『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』 作:パスカルDX
第4話 質問攻め! 風神が語る妖精の尻尾
ハートフィリア家の屋敷。
昼食を終えたルーシィは、自室のソファに腰を下ろしていた。
その向かいにはフウマがいる。
窓から差し込む午後の日差しが、彼の銀色の長い髪を柔らかく照らしていた。
静かな部屋。
庭から聞こえてくる鳥の声。
先ほどまで厨房で騒いでいたことが嘘のように、穏やかな時間が流れている。
――ただし。
それは、ほんの数秒のことだった。
「ねえ、フウマ!」
「うん?」
「妖精の尻尾って、どんなところなの!?」
「……」
フウマは瞬きをした。
質問の意味そのものは分かる。
ルーシィが妖精の尻尾に憧れていることも、昨日から何度も聞かされている。
だが。
「どんなところ、と言われると……」
「どんな魔導士がいるの!?」
「えっと……」
「ナツってどんな人!?」
「……」
「エルザは!?」
「……」
「グレイは!?」
「……」
「ハッピーって本当に猫なの!? それとも魔法生物なの!?」
「ちょっと待って」
「ミラジェーンってどんな人!? カナってお酒飲むの!? レビィって本が好きなの!? エルフマンって本当に筋肉すごいの!? ラクサスはやっぱり怖い!? それでフウマは――」
「ルーシィ」
「なに!?」
「一つずつ聞こう」
ルーシィはぴたりと止まった。
数秒。
そして――。
「……ごめん」
しゅん、と肩を落とす。
その様子を見たフウマは、思わず苦笑した。
「そんなに落ち込まなくていいよ」
「だって……」
ルーシィは膝を抱えた。
「ずっと気になってたんだもん」
その言葉に、フウマは少しだけ表情を柔らかくした。
ルーシィがどれほど妖精の尻尾に憧れているのか。
それは今までの会話でも十分に伝わっている。
屋敷にいる時も。
街を歩いている時も。
彼女は何度も妖精の尻尾の名前を口にしていた。
まるで、まだ見たことのない宝物について語るように。
「……じゃあ、話そうか」
「本当!?」
ルーシィの顔が一気に明るくなる。
「うん」
「やった!」
「ただし」
フウマは人差し指を立てる。
「僕が話せる範囲だけだからね」
「分かった!」
「あと、質問するときは一つずつ」
「うん!」
ルーシィは背筋を伸ばした。
そして真剣な表情になる。
「じゃあ……まず!」
フウマは覚悟を決めた。
「妖精の尻尾って、どんなギルドなの?」
その問いに、フウマは少しだけ考えた。
そして窓の外へ視線を向ける。
「……一言で説明するのは難しいかな」
「難しい?」
「うん」
「どうして?」
「騒がしくて、喧嘩も多くて、建物が壊れることもある」
「……」
「でも」
フウマは微笑んだ。
「誰かが困っていたら、必ず誰かが助けに行く」
ルーシィは黙って聞いていた。
「家族みたいな場所なんだ」
「家族……」
「血が繋がっているわけじゃない。でも、仲間が困っていたら放っておけない」
フウマの声は穏やかだった。
「だから僕は、妖精の尻尾が好きなんだ」
その言葉を聞いたルーシィの胸が、少しだけ温かくなる。
「……いいな」
「うん」
「やっぱり、あたしも入りたい」
「そうだね」
「絶対に入る」
「応援するよ」
「ありがとう!」
ルーシィは嬉しそうに笑った。
そして。
「じゃあ次!」
「……まだあるんだね」
「もちろん!」
質問攻めは、ここからが本番だった。
「ナツってどんな人!?」
「ナツは……元気すぎるかな」
「元気?」
「うん。とにかくじっとしていられない」
「へえ!」
「それに火の滅竜魔導士だから、よく僕に勝負を挑んでくる」
「フウマに?」
「うん」
「どうなるの?」
「だいたい僕が風で飛ばす」
「えぇ……」
ルーシィは苦笑した。
「でも、仲はいいんだよね?」
「もちろん」
フウマは頷く。
「ナツは真っ直ぐなんだ。考えるより先に動くところはあるけど、仲間を大切にする気持ちは誰より強いと思う」
「なるほど……」
ルーシィは小さなノートを取り出した。
「ちょっと待って」
「?」
「メモするから」
「そこまで?」
「当然でしょ!」
