『FAIRY TAIL ―風神と雷神、そして星霊魔導士―』   作:パスカルDX

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第8話 二人のS級魔導士

第8話 二人のS級魔導士

 

 

 ハートフィリア家を包む空気は、日に日に重くなっていた。

 

 屋敷の外では、使用人たちがいつも通り仕事をしている。

 

 庭園には朝露が残り、整えられた花々は風に揺れている。

 

 一見すれば、何も変わらない。

 

 だが、屋敷の内側にいる者たちは知っていた。

 

 ――敵は、確実に近づいている。

 

 闇ギルド。

 

 そして、昨日突然持ち込まれたルーシィへの縁談。

 

 偶然だと考えるには、あまりにも出来すぎていた。

 

「……静かすぎる」

 

 屋敷の正門近く。

 

 フウマ・レインハルトは、一人で立っていた。

 

 銀色の長髪が風に揺れる。

 

 目を閉じる。

 

 風を感じる。

 

 鳥の羽ばたき。

 

 木々の葉擦れ。

 

 街道を行き交う馬車。

 

 遠くで聞こえる人々の声。

 

 そのすべてが、フウマの感覚へ流れ込んでくる。

 

 けれど――。

 

「……何もない」

 

 おかしい。

 

 何もないことが、逆に不自然だった。

 

 敵が動いている。

 

 それなのに、表立った襲撃がない。

 

 まるで――。

 

「様子を見てる……?」

 

 フウマが呟いた、その時だった。

 

「フウマさん!」

 

 背後から声がした。

 

 振り返る。

 

「どうしたの、ガンマ?」

 

「誰か来るッス!」

 

 ガンマ・アトラスが指差していた。

 

 街道の向こう。

 

 朝の光を背にして、一人の女性が歩いてくる。

 

 長い赤髪。

 

 堂々とした歩き方。

 

 腰には剣。

 

 その姿からは、隠しようのない強者の気配が漂っていた。

 

 ガンマが目を輝かせる。

 

「……あれ?」

 

 フウマも目を細める。

 

「まさか……」

 

 女性は屋敷の前まで来ると、足を止めた。

 

 そして、静かに口を開く。

 

「久しいな、フウマ」

 

「……エルザ」

 

 妖精の尻尾。

 

 S級魔導士。

 

 妖精女王――エルザ・スカーレット。

 

 その姿を見た瞬間、フウマは小さく笑った。

 

「来てくれたんだね」

 

「ああ」

 

 エルザは頷く。

 

「マスターから話は聞いている」

 

 その表情は真剣だった。

 

「ルーシィ・ハートフィリアを狙う者が動いているそうだな」

 

「うん」

 

「そして、闇ギルドの影も確認された」

 

「そうなんだ」

 

 エルザの視線が鋭くなる。

 

「ならば、私が来ない理由はない」

 

 短く、力強い言葉だった。

 

     *

 

「エルザ!」

 

 屋敷の中から、ルーシィが駆けてくる。

 

 その顔には驚きと喜びが入り混じっていた。

 

「えっと……本物?」

 

「本物だ」

 

「うわぁ……!」

 

 ルーシィの目が輝く。

 

 フウマが思わず苦笑する。

 

「ルーシィ、そんなに驚かなくても……」

 

「だって!」

 

 ルーシィはエルザをじっと見つめる。

 

「妖精の尻尾のS級魔導士よ!?」

 

「ああ」

 

「しかも妖精女王!」

 

「ああ」

 

「本当にあのエルザ!?」

 

「そうだ」

 

「すごい……!」

 

 完全に興奮している。

 

 エルザはそんなルーシィを見て、少しだけ目を柔らかくした。

 

「君がルーシィか」

 

「は、はい!」

 

 ルーシィが背筋を伸ばす。

 

「あたし、ルーシィ・ハートフィリアです!」

 

「聞いている」

 

「妖精の尻尾について、フウマからいっぱい聞きました!」

 

「そうか」

 

 エルザは頷いた。

 

「ならば、君もいずれギルドへ来るといい」

 

「……!」

 

 ルーシィの瞳が大きくなる。

 

「本当に……?」

 

「ああ」

 

「……行きたい!」

 

 その声には、迷いがなかった。

 

 エルザは小さく笑う。

 

「ならば、歓迎しよう」

 

「ありがとう!」

 

 ルーシィは嬉しそうに笑った。

 

 その様子を少し離れた場所から見ていたフウマも、自然と頬を緩めていた。

 

 しかし――。

 

 エルザはすぐに表情を戻した。

 

「それで、フウマ」

 

「うん?」

 

「今回の任務だが」

 

「ああ」

 

「マスターから一つ、伝言を預かっている」

 

「伝言?」

 

「そうだ」

 

 エルザは腕を組む。

 

「今回の件は、想定以上に危険なものになっている」

 

 フウマは黙って聞いた。

 

「ルーシィを狙っている者たちは、単独ではない可能性が高い」

 

「やっぱり……」

 

「そこでマスターは、護衛体制をさらに強化することを決めた」

 

 エルザはフウマを見る。

 

「私がこの任務に加わる」

 

 ルーシィが息を呑んだ。

 

「じゃあ……」

 

「そうだ」

 

 エルザは静かに言う。

 

「この屋敷には、二人のS級魔導士がいることになる」

 

