は、話がまたもや思いっきりそれたわね……。
次は、私が覚えてない世界の話よね。
多少は聞いたけど、こうなるとちゃんと知っておきたいわ、羽入。
「からひ……くひのなかが、からひのれひゅ~……はぅはぅ」
いいからさっさと話しなさい。
さもないと、薄めずにワインを口の中に流し込んでやるわよ!?
「あぅ!? わ、わかりましたのです、えぇと、皆殺し編の話なのですね?」
み、皆殺し編って……身も蓋もない名前ね。
「…… 前の世界は、本当に恵まれた世界だったのです。レナも惨劇を回避してましたし、詩音だって沙都子のために雛見沢の学校に通っていましたのです」
へぇ……いい条件が揃ってるじゃない。
「梨花も前の世界で圭一が見せてくれた奇跡の記憶がありましたし、玩具屋で圭一が簡単に運命を変えたり魅音に人形を渡してくれたりしたので、とてもやる気になっていました」
運命を変えたって?
「あの部活で、圭一は億万長者ゲームをやることになっているはずでした」
ええ、そうよね。
魅音に挑発されて、やる気になった圭一が口車で富田と岡村を丸め込んでうやむやに勝利する……綿流し編で、何度となく見てきた展開だわ。
「そう、同じ展開に飽いていた梨花の様子に気づいた圭一に、梨花はその未来を予言として告げたのです。そうなる運命だから、変えられないのだと」
……それを、変えてみせたの?
「はい。『運命なんて、金魚すくいの網よりも容易く打ち破れるってことを証明してやる』と言って……店長に一言告げただけで遊ぶゲームを変えたのです」
う……、そ、そう。
その啖呵は、できれば直に聞きたかったわね。
「あぅあぅ♪ 僕は直に聞いたのです、とても素敵だったのです! 圭一かっこよかったのです♪」
羽入……喧嘩売ってるの?
「そ、そんなことはないのですが……あぅあぅ」
いいから先を続けなさい。
「は、はい。鷹野にも、祭具殿の中を見せるかわりに身辺警備を強化する約束をしてもらえました」
今の私に言わせれば、まったく意味のない話ね。
私を狙ってる張本人の鷹野や山狗に守らせてどうするのよ。
「そ、そうですが……その上、赤坂まで現れたので、本当に有頂天になっていたのですよ」
でも赤坂は役に立たなかったって言うし、長くは続かなかったのよね?
「はい。鉄平が現れて、沙都子を連れていってしまいました。赤坂は温泉に旅立ったあとで頼れず、山狗も警察にマークされている鉄平には手出しできないと言われ……あぅ、梨花は完全に絶望してしまったのです」
そう……無理もない気はするけど、我ながら諦めが早いわね。
「それまでが順調だったせいもありますし、鉄平が現れて無事にすんだためしがないですから……」
確かにそうね。
鷹野と山狗だけでも厄介なのに、仲間が確実に凶行に走るんだものね。
……けど、詩音は圭一が止めてくれたんでしょ?
「はい。みんなで児童相談所に押し掛けて、動いてくれないことがわかると……次の日はクラスの全員と先生を連れて直訴したのです」
圭一にしてはまっとうなやり方ね。
「あぅあぅ、それで沙都子は登校してくることが出来ましたが、圭一は止まらなかったのです。エンジェルモートのスタッフや常連客、入江や鷹野たち診療所のスタッフも含めて数十人で乗り込みました」
ちらっと聞いたことはあるけど、改めて聞くと凄いわね……。
「あぅ、でも町会から圧力がかかってやめさせられそうになるのです。お役所とはもう敵対してないからって」
……沙都子とお役所と、どっちが大事だってのよ。
「圭一は綿流し実行委員会の寄り合いで町会のみんなを相手に熱弁を振るって、お魎の説得を条件に町会が協力を約束してくれたのです」
それで……圭一は、お魎まで説得しちゃったのね。
「はい、あのときの圭一も格好よかったのです。断ったらどうするって聞いたお魎に、『そんときゃこの場であんたの頭を叩き割って、魅音を頭首に据えて首を縦に振らせる』って。あぅあぅあぅ!」
あ、あの鬼婆相手に……。
怖いもの知らずもいいところね、圭一ったら。
「でもその度胸を買って、お魎も許しをくれたのです。翌日には村のみんなもあわせて200人が詰めかけて、園崎家の議員も登場したので、ついに相談所と警察が動いてくれたのです!」
お、やったじゃない!