ルーシィは真剣な顔で書き始めた。
――ナツ・ドラグニル。
――火の滅竜魔導士。
――元気すぎる。
――フウマに勝負を挑む。
――仲間思い。
「よし!」
「……本当に入る気なんだね」
「当たり前じゃない!」
ルーシィは顔を上げた。
「次、エルザ!」
「エルザは……」
フウマは少し考える。
「強いよ」
「やっぱり!」
「それに厳しい」
「やっぱり!」
「でも優しい」
「……」
「仲間が間違ったことをしたら、きちんと叱る人だよ」
「へえ……」
「妖精の尻尾では、かなり頼りになる存在だね」
ルーシィは再びノートに書く。
――エルザ・スカーレット。
――強い。
――厳しい。
――優しい。
「……なんか、すごい人なんだね」
「うん」
「じゃあ、グレイ!」
「グレイは――」
「服を脱ぐ人?」
「……」
フウマの動きが止まった。
「……どうして知ってるの?」
「噂で聞いたの!」
「まあ……否定はできないかな」
「やっぱり!」
ルーシィが笑う。
「グレイは氷の魔導士。ナツとはよく喧嘩してる」
「仲悪いの?」
「喧嘩するほど仲がいい、って感じかな」
「なるほど」
「ただ、依頼ではちゃんと協力するよ」
「妖精の尻尾って、本当にいろんな人がいるのね」
「そうだね」
フウマは頷いた。
「だから面白いんだと思う」
「ハッピーは?」
「ああ、ハッピーは――」
「本当に猫!?」
「うん」
「しゃべるの!?」
「しゃべるよ」
「飛ぶ!?」
「飛ぶ」
「魔法!?」
「翼が生える魔法を使うね」
ルーシィの目が輝く。
「何それ! 可愛い!」
「本人に言ったら喜ぶと思う」
「会いたい!」
「そのうち会えるよ」
「本当!?」
「ああ」
ルーシィは嬉しそうに笑った。
そして再びノートへ目を落とす。
しかし。
まだまだ質問は終わらない。
「ミラジェーンは?」
「優しいよ」
「美人?」
「うん」
「料理できる?」
「できる」
「強い?」
「……かなり」
「へえ……」
「怒らせない方がいい」
「怖っ!」
ルーシィが目を丸くする。
「普段はすごく優しいんだけどね」
「そういう人ほど怖いのよ……」
「それは分かる」
フウマは苦笑した。
「カナは?」
「お酒が好き」
「やっぱり!」
「カード魔法を使う」
「占いとかもする?」
「うん。たまにギルドでカードを広げてるよ」
「レビィは?」
「本が好きで、知識も豊富」
「じゃあ話が合いそう!」
「そうだね」
「エルフマンは?」
「男気のある人だよ」
「筋肉すごい?」
「すごい」
「やっぱり……」
ルーシィは想像した。
筋肉。
筋肉。
筋肉。
「……妖精の尻尾って、筋肉率高くない?」
「否定はしないかな」
二人で笑った。
そんな中。
ルーシィは、ふと一つの名前を思い出した。
「ねえ」
「うん?」
「ラクサスって?」
フウマの表情が少し変わった。
ほんの僅か。
けれどルーシィは気づいた。
「ラクサス?」
「僕の親友だよ」
「親友……」
「雷の滅竜魔導士」
「じゃあ、フウマと同じ?」
「うん。ラクサスは雷神。僕は風神」
「雷神……風神……」
ルーシィは二人を想像した。
「……すごそう」
「まあ、よく喧嘩はするけどね」
「喧嘩するの?」
「腕試しみたいなものだよ」
「フウマとラクサスが?」
「うん」
「どっちが強いの?」
フウマは少し考える。
「……分からない」
「え?」
「戦う場所や条件で変わるから」
「へえ……」
フウマは穏やかに笑った。
「でも、ラクサスは僕の大切な親友だよ」
その言葉に、ルーシィは少し微笑んだ。
「そっか」
そして。
「じゃあ、次!」
「まだあるんだ」
「もちろん!」
ルーシィの目が輝く。
「ガンマっていう子は?」
「……ガンマ?」
「うん。前に名前を聞いたことがあるの」
フウマは笑った。
「ガンマは僕が妖精の尻尾へ連れてきた子だよ」
「どんな子?」
「大地竜の滅竜魔導士」
「大地竜!?」
ルーシィの声が大きくなる。
「うん。第1世代」
「ナツと同じ!?」
「そう」
「すごい……!」
フウマはガンマの姿を思い浮かべる。
無造作に伸びたオレンジ色の髪。
淡い緑色のタレ目。
小柄で、女の子と間違われるほどの容姿。
灰色のツナギ。
そして――。
