ひぐらしのなく頃に~徒然花(圭梨、アフター)   作:晃晃

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恋告し編
第7話 其ノ一 恋敵


さて……いろいろ思い返しているうちに恋心を自覚した私ではあるが、ことはそう簡単ではない。

 

なにしろ、圭一のまわりには越えるべき壁となりそうな人物が何人もいるのだ。

 

私の恋にとって、もっとも大きな障害となるのはおそらく園崎魅音。

 

実はちっとも暴走しないことがわかったし、部活を作ってくれたことには感謝してるから、魅音そのものは嫌いじゃないんだけど、今回だけは私にとって不都合な存在だ。

 

自分のことをおじさんなどと呼称する一見して男前な彼女であるが、その内面ときたら恋する乙女そのもの。

 

アレだ、沙都子の好きな少女漫画にありがちな『素直になれない女の子』というやつ。

 

彼女はわりと無邪気で、そのくせ臆病。

 

人に気を遣う性格のくせに、人の気持ちを推し量れない。

 

幼い頃から『立場』というものに敏感にならざるをえない環境で育ったがゆえの悪癖だろう、彼女の気の遣い方というのは、心中を察するのではなく相手の立場に配慮するのだ。

 

立場というのはなにも園崎家や古手家の頭首だとか北条家だとかいう肩書きだけの話ではない。

 

人間関係における立ち位置、そういうものをその人個人よりも尊重するのだと言えばわかるだろうか?

 

それは私にとってまったく迷惑なことに、彼女自身の無意識をも誘導してしまっている。

 

『同年代の男の子』がいて、自分が『年頃の女の子』であるから、『前原圭一を意識する』という風に。

 

算数じゃあるまいし、とは思うのだが……残念ながら、それはおそらく真実。

 

そこに『圭一を好きな理由』など、おそらくは存在しなくてもいいのだ。

 

事実、本人が自覚しているかどうかはともかくも、魅音はほとんどの世界で悟史がいたときは悟史を少なからず意識していたようだし、圭一のことも意識している。

 

もうすこしまわりに同年代の男子がいれば違ったのだろうけど、不幸にも、彼女にはいつも選択肢がなかった。

 

で、厄介なのは……彼女は立場に付随する責任を自覚し、かつ権限を利用することも躊躇しない人間だ。

 

私の想いを知れば、部活の『部長』としての権限、『園崎家頭首』としての権限などを活用してこちらの動きを封じに来ることは目に見えている。

 

唯一の希望材料は、結局のところ彼女は他人の気持ちを察することができないという点か。

 

だからレナや詩音の気持ちを全く考えずに、『かわいそうな私』を慰めてくれる『優しい親友』や『やり手の妹』に恋の相談を持ちかけるという愚を犯す。

 

空気を読めないと言われる所以だ。

 

それ故に、私が直接行動に出たりしなければ、永遠に気づかれることはないだろう。

 

彼女にとって私の立ち位置は『部活の中堅メンバー』であり『4つも年下の女の子』であり『古手家の名目上の頭首』というだけ。

 

部活でならともかく、圭一争奪戦においては完全に彼女の警戒の対象外となっているはずだ。

 

だから彼女に知られてはならない。

 

敵に回して、これほど厄介な人間はいないのだから。

 

 

 

 

園崎詩音。

 

彼女もある意味で相手の気持ちを考えない人間なのだが、魅音とは育った環境が違うから、『立場』にはそれほどこだわらない。

 

自分にとっての快・不快が絶対的な判断基準だ。

 

不快な相手は積極的に排除しようとするので、彼女がもし恋敵だったらと思うと薄ら寒いものがある。

 

が、当面彼女にとって圭一はときどき悟史の面影を見る程度の存在であって、恋愛対象ではないだろう。

 

悟史が生きており、いつか目覚めるという希望がある限りは敵に回ることはあるまい。

 

一応は魅音や沙都子のサポートにつく危険がないでもないが、彼女は基本的に気まぐれな人間だ。

 

それが面白そうだと判断すれば裏切りもするし、手伝うにしても最後は本人まかせで、背中を一押しするのがせいぜいか。

 

あまり警戒して自ら敵に回すよりも、味方につけるか最悪でも中立を守ってもらえるようにするのが得策だろう。

 

 

 

 

では、竜宮レナの場合はどうだろうか?

