詩音が距離をとって沙都子がひとりぼっちで買い物をするようになると、レナが見かねて手伝うことになって……詩音は余計に追いつめられていくことになったわね。
「レナはとても優しい子なのです……自分が原因だとわかっていても、放っておけなかったのだと思います」
むしろ、自分が原因だからこそ、でしょうね。
詩音のケアは魅音にまかせていたけど、詩音の方でも告白する勇気をもてずにここまできてしまったのはやっぱり自分のせいだと思ってたでしょうね。
「あぅ……それに、彼女は誤解してしまっていたのです。実際にはレナは北条家の前で別れていたのに、自分のかわりにレナが北条家に出入りするようになったと……悟史は、レナとつきあい始めたに違いないと思いこんでしまったのですよ」
それも、無理はない……か。
実際、悟史の気持ちは今でもレナのほうを向いてるくらいだもの。
「だからといって引き下がることもできず、つらい気持ちをためこんだ詩音は……、ついに綿流しの夜に暴発してしまったのです! あぅあぅあぅっ」
私の奉納演舞が始まる直前、衆人環視の中でレナに掴みかかって……さすがに焦ったわ。
「詩ぃちゃん……この手、離してくれないとレナも怒るよ?」
レナは激昂する詩音に冷静に返して……さすがはレナと言うべきなのかしら。
いや、決して褒めるところじゃないんだけどね。
「確かに、年頃の女の子にとっては、どこからともなく鉈を取り出す特技は褒めるところじゃないのです……あぅあぅあぅ」
突然の凶器出現に境内はパニックになるし、詩音は詩音で屋台の骨組みの余りらしい鉄パイプを即座にそのへんから調達して対抗するし……。
ううう、思い出すだけで悲しくなってくるわ。
せっかく昭和58年6月の惨劇は全部越えたっていうのに、どうして仲間同士の刃傷沙汰をまたまた綿流しの夜に見なきゃいけないのよ!?
「ぼ、僕に言われても困るのです! それに梨花だって、黙って見ていたわけではないのです!」
そりゃそうよ。鉈と鉄パイプで打ち合い始めた二人を黙って見ているなんてできない。
「おお~……古手梨花、立つ! なのです!」
私は言いたい、むしろ参加させろと!
「な、なんだってー!? なのです!」
罪滅し編でレナと圭一の繰り広げた月下の戦いを見てからというもの、できることならアレやりたくてちょっとうずうずしてたのは、羽入と私だけの秘密よね!
「……梨花、いつからそんな、どこかの悪魔みたいな闘争本能の塊に」
ということで、この場面は私のアルター、レイジングハートの出番よね!?
「あぅあぅ、それはいろいろ間違ってるのです!」
二人の間に割って入った巫女装束の私は演舞用の鍬を振り回し、柄で鉄パイプを、刃のほうで鉈をはじき返してその場に割り込んだ。
「あのときは場の空気とか無視でやんやの拍手喝采だったのです!」
おいで鉈女、ならびに拷問狂っ!
「あの二人相手の実戦経験なら、無駄に豊富ですからね梨花は……」
でも二人はそんなことでは止まれないところまできてて、二人相手にはさすがの私も押されだしたわ。
駆けつけた沙都子も蒼白になって、声の限りにレナと詩音を止めようとしていたところへ……圭一と悟史が参戦してくれたのよね。
「にーにー!」
「遅くなったね、沙都子。……みんなを、助けにきた!」
むむ、どっかで聞いたような遣り取りね。
こっちも負けてられないわ。
「圭一! 圭一! 圭一! 圭一ぃっ!」
「……あいよ」
ネタに付き合ってくれてありがとう、圭一。
「梨花、シリアスなシーンでは自重しろなのです。あぅあぅ」
背中合わせでレナと詩音に立ち向かい、気迫で押し返す圭一と悟史。
あの金属バット2本も、いったいどこから持ち出してきたのかしらね……。
「それこそ圭一のアルター能力のような気もするのですが……」
それだと圭一、甲斐性なしのろくでなしになっちゃうじゃない。
「梨花が酷いこと言ってるのです」
悟史は高校生になってだいぶ鍛えていただけあって、わりと余裕だったわよね。
「詩音、やめるんだ! 僕は君のそんな姿は見たくない!」
詩音は気迫負けってかんじで、すぐに鉄パイプをたたき落とされて悟史と沙都子に取り押さえられてたわね。