「梨花が電話で沙都子を説得して虐待を認めると同時に警察が突入、鉄平はお縄頂戴。沙都子は見事に救出されたのです、あぅ!」
凄いわね……本当に、私もそのときのことを覚えていないのが惜しいわ。
それに、その世界で全てが終わっていたら、沙都子も今よりずっと幸せだったかもしれないのに……。
「あぅ……そうかもしれないのです。でも、その世界があるから、いまの世界でもお魎や村人たちが沙都子を村八分にしないでいてくれるのです」
圭一のやったことは、無駄にはならなかったってわけね。
でも、その世界もハッピーエンドでは終わらなかった……だからこそ、今の世界があるのよね。
「はい……結局、いつもと同じです。綿流しの夜に、富竹は鷹野に殺されたのです」
いつものパターンか……時報は時報ってわけね。
「そう言ってしまうと可哀想だとは思うのですが……鷹野も失踪して、大石が接触してきたのは今回、梨花になったのですよ。事前に大石に、村人が富竹と鷹野を狙っているかもしれないと密告していたので、話を聞きにきたのです」
なるほどね……圭一やレナと違って、私は大石に裏がないのは知っていたから、疑心暗鬼の種にはならなかったはずよね。
「はい……梨花は大石に今度は自分が狙われるかもしれないといって協力を要請し、当日は学校を休みました。お見舞いにきた皆に東京のことを打ち明け、殺されるかもしれないということを明かしたのです」
そう……そのあたりは、この世界とも似たりよったりね。
「まだ怪しいのが入江か鷹野かわかっていない段階でしたから、山狗が敵か味方かもわからず、この世界ほどはみんなも推理できていなかったのです」
そうね。それで、大石はどうしたの?
「はい、鷹野の焼死体を調べるために岐阜へいっていたのですが、電話でこちらに向かっていると言って、それっきりです。おそらく、途中で山狗に殺されたのだと思います」
そうか、警察内部にも山狗のスパイはいるものね。そのあたりから情報が漏れたっていうことかしら……。
「そのへんの事情はわかりませんが……深夜、山狗たちがこの家に突入したのです。梨花と沙都子がピンチのところへ圭一やレナたちが駆けつけて、一時は逃げられそうだったのですが……あぅあぅ、その……まず圭一が鷹野に射殺され、それからみんな捕まってしまって……順番に、皆殺しにされたのです」
……そう。
それで私はいつもどおり、鷹野にワタ流しされたわけね。
「梨花は、鷹野が犯人だと絶対忘れたくないって、意識があるままお腹を裂かれて……あぅあぅあぅ、これ以上は思い出したくないのですっ」
というか、なんでそこまでしておいて、世界まるごと覚えてないのよ私は……。
本気で情けなくなってくるじゃない。
「僕にも原因はわかりませんのです……ええと、大人の都合とかでしょうか?」
なによ、それは?
「あぅ、物語の進行上、梨花が全部覚えていると、次のこの世界で僕がほとんど必要なくなってしまってですね……」
ちょっと待ったぁ!!
「あぅ……?」
……そうするとなに?
私ってば、よりにもよって羽入の立場を引き立てるために史上最悪に間抜けな梨花ちゃんだったわけ……?
史上最高に格好いい圭一の記憶も、意味もなく消し飛ばされたと?
意識があるままワタ流しされる生き地獄の苦しみも、全部全部無駄だったというのか!
「あぅあぅあぅ! ぼ、僕というよりも、その、読者の皆さんがですね……」
うわぁぁぁああっ!
お前は鷹野を庇って撃たれて*ね!
祭のシナリオ担当はレナファンに鉈で頭を割られて*ね!
*ね! *ね! みんな*ねぇえ!
「り、梨花が壊れたのですっ! 特に顔、顔がっ!?」