 風が吹いた。

 

 フウマの銀髪が揺れる。

 

 エルザの赤髪も風に舞った。

 

 風神。

 

 そして――妖精女王。

 

 妖精の尻尾が誇る、二人のS級魔導士。

 

「……頼もしいね」

 

 フウマが笑う。

 

「何を言っている」

 

 エルザが眉を上げた。

 

「君がいるから私が来たのだ」

 

「僕が?」

 

「ああ」

 

 エルザは真っ直ぐにフウマを見る。

 

「君一人に任せるには、今回の敵は危険すぎる」

 

「……なるほど」

 

「それに」

 

 エルザは少しだけ視線を逸らした。

 

「私も久しぶりに君と共闘してみたいと思っていた」

 

「それは僕もだよ」

 

 二人の間に、僅かな笑みが浮かんだ。

 

 ガンマはその光景を見ながら、嬉しそうに笑っていた。

 

「S級魔導士二人……」

 

 そして。

 

「めちゃくちゃ安心ッスね~」

 

「そうでもないぞ」

 

 エルザが即答する。

 

「敵がこちらを狙っている以上、油断は禁物だ」

 

「ですよね~」

 

 ガンマが頭を掻く。

 

「でも、フウマさんとエルザさんが並んでると、敵の方が可哀想になってくるッス」

 

「……確かに」

 

 フウマが苦笑した。

 

     *

 

 その日の午後。

 

 ハートフィリア家の庭園。

 

 フウマとエルザは、屋敷周辺の警戒地点を確認していた。

 

「ここからなら街道が見える」

 

「そうだな」

 

「裏手は森に繋がっている」

 

「侵入経路になるな」

 

「うん」

 

 二人は淡々と話していく。

 

 その様子を、ルーシィは少し離れた場所から眺めていた。

 

 自分のために。

 

 自分が知らないところで、これほど多くの人が動いている。

 

 嬉しい。

 

 けれど――。

 

「……あたし、守られてばっかりだ」

 

 小さく呟く。

 

 すると。

 

「そうでもないぞ」

 

「え?」

 

 いつの間にか、エルザが隣に立っていた。

 

「君は自分の意思でここに立っている」

 

「……」

 

「それは、戦うこととは違う強さだ」

 

 ルーシィは黙ってエルザを見る。

 

「怖いか?」

 

「……うん」

 

 正直に答える。

 

「怖い」

 

「そうか」

 

 エルザは否定しなかった。

 

「ならば、その恐怖を忘れる必要はない」

 

「え?」

 

「恐怖を知っている者ほど、守るべきものを理解できる」

 

 ルーシィはその言葉を胸に刻んだ。

 

 そして、ゆっくり頷く。

 

「あたし……逃げない」

 

「それでいい」

 

 エルザは微笑んだ。

 

「妖精の尻尾は、そういう者を歓迎する」

 

     *

 

 夜。

 

 ハートフィリア家。

 

 屋根の上には、フウマがいた。

 

 その少し離れた場所にはエルザ。

 

 二人のS級魔導士が、屋敷を見下ろしていた。

 

「……静かだな」

 

 エルザが言う。

 

「うん」

 

 フウマも頷く。

 

「だからこそ、嫌な予感がする」

 

 その瞬間。

 

 フウマの髪が揺れた。

 

「……!」

 

 風が変わった。

 

 フウマの表情が険しくなる。

 

「エルザ」

 

「ああ」

 

 エルザもすぐに剣へ手を添えた。

 

「何か来る」

 

「人数は?」

 

「分からない」

 

 フウマは目を閉じた。

 

 風を読む。

 

 遠く。

 

 森の向こう。

 

 複数の気配。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 ――さらに。

 

「……十人以上」

 

「なるほど」

 

 エルザの目が鋭く光る。

 

「歓迎する準備をしておこう」

 

 フウマは静かに笑った。

 

「僕も同じことを考えてた」

 

 屋敷の中では、ルーシィが眠っている。

 

 何も知らずに。

 

 明日も来ると信じて。

 

 その未来を守るために。

 

 二人のS級魔導士は、夜の闇を見つめていた。

 

 風神。

 

 妖精女王。

 

 妖精の尻尾最強クラスの魔導士が二人。

 

 しかし――。

 

 森の奥に潜む闇は、それでも止まらなかった。

 

 黒いローブを纏った魔導士の一人が、静かに呟く。

 

「……S級魔導士が二人か」

 

「どうします?」

 

「予定を変更する」

 

「では、撤退を?」

 

「いや」

 

 男は口元を歪めた。

 

「むしろ好都合だ」

 

「……?」

 

「S級魔導士が二人いるということは――」

 

 その瞳が不気味に光る。

 

「それだけ、この令嬢に価値があるということだ」

 

 闇の中で、魔導士たちは姿を消した。

 

 そして屋根の上。

 

 フウマは風の流れを追いながら、静かに呟いた。

 

「……来るなら、来ればいい」

 

 隣でエルザが剣を抜く。

 

 月明かりを受け、刃が静かに輝いた。

 

「ルーシィには、指一本触れさせない」

 

 二人のS級魔導士。

 

 その背後には、守るべき一人の少女。

 

 そして――。

 

 闇ギルドとの戦いは、いよいよ始まろうとしていた。




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