なんて不思議なアザーサイド 作:南方に住んでいる作者
「貴方が気になってそうな事...ここがどういう場所かって話だけど、単刀直入に言うと、ここは普通の生者が来る場所じゃないわ。現世で『死』を迎えた人間のうち、その未練や執念がとてつもなく強かった者が、たまに迷い込む世界の裏側――『アザーサイド』よ。この世界の歴史を遡っても、外の世界からここへ迷い込んできた人間は、あんたを含めてたったの2人だけなんだから」
「アザーサイド……それがこの世界の名前か。それにしては、外に随分と人がいるみたいですが...」
「ああ、そこは勘違いしないでね。元からこのアザーサイドには人間が住んでるのよ。独自の文化を作って、個性的な生き物たちとごちゃ混ぜになって普通に暮らしてる先住民たちがね。あんたみたいに外の世界で死んで、その未練の力で境界線を超えて『入ってきた』人間が、歴史上でたったの2人しかいないって話。まぁ、あんたより前に来たもう1人の人間は、今もどこかでピンピン生きてるみたいだけどね」
「もともと人間が住む世界に、死んだ僕が2人目の異邦人として紛れ込んだ、か……」
「そういうこと。ちなみにあの森の異形は、迷い込んだ魂の負の感情や未練が具現化した『穢れ』の成れの果てよ。あんたが持ち込んだ未練があれを凶暴化させてる面もあるんだから、少しは責任感じなさいよね」
――なるほど、大体の事情は分かった。
翠の解説を聞き終え、僕は自分の手のひらを見つめながら深く息を吐いた。死者の未練がもたらすアザーサイドという世界。そして僕が歴史上たった2人目の異邦人であるということ。
「納得がいったなら、案内したい人がいるの。ついてきなさい」
翠に連れられて部屋を出ると、僕たちはのどかな活気に満ちた里の通りを歩き、一軒の大きな屋敷へと向かった。そこにいたのは、落ち着いた着物姿に身を包み、深く刻まれた皺の奥に鋭い知性を宿した老人だった。
「ようこそ、異邦の若者よ。私がこの里の村長を務めている、田村(たむら)だ。翠から話は聞いている。まずは無事で何よりだったな」
田村は穏やかな声で僕を迎え入れ、お茶を勧めてくれた。僕は勧めに応じながら、自らの名を名乗り、同時に一つの疑問をぶつけた。
「村長、一つ聞きたい。あのジャングルでの戦闘中、神楽坂は常軌を逸した威力の弓や、光の剣を使っていた。あれは一体何なんだ。僕のいた世界では、あんなものはオカルトの領域だ」
僕の問いに、田村は白く長い髭を撫でながら、静かに頷いた。
「やはりそこが気になるか、あーそうそう盗み聞きしていたから自己紹介はいらないよ魂刀刹那。……このアザーサイドという世界には、現世とは異なる独自の法則がある。それはな、ここに住む者、あるいはここに辿り着いた魂には、一人一つ、固有の『能力』が発現するということじゃ」
「能力……?」
「そうよ」と、横から翠が口を挟む。「私の場合は、穢れを祓う『退魔の霊力』。それが弓や光の剣という形になって現れているの。この世界の先住民も、みんな何かしらの独自の能力を持って生活しているわ」
田村が再び言葉を引き継ぐ。
「外の世界から強い未練を持って境界を越えてきた人間は、特に強力な能力を宿す傾向にある。お前より前に来たもう1人の異邦人も、凄まじい能力を持って今もこの世界のどこかで生きている。――刹那、お前がジャングルで異形を退けられたのも、ただの戦闘技術だけではないはずじゃ。お前自身もまだ自覚していない、お前だけの『能力』が、その魂には眠っているのだよ」
田村の説明を聞きながら、僕は自分の右拳を強く握りしめた。
能力。エージェントとしての実力だけでなく、この世界に適応するための力が、僕にも備わっているというのか。
「お前が抱える未練が何であるかは私には分からん。だが、この世界で生き抜くため、そしてお前の目的を果たすためには、その力を引き出す必要があるじゃろう」
田村の重みのある言葉が、静かな室内に響き渡り少し頭が混乱したのだった。