「見た目はすごく小さいよ」
「へえ」
「女の子みたいに見える」
「可愛い系?」
「うん」
「でも強いんでしょ?」
「ものすごく」
「どのくらい?」
「エルフマンより力がある」
「…………え?」
ルーシィの目が点になる。
「エルフマンより?」
「うん」
「本当に?」
「本当」
「嘘じゃなく?」
「嘘じゃないよ」
ルーシィは想像した。
小柄な少年。
オレンジ色の髪。
灰色のツナギ。
そして――。
エルフマン以上の怪力。
「……ギャップが凄すぎる」
「僕も最初は驚いたよ」
フウマは苦笑した。
「旅の途中で倒れていたところを僕が拾ったんだ」
「倒れてた?」
「空腹で」
「……」
「本当にお腹が空いて動けなくなってた」
「なんか……放っておけない子ね」
「うん」
フウマは少し嬉しそうに笑った。
「ガンマは大地竜グラガイアに育てられたんだ」
「グラガイア……」
「突然いなくなって、それを探すために旅をしていた」
「そうだったんだ……」
「だから、今でもグラガイアを探してる」
ルーシィはノートにゆっくり書き込む。
――ガンマ・アトラス。
――大地竜。
――オレンジ髪。
――灰色のツナギ。
――小柄。
――すごく怪力。
――グラガイアを探している。
そして。
「フウマのことが大好き?」
「……え?」
ルーシィがニヤッと笑う。
「今、嬉しそうに話してた」
「そうかな?」
「そうよ」
「……まあ、懐いてくれてるね」
「懐いてるってレベル?」
「うん?」
「前に会ったらどうなるの?」
フウマは少し考える。
「たぶん――」
その瞬間。
「フウマさぁぁぁん!!」
屋敷中に響き渡る声が聞こえた。
「……」
「……」
二人が同時に固まる。
そして。
ドタドタドタドタ!
猛烈な勢いで廊下を走る足音。
「フウマさんお帰りなさいッス――!」
「……噂をすれば」
「えっ!?」
ルーシィが振り返る。
扉が勢いよく開いた。
「フウマさ――」
そこに立っていたのは。
灰色のツナギを着た、小柄な少年だった。
オレンジ色の髪。
淡い緑色のタレ目。
一見すれば少女にしか見えない。
しかし。
「……あれ?」
少年はルーシィを見る。
「誰ッスか?」
「えっと……」
フウマが立ち上がる。
「ガンマ」
「はいッス!」
「こちらはルーシィ・ハートフィリア」
「ルーシィさんッスか!」
ガンマの顔が明るくなる。
「よろしくお願いするッスよ~」
「こ、こちらこそ……」
ルーシィは少し戸惑いながら頭を下げる。
そして。
「……本当に女の子みたい」
「よく言われるッス」
ガンマは全く気にしていない。
「ところでフウマさん!」
「うん?」
「今日もお世話になったんスか?」
「いや、僕は彼女の護衛だから」
「そうなんスね!」
ガンマは嬉しそうに笑った。
そしてフウマの横へぴったりとくっつく。
「……」
「……」
「フウマさんの隣、落ち着くッス~」
「ガンマ、ちょっと近いよ」
「そうッスか~?」
「うん」
「でも僕、フウマさんの隣好きッス」
「……まあ、いいけど」
その光景を見たルーシィは、思わず笑った。
「本当に懐いてるじゃない」
「だから言ったでしょ」
「犬みたい」
「……よく言われるッス」
ガンマは全く気にしていなかった。
むしろ嬉しそうだった。
「じゃあ、次!」
ルーシィが言う。
ガンマが首を傾げる。
「次?」
「ヴェロニカっていう人について教えて!」
その名前を聞いた瞬間。
ガンマが「ああ」と頷いた。
「ヴェロニカさんッスね」
「知ってるの?」
「もちろんッス」
フウマも頷く。
「ヴェロニカも妖精の尻尾の仲間だよ」
「どんな人?」
「一言で言えば……」
フウマは少し考えた。
「姉御肌かな」
「姉御?」
「荒っぽいけど、面倒見はいい」
「へえ」
「紅血竜の滅竜魔導士」
「また滅竜魔導士!?」
ルーシィは目を輝かせた。
「妖精の尻尾って、滅竜魔導士が多いのね!」
「そうだね」
フウマは笑う。
「ヴェロニカは血を操る魔法を使う」
「血……?」
「うん。血を吸収して魔力を回復することもできる」
「すごい……」
「紅血竜の咆哮、紅血竜の鉄拳、紅血竜の飛鱗っていう技を使う」
「かっこいい!」
