第11話 其ノ一 家族
このノートを開くのも久しぶりね。
まぁ、気が向いたときに書くだけだから当然だけど。
書かなかった間のことを、書き留めておこうか……。
鷹野は、東京上層部からの追及を無事に逃れきった。
被害者である入江や私たちはもちろん、副官だった小此木も、口裏を合わせたわけでもないのに結果的に鷹野の発症を疑わせるような証言をしたおかげで、体調の回復後も観察措置が継続。
病人でもないのに働かないのも不自然というので、看護婦に復帰したらしい。
彼女の協力があれば、入江も治療薬を完成できることだろう。
富竹も入江機関や山狗の痕跡を消し去る事後処理の都合上、しばらくはこちらに赴任することになり診療所や小此木造園に出入りするらしい。
本人は鷹野のそばにいられて結構嬉しそうだしね。
「あぅあぅ、梨花。悟史のことも書いておくのです!」
そうね。
冬のはじめ、ついに悟史が帰ってくることになった。
沙都子と同じく日常生活を送れるL3以下のレベルに抑えられたと判断した入江が許可を出したのだ。
それまで隠していたことを責められ、入江と詩音はトラップのフルコースを味わうことになったけど。くすくす。
私と羽入も同罪だけど、そんなの予測済みだったからしらばっくれてたわ。
悟史は年明けには無事に退院し、お魎の後見を受けて沙都子と一緒にもとの北条家で暮らすことになった。
「詩音も押し掛け女房ができて嬉しそうなのです♪」
同時に、私と羽入も住み慣れた防災倉庫を出ることに決まった。
……というのも、年末に大雪が降ったときのこと。
雪の重みで傾いていた電柱がついに倒れて壁をぶち抜き、それはもう大騒ぎになったのだ。
電話線や電線も一緒に切れて、真冬だというのに壁に大穴が開くという……思い出すだけでも恐ろしい大惨事だった。
「あのときは、あやうくループしてしまいそうだったのです……あぅあぅあぅ」
う、確かにね……轟音に気づいて飛び起きたら部屋が極寒地獄だったのよね。
3人で凍えながら身を寄せ合って、ちょっぴり死を覚悟したりもしたっけ。
あのとき、電話が通じないのに気づいて綿流し編の記憶が蘇ったらしく、慌てて助けにきてくれた圭一やレナはホント、救いの神に見えたわ……。
「あ、あの~、いちおう神様は僕なのですが……?」
しばらくは園崎家の世話になってたんだけど、沙都子が北条家に移るのと同時に私たちも引っ越すことに。
沙都子には一緒に暮らさないかと誘われたけど、兄妹(+詩音)の仲に水をさすのもなんだし……。
もちろん、古手の本宅に移ることも考えた。
でも、また子供だけというのも危ないと村の皆に反対された。
前例ができてしまった以上反論もできないし……。
「結局、前原屋敷にご厄介になることに決まったのです、あぅ」
伊知郎が仕事部屋をひとつ空けてくれたので、そこに羽入と二人でお世話になることになったというわけ。
伊知郎の仕事も近年ますます忙しくなっており、夫婦で家を空けることも日常茶飯事となっていたので、家事のできる私たちが一緒に住んでいれば、安心して圭一を置いていけるというのが決め手になったらしい。
さすがに魅音たちにはかなりブーイングを浴びるはめになったけど……引っ越した者勝ちよ。
村の皆には、ちょうどいい花嫁修業だってさんざん冷やかされたわね……。
「そういえば、圭一のお父さんは僕と梨花を見て驚いていたのです」
ああ、そうだったわね。
綿流し祭の実行委員会なんかで私一人なら顔を合わせたこともあったけど、羽入とセットで会うのははじめてだったから、伊知郎もあのときのことを思い出したのよね。
その顛末を圭一がいる前で話したものだから、さすがに不安になったわ。
「あぅ……、僕たちにとっては、あれは圭一をこの運命に巻き込んだ瞬間で、消せない罪なのです……」
でも、圭一はちっともそんなふうに考えなかったみたいだけどね。
「へぇ~、その偶然がなかったら俺は梨花ちゃんや羽入やみんなと出会えなかったんだな。仲間と雛見沢抜きの人生なんて、考えたくもないぜ……ありがとうな、二人とも!」
あの笑顔は、正直やられたと思ったわ……。
「あぅあぅあぅ、僕だって同じです! 二人で泣き出して、圭一たち親子を呆然とさせてしまったのですよ!」
……いま思い出すと恥ずかしいわね。
涙なんて、百年の迷宮と圭一に告白したあの夏に流し尽くしたと思っていたのに。
「でもしょうがないのです。あの言葉と笑顔にどれだけ僕たちが救われたか、圭一は絶対わかってないのです!」
そうよね……、思えば、あのときからかしらね。
「あぅ?」
羽入が、人の彼氏にちょこちょことちょっかいかけるようになったのは……。
「あ、あぅ!? そ、それはその、一緒に暮らすのですから、家族として、親愛の情をですね……!」
ふぅん……『あ~ん』とか『やたら気合いの入ったチョコ』とか『圭一を起こしにいって思わず添い寝』とかあれって家族としてのものだったんだぁ……。
「あぅあぅ……梨花、笑顔で鉛筆をへし折るのは怖いのです」
……ま、いいわ。圭一と一緒にいられる時間が増えたのは、私だって嬉しいからね。
「そ、そうなのです。仲良きことは美しき哉、なのです」
仲がいいといえば魅音とレナはあれ以来、やけに二人でいることが多いけど……ま、まさかね?
