年下の私からの、突然の告白。
最初はなにかの冗談か、それとも罰ゲームなのかと警戒していた様子の圭一だったが、私の真剣さに気づくと考える時間がほしいと言ってくれた。
「梨花ちゃんは大切な仲間だ。だから、俺も真剣に考えたい。三日だけ時間をくれないか?」
もちろん、私はうなずくしかなかった。
圭一は傷つけない断り方を考えるために時間をおいたのだろうか、と不安になったが……羽入は笑った。
「あの圭一に、そんな器用な考え方ができるわけはないのです」
言われてみればそのとおり……そんなことのできる人間だったら、好きになんてならなかった。
まっすぐな圭一は、言葉通り真剣に、私のことを考えてくれているだけだった。
……きっかり三日、待たされた。
あとで聞いた話では、両親をはじめとしていろんな人に相談していたらしい。
知恵、入江、大石、富竹、葛西……鷹野にまで。
いつかの世界で圭一がいった言葉のとおりだ。困ったときは仲間に相談するんだ、か……。
私の名前は出さなかったそうだ。
女の子に告白されたけど自分にはなにを考えればいいのかわからないといって大人たちに詰め寄った。
大人たちは苦笑しながらも、自分の経験を交えて圭一にいろんな話をしてくれたらしい。
さすがに私と近い部活メンバーに相談しなかったのは、圭一なりの心遣いだろう。
そしてそれらを踏まえて、丸一日ひとりになって考え、答えを出してくれた。
「梨花ちゃんってさ、ちっちゃいけどびっくりするほど強いよな」
圭一の第一声は、そんなものだった。
「雛見沢症候群のことや、連続怪死事件のこと。自分も巻き込まれていたのに、いままでそんなことおくびにも出さずに抱え込んで、治療薬の研究に協力したり、一人になってしまった沙都子を支えて一緒に暮らしたりさ」
たぶん圭一の言いたいことと、わたしの真実は違う。
彼はまだ、裏の裏……羽入がオヤシロ様であることや、わたしが百年の魔女であることを知らないから。
でも……なぜだか、そんな圭一の言葉に涙が出そうになった。
「けど、そんな梨花ちゃんが抱えきれなくなったものを俺たちに打ち明けてくれた。だから助けられた。俺たちが、いや特に俺なんかは、どれだけ役に立ったかはわからないけどさ、すこしでも梨花ちゃんを助けられて嬉しかった」
そんなことない、圭一はいっぱい助けてくれた。
幾多の世界で、私に希望を分けてくれた。
大切なものを守るための勇気を教えてくれた。
「俺は、きっと赤坂さんみたいには梨花ちゃんを守ったりできない。我ながら、たよりない奴だと思う」
それでいい、圭一はそばにいてくれればいい。
前に立って守ってほしいわけじゃない。
隣に立って、そっと手を握ってくれればいいの。
「それなのに、俺を選んでくれたってことがすごく嬉しいんだ。つらいことがたくさんあったのに、泣き言のひとつも言わずに、仲間の前では笑ってくれていた梨花ちゃんに、俺が支えになれていたってことだよな」
いつの間にかあふれていた涙が、止められなかった。
本当に本当に、真剣に私のことを考えてくれたんだ、そう思うだけで心がいっぱいになった。
「これから先も、梨花ちゃんの支えになれたら幸せだって思った。梨花ちゃんが気兼ねなく泣ける場所になりたいって思った。梨花ちゃんをもっともっと、心の底から笑えるようにしてあげたいって思った」
不器用でつたない言葉、でもそのひとつひとつが私の心をあたたかくしてくれた。
「俺は未熟で弱くて、たよりない奴だけど。きっともっと強くなるから。だから、一緒に歩いて欲しい。俺の隣にいて、ちっちゃいけど強い梨花ちゃんの笑顔を、俺の支えにもさせて欲しい。……これが、俺の答だ」
言葉にならなくて、涙ばかりがあふれて、私は圭一に飛びついて、泣きじゃくった。
長い長い、本当に長い時間をかけてたどりついたあたたかな場所。
ずっと近くにあったのに気づかずにいた、優しいぬくもり。
それを抱きしめて、私は声の限りに泣いた。
後日。
「しまったぁあ~、抜け駆けとは……梨花ちゃんのタヌキっぷりを忘れてたよ!」