 

レナは優しい。

 

たとえば圭一のポジションに圭一以外の男の子がいても、彼女の反応はあまり変わらない気がする。

 

悟史が昭和57年の世界から退場せずにそこに居続けたなら、悟史に対しても親身に尽くしたんじゃないかと思う。

 

圭一は東京から転校してきて、同年代の友人が少ない、同性にいたっては皆無といってもいい状況に置かれてしまったから、レナとすれば親切にしてあげなければいけない対象だった。

 

魅音と彼女が異なる点はいくつかある。

 

まず、レナは本当に相手の気持ちを推し量れるだけの感受性と洞察力をもっているということ。

 

こればかりは私の百年の経験をもってしてもかなわないと思わせるに足る、一種の才能だといってもいい。

 

だからどんなに巧妙に隠したとしても、彼女はいずれ私の想いに気づくに違いない。

 

ただ、恋敵として見た場合あまり脅威に思えないのは、彼女自身の気持ちが割り切れていないところが大きい。

圭一に対して好意は持っているのだろうが、彼女は親の離婚などのせいもあって人との関係に一線を引いてしまう面を持っている。

 

そのため、魅音に相談されれば苛立ちながらも応援してみせるし、私が恋敵だと気づいていてもあからさまな妨害や排除は仕掛けてこない。

 

汚れに対する忌避は、純粋さという偶像への崇拝になっているのだ。

 

彼女の圭一への好意が強いとしても、恋敵の排除というダーティな方向性ではなく、女の子としての自分を磨き、正々堂々とアピールすることで競うほうを選択するだろう。

 

まして母性が強く世話焼きの彼女にとって、対等な親友である魅音ならともかく私はどちらかといえば庇護の対象だ。

 

妨害は考えにくいし、圭一が私を選べば、その選択を尊重もする。

 

百年分の経験や羽入の存在といった嘘と秘密を抱えているこっちが申し訳なく思えてくるくらいの、フェアな対戦相手だといっていいだろう。

 

 

 

 

 

私の親友、北条沙都子の場合は?

 

あの子は正直、難しい。

 

私の見るところ、圭一への好意は半分以上兄への憧憬といったものでできている。

 

まだ恋を知らない、無垢な子供にすぎないのだ。

 

……同い年の私が言うのもなんだが。

 

現時点で恋敵としては役者不足もいいところだが、ことはそう単純ではない。

 

子供だからこそ独占欲が強いし、彼女の場合おそらくそれは私にも圭一にも当てはまるからだ。

 

圭一と私が接近したときに彼女が感じる感情は、たぶん猛烈な寂しさ。

 

大事な親友と、にーにーのような人がいっぺんに遠ざかるという喪失感だ。

 

それによって自覚していなかった恋心が形をとってもおかしくないし、最悪の場合はあの『誰にも迷惑をかけたくない』という意志をひとりで抱え込んで、自滅してしまうという展開さえもありえるかもしれない。

 

魅音やレナと違って、先の展開が読めないという点で難しい相手なのだ。

 

私が誰より傷つけたくない相手としても、ね。

 

 

 

 

あとは羽入か……こいつはよくわからない。

 

産まれたときからもっとも身近だった相手にこう言うのもなんだが、さすが神様だと思うこともあればアホかこいつはと思うこともあり、行動そのものは予測できるものの心中を読むことは難しい。

 

まさに推理不能の塊だ。

 

真面目に推理考察しようとしたどれだけの読者が彼女の存在を知って涙を呑んだことか……いやこれは全く関係ないか。

 

断言しよう、羽入は私を応援してくれるだろうし、冷やかしはしても妨害はしない。

 

そのかわりアドバイスやフォロー以外の手助けもまったく期待できないが。

 

でも、だからといって全面的に味方だと思っていいのかといえば、それもどうなのだろう。

 

羽入の圭一に対する好意というのは、半分以上が私と共通するものだ。

 

すなわち、彼がイレギュラーの塊でありこちらの予想を覆してくれるかもしれない、という期待。

 

未知数とか不確定要素とかいったものを好むのは、永い時を過ごした者特有の感情なのかもしれない。

 

だから羽入が圭一に対して抱いている気持ちは、羽入自身にだって確信となってはいないはずだ。

 

……ま、当面は敵ではないのだから、からかわれたり無責任に煽られるのだけ気をつけていればいいのかな?

 

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