客間に通された玲と理央は、中央に置かれたテーブルの前に並んで座り、キッチンでお茶を用意している母親を待っていた。玲はテーブルに目を落とし、心の中で先ほどの母親の言葉を反芻していた。香は五年前に亡くなりました、胃のがんでした……。葉月香──HARUとは、つい十日前までツブヤイターでやりとりをした。亡くなったなんて信じられない。玲がやりとりをしていたのは七年前のHARUだが、それでも、あまりにも早すぎる。
ふすまが静かに開き、母親がお茶と和菓子を持って入って来た。それをテーブルに置き、母親も二人の前に座った。
「──おふたりは、香の病のことは、ご存知なかったのでしょうか?」
重い扉を開くような口調で、母親が言った。
「はい」と、理央が答える。「香さんは、あたしにも、お店にも、詳しい話は何もせず、ただ『一身上の都合』とだけ告げ、その日のうちに辞めてしまったんです」
「そうでしたか。それはご迷惑をおかけしました」
「いえ、迷惑だなんて、とんでもない。でも、香さんにはチェロの演奏家になるという夢もあったのに、なぜそれを突然諦め、実家に帰ってしまったのか、どうしてもそれが判らなかったのです。まさか、ご病気だったなんて……かなり悪かったのでしょうか?」
「はい。スキルス胃がんでした」
スキルス胃がん──聞いたことがある。発見が難しく、治療も困難な特殊な胃がんだ。玲が好きなピアニストの中にも、この病にかかり、若くして亡くなった人がいる。そう言えば、HARUのツブヤイターでは、年の初めは大盛りラーメンを完食するなどかなりの食欲であったが、日が経つにつれ食が細くなり、やがて胃もたれや胃痛といった症状も見られた。病の症状であったのだろうか。
母親は、娘の病について話し始めた。
スキルス胃がんは、数あるがんの中でも特に治療が難しいと言われている。胃がん全体の五年生存率が七〇パーセントを超えているのに対し、スキルス胃がんの場合は一〇パーセント以下と、圧倒的に低い。スキルス胃がんにははっきりとした前兆というものが無く、検査でも見つけにくいため、発見された時にはかなり症状が進んでいる場合が多いのがその理由のひとつだ。HARUも、かなり進行した状態で発見されたという。
HARUは治療に専念するため、チェリストになる夢を諦め、仕事もやめ、実家に帰らざるを得なかった。プロの音楽家をめざし、就職せずにアルバイトで生計を立てていたHARUには貯金がほとんどなく、治療費は親に頼るしかなかったのだ。会社には余計な心配をかけさせたくないとのことで、病気のことは何も告げなかった。恐らく、大きなコンクールを控えた七森のことを気遣ったのであろう。
実家に戻ったHARUは、市内の大きな病院に入院し、治療に専念した。病状は決して軽くはなかったが、完治する可能性もゼロではなかったという。手術や抗がん剤による治療はもちろん、免疫療法などの治療も試された。
「──ですが、香の病状が良くなることはなく、二年の闘病の末、香は……永遠の眠りに……つきました」
五年経ってもまだ悲しみは癒えていないのであろう。母親の言葉は、最後は嗚咽に埋もれた。
話を聞き終え、玲は身体中の力が抜けていくようだった。背骨を抜き取られたかのような、あるいは、魂の中心に大きな穴が空いたかのような、そんな気持ちだ。
玲はHARUに直接会ったことはない。ツブヤイターで数日間やり取りしただけだ。
それでも、同じ大学に通い、同じ職場で働き、同じ夢を見て、そして、同じ人を好きになった。
七年の時の隔たりはあれど、彼女は確かに、玲のそばにいたのだ。
それが、今はもう、どこにもいない。
おいしい料理を食べ、夢に向かって努力し、恋人を支え、そして、玲と笑い合ったHARUは、もう、
「おふたりは、亮という方を、ご存知ですか?」
涙を拭った後、母親が訊いた。
