俺ととら丸は、ひとまず山を下りることにした。
山頂からは緩やかに下る細い道が通っていて、森を抜けてどこかへと繋がっている様子。
この道を行けばとりあえず問題ないだろうと、二人並んで歩き出した。
「へへっ。こいつが地面の感触ってやつか」
「ずっと家で飼ってたからな」
生涯家猫だったとら丸は初めて踏みしめる大地の感触が楽しいようで、飛んだり跳ねたり、時々伏せたりしてはしゃいでる。
「しっかし相棒、若返ったなぁ!」
「それはとら丸もだろ?」
とら丸も俺も、出会って少しした頃くらいまで若返っていた。
俺が新卒23歳くらいで、とら丸は成猫なりたての1歳とちょっと。
山頂にあった湧き水で確認しました。
「あー、体が軽い! いやこれ、普通に強化入ってるよな?」
自分でも軽く飛び跳ねてみる。
特別運動してなかった前世の同じ年頃よりも、明らかにジャンプ力がある。
「全体的にしなやかになってるし、俺の筋力も猫っぽくしてもらったのかな?」
「だな。これなら前みたくいきなり足
「うぐっ」
近くの木に登ったとら丸からのお言葉。
前世の俺を知ってる彼が言うのだから間違いない。
「そういえば、とら丸」
「なんだ?」
「俺のこと、相棒って呼んでくれるんだな」
「当たぼうよ!」
木の枝から俺の肩に飛び乗って、とら丸が頬に体を擦りつけながら言う。
「オレの猫生をずっとそばで支えてくれた相棒が、相棒でなくてなんだってんだ?」
「それがな。猫って世間じゃ孤高のイメージがあって、人間を世話役みたいに見てるって話もあってな」
「お高くとまってんのな。オレの趣味じゃねぇやぃ」
再び地面に降り立って、尻尾を振りながら先を行く。
どうやら俺の愛猫は、俺のことを対等な相手だと思ってくれていたようだった。
「趣味じゃない、か。じゃあ、とら丸はどんな子が好みなんだ?」
「いい女。極上にマブくて、一目見ただけで魂がいきり立つような最高の雌猫だな」
「へぇ」
その言葉だけじゃどんな好みなのか、ちょっとわからなかった。
でも確かに、とら丸の隣には、最高の雌猫ちゃんがいて欲しいなと俺は思った。
我が猫びいきである。
「そう言う相棒はどうなんだ?」
「どうって?」
「好みだよ! 相棒はどんな子が
「番って……そうだなぁ」
言われて、改めて考える。
前世じゃついぞ叶わなかった彼女さん。
最高の相棒が最高の雌猫を求めるなら、俺も出来る限り高望みしてみたい。
「うーーーーーーーーーん」
めいいっぱい考える。
「うううーーーーーーーーーーーーーーん」
俺の望む最高の彼女。
「ううううううううーーーーーーーーーーーーんんん」
もやもやしたイメージを頭の中に浮かべたところで。
「危ないっ! 相棒!」
「え? ふんがっ!!」
ゴツンッ!!
気づかぬうちに道を逸れていた俺は、横に伸びた木の枝に、思いっきりおでこをぶつけるのだった。
※ ※ ※
「あいたたた……」
「相棒は集中しすぎるとすぐこれだ。不器用なのは変わらずだな」
「面目ない」
ぶつけてヒリヒリする額を押さえながら、俺は縮こまる。
マルチタスクってのがとにかく苦手で、何かしながら何かするのがとても下手なのだ。
「どれどれ、見せてみな?」
再び肩までよじ登ってきたとら丸が、額の擦り傷を観察する。
「ふんふん。なるほど」
ぺろぺろ。
ザリザリした感触が傷口に押しつけられて――!?
「――いっ……たくない?」
「へへっ。どうよ相棒?」
「え、え?」
「傷口、触ってみな?」
「え? ……ええええ!?!?」
言われるがままに触れた額に、あるはずの傷がなくなっていた。
「どういうこと?」
「いやオレもさっき気づいたんだがな。木に登った時に指先ちょこっとだけ切っちまってよ。そこをぺろぺろーって舐めたら、治ってたんだ」
「すごすぎる……」
とら丸に、謎のスキルが生えていた。
「もしかして、転生特典ってやつ?」
てっきりとら丸と話せるようになるのがそれだと思っていたから、まったく何の検証もしていなかった!!
「とら丸」
「おう」
「ちょっとだけ寄り道して、色々と試してみないか?」
「……いいねぇ! やろうぜ!」
そうと決まればさっそく実践!
人里に向かう前にまずは自分たちの力を確かめるべく、俺たちは森の方へと足を運んだ。
※ ※ ※
検証結果。
「ステータスオープン! ……反応なし」
「アイテムボックス! ……反応なし」
「魔法! イメージ! ふおおおお!! ファイヤァァァァッ!! ……反応なし」
「なんか超すごい剣技! ふおおおお!! あいたっ! ……失敗」
「なんか超すごい歩法! あちょおおお!! ぶべっ! ……失敗」
今できる範囲で色々やってみたけれど。
「なーんもわからん!」
何の成果も! 得られませんでしたっ!!
あ、今のなし。
体は柔らかくなってる。間違いない。神様ありがとう。
「お疲れさん、相棒」
「ふへへ。ありがとう、とら丸」
春めいた草をベッドにして大の字になった俺の顔を、とら丸が舐めてくれる。
枝を振り回して転んだ時に付いた傷が、綺麗に癒された。
「スゴいのはとら丸の方だったなぁ……」
そう。
チートっぽいのが与えられていたのは、とら丸の方だった。
「えっと……舐めたら傷を癒やせる。爪が見た目以上の範囲を攻撃できる。バカみたいに俊敏に動ける。あとは……」
「なんか気合入れて鳴くとすげぇ威圧できるのと、尻尾を立てるとなんかそこに溜まる」
「溜まるやつ絶対魔力的なやつだ……」
指折り数える出来ること、たくさん。
俺たちを送り出してくれた猫神様がとら丸を子孫って言ってたし、加護を与えるならこっちだよなという納得感があった。
「そう気を落とすなって。相棒にも何かすげぇ能力があるかもしれないからな」
「だな。調べ方が甘いだけで、まだまだ俺にも可能性はあるはず!」
とら丸に慰めてもらって元気を出せば、気合を入れて立ち上がる。
「まだまだ俺たちの人生はスタートしたばかり。こんなところで塞ぎ込んじゃいられないよな!」
「その通りだぜ相棒!」
立ち上がった俺の足元を、とら丸がくるくる回ってエールを送ってくれる。
「うおおおおお、やるぞーーーー!!」
「その調子だ、相棒! んにゃおおおおおーーーー!!!」
二人一緒になって声をあげれば。
ガササッ。
「ヴォフッ?」
「「え」」
森の奥から大きなクマさん、厳つい顔をひょっこりはん。
「……ヴゥオオオオオオオオオ!!!!!」
「「うわぁぁぁぁぁーーーー!!!」」
俺たちは、一も二もなく逃げ出した。
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