……ちょ、ちょっと興奮しすぎたわね。
「あぅあぅ、梨花の顔芸は壮絶すぎるのです……というか、さりげなく酷いこと言ってたのです」
そ、そうね……ちょっと反省。
「それは僕としても、澪尽しでは出番を大幅にカットされた上、よりにもよって原作の最大のテーマだった『敗者なんていらない』を否定する形でジョーカーとして*ぬという結末を用意されて、祭のシナリオ担当には七代祟っても祟りきれないくらいの恨みがあるのですが……ふふ、ふふふふ……」
は、羽入……?
「梨花だってそうなのですよ……澪尽し編のラストをよく思い出すのです、魅音と圭一は婚約同然の仲、悟史も帰ってきてましたので沙都子はこの家を出ていくでしょう。レナと詩音が仲良くなった? はいはいそうですか! 梨花は沙都子も僕もいなくなって、ひとりぼっちなのですよ!?」
いや、ちょ、待……!?
「仲間たちをひとりも見捨てたくなくて百年の迷路をくぐり抜けた報酬は身寄りもない梨花の孤独な未来ですか、それはそれは最っ高に報われないことなのです! 梨花はもっと怒るべきです、ここ怒るとこ、なのです!」
い、言われてみればそうだけど、私が話してるのは原作の話だから……澪尽しでは皆殺し編の世界を覚えてたらしいし。落ち着きなさいよ。
「人の子よ、澪尽しのお疲れさま会での言い訳くささは我が目に余る! その上最後の最後まで魅音以外のぞんざいな扱いこそ、万死に値するぞ下郎ッ!」
お願い、落ち着いて。ね、羽入。神モード、怖いから。
「はぁはぁはぁ……、な、なにか別のものが乗り移っていたのです。あぅあぅ」
ふぅ……えっと、さくさく進めましょう。
それで次の世界、つまりこの世界に来た羽入は、自分も協力することにしたのよね?
「はい……皆殺し編の最後に、みんなの意識が僕に言ってくれたのです。奇跡が起こせなかったのは、僕が信じていなかったからだって。僕も、仲間の一人なんだって……あぅあぅ」
なるほどね……ところで、この世界はなんて呼んでいるの?
「あぅ? 大団円で終わって、綿流しでも大騒ぎできましたから……祭囃し編、というのはどうですか?」
ふふ、いい響きじゃない。
祭囃し……か。
圭一がいなければ、私はきっとこのお祭りみたいに晴れやかな世界までたどりつけなかった。
この世界でこそ私は赤坂に命を助けられたけど、こうして思い返せばやっぱり私をこの世界まで導いてくれた圭一のおかげなのよね……。
でも、考えてみれば……圭一自身にとっては、迷惑な話か。
「梨花……」
もともと圭一は、この運命にはなんの関係もなかった。
たまたま前原が見て回っていた引っ越しの候補地のひとつに雛見沢が上がっていただけ。
なのに、かつての私が彼を好きになったばかりに、この過酷な日々に巻き込んでしまった。
全部全部、それは私が単なる我が儘で圭一を、私の運命に付き合わせてしまったからなのだ。
私がおとなしく一人で死んでいれば、彼はきっと幸せに生きられた。
レナや魅音や沙都子たちとは違う。彼女たちは最初からこの雛見沢と運命を共にしていた。生まれたときから雛見沢症候群を潜在的に患い、悲劇の輪廻に弄ばれることもきっと彼女達の避けられない運命だった。
けれど圭一は、この雛見沢で起きる惨劇にはなんの関わりもなかった人……そう思えば、過去の身勝手な私をこそ絞め殺してやりたくなる。
本当に好きなら、どうして彼をこの運命から遠ざけようとしなかった!
その時間まで戻れなくなっていた最近の私とは違う、その頃ならば数限りない選択肢を手にしていたはずなのに、どうして圭一をあえて暗い未来へと突き落とした!?