「あ、はい」と、理央が答える。「会社の先輩で、七年前葉月さんとお付き合いされていた方です」
「そうですか──少し、お待ちください」
母親は立ち上がり、部屋を出て行った。しばらくして戻ってくると、テーブルに一通の封筒を置いた。住所は無く、ただ『亮へ』とだけ書かれていた。手紙のようだ。
「一週間ほど前、香の部屋を掃除していた時に見つけたものです」
「一週間前、ですか?」理央が首を傾けた。
「そうなのです。今までこのようなものを見た覚えは無かったのですが……ひょっとしたら、お二人がここへ来られると知って、香が天国から書いてよこしたのかもしれません」
母親は少しだけ微笑むと、手紙を二人の前に差し出した。
「これを、亮さんに渡していただけないでしょうか?」
理央は無言のまま手紙を見つめていたが、やがて、視線を玲に向けた。この手紙を彼に渡すのは、あたしの役目じゃないよ──そう言っている気がした。
「……お預かりします」
玲は、手紙を受け取った。
夕方六時前の高速バスに乗り、玲と理央はHARUが住んでいた町を後にした。予定では、HARUと話した後、時間があれば少し早めに夕食を食べて帰る予定だったが、とてもそんな気分ではなかった。
帰りの高速バスの中、二人はずっと無言だった。理央は窓側の席でただ外を眺め、玲は七森への手紙を入れたカバンを抱えてうつむく。
母親が差し出したので受け取ったが、この手紙を七森に渡すべきかどうか、玲は迷っていた。
恐らく七森も、HARUが病気だったことも、亡くなったことも知らないのだろう。この手紙を渡すということは、そのことを伝えることになる。七年経った今でも元恋人への想いを断ち切れない彼に、彼女の死を伝えるなど、自分にできるだろうか? それを知ったときの彼の悲しみは計り知れない。いっそ黙っていた方がいいようにも思う。しかし、こんな重大なことを秘密にしたままでいいのだろうか。HARUは七森へ手紙を書いた。彼にどうしても伝えたいことがあったのだ。黙っていることは、HARUの気持ちを無視することになる。
ターミナルに到着し、バスを降りても、玲はまだ迷っていた。
すると。
「玲ちゃん! お好み焼き食べて帰ろう!」
それまでずっと無言だった理央が、突然大声を上げた。
「ど、どうしたの理央ちゃん、急に」
「だって、なんやかんやあって、結局焼き豚玉子飯ギョーザと焼き鳥食べ損ねたじゃん。鶏卵饅頭とうずしおパイも買い損ねたし、バリィさんにも会い損ねた。そんなあたしを慰めてくれるのは、ケンミンのソウルフード、お好み焼きだけよ!」
「でも、あたし、今ちょっとそんな気分じゃないかも……」
「なに言ってるの! そんな気分じゃないからこそよ! こんなもやもやした気持ちのまま帰るなんてできないわ! こういう時はヤケ食いよ! さあ! 行くわよ!」
そう言って、玲は理央に無理矢理腕を引っ張られ、近くのお好み焼き屋に行くことになった。最初は戸惑っていた玲だったが、もやもやした時はヤケ食いという理央の気持ちも判るので、食べられる範囲で付き合うことにした。バスターミナル内にあるお好み焼き屋で、二人は生イカ・エビ・イカ天・モチが入った特製スペシャルそば入りダブルを完食する。普通の人なら充分お腹いっぱいの量だが、理央はそれでもまだ足りぬ、と、同じくターミナル近くのコンビニでプレミアムロールケーキとトロサクのエッグタルトとホームランバニラアイスを買ってイートインコーナーで食べ、最後の仕上げとばかりに深夜営業しているラーメン屋で味噌チャーシューメンネギ大盛りギョーザ二人前を完食したのだった。
「……ああ、久しぶりにやっちまったわね……さすがに食べ過ぎたわ」
帰りのバスを待ちながら、理央はベンチでパンパンに膨らんだお腹を抱え、苦しそうに言った。理央ほどでもないが玲も付き合ってそれなりに食べたので、しばらく体重計が怖い日が続くだろう。まだ手紙を渡す決心はつかないが、それでも、理央がいつもの調子を取り戻したことで、少しだけ気持ちは楽になった。
