俺たち二人、人と猫。
なんてことない人生を終えて、第二の人生スタートしてから数時間。
「ヴォオオオオオオオーーーーーー!!」
「来るぞ、相棒!」
「うわぁぁぁぁぁーーー!!」
森のゴッツいクマさんと、真っ向正面、お立ち合い。
「とら丸、咆えろ!」
「カッ! んに゛ゃあ゛あ゛あ゛~~~~~~~!!」
俺の想いに応えて、とら丸が咆える。
通常の何倍にも強化された咆哮が、俺たちを獲物認定しているクマさんを狙う!
「ッガルルヴォオオオオオオッ!!!」
「んいっ!」
森の木々を震わすほどの、咆哮返し!
実際に発生している衝撃波がぶつかり合って、俺の体を激しく揺らした。
「ガッゴッ!」
「……んがっ! どうだ、相棒!?」
「効いてる! ……けど!」
咆哮は間違いなくクマさんの動きを封じた。
けれど、さっきの咆哮返しの影響か、向こうの受けたダメージは大きく減っているようだった。
「さすがは野生の生存本能! 生きるために向こうも必死じゃねぇか!」
「とりあえず、今のうちに距離を取ろう!」
俺たちは隠れることをやめた。逃げることをやめた。
でも、この距離は相手の間合い。
生きるために、遠ざかる。
「おうおう、尻尾の先までピリピリしやがる! これが命を懸けた戦いって奴か!」
「物語のヒーローたちはこんなのいつも体験してるのかっ! そ、尊敬するっ!!」
全速力でスタコラサッサ。
向き合えるだけの距離を取り。
「でもよぉ相棒。今日はオレたちがその、ヒーローになる番だぜぇ!」
「えっ!? あっ、そうだな!」
「そうだとも! こいつはオレたちの、新しい人生で味わう……最初の冒険だ!」
戦うために、振り返る。
「さぁ、指示をよこせ相棒! オレたちで勝つぞ!」
「あぁ、とら丸! 二人で生き残るぞ!」
二人。並んで立ち向かう。
第二の人生、それを再び何者にもなれないまま、終わらせないために。
※ ※ ※
「ヴォオオオオオオオオ!!!」
度重なるお預けにイライラしてか、その場で暴れ回るクマ。
振るった腕が近くの木を切り裂いて、数度それを繰り返されると薙ぎ倒される。
あんなもの、俺もとら丸も一発だって喰らえない。
「ヴォフッ! ヴォフッ! ヴォフッ!!」
鼻息荒く、俺たちを見つめる。
(もうずっと、あいつの意識は俺たちの方へと向けられている)
あの黒い巨体は、完全完璧に、俺たちのことを獲物と定めていた。
「ヴォオオオオオオオ!!!」
再びの咆哮。
自分の力を見せつけ相手を脅し、まるで、自分が狩る側だと主張しているかのようで。
「来るぞ、相棒!」
とら丸の合図と同時。
こげ茶色の怪物が、再びこちらに駆けてくる!
「チャンスは一回だ。頼んだぞ、とら丸!」
「任せろ! その代わり、そっちも気合入った指示を出せよ。相棒!」
デッドオアアライブ!
二人で身構え、迎え撃つ!
(とら丸を、そして……俺自身を信じる!)
猫神様からもらった力を、正しく使いこなす以外に生き残る術はない。
(俺に与えられた役割は……とら丸を、最強にサポートすること!)
迫り来る脅威から、勇気を振り絞って目を逸らさない!
倒すべき相手を見据え、立ち向かう相棒へ、最大の指示を出す!!
「とら丸! 俺の前へ!」
「おうっ!」
俺とクマさんとを結ぶ線に割り込むように、とら丸が飛び込む!
俺ととら丸の目が、同じ角度で同じ物を見る!
「とら丸!」
俺は右手を振り上げ……勢いよく振り下ろす!
自然とそうすべきと思った動作は、まるで指示を出すという行為を、ハッキリと世界に示せと言われたかのようだった。
「自慢の爪で、クマを思いっっっきり! ぶった斬れぇぇぇーーーーー!!」
「ぐるにゃぁぁぁおおおおおーーーーーーーー!!!」
とら丸が腕を振る。
放たれた爪撃が、その見た目の何倍もの大きさの斬撃へと変わる!
人が剣を振るった程度の斬撃サイズを大きく超えて――。
「へっ?」
「…………んにゃっ!?」
放たれたのは。
ドズバッザァァァァァァーーーーンッ!!!!
たったひと振りで幾本もの大木を断ち切る……巨人の一刀。
「にゃああ~~~~~!?!?!?」
「ひょぇぇ~~~~~!?!?!?」
そのあまりの威力に、とら丸も俺も、自分たちがしでかしたことだとすぐには思えなかった。
「ヴオオオオッオオアッァァァ……!?」
当然。
クマさんも真っ二つ。
何やら黒い煙をボファッと出して、小さな石ころ一つ残して消えてしまって。
バキバキ、ベキンッ! ズズゥン……!
最後に斬撃範囲を掠った木がゆっくりとへし折れ、ぶっ倒れ。
「「………」」
森に、静寂が戻った。
※ ※ ※
「………」
「………」
静かの森に、二人。
ただ息を吞んでたたずむ。
周囲は乱暴な開拓でもされたかのように広場が出来、断たれた木たちが横たわる。
さっきまで、俺たちを食い物にしようとしていたクマさんは、もうどこにもいない。
「……はっ!」
ドッと。
全身から汗が噴き出した。
「はっ、はっ、はっ、はぁ……!」
「ぐるるるるぅっ!」
息することを思い出し、必死に酸素を取り込もうと浅い呼吸を繰り返す。
とら丸はそのすぐそばで、低く唸り声をあげていた。
「はぁー、はぁー……!」
「ぐるるるる……!!」
二人とも、過度な興奮状態だった。
荒くなった息を落ち着かせるのに、さらにしばらくの時間がかかった。
「はぁー、はぁー……すぅー、ふぅー」
バクバクと鳴り響く心臓を押さえつつ、周囲を見回し、他の脅威がいないか確かめて。
俺がどうにか呼吸だけでも落ち着かせた頃には、もう。
ヂュンヂュンッ。
ヂヂヂッ。チョロロッ。
森の生き物たちの息吹が、辺りに戻っていた。
「んなぁ~~~~~~~~おぅっ!!」
とら丸が咆える。
それが、俺たちの勝利を告げる鬨の声だった。
「うおおお~~~~~~~~!!」
だから俺も、叫んだ。
恥も外聞もなく、腹の底から声を出して、叫ぶ。
「んなぁ~~~~~~~~~~おぅっ!!」
「うおおお~~~~~~~~~~!!」
……こうして、俺たちは。
異世界生活初の、いや、もしかしたら前世も含めて初めての。
自分たちで掴む勝利を、手に入れたのである。
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