恋心故に私が決め手を欠いたのを良いことに、羽入は増長した。
自分で食べずに羽入の口に直接アレを詰め込むという最終手段もないわけではないが、抵抗されてこぼしでもした日には、
<この後スタッフKがおいしくいただきました!>
てなことになりかねない。
ついでに羽入の泣き顔だって別に見たくない……という私が甘かったらしい。
それはかろうじて惨劇までは発展しなかったものの、私にとって迷惑でたいして面白くもない事件の発端となった。
私がちょっと目を離した隙に、やらかしてくれたのだ。
なんのかんのと口実をつけて圭一を興宮に連れだし、どうみてもデートにしか見えない『お散歩』とやらを決行したのだ。
「あぅあぅ、あれは本当にお散歩なのです! 他意はないのですよ!」
へぇ……公園では腕を組んでたって聞いたけど?
「あ、あぅ……それはその、家族のスキンシップのつもりだったのです。に、にぱ~☆」
……はぁ。
そう、それだけならば私も、ため息ひとつですませる事態にすぎなかったのだが……。
最悪なのは、公園でばったりと魅音に出くわしたことだ。
さらにタイミングの悪いことに、レナと沙都子が一緒だった。
茶化しながらも声をかける魅音、疑惑の眼差しを向ける沙都子、慌てて言い訳する羽入、嘘だッ!と吠えるレナ、宥めようとしてれなぱんを喰らいリタイアする圭一。
そんな場面が私にも容易に想像できる。
「はぅう……レナが、レナが怖かったのです!」
仕方ないでしょ。
レナは浮気問題には厳しいのよ、トラウマ的に。
その場をおさめようとした魅音の選択は、それを部活にするということだった。
ここからが、私にとってはとても迷惑な話。
全員がひとりずつ圭一とのデートをして、羨ましさ、当事者は満足度を基準に点数をつけようと言うのだ。
持ち点は、参加者がひとり10点ずつ。傍観者の悟史と詩音も10点ずつ。そして圭一と私が20点。
ゲームという殻をかぶったことでレナも不承不承引き下がり、当事者の圭一と羽入は胸をなで下ろしたのだろうが……。
なんで私のいないところで、私まで参加が義務づけられてるのよ!!
「あぅあぅあぅ……ごめんなさいごめんなさい!」
本命の彼女ともあろう私が、これだけのハンデを与えられても最高点をとれなかったらどうだろう?
破局、とまではいかないにしても……後々にしこりが残るのは間違いない。
つまりは第2回前原圭一杯の開催を意味しているのだ。
なんのことはない、これはあの夏に抜け駆けした私に対して部活メンバーが時を超えて異をとなえた雪辱戦。
あれから2年、誰もまだ圭一への想いを整理しきってなどいなかったのだ!
ちなみに後日二人の話を聴取してつけられた羽入の点数は、
魅音3点、レナ2点、沙都子4点、羽入10点、
詩音4点、悟史8点、圭一15点、私が11点。
合計で57点。
「む~……途中で邪魔されたとはいえ、低かったのです」
この点数の付け方が、なかなかに微妙なのだ。
自分には最高得点をつけるとしても、ライバルの点数を0点にするのも考えものだ。
自分自身の順番が後なら、間違いなく報復される。
となると、ある程度はデートの内容を鑑みて公正な点数をつけなければならない。
順番を決めるくじ引きは毎回行うので、報復の心配がないのは逆を言えば先陣を切った羽入のみ。
「でも僕は事前の準備もできなかったし、途中で魅音たちに邪魔されたので高得点は出せなかったのです、不公平なのです!」
自業自得でしょ……。
微妙な駆け引きのもとに行われるゲーム、厳正なくじ引きの結果、次週の権利を得たのはレナだった。
「圭一くんを一日ひとりじめなんて、幸せ。はぅ~☆」
レナが選んだのは彼女らしい、とても素朴なデート。
雛見沢をのんびりまったりと歩き回り、圭一やみんなとの思い出を巡る、素敵な一日だったようだ。
「たしか点数は、
魅音8点、レナ10点、沙都子7点、僕が8点、
詩音5点、悟史が9点、圭一が17点、梨花が13点
……77点、だったのです。でもレナは点数以前に、とても満足そうでした」
レナの場合は、勝つことが目的じゃなかったっぽいしね。
次の順番を得たのは私。3番手って……微妙な位置よね。
正直に白状すれば、私は圭一とデートらしいデートなどしたことがなかった。
2年付き合っていても、買い物ついでに街を歩いたり、それこそ村の中を散歩をしたりというのがせいぜいだった。
でも、この部活ではそれは許されない。
他人に話して、羨ましがられるようなデートでなければ意味がないのだから。
「前日まで、梨花はさんざんに悩んでいたのです……見ていてちょっと可哀想でした」
でも当日朝、圭一は私の手を引いて家から連れだした。
圭一が私を連れて行ったのはおなじみの神社の高台。
ただ並んで座って、とりとめもなく話をするだけ。
これのどこがデートなのかと思ったけど、圭一は無邪気に笑った。
「お気に入りの場所で梨花と一緒にいれば、俺にとっちゃ最高の一日だからな!」
なんて……、ちょっと格好つけ過ぎじゃないの?