理央が乗るバスが来た。理央は、「よっこらしょ」と年寄りくさく立ち上がる。
ドアが開き、バスに乗り込もうとした理央が、玲を振り返った。
「その手紙、渡しても、渡さなくても、あたしたちは、ずっと親友だからね」
いつもと変わらぬ笑顔で言う。玲の心の迷いなどお見通しなようだ。
玲も笑顔を返し「うん」と、頷いた。「ありがとう」
そして理央は、「じゃあ、また明日」と言って手を振り、バスに乗り込んだ。
バスが夜の街並みに消えるまで見送って、玲も家へ帰った。
翌日の夕方。
玲は仕事を終えた後、手紙を渡すため七森を探した。彼は休憩室でいつかと同じように一人で新商品のカタログを読んでいた。
玲は、昨日理央と二人で葉月香に会いに行ったことを話し、母親から託された手紙を渡した。香の死は伝えなかった。彼を気遣ったわけではない。結局話す勇気が無かっただけだ。手紙に病気のことが書いてあるかもしれないし、自分が言わなければ理央に訊いて彼女が話してくれるかもしれない……そんな卑怯なことを考えていたのだ。手紙を渡した後は、逃げるようにその場を後にした。そして、屋上に駆けあがって、一人、泣いた。夕陽に染まる街並みは、いつも以上に燃え上がって見えた。世界が終わる時はこんな感じなのだろうか……そんなことを思う。思いながら、膝に顔をうずめ、泣いた。彼の気持ちを思い、HARUの気持ちを思い、ただ泣き続けた。
どれくらい、そうしていたか。
スマホが鳴り、玲は顔を上げた。日は沈み、屋上はすっかり暗くなっていた。
スマホを取り出す。理央からの電話だった。手紙をちゃんと渡せたかどうかの確認かもしれない。昨日は手紙を渡しても渡さなくても親友だと言ってくれたが、手紙だけ渡して亡くなったことは伝えなかったと知ったら、さすがに怒るかな、と自嘲気味に笑いながら、電話に出た。
《玲ちゃん、いまどこにいるの?》
こちらが何か言うよりも前に、理央はそう言った。なにやらかなり焦っている様子だ。
「いま? お店の屋上。あ、手紙は、ちゃんと七森さんに渡した。でもゴメン。香さんが亡くなったことは、伝えられなかった」
《それはいいの、たいへんよ。七森さんが、お店辞めるって言ってる》
「ええ! なんで……って、手紙が原因だよね!?」
《だと思う。さっきたまたま事務所に行ったら、七森さんと店長が二人で話をしてるの聞いちゃって、それも、一ヶ月や二ヶ月先とかじゃなく、もう今日限りで出社もしないって言ってるの》
「そんな!」
《七森さんは一方的にそう告げただけで帰っちゃった。店長は、一時的な気の迷いだろうから落ち着いたらまた話す、なんてのんきなこと言ってるけど、そんなんじゃないと思う》
手紙に何が書かれてあったのかは判らないが、常に売り上げトップをキープし、客からの評判も良く、玲たち後輩の面倒も見てくれる七森が、全てを投げ出してしまうなんて、よほどのことだ。
「ゴメン理央ちゃん、一度切るね」
玲は理央との通話を終えると、七森にかけた。数回の呼び出し音で、電話は繋がった。
《木崎、どうかしたか?》
七森があまりにもいつも通りに出たので、玲は一瞬、理央が何か勘違いしたのではないかと思った。
「七森さん、あの……さっき理央ちゃんから、七森さんがお店辞めちゃうって聞いて、それで……」
《そうか、ゴメンな、心配かけて》
そんなワケないだろ──そう続けてくれることを期待した玲だったが。
《もう決めたことだから》
七森は、やはりいつも通りの口調で言う。だからこそ、その決意が固いのだと、玲は悟る。
「そんな……あたしのせい……ですか……? あたしが、香さんに会いに行ったりしたから」