圭一自身が覚えていないとしても、百年以上の繰り返す時の中、彼は何度絶望の淵で死を迎えただろう。
そんな地獄巡りを大好きな人に押しつけて、自分は殺されるたびにさっさと次の世界へと転生。
あげくの果てに、圭一を好きだったことも、圭一を巻き込んだのが自分だってことさえも忘れるだなんて。
ようやく羽入の言った『わたしが後悔する』という意味がわかった。
それは、母殺しにだって勝るとも劣らない、気づかずにいた私の罪。
彼の幸せを奪い去り、自分が幸せになるためにさんざん利用しつくしたのが、ほかならぬこの私だなんて!
本当に……最悪ね、古手梨花。
圭一に申し訳なくて、この先の未来を幸せに暮らせる自信なんてなくなってきたわよ……。
「梨花……。あぅあぅ、それなら今度は梨花が、圭一を幸せにしてあげればいいのですよ!」
私が、圭一を幸せにって……ど、どうやって?
「あぅあぅ、知らないのです、そんなの自分で考えればわかるはずなのです」
くっ……言うじゃない、羽入のくせに。
……わかってるわよ、あんたの言いたいことくらい。
私が選べばいいんでしょ、どうすべきか。
「そうなのです♪」
とはいえ、どうしたものかしらね……。
そりゃ圭一のことは、好き……だとは思うけど。
仲間って意味以上に好きかどうかって言われたら、うん……好きよ。
でもね、その、昔の私ほどじゃないし。
「……あぅあぅ、そんなことはないのですよ?」
え?
「だって、あの頃の梨花は物珍しさから圭一を好きになっただけですが、梨花はこの百年以上の世界の中で圭一と一緒にいろんな世界を旅して、圭一のことをたくさん知っていますのです」
圭一のことを……。
「赤坂のようには強くなくても、いつも仲間のために必死で戦い、運命に立ち向かってきた圭一の横顔をいっぱいいっぱい見てきたはずなのです」
……あ。
「選ぶのは梨花です。でも、今の梨花が圭一を想う気持ちが、昔の梨花に比べて劣ってるなんてことだけは……絶対に、ないのです!」
参った……そんなこと、あんたに言われるまで気づかないなんて。
ほんと、どうかしてるわね。
そうよね……私、圭一にいくつもの世界でたくさん勇気をもらってきた。
圭一のいいところも悪いところもみんな知ってる。
ちょっとたよりないけど、いざというときには全力で私やみんなの味方になってくれることを、誰よりも知っている。
屈託のない彼の笑顔が、絶望の沼に沈みかけた私の心を幾度引き上げてくれただろう。
あなたの気高い決意が、心を震わせる強い言葉の数々が、私にどれほどの希望を与えてくれただろう。
……なんだ。
答なんて、最初からわかりきっているじゃないか。
私は、圭一が好き。
圭一といっしょにいたい、この気持ちは誰にも負ける気がしない。
そうだ、思い出せ。強い意志は運命を強固にする。
信じるんだ、大好きな前原圭一といつまでも一緒にいる私の未来を。
あの祭囃しでなにもかもが終わったなんて、ひどい勘違いだった。
昭和58年6月を越えた私の戦いは、古手梨花の新しい旅は、これから始まるんだ。
飛びだそう、やり直しのきかない世界へ。
圭一にもらった勇気の翼で、私の望む未来へとたどりつくまで……!
「ところで梨花!」
なによ、盛り上がってるときに。
「このシリーズって原作準拠なのですか?」
ん…… どうなのかしらね、祭囃しのエピローグとはいろいろ微妙に違ってるし、賽殺しを原作に含めるともともと辻褄が微妙に合わないし……時代考証とか言い出すとキリないけど、それは原作にもいえることだし。
どうせSSなんだから、そのへんはいいかげんでいいんじゃないかしら?
「SS……というにはお粗末な代物だと思いますのです。ほとんど僕と梨花の会話だけで進行するのはSSとはいいませんのです」
そんなどうでもいいこと、それこそどうでもいいってば。
シリアス調のモノローグで運命とか世界とか言うだけでこうグッときて盛り上がれるのは、私っていうキャラの便利な特技なんだから、邪魔しないで羽入!
「あー……それ言っちゃ台無しなのです梨花……」