「あぅあぅ……でも、惚気る梨花のとろけるような表情があまりにも幸せそうで、みんな高得点をつけていたのです」
魅音6点、レナ9点、沙都子7点、羽入9点、
詩音5点、悟史10点、圭一20点、私が20点。
合計は86点だったわね。
「次は沙都子ですね。沙都子は完全に発想の転換だったのです」
沙都子はソフトボール部の練習試合に圭一や私たちを招待したのだ。
投げて打って走って、ソフト部の部員たちと笑い合う沙都子の姿は、私から見ても眩しいものだった。
並んで声援を送る悟史と詩音、ハチマキにメガホンで声をあげる鉄平。
それは、かつての世界では望んでも得られるはずのない光景。
いまの沙都子が手に入れた、とても優しい世界がそこにあった。
「学校も楽しいし、にーにーも帰ってきてくれて、いまとても幸せですのよ。私を支えてくださった圭一さんや皆さんのおかげですわ……だから、今日はいまの私を見ていただきたかったのですわ」
輝く笑顔でこんなことを言われて、高得点をつけないわけにはいかなかった。
……ある意味、見事なトラップといえなくもない。
「魅音7点、レナ8点、沙都子10点、僕が7点、
詩音10点、悟史10点、圭一16点、梨花が16点。
合計で84点だったのです」
危ないところだったわ……で、最後は魅音ね。
魅音は詩音プロデュースの豪華版デートだったわね。
興宮もすっ飛ばして、圭一にとっても馴染みになってきていた穀倉が舞台だった。
水族館や映画館、詩音いわく初心者向けのデートコース。なんで初心者向けなのかしら?
最後は夜景の見えるレストラン、魅音も着飾っていた。
でも肝心の魅音自身はガチガチ、見かねた圭一に連れ出されて公園で缶コーヒーという結果に終わったらしい。
「あっはは、おじさんにはあんなの、似合わないよね……失敗失敗☆」
「ったくお姉は、優しい妹の心遣いをなんだと思ってるんですか」
魅音はそれでも幸せそうだったけど、結果は
魅音10点、レナ8点、沙都子6点、羽入7点、
詩音8点、悟史8点、圭一16点、私が12点。
合計は76点。らしくないことをしたのが敗因ね。
でもなんだかんだで結局、みんな最後までちゃんと点数をつけてたあたりは意外にフェアだったわね。
「あぅあぅ、ビリは僕だったのです~」
優勝は私。
ともかく史上最悪の部活も、どうにか私の勝利で幕を閉じた。
とりあえず一安心……もっとも、私というよりも圭一のおかげだったのだけれど。
敗者である羽入に課せられた罰ゲームは、目隠し&メイド服で裏山一周の旅。
みんなは後ろから、見物とばかりぞろぞろついていった。
私は羽入が消えたり飛んだり、不正をしないように見張るのが目的だったんだけどね。
「あぅあぅあぅ、トラップを片っ端から引きまくって、あのときは死ぬかと思ったのですっ!」
一応沙都子が、死なないように調整してくれてたじゃない。
最後の最後で落とし穴に首まで埋まったときは、そのまま埋めてやろうかと思ったけどね。
「あぅう……ロードランナーの敵ロボットたちの気持ちがわかったのですよ……」
そんなオチかい。
ま、これに懲りたら人の彼氏に余計なちょっかいかけるのはやめなさい。
「さんざんだったけど、圭一がおんぶして帰ってくれたので僕もそれなりに満足だったのです、あぅあぅ♪」
くっ……あんたなんか神じゃない!