ルーシィの目がさらに輝いた。
「どんな人なの?」
「ナツたちより少し年上で、かなり頼りになるよ」
「じゃあ、お姉さんって感じ?」
「そんな感じ」
ガンマが口を挟む。
「ただ、ちょっと怖いッス」
「ガンマ?」
「ヴェロニカさんに怒られると怖いッスよ~」
「余計なこと言うな」
突然。
部屋の外から声がした。
「……え?」
ルーシィが振り返る。
廊下に、一人の女性が立っていた。
紫色のショートヘア。
青と黄緑色のオッドアイ。
鋭い目つき。
身長は170センチほど。
黒を基調とした服装。
その立ち姿には、どこか野性的な雰囲気があった。
「ヴェ、ヴェロニカさん……」
ガンマの声が小さくなる。
「俺のこと話してたのか?」
「……少しだけ」
フウマが答える。
ヴェロニカは部屋へ入ってくる。
「ったく」
彼女は肩をすくめた。
「人のことを勝手に話題にするんじゃねぇよ」
「ご、ごめんなさい」
ルーシィが慌てて頭を下げる。
するとヴェロニカは、少しだけ目を丸くした。
「……お前がルーシィか」
「はい!」
「そうか」
ヴェロニカはルーシィを見つめる。
「俺はヴェロニカ・グレイス」
「ルーシィ・ハートフィリアです!」
「よろしくな」
「あ、はい!」
ヴェロニカはフウマを見る。
「フウマ」
「うん?」
「また面倒な仕事を引き受けたな」
「そうかな」
「そうだろ」
ヴェロニカは苦笑する。
だが、その表情には優しさがあった。
「まあ、こいつが選んだ道なら俺は何も言わねぇけどな」
「ありがとう」
「礼なんかいらねぇよ」
ヴェロニカはそう言って、ルーシィへ視線を戻した。
「妖精の尻尾に入りたいんだって?」
「はい!」
ルーシィは勢いよく頷いた。
「絶対に入りたいです!」
「……そうか」
ヴェロニカは少し笑った。
「だったら覚えとけ」
「?」
「妖精の尻尾は、楽しいだけの場所じゃねぇ」
「……」
「危険なこともある。仲間が傷つくこともある。それでも――」
ヴェロニカはルーシィの目を見る。
「それでも仲間を守りたいって思えるなら、お前はきっと馴染める」
ルーシィは黙っていた。
その言葉を、胸の中で何度も繰り返す。
やがて。
「……はい!」
力強く返事をした。
ヴェロニカは満足そうに頷いた。
「いい返事だ」
「ありがとうございます!」
「別に礼なんか――」
ヴェロニカはそこで言葉を止める。
そして少しだけ笑った。
「まあ、よろしくな」
「はい!」
その様子を見ていたフウマは、穏やかに微笑んだ。
こうしてルーシィは。
まだ妖精の尻尾に加入していないにもかかわらず、その仲間たちについて少しずつ知っていった。
ナツ。
エルザ。
グレイ。
ハッピー。
ミラジェーン。
カナ。
レビィ。
エルフマン。
ラクサス。
ガンマ。
そしてヴェロニカ。
個性的で、騒がしくて、強くて。
それでも、どこか温かい人たち。
ルーシィが夢見ていた「妖精の尻尾」という場所は、想像していた以上に大きなものだった。
そして。
「ねえ、フウマ」
「うん?」
「もっと聞いていい?」
「……まだあるの?」
「ある!」
「……」
フウマは苦笑した。
「じゃあ、どうぞ」
「やった!」
ルーシィはノートを開く。
「まず――」
ガンマがフウマの隣で笑う。
ヴェロニカは壁に背を預け、二人を眺めている。
窓から吹き込んだ風が、フウマの銀髪を揺らした。
その風は屋敷の中を静かに抜けていく。
そして誰も気づかない。
この何気ない午後が。
やがてルーシィにとって、かけがえのない記憶になることを。
そしてフウマにとっても。
「守るべき依頼対象」だった少女が――。
いつか、自分の帰る場所そのものになっていくことを。
ただ今は。
「フウマ!」
「うん?」
「次は妖精の尻尾の仕事について聞きたい!」
「分かった」
「あとナツとの戦い!」
「それは長くなるよ」
「聞きたい!」
「……じゃあ、ゆっくり話そうか」
「うん!」
ルーシィの笑顔が、部屋いっぱいに広がった。
風神の護衛生活。
その日から少しずつ。
それは、ただの「護衛任務」ではなくなり始めていた。
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