圭一と話し合って、仲間たちには早々に打ち明けることにした。
「あはは、魅ぃちゃんも実は、圭一くんを狙ってたんだよ、だよ?」
「おいおいマジかよ、冷やかすならまだしもからかうのはナシだぜ!」
「……それを本気で言ってるから、圭一は鈍いって言われるのです。にぱ~☆」
「え、それどういうことだ? 俺ってそんなにモテてたわけ?」
この男、やっぱり天然だったか……。
「調子に乗るんじゃありませんわ! いいこと、梨花を泣かせたら承知しませんからねっ」
「そう言う沙都子が泣きそうじゃないですかぁ~、ねーねーの胸でお泣きなさい、ね?」
「だっ、誰が泣きそうなんですの……なっ、泣いてないもん!」
な、なんかごめんね沙都子。
自覚さえする前に終わってた初恋……になるのかしら。
「レナもね、ちょっと残念かな。あっ、でもそれ以上に嬉しいよ。圭一くんも梨花ちゃんも幸せそうだもん」
「そうだね~。おじさんもマジだったからさ、今日はレナに慰めてもらおっかなぁ」
「あはは、いいねいいね! 今日は魅ぃちゃんとこにお泊まりだよ、はぅ~!」
「あぅあぅ、レナと魅音がショックのあまり違う道に走ってしまいそうなのです!」
それぞれ複雑なものはあったのだろうが、ともかく祝福してくれた。
それでまた、私は泣かされることになった。
惨劇なんて、あるわけなかった。
あれこれ考えていた自分がバカみたいだ。
恋は叶い、仲間も失わずにすんだのに、どうしてこんなに涙があふれてくるのか自分でもわからなかった。
……と感動していたのも、つかの間にすぎなかった。
それからというもの、部活では私や圭一が狙い撃ちにされ、圭一がメンバーの雑用に付き合わされたり、私がお持ち帰りされたりと、一緒にいる時間を削られることが多い。
翌日に二人で会う約束をどこからともなく知られていて、容赦なく予定を潰されたときなど、ちょっとばかり殺意を覚えたほどだった。
「あっはは、これも愛の試練ってやつかね♪」
「はぅ~、涙目の梨花ちゃんかぁいいよ~☆」
「を~っほっほ、そう簡単にいちゃいちゃできると思ってもらっては困りますわぁ!」
こっ、この連中……!
いっそのこと、私が惨劇を起こしてくれようか。がるる。
圭一はほうぼうに相談しにいっていたので、付き合い始めれば狭い村の中に噂が広まるのはすぐだった。
「ま、まさか梨花さんだとは思いませんでしたが……いいですか、学生らしく節度を持ってですね……」
「前原さんに先を越されてしまいましたか。ですが私も、いずれは沙都子ちゃんと……フッフッフッ」
「んっふっふ、ちなみに合意があっても犯罪になりますので、ばれないようにお願いしますよ~?」
「幸せそうでなによりだよ。二人の結婚式には、ぜひカメラマンで呼んでもらおうかな、ははは!」
「……若いというのは、うらやましいことです。なにかあればいつでもどうぞ、お力になりますよ」
「うふふ、次代の女王感染者の血液サンプルは意外に早く手に入りそうかしら……楽しみね? くすくすくす!」
村人達も、思った以上に冷静だった。
もっとも羽入によれば連中の反応ときたら、
「じゃあ、前原の坊主が古手神社の跡取りかい。こりゃあ賑やかな神社になるわ。はっはっは!」
「先代も、草葉の陰で安心しとるんね。これもオヤシロ様のお導き、ありがたいありがたい。はっはっは!」
てなものらしい。
……ま、とかく田舎の人間は気が早くて困る。
圭一にくっついて東京に出ていくかもしれない、とか思わないのかしらね?
「あぅあぅ、圭一。オヤシロさまはシュークリームのお供えが大好きなのです。精進するのです!」
村ですっかり古手神社の後継者と目された圭一に、神様自らのアドバイスがコレだった。
「なんか、キムチの持ち込みは禁止にしたほうが喜びそうな神様だなぁ……はは」
「あぅあぅ、そんなの当然なのです! 神聖な社に、あんな脳細胞破壊兵器なんか不要に決まってるのですよ!」
羽入……。
あんたそれ、自分で正体ばらしてるようなもんよ?