その次は……と、圭一が鉄平殺しをした世界よね。
「はい、祟殺し編ですね。あれも、重要なカケラのひとつなのです」
だいたいの流れは……沙都子が鉄平に連れ去られて、見かねた圭一が綿流しの夜に鉄平を殺すことを計画。
それは成功するんだけど、魅音の手配した偽装工作が裏目に出て疑心暗鬼に陥った圭一は右往左往……ってやってる間に私は山狗に拉致されて死んじゃうから、これもそのあとの展開は知らないんだけどね。
「山狗が梨花を殺した以上、鷹野の終末作戦は起きているのだと思いますが……」
う~ん、私の死んだ後は雛見沢が全滅してるだなんて、前は知らなかったものね。
鉄平がいるっていうだけで最悪の展開には違いないと思うけど、どのへんが重要だっていうの?
「う~ん、前の世界の記憶がないと梨花と話が合わないですね……かいつまんで話したでしょう、梨花。前の世界で圭一は短気に走ろうとした詩音を止め、村の皆をたきつけて沙都子を救ったのです。それは、自分で鉄平を殺した祟殺し編の強い後悔が心のどこかに残っていたからこそ起きた奇跡だったのですよ」
なるほど……そう言われれば、納得できるわね。
「鉄平が帰ってくるのも珍しいことですし、執行者になるのはたいていレナや詩音だったのです」
圭一は必死でそれを止める側か、起きてしまったあとで知って、魅音たちと一緒に証拠隠滅に奔走するかが多かったのよね。
たいていその後で、惨劇の張本人に殺される結果に終わってたけど……。
ん?……ちょっと待って。
それじゃ……圭一が惨劇を起こすのが、あの迷路を打ち破るための条件だったってこと?
「あぅ……結果的には、そういうことになりますのです」
なんてこと。
私と羽入にとって、圭一はしばしば予測のつかない行動をとってくれる、希望と期待を抱かせる存在だった。
行き詰まるなかで最近は圭一までが発症するようになり、正直言えば失望しかけていた。
でも、彼は鬼隠し編や祟殺し編で自らの手で惨劇を引き起こし、それを強く後悔したからこそ……レナを止め、詩音を止めてくれた。
それどころか、羽入の話が本当ならずっと村八分だった沙都子をも救い出してくれた。
その世界の影響なのだろう、いまの世界でも村人たちの沙都子を見る目はあたたかいものになっていた。
「圭一の成長こそが、あの迷路の扉を開ける鍵だったのです、あぅ」
……本当に、圭一には感謝してもしきれないわね。
そうそう、感謝するといえば、圭一だけじゃなく赤坂もよね♪
「……あぅあぅ、赤坂が影響されたのは、暇潰し編という小さな小さなカケラなのです」
なによその名前は……。
「その世界では、赤坂は生きて村を出られましたが、赤坂の妻は命を落としています」
あぁ、だいぶ前の世界じゃない?
最近は赤坂の奥さん、助けられるようになってきてたものね。
……今となっては、助けなくてもよかったかなぁ~とか思わなくもないけど。
「梨花、黒い発言はやめるのです!」
冗談だってば。
「赤坂の後悔が深いのは梨花の予言の後で妻の訃報を聞いた、その古いカケラの影響が大きいのです」
そうかもしれないけど……結局、赤坂をあの奥さんから奪うのは無理だと言いたいわけね?
「あぅあぅあぅ、そんなこと僕が言わなくても梨花が一番よくわかってるはずなのです!」
そ、それは……百年の魔女だって、憧れのひとつやふたつ持ってもいいじゃないの。
「不倫に憧れるのは、感心できないのです。恋がしたいなら、圭一にしておくのがお得ですよ?」
な……なに言ってるのよ!
け、圭一なんて、いざというときにはたよりにならないし……。
「本当に話が噛み合わなくて困りますが、赤坂は前の世界では梨花をとことん失望させたのですよ……?」
は?
赤坂、前の世界でも雛見沢に来てくれたの?
「はい。ですが、ちょっと顔を見せただけで、沙都子が鉄平に連れ去られたときに梨花が頼ろうとしたら……」
なによ、なんでそんなに言いにくそうなの?
「……肝心なときに家族と温泉に行ってしまって、全部終わったあとで綿流しにお土産の温泉饅頭持参で現れただけだったのです。あぅあぅ」
なっ……なによそれ!?
わけわからないわよ、赤坂のイメージが壊れるからやめてよ!
「あぅあぅ……でも本当のことなのです。梨花はそれで絶望のどん底に叩き落とされて、沙都子とその世界を見捨てるつもりだったのですが、圭一たちが必死で沙都子を救おうとしているのを見て、ようやく立ち直ったのですよ……役立たず扱いは、可哀想なのです」
ほ、本当なの……?
ちょっと罪悪感。
圭一……たよりにならないなんて言ってごめんね。
あと赤坂。
ホントだったとしても今回助けてくれたからチャラにしてあげるけど、もし私にその記憶があったら文字通り百年の恋もさめるわよ……?
ええと、祟殺し編の次は……もう一度綿流し編の世界だったかしら?
「いえ、僕はそのカケラを目明し編と呼んでいるのです」
どうしてよ?
詩音が魅音のふりをして私たちを殺すのは変わらないじゃない。
違うのは……拷問されるのがイヤで、私が自殺したところくらいかしら。
実際に自殺するところまではさすがに覚えてないけど。
「僕もあとから知ったのですが、どうもその世界では沙都子が梨花のぶんまで詩音に拷問されたようなのです」
ええっ!?
……そ、そこまで考えなかったわ。
あの世界の沙都子、ごめん。
なにか、罪悪感を増やすために振り返ってるような気分になってきたわね……。
「綿流し編では目の前で梨花が拷問されるさまを目にして沙都子も泣き叫び壊れてしまうのですが、目明し編では沙都子はひとり拷問を受けて耐えた。悟史への強い想いを胸に、泣き声もあげず、命乞いもせず……そのことが、詩音の目を覚ましてくれたのです」
そうか……それで、目明し編ってわけね。
「はい。これまでも、気まぐれに悟史との約束を思い出しては沙都子を構いに来たり、鉄平を殺しに来ていた詩音ですが、目明し編以降の世界では確実に沙都子の味方になってくれるようになったのです」
それまでの詩音は、私にとってもあまり良い要素じゃなかったものね。
詩音が関わってくるとなぜか魅音が暴走するし……ってそれは本当は、詩音が暴走してたわけだけど。
鉄平殺しのあとも、圭一や魅音、あげくのはてには救ったはずの沙都子まで殺したり。
でもこの世界では強い味方になってくれたのは確かね。
「そうですね。悟史がはやく目覚めてくれるといいのですが……」
入江によれば、鷹野もこっそり協力してくれるって言ってるらしいわよ。
こうなった以上、せめて治療法だけでも完成させないとおじいちゃんに申し訳が立たないから、って。
そうなると、悟史や沙都子の治療は大切なテストケースになるじゃない。
「あぅあぅ、入江たちが頑張ってくれれば、きっと悟史も目覚めるのです!」
そうね……沙都子や詩音のためにも、本当にそう願うわ。