「あぅあぅあぅ……黙秘権を行使するのです。黙秘権を行使するのですよ」
2回言うな。いいけど、別に。
魅音と言えば、さすがに圭一目当てでない状況では勉強する気も出なかったらしくて、二学期いっぱいはこそこそ部活を続けたわね。
それでもレナにはっぱをかけられ、圭一も協力してラストスパートで追い上げ、最終的には興宮の中堅どころの高校に見事合格。
魅音の普段の学力からするとあれ、大金星よね。
「ちなみに詩音も、同じ学校に余裕で合格したのです」
あっちはあっちで、悟史に合わせて留年でもしようかなんて言ってたけど……。
「あぅあぅ、お正月にそれを言ったときのお魎と茜の目は物凄く怖かったのです!」
……あれも夢に見そうだったわね。
えっと、悟史はさすがに出席日数がたりなくて、2年生をやりなおしたのよね。
1年以上も行方不明だったんだから当然だけど、これも圭一が協力して遅れていた分はだいぶ取り戻せたらしいから、最終的には圭一やレナたちと同じ学年で卒業することになりそう。圭一さまさまね。
「あと、圭一が部長代理に任命された件も書いておくべきだと思うのです」
そうね。部長たる魅音の卒業で、さすがに平日の部活はなくなるのかと思ったけど、魅音は圭一を部長代理に任命。魅音と詩音がいない間は皆で腕を磨いておくように、と厳命していった。
だから今年の部活メンバーは、圭一と悟史、レナと私と沙都子と羽入。考えてみると結構残ってるのね。
まぁ圭一たちは魅音よりは真面目に受験勉強するだろうし、夏くらいまでは楽しむとしましょうか。
あ、そうそう……大石はこの春無事に定年退職を迎え、あの事件に関わったみんなでお祝いをした。
「神社の桜の下で、お花見も兼ねたどんちゃん騒ぎなのです♪」
部活メンバーからは合同で特注の刑事魂ジャンパーを贈ったのよね。
「背中に『HINAMIZAWA 2000』のロゴ入りだったのです!」
北海道は寒いだろうから、重宝してるんじゃないかしら。
あと赤坂からはどこかの温泉で買ったらしい高価そうな銘酒、茜が代表して園崎組からは最新の全自動麻雀卓。
「感極まって泣き出してしまった大石が可愛かったのです、あぅあぅ☆」
久しぶりに赤坂も姿を見せたから、あれからのことをいろいろ話したんだけど……。
「さわやか笑顔で圭一にエールを送る赤坂を見て、梨花がなんだか複雑そうだったのです」
う、うるさいわね。
そのことではさんざんみんなにいじられて、しまいにはレナにお持ち帰りされたんだから不問にしなさいよ。
「みんな、抜け駆けした梨花に仕返しできて楽しそうだったのです♪」
私にはとんだ災難だったけど、これもいい思い出になるんでしょうね。
「とびっきり楽しいお別れ会でした」
あの大石のことだから、きっと向こうでも元気でやってるわね。
「んっふっふ、なんて笑いながら社交ダンスをしてるに違いないのです☆」