第2話 其ノ一 反省
さて、何を書こうか……。
詩を書くのもいいけど、別人だって主張してる誰かさんに悪いしね。
「井戸の中の蛙さんとかが大好きなあの人なのですね」
そいつそいつ。余計なこと言うから、みんなずいぶん混乱したわよね~。
「梨花がメタなこと言ってるのです」
さてなんのことかしら。
あ、そうだ。書くこと思いついたわ。
今となってはあの迷宮も、今の私を支えてくれる大切な思い出よね。
思い出せるうちに、印象の強いいくつかの世界についてはメモしておくのがいいかしらね。
えっと……まずは、最近見たレアな世界ね。
アレよ、圭一が発症して魅音とレナを殺した世界。
「鬼隠し編の世界なのですね」
鬼隠し……編? なによ、それ。
「上位の世界では、あのカケラはそう呼ばれているのです。とても重要なカケラのひとつなのですよ」
へぇ……よくわからないけど、物語みたいね。
「上位の世界の人は最初、あのカケラを無料でダウンロードするので、とても印象が強いのです」
それなんて体験版?
……ってあんたもメタなこと言ってるわよ。
っと話がそれたわね。とりあえずその~編って呼び方は採用。
でも、なんであの世界が『鬼隠し』編なの?
「あぅ……言われてみると何故でしょう?」
いいかげんな話ね……上位の世界とやらもたかがしれてるわ。
「細かいことは気にせず振り返ってみましょうです!」
とはいっても、あの世界そのものは単純な図式よね。
レナや詩音に問題が起こらなかった分、綿流しのあとに発症するのが圭一になったっていうだけだもの。
「体験版があんまり複雑な話では困るのですよ」
そのネタはもういいから。
「圭一が親戚の弔いで都会にいったときに発症してしまうのは、本当に珍しいことなのです」
そうね、考えてみればほかに圭一が発症した世界なんて、鉄平絡みで一度か二度だものね……運が悪かったってところかしら。
「あぅ……でもあのカケラがなければ、圭一が発症したレナを救う奇跡も起きなかったのです」
そうよね、あの奇跡にはずいぶん勇気づけられたわ。そういう意味では、重要な世界だったわね。
私はあの世界、結局なにもできなかったけどね……。
「梨花は例によって注射を持って走り回っていたけど、全然圭一に追いつけなかったのです、あぅあぅ♪」
し、仕方ないじゃない……。
どういう展開になるのか、ほとんど予測のつかない世界だったんだから。
レナみたいにいつもどおりの隠れ場所にいるとわかってれば、私だってそこに顔を出すわよ。
「……レナのときは、かえって妄想を悪化させる結果に終わっていたのです」
ストーキングで足音たてまくって、みんなの症状悪化させてる羽入に言われたくないわよ。
「あ、あれは仕方ないのです……実は背中にぴったりくっついて、症状悪化をすこしでも食い止めるための神通力を送っているのですよ。オヤシロ様ひみつパワーのひとつなのです」
そ、そんな設定だったの!?
「いま考えたのです」
……だろうと思ったわ。
ともかく鬼隠し編については反省しきりね。
走っている間にコケるし、挙動不審であやうく沙都子にバレそうにもなるし。
「梨花の出番そのものがあんまりなかったのです」
……やっぱり、それが最大の反省点よね。
逆によくある世界っていうと、詩音に拷問される世界ね……アレは最悪。
死ぬ直前は思い出せないけど拷問の最初のほうはしっかり記憶に残ってるし……あ~、思い出したくもない。
「綿流し編の世界ですね。梨花は最近まで、アレの犯人が魅音だと思ってたのですよね」
だって、地下でも魅音が詩音をお姉、詩音が魅音を詩音って呼んでるんだもの……そりゃ間違えるわよ。
って言ってるだけでもややこしいわね。
連続怪死事件もいくつかの事件は確かに山狗の仕業だとわかってたけど、園崎が一連の事件に関わってるっていう疑いもまだ残ってたわけだし……仲間を疑うのは、気持ちのいいものじゃないわね。
いまとなっては、詩音も仲間だって言えるけど。
ええと、おおまかな流れは……圭一が詩音や鷹野たちと一緒に祭具殿に入って、オヤシロ様原理主義者に狙われてると勘違いした詩音が魅音とお魎を返り討ち。魅音のふりをした詩音は喜一郎や私、沙都子を次々と拉致して地下祭具殿で拷問死させる、ってとこね。
「それは真相のほうなのです。圭一の視点から見た場合、オヤシロ様原理主義者を背後から操る園崎の次期頭首園崎魅音が鬼と化し、鷹野に富竹、詩音に加えて、祭具殿の鍵を付け替えた喜一郎や梨花までも消してしまう……という構図なのです。沙都子はどちらにせよ、梨花のとばっちりなのですが」
そういえばそうね……可哀想な沙都子。
「そもそも、梨花が祭具殿を侵入可能にしておくのが悪いのです」
だって鍵を付け替えないと、トミーが体当たりで扉を壊しちゃうんだもの。
どうせ開けられるなら、穏便に開けてほしいじゃない?
「……そ、そんな理由でしたっけ?」
事件の発端、圭一が人形をレナに渡すのを阻止しようとしたことも何度かあったわね。
「でも、あまりうまくいかないのです。あぅ……」
魅音にあげるようにアドバイスしても、魅音が勝手に拒否しはじめるのよね。
圭一は圭一でそれを聞いてやっぱりそうだよな、とかいって結局レナに……。
見てていらいらしてきたから、強引に私が奪い取ったこともあったっけ。
「あれは傑作だったのです、みんな唖然としてましたのです!」
け、結果は同じだったけどね……私が無駄に恥ずかしい思いをしただけで。
「魅音に『空気読みなよ~』って言われて、梨花は3日ほどへこんでいたのです」
思い出させないでよ……結局のところ、あの人形の件は魅音が犯人じゃなかった以上、直接的な原因になってなかったんだもの。どんな展開でも魅音が落ち込んで詩音に相談すれば、同じことだったわけよね。
「素直に受け取ったのは、梨花の覚えてない前回の世界だけなのです」
へぇ、そんなこともあったの?……あの意地っ張りの魅音がねぇ。
「あと、僕が強く印象に残っているのは、詩音に捕まった圭一がかっこよかったのですよ!」
え? それって、私が死んだあとの話じゃないの?
「たいていはそうですが、何度も行われた綿流し編の中には、拷問を受けたまま梨花が放置され、完全には息絶えていなかった世界もあるのです。そのときは、僕がもうすこし長く惨劇を見届けることができたのです」
なるほどね。それで、圭一がかっこよかったって、ブザマに捕まってるのにどうしてよ?
「鬼と化した詩音にですね、自分は気の済むように拷問していいから、二つ約束しろって言うのです。一つ目は、『詩音を許してやれ』……もちろん圭一が言っているのは、本当は魅音なのですが。二つ目は、『その身体を、魅音に返してやってくれ』だったのです」
圭一……そんなときまで、仲間のことだけ考えていたのね。
「自分の命乞いはしないのかと聞かれて『だったら三つ目は俺を殺すなにしてくれ』って笑ってみせた圭一は、本当に男前だったのです!……残念ながらそこまでしかいられなかったので、後は知らないのですが」
その後の話がわからないっていうのはもどかしいわね。
圭一もあの拷問狂モードの詩音に捕まった以上、無事で済んでるとは思えないけどね……。