で、次が……私にとっては前の世界、レナの暴走する世界ね。
「罪滅し編、ですね」
その名前はわかりやすくていいわね。
鬼隠し編のことを思い出した圭一が罪滅ぼしとばかりに頑張って、末期症状に至ったはずのレナをとうとうこっち側に引き戻してくれる……本来ならありえない、奇跡の世界だったものね。
「あぅあぅ、最後はやっぱり鷹野に殺されてしまいましたが、梨花をもう一度奮起させた世界なのです」
そうね。これまでも何度かあった世界ではあるけど、いつもなら圭一の意志はそこまで至れずにレナはそのまま暴走、私も校舎と一緒に吹き飛んで黒焦げのバラバラ……って結末のはずよね。
「はい……圭一の行動で細部に違いは出ますが、レナが発症した場合の結末はほとんど一緒です」
ま、私もあの世界では頑張ったけどね。
さすがに勝つのは無理だったけど、鉈女相手に無傷で生還したし。
「梨花、無傷だったのですか! でも確かアニメでは腕を押さえていたような……」
慣れた相手で、時間稼ぎに徹するならそうそうやられやしないわよ。
レナや詩音と戦ったのは、実は一度や二度じゃない。
いまの肉体年齢では勝てないと悟る前の一時期、戦って無力化すべく挑んだことがある。
まだループの期間も長くとれた頃なので、それなりに身体も鍛え、奉納演舞の練習だと偽って、鍬やモップをしょっちゅう振り回していたのだ。
ループしてしまうと鍛えたぶんの筋肉はリセットされてしまうけど、技術そのものは私自身の経験として残る。
結果、いまでは香港映画に子役としてなら出演できる程度のテクニックと、殺人鬼相手の実戦経験を身につけているわけだ。
その頃の癖で、戦闘が予想される事態のときは注射器と防犯スプレーを携帯するのも習慣に近いものとなっている。
「梨花ほど喧嘩慣れした女子小学生もほかにいないのですよ、あぅあぅ」
単純な身体能力なら、沙都子のほうが上だとは思うけど私だって雛見沢っ子だもの。
どこかの体育が苦手な魔法少女とは訳が違うわ。
「でもあっちはあっちで、喧嘩上等という気質の持ち主なのです。家系からして戦闘民族ですし……」
う~ん……確かにあっちも、まずぶん殴ってから言うことをきかせる奴だったわね。
と、話が盛大にそれたわね。
「あぅあぅ、そうです、罪滅し編の話だったのです。あのときの圭一は百点満点だったと思うのです。入江の注射なしでレナを沙都子と同じ程度まで戻したのですから」
そうね……百点まではつけないけど、上出来ね。
格好良かったとは思う……でも、最後レナと抱き合ってたのを思い出すとわけもなくムカつくのよね。
別に下心まるだしって顔でもなかったんだけど、なにかね……。
「くすくす……なぜなのでしょうか~?」
なによ、意味ありげに……あ、詩音が目明し編で救われたように、レナもここで救われたことになるのかしら?
「そうなのです。梨花と圭一の頑張りが、いままで惨劇を引き起こすことの多かった詩音とレナに仲間を信じるということを教え、だからこそ、この最後の世界ではみんな一緒に昭和58年6月を突破できたのですよ!」
そう考えると感慨深いわね……。
考えてみれば私も仲間を信じられずに自ら鉄平殺しをしようとして返り討ちにあった世界もあるのよね。
でも圭一は奇跡を起こし続けることで、私たちを変えてくれた。
やっぱり、圭一の存在こそが私と羽入にとっては最強の切り札だったわ。
圭一の現れない世界もたまにあったけど、あれって最初から出口のない『ハズレ』の世界だったわけね。
「あぅあぅ、梨花は圭一が最初に来たときのことは覚えていないのでしたね……」
そうね、記憶の彼方の出来事だもの。
前原に引っ越しを決意させるために空き地へいくのは、どうやって見つけたの?