《いや、そういう訳じゃないよ。これは、僕自身の問題だ。もう、バイオリンも、チェロも、見たくないんだ。音楽そのものがイヤになった──それだけさ》
何でもないことのように、七森は言う。それが悲しかった。あの日、夕陽の屋上で、あれほどの音楽を奏でた七森が、玲に涙を流させるほど深い感動をくれた七森が、全てを投げ出してしまうなんて──七森との思い出が全て捨てられてしまうような気がして、ただ悲しい。
《木崎は、ガンバって夢を叶えるんだぞ。じゃあ、さよなら》
玲が何か言う前に電話は切れ、そして、もう二度と繋がることはなかった。
玲は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。まさかこんな結果になるとは思ってもみなかった。HARUは病気で亡くなり、七森は玲の前から去る。HARUと知り合い、七森の音楽に涙し、HARUと楽しくメッセージのやり取りをし、七森とのデートに一喜一憂した。一ヶ月にも満たない間の出来事だったが、HARUのことを知り、七森のことを知った。もっと二人のことを知りたかった。もっと二人と一緒に居たかった。どうしてこんな結果になったのだろう──そう考えて、これは罰なのかもしれない、と思った。思えば、自分はずっと逃げ続けていた。ピアノの練習をサボり、コンクールやコンテストから逃げ、仕事も適当。そして、HARUにメッセージを送ることから逃げ、七森にHARUの死を告げることからも逃げた。全てから逃げ続けていたから、全てを失った。これは、音楽の神様から与えられた、罰。
「──神様が与えた罰、って考え方、あたし、昔からキライだったのよね」
いつの間にやって来たのか、そばに理央が立っていた。
「神様ともあろうお方が、たかが人間一人の個人的な事情に、わざわざ介入してくるわけないでしょ。だからあたしは、なにがあっても、全部自分の責任だと思うようにしてる」
玲の心を見透かしたように、理央は言う。その言葉に、玲は「そうかもね……」と言って、自嘲気味に笑った。つまり理央は、悪いのは玲自身と言いたいのだろう。その通りだから、返す言葉もない。
だが理央は、玲を責めるでもなく、いつもの様子で続ける。
「これ、葉月さんの手紙のコピーなんだけど」
そう言って、折りたたんだ二枚のコピー用紙を取り出した。
「……え?」一瞬何を言ってるのか判らず、顔を上げる玲。
「だから、昨日葉月さんのお母さんから預かった、葉月さんが七森さん宛に書いた手紙のコピーだってば」
「なんでそんなの持ってるの?」
「今日お仕事が終わった後、たまたま休憩室に隠れてたら、たまたま七森さんがやってきて、たまたま玲ちゃんもやってきて、たまたま玲ちゃんが手紙を渡したのよ」
「はい?」
「で、手紙を読んだ後、七森さん、いきなり泣き崩れちゃってね。手紙を机の上に置いて、ずっと泣いてた。あたし、何が書いてあるのか気になったから、七森さんが泣いてる隙に手紙を拝借して、事務所でコピーして、その後本物は元に戻しておいたの。七森さん、全然気づかなかったよ」
「……カメラアイの能力持ってるんじゃなかったの?」
「今の話でまずツッコむところがそことは、お主ウデを上げたな」
「いや、人の手紙を勝手にコピーしちゃダメでしょ」
「あたしは目的のためなら手段を選ばない主義なのだよ。それで、この手紙、玲ちゃんも読む?」
「ううん、さすがにそれは」
「だよね。だから、重要なことだけ話すけど、葉月さん、七森さんと別れたこと、めちゃくちゃ後悔してる。これを読んじゃったら……七森さん、ひょっとしたら、葉月さんの後を追っちゃうかもしれない」
玲は息を飲んだ。葉月の後を追う……それはつまり、七森が自殺する──。
「そんな……そんなのって……」