「好きな人相手でも気迫負けとか関係ないレナがとんでもないだけなのです……」
う~ん、レナと圭一は相変わらず楽しそうだったわね……。
「あっはは! 圭一くん、これってはじめてじゃないような気がするよ!」
「奇遇だな、レナぁ! 同感だが、結果までは前と同じにゃさせねぇぜっ!」
罪滅し編では打ち負けた圭一だけど、今回は互角以上だったわね。
「圭一くん、どうして、邪魔、するのかな。……かなッ!」
一応解説しておくと、言葉の句切りごとにレナは圭一めがけて鉈を打ち込んでる。
最後の『かなッ!』のところではスカートを翻し、後方回転斬りまで披露してくれた。
おっと、もちろんあのときとは違う。
レナもすこしは冷静らしく、鉈の峰のほうで戦っていた。
「はっ、決まってるじゃねぇか、レナ!」
圭一はそれを全部弾いた上で、レナの足元めがけて打撃を加えた。
「……守りたいやつが、後ろにいるからだッ!」
咄嗟のタイミングとはいえ、鮮やかに空中へ逃れたレナがはっと息を呑む。
さすがのレナでも、空中では思うように動けない。
それを読み切った上で仕掛けた圭一は、下から上へと金属バットを振りあげていた。
打撃を加えたのはレナの身体ではない、鉈の刀身だ。
レナは鉈を弾き飛ばされると同時に着地して膝をついた。
「あは……レナ、負けちゃったね」
どこか諦めたような、吹っ切れたような……そんな笑みを浮かべてレナが呟く。
圭一は金属バットを肩にかついで、にやりと笑ってみせた。
「これで一勝一敗、だろ? 決着は、できればつけたくねぇけどな」
「そうだね。普通に恋のできる世界なのに、私……何、してるんだろうね」
時を超え、世界さえも超えて……交わす視線と視線。
もう取り戻せないなにかを惜しむように、二人は笑い合った。
……ちょっと、妬けるかな。
「はいはい、ゲーム終了! 今年の八凶爆闘の勝者は圭ちゃんってことで! みなさん、お騒がせしましたぁ~っと☆」
最後は魅音が出てきて、祭の余興だったということにしてその場を流す。
ちょっと無理があるような気もしたけど、毎年の部活メンバーの大暴れっぷりのおかげでみんな信じてくれたらしい。
「あのときは魅音の機転のおかげで助かりましたのです……」
罪滅し編のときと同じく夢中で戦ったせいで毒気が抜けたのだろうか、レナも詩音もすっかり正気に戻っていた。
私は奉納演舞があったからその後のことは見届けてないけど、どうにか仲直りしたのよね?
「二人が抱き合って泣く姿は、梨花にも見せたかったのです」
雨降って地固まる、ならいいんだけど……結局、あれから悟史は詩音とレナに挟まれて、沙都子に叱られては「むぅ」とか呻く毎日を過ごしてるのよね。
「同い年の尽くすタイプと年下の家庭的なヒロイン、それにツンデレ気味の世話焼き妹に囲まれる高校2年生……悟史がギャルゲ主人公のようなのです、あぅあぅ」
新しい微妙なバランスが出現しちゃったわね……まだまだ安心できそうにないか。
ん、そういえば魅音のお見合いは結局どうしたの?
「えっとですね、どうも相手の資産家の息子というのが前の生徒会長だったそうで……」
え……前の生徒会長ってあれよね。
激戦となった生徒会長選。
自分の後継者である対立候補を当選させるためにあの手この手を仕掛けてきて、焦った魅音が私や沙都子までチアガールに動員し、どうにか数票の差で打ち勝った。
その勝利に沸く魅音陣営を脈絡もなく単身で訪れ、お祝いにと薔薇の花束を捧げて魅音を赤面させたとかいう……あの、ひと癖かふた癖ありそうな気障男。
「はい。魅音も好敵手だと認めてましたので、あれ以来休みの日に会っては知略を使うゲームで勝負したり、次の生徒会長をどちらが傀儡にできるか賭けをしているそうです」
それはそれで、ありがちなラブコメ風味の展開ね……呑気というか魅音空気読め。
「……ゆうべはおたのしみでしたね!? 宿屋のメッセージが違うのです梨花!」
羽入……あんたも空気読んでよ。頼むから。
「でも勇者に圭一の名前をつけてるからちょっと複雑なのです……あぅあぅ☆」
……ホンットに楽しそうよね、羽入の毎日って。