「あれは本当に偶然だったのですよ。その前も何度となく殺されては巻き戻し、を繰り返して消沈していた梨花を元気づけようと僕が遊びに誘いだしたのです。そこに圭一のお父さんが来たのです。そうしたらその回は圭一が初めて転校してきて、梨花が……あぅあぅ」
……私が、なによ?
「そ、それは、その……と、とにかくですね、その次の巻き戻しのときには圭一が現れなくて、梨花はとてもがっかりしていたのです。それで二人で原因を考えて、何回かのやり直しでようやくあの日の空き地で遊ぶことが圭一の現れる条件だと突き止めたのですよ! あぅあぅ!」
それはわかったけど……さっきのは何?
気になるから言いなさい、羽入……言わないと即、死刑執行よ。
「あぅ!? あぅあぅあぅ……り、梨花にとっても、聞かないほうがいいことかもしれないのです……」
どういうことよ、余計に気になるじゃない。
死刑執行でダメなら……向こう1年間シュークリーム禁止令でどう?
「はぅうっ!? ひ、卑怯なのです……あぅあぅあぅ。わかりました、言いますのです。でも、その……これを聞いたら、梨花はきっと、とても後悔するのです……」
そ、そんなに重大な話なの……?
ちょっと怖くなってきたけど……そこまで聞いたら、聞かないほうが後悔しそうね。
言ってちょうだい。
「あぅ……あのですね、圭一が最初に現れた世界で、梨花は……け、圭一に……恋をしてしまったのです」
は……?
な、なによ、恋って……?
「り、梨花の初恋だったのです。あぅあぅ、意外な転校生だった圭一に興味を持って近づいた梨花は、圭一をどんどん好きになって、圭一も懐いてくる梨花に優しくしてくれたので、あぅ、その世界の最後では、彼と離れたくない、死にたくないって、ずいぶん泣き叫んだのです。あぅあぅ」
う、嘘よ!
な……なんで私が、け、圭一なんかに……そんなわけないじゃないの。
「あぅあぅ……本当のことなのです、本当のことなのですよ。でも結局殺されて、次の世界で圭一が転校してこなかったときは、自殺してしまったほどだったのです」
自殺……。
「圭一のいない世界なんていらない、圭一と結ばれない世界になんか興味ないって……それで僕も必死で、次の世界から圭一の転校してくる条件をさがすことにしたのです。圭一がもう一度雛見沢に現れたときの梨花の喜びようは凄かったのです、あぅあぅあぅあぅ……」
そ……そんなの嘘よ。
だって、私、そんなこと全然……。
「だから言いたくなかったのです……圭一がほぼ毎回やってくるようになって満足した梨花は、長い年月を過ごすうちに圭一がいることが当たり前になってしまったのです」
…………。
「あぅあぅ、圭一の意外な行動には相変わらず一喜一憂していましたが、恋心はほとんど忘れてしまって……そんなの悲しいから、僕は言いたくなかったのですよ」
涙目であぅあぅと呻く様子を見る限り、どうも本当のことらしい……。
最悪だ。
私が、圭一を文字通りに死ぬほど好きだったなんて……その上それを、忘れてしまったなんて。
確かに……聞いてしまったが最後、私は圭一を普通には見られなくなる。
聞かなければ、もう一度自然に好きになれたかもしれないし、ほかの人を好きになったかもしれない。
でも、もうダメだ……聞いてしまった。
どれほど自分にとって圭一が大切な人だったのか、彼のそばにいるためにこの年月を繰り返してきたのかを知ってしまったら……もう引き返せない。
「あぅあぅあぅ……梨花、ごめんなさいです。言うべきかどうか、僕もずっと迷っていたのです……」
羽入……。
「……梨花」
あんた、そんな大事な話を……たったのシュークリーム1年でよくもぺらぺらと喋ってくれたわね……!?
「あぅ!? あぅあぅあぅ、梨花が知りたがったのです、理不尽なのです! あぅあぅあぅ~~!」