言葉をうまく告げない玲に対し、理央は「まあ、それはあたしの考えすぎかもしれないけどね」と言って、さらに続けた。「ただひとつ、確実に言えるのは、この手紙の葉月さんの後悔は、いずれそのまま玲ちゃんの後悔になる。夢を諦めて、恋を諦めて、その後いったい、何が残るの?」
はっとした。ピアニストになるという夢は、子どもの頃から胸に抱いていた。そのためにピアノ教室に通い、音大に通い、多くのコンクールやコンテストに挑戦した。しかし、良い結果を残すことはできず、最近は練習もさぼりがちで、ほとんど諦めている。恋もそうだ。仕事で何度も七森に助けてもらい、彼の音楽に心惹かれ、彼のそばに居たいと思った。でも、彼の心の中にはずっとHARUがいて、そこに玲が入り込む余地はなく、彼は玲の前から去った。夢を諦め、恋も諦めることになった。その後に、いったい何が残るというのだろう。ただ空っぽの自分があるだけだ。その先、何を心の支えに生きていけばいいのか、想像もつかない。
玲は、理央を真っ直ぐに見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「理央ちゃん」
「おいっす」
「……それ、あたしが前にツブヤイターに書いたヤツだよね?」
「そうね」
「なんで知ってるの?」
「あたしにとって親友の裏アカを特定するなど造作もないこと」
「いや怖い怖い」
「安心して、店長の悪口つぶやいてたことはことは、ナイショにしててあげるから」
おどけて笑う理央に対し、玲も笑顔を返した。
そして、「……ありがとう、理央ちゃん」と、気持ちを伝える。
「なんのなんの。これくらい、どうってことないよ」
理央は手紙をポケットにしまうと、最後の言葉を告げるように続ける。
「まあ、どうするかは玲ちゃん次第だよ。とにかく、後悔だけはしないでね」
そして、理央は。
「じゃあ、
笑顔で手を振って、階段を降りて行った。
理央の姿が見えなくなるまで見送って、玲はスマホのツブヤイターを開いた。HARUのアカウントは、幸いまだ削除されていなかった。
HARUを説得するメッセージを送れば、過去は変わるのだろうか、それとも変わらないのだろうか。判らないが。
玲は、HARUへのリプライを書く。
【病気のこと聞きました。何も知らなくてゴメンね。今日はどうしても伝えたい事があります。七森さんが夢を諦めたのは、突然HARUちゃんがいなくなったからなの。彼は7年経った今でもあなたのことを探してる。お願い、どうか彼のそばにいて、彼を支えてあげて。彼はHARUちゃんじゃないとダメみたいだから】
最大文字数である一四〇文字全てを使い、七年後の七森のことを、そして、今の玲の思いを綴った。それを送信する。しばらく待ったが、HARUからの反応は無い。もちろん、HARUだっていつでも反応できるわけではないだろうが、何かが足りない気がした。今の言葉では、玲の思いを完全には伝えきれていない。一四〇文字では足りない。もっと伝えなければ。
ふと、下書きのリストが目に入った。書きかけのツブヤキがここに保存されている。玲はリストを開き、その中の最新のものを見た。
【音大に入学しただけでプロになれるほど音楽の世界は甘くないの。浮かれてないで、もっと現実を見て。あなたがこれから進む道は、今あなたが考えているより何倍も厳しい。練習も、勉強も、今あなたが考えている分の何十倍も必要になる。人生の全てをピアノに奉げる覚悟がないと、その夢は叶わない。やれることはすべてやりなさい。そうじゃないと、いつかきっと後悔するから。】
音大に合格したことを喜ぶ昔の自分のツブヤキにリプライしようとして文字数がオーバーし、それからずっとそのままにしておいたツブヤキだ。
玲は、その最後の言葉を残して、後は削除した。
【やれることはすべてやりなさい。そうじゃないと、いつかきっと後悔するから。】
その言葉を、自分の胸にもしっかりと刻み。
────。
玲は、過去への最後メッセージを、送った。