一人と一匹、第二の人生。   作:夏目八尋

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第05話 一人と一匹、冒険する。

 

 俺たち二人、人と猫。

 なんてことない人生を終えて、第二の人生スタートしてから数時間。

 

「ヴォオオオオオオオーーーーーー!!」

「来るぞ、相棒!」

「うわぁぁぁぁぁーーー!!」

 

 森のゴッツいクマさんと、真っ向正面、お立ち合い。

 

 

「とら丸、咆えろ!」

「カッ! んに゛ゃあ゛あ゛あ゛~~~~~~~!!」

 

 俺の想いに応えて、とら丸が咆える。

 通常の何倍にも強化された咆哮が、俺たちを獲物認定しているクマさんを狙う!

 

「ッガルルヴォオオオオオオッ!!!」

「んいっ!」

 

 森の木々を震わすほどの、咆哮返し!

 実際に発生している衝撃波がぶつかり合って、俺の体を激しく揺らした。

 

 

「ガッゴッ!」

「……んがっ! どうだ、相棒!?」

「効いてる! ……けど!」

 

 咆哮は間違いなくクマさんの動きを封じた。

 けれど、さっきの咆哮返しの影響か、向こうの受けたダメージは大きく減っているようだった。

 

「さすがは野生の生存本能! 生きるために向こうも必死じゃねぇか!」

「とりあえず、今のうちに距離を取ろう!」

 

 俺たちは隠れることをやめた。逃げることをやめた。

 でも、この距離は相手の間合い。

 

 生きるために、遠ざかる。

 

 

「おうおう、尻尾の先までピリピリしやがる! これが命を懸けた戦いって奴か!」

「物語のヒーローたちはこんなのいつも体験してるのかっ! そ、尊敬するっ!!」

 

 全速力でスタコラサッサ。

 向き合えるだけの距離を取り。

 

「でもよぉ相棒。今日はオレたちがその、ヒーローになる番だぜぇ!」

「えっ!? あっ、そうだな!」

「そうだとも! こいつはオレたちの、新しい人生で味わう……最初の冒険だ!」

 

 戦うために、振り返る。

 

 

「さぁ、指示をよこせ相棒! オレたちで勝つぞ!」

「あぁ、とら丸! 二人で生き残るぞ!」

 

 二人。並んで立ち向かう。

 第二の人生、それを再び何者にもなれないまま、終わらせないために。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「ヴォオオオオオオオオ!!!」

 

 度重なるお預けにイライラしてか、その場で暴れ回るクマ。

 振るった腕が近くの木を切り裂いて、数度それを繰り返されると薙ぎ倒される。

 

 あんなもの、俺もとら丸も一発だって喰らえない。

 

「ヴォフッ! ヴォフッ! ヴォフッ!!」

 

 鼻息荒く、俺たちを見つめる。

 

(もうずっと、あいつの意識は俺たちの方へと向けられている)

 

 あの黒い巨体は、完全完璧に、俺たちのことを獲物と定めていた。

 

 

「ヴォオオオオオオオ!!!」

 

 再びの咆哮。

 自分の力を見せつけ相手を脅し、まるで、自分が狩る側だと主張しているかのようで。

 

「来るぞ、相棒!」

 

 とら丸の合図と同時。

 こげ茶色の怪物が、再びこちらに駆けてくる!

 

「チャンスは一回だ。頼んだぞ、とら丸!」

「任せろ! その代わり、そっちも気合入った指示を出せよ。相棒!」

 

 デッドオアアライブ!

 二人で身構え、迎え撃つ!

 

 

(とら丸を、そして……俺自身を信じる!)

 

 猫神様からもらった力を、正しく使いこなす以外に生き残る術はない。

 

(俺に与えられた役割は……とら丸を、最強にサポートすること!)

 

 迫り来る脅威から、勇気を振り絞って目を逸らさない!

 倒すべき相手を見据え、立ち向かう相棒へ、最大の指示を出す!!

 

 

「とら丸! 俺の前へ!」

「おうっ!」

 

 俺とクマさんとを結ぶ線に割り込むように、とら丸が飛び込む!

 俺ととら丸の目が、同じ角度で同じ物を見る!

 

 

「とら丸!」

 

 俺は右手を振り上げ……勢いよく振り下ろす!

 自然とそうすべきと思った動作は、まるで指示を出すという行為を、ハッキリと世界に示せと言われたかのようだった。

 

 

 

「自慢の爪で、クマを思いっっっきり! ぶった斬れぇぇぇーーーーー!!」

「ぐるにゃぁぁぁおおおおおーーーーーーーー!!!」

 

 

 とら丸が腕を振る。

 放たれた爪撃が、その見た目の何倍もの大きさの斬撃へと変わる!

 

 人が剣を振るった程度の斬撃サイズを大きく超えて――。

 

 

「へっ?」

「…………んにゃっ!?」

 

 放たれたのは。

 

 

 ドズバッザァァァァァァーーーーンッ!!!!

 

 

 たったひと振りで幾本もの大木を断ち切る……巨人の一刀。

 

 

「にゃああ~~~~~!?!?!?」

「ひょぇぇ~~~~~!?!?!?」

 

 そのあまりの威力に、とら丸も俺も、自分たちがしでかしたことだとすぐには思えなかった。

 

 

「ヴオオオオッオオアッァァァ……!?」

 

 当然。

 クマさんも真っ二つ。

 

 何やら黒い煙をボファッと出して、小さな石ころ一つ残して消えてしまって。

 

 

 バキバキ、ベキンッ! ズズゥン……!

 

 最後に斬撃範囲を掠った木がゆっくりとへし折れ、ぶっ倒れ。

 

「「………」」

 

 森に、静寂が戻った。

 

 

      ※      ※      ※

 

 

「………」

「………」

 

 静かの森に、二人。

 ただ息を吞んでたたずむ。

 

 周囲は乱暴な開拓でもされたかのように広場が出来、断たれた木たちが横たわる。

 さっきまで、俺たちを食い物にしようとしていたクマさんは、もうどこにもいない。

 

 

「……はっ!」

 

 ドッと。

 全身から汗が噴き出した。

 

「はっ、はっ、はっ、はぁ……!」

「ぐるるるるぅっ!」

 

 息することを思い出し、必死に酸素を取り込もうと浅い呼吸を繰り返す。

 とら丸はそのすぐそばで、低く唸り声をあげていた。

 

 

「はぁー、はぁー……!」

「ぐるるるる……!!」

 

 二人とも、過度な興奮状態だった。

 荒くなった息を落ち着かせるのに、さらにしばらくの時間がかかった。

 

「はぁー、はぁー……すぅー、ふぅー」

 

 バクバクと鳴り響く心臓を押さえつつ、周囲を見回し、他の脅威がいないか確かめて。

 俺がどうにか呼吸だけでも落ち着かせた頃には、もう。

 

 ヂュンヂュンッ。

 ヂヂヂッ。チョロロッ。

 

 森の生き物たちの息吹が、辺りに戻っていた。

 

「んなぁ~~~~~~~~おぅっ!!」

 

 とら丸が咆える。

 それが、俺たちの勝利を告げる鬨の声だった。

 

「うおおお~~~~~~~~!!」

 

 だから俺も、叫んだ。

 恥も外聞もなく、腹の底から声を出して、叫ぶ。

 

 

「んなぁ~~~~~~~~~~おぅっ!!」

「うおおお~~~~~~~~~~!!」

 

 ……こうして、俺たちは。

 

 異世界生活初の、いや、もしかしたら前世も含めて初めての。

 

 自分たちで掴む勝利を、手に入れたのである。




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