」
「……」
カザネは一口食べる。
「……」
「どう?」
「肯定。美味しいです」
「でしょ!」
ルーシィが嬉しそうに笑う。
「これからよろしくね」
「こちらこそ」
「敬語じゃなくてもいいのに」
「努力します」
「ふふっ」
少し離れたところでは。
「カザネさん!」
ガンマも手を振っていた。
「これからよろしくお願いするッスよ~!」
「肯定。よろしくお願いいたします」
「俺、ガンマッス!」
「存じています」
「えっ」
ガンマが固まる。
「なんで知ってるッス?」
「フウマさんから聞きました」
「……」
ガンマがフウマを見る。
「フウマさん、俺のことどれくらい話したッスか?」
「それなりに」
「それなりって何ッスか~!」
ギルドに笑い声が響く。
カザネはそんな光景を見つめていた。
賑やかで。
騒がしくて。
少し疲れる。
けれど。
不思議と嫌ではなかった。
「……」
カザネは、自分の胸元へそっと手を当てる。
そこには。
今まで感じたことのない温かさがあった。
*
夕方。
騒ぎが落ち着いた頃。
カザネはギルドの外へ出た。
風が吹いている。
彼女は目を閉じた。
「……」
遠くの街の音。
鳥の鳴き声。
人々の話し声。
風に揺れる木々。
全てが耳へ入ってくる。
その中に。
新しく聞こえる音があった。
ギルドの中から聞こえる笑い声。
「……」
カザネは振り返る。
妖精の尻尾。
今日から自分の居場所になった場所。
「……肯定」
小さく呟く。
「ここに来て……良かったです」
そこへ。
「カザネ」
フウマがやって来た。
「どう?」
「肯定」
「それなら良かった」
「フウマさん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「僕は何もしてないよ」
「否定」
カザネは首を横に振る。
「あなたがいなければ、私はここへ来ることはありませんでした」
「……」
「昨日、あなたが『一緒に来る?』と言ってくださったからです」
フウマは少し照れたように笑う。
「じゃあ……これからは仲間だね」
「……」
カザネはフウマを見る。
「肯定」
そして。
「これからも、よろしくお願いいたします」
「うん。よろしく」
二人の間を、風が通り抜ける。
銀色の髪と深緑色の髪が、同時に揺れた。
だが。
この時のカザネは、まだ知らない。
やがてフウマの周囲に集まる、特別な仲間たち。
その名が――。
風神衆。
その一員として、自分が数えられる日が来ることを。
今はまだ。
ただ一人の新入り魔導士。
ただ一人の弓使い。
それで十分だった。
――新たな風は、妖精の尻尾へ吹き始めた。
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