で、そもそも私の、いや私たちのというべきか……思い人である前原圭一はどうなのかというと、基本的に彼のスタンスというのは沙都子に近い。
まだ子供の感覚で、私たち全員を大事な友達、仲間としか見ていないのだろう。
けど、沙都子と違うのは本当に子供というわけではない点だ。
圭一が無邪気なのは、ただ男の子よりも女の子の方が早熟だというだけの話であって、レナや魅音を全く意識していないかといえば違うだろう。
たまに意識してしまうけれど、友達のままのほうが心地いいからとそれに気づかなかったように振る舞っている。自分にもそう言い聞かせているだけだ。
魅音あたりは鈍感だと嘆いているが、決してそうではないはずだ。
女の子から積極的にアプローチをかけられれば、気づかないはずがない。
で、彼が誰を一番意識しているかというと……難しいが、私には百年の積み重ねがある。
たぶん恋のお相手として筆頭にあがるとすればレナだろう。
常に女の子として扱っているし、レナは同性から見ても女の子らしい女の子だから。
……もちろん二面性がある部分も含めて、と言っておくけれど。
次がやはり、魅音か。
でも彼女に対しては男友達に対するような気安さと、あの中3にしては立派なスタイルへの興味が先に立つ。
魅音本人からのアプローチは少ない上にスルーしがちだから、あまり意識していないだろう。
沙都子は……よくじゃれあっているし、親しさでは上の二人に劣らない。
当然女の子として意識しているというよりは、妹のような感覚であるのは間違いない。
でも沙都子は絶対将来美人になるだろうし、ふとした拍子に意識しても不思議はない……かな?
羽入は……まだ付き合いは短いけど、どうだろう。
私や沙都子よりは背丈も近いし、あれでしっかりしている部分もある。
見かけ通りの歳ではないのだから、圭一にとっても年下だという意識は薄いかもしれない。
詩音については、さほど心配はないはずだ。
この世界の詩音はちょくちょく顔を出すとはいえ興宮の学校に通ってるから接点は少ない。
魅音よりは女扱いされているけど、彼女にとって悟史の存在が大きいことは知っているはずだから大丈夫。
……私?
ええと、一応女の子扱いはされてると思うけど、あくまで年下、子供として見られていると思う。
背丈や胸も羽入や沙都子に負けている。はっきりいって仲間の中では一番貧相だといっていい。
そういう意味での意識は、正直してもらえていないはずだ。
あと……可愛がってくれているのはわかるが、個人的に気になるのは呼び方だ。
圭一は基本的に同年代以下の女の子は、呼び捨てにしている。
魅音、レナ、沙都子、詩音、出会ってすぐの羽入までも!
……なのに私は、この百年ずぅっと『梨花ちゃん』だ。
いままでそれほど気にしたことはなかったが、圭一が好きだと自覚してみるとこれはかなり痛い。
どういう嫌がらせなのかと思うくらい、ショックな事実だ。
圭一にとって私はなんなんだろう。
仲間だけど、実は近寄りがたいとか思われていたらイヤだな……。
そういう意味では不安材料だらけで、手強いのを好きになっちゃったという気がする。
……もう、手遅れなんだけどね。実際。
さて最後に、誰よりもこの恋の障害となるであろう人物を紹介しよう。
古手梨花、つまり私自身。
まず、いまの私というのは相当に臆病だ。
いままで羽入とともにループしてきたせいか、やり直しのきかない世界というのが怖い。
すくなくとも私の記憶にある世界では圭一に告白した経験などないのだから、結果はまるで予測不可能。
未知の未来に立ち向かう勇気をくれるべき人物は、その告白の相手なのだから本末転倒もいいとこだ。
圭一の反応と同じくらいに、まわりがどう動くかだって怖い。
臆病すぎると言われても仕方ないが、ちょっとだけ考えてみてほしい。
私ときたら、百年もの間、大切な仲間たちがちょっとしたことで疑心暗鬼に陥り、あげく殺し合いにまで発展するのを見続けてきた人間だ。
レナが、魅音が、恋敵となった私にその武器や権力を振りかざしてこないかと怖くなる。
沙都子が精神的に追いつめられ、うつろな目で包丁を手にしてる図なんて想像するだけでも苦痛だ。
羽入は……あぅあぅ泣いてる顔しか思いつかないからどうでもいいや。
圭一のまわりの微妙なバランス、それを私がうかつに崩したときどんな事態になるのか……ああ恐ろしい。
次に、私自身のキャラクタというものがある。
羽入を揶揄して長年続けてきた「ボク」「なのです」「みぃ」「にぱ~☆」を駆使する『古手の梨花ちゃま』という人物像。
どこからみても甘ったれた子供以外の何者でもなく、狡猾さを合わせてもせいぜい仔ダヌキ程度。
およそ身近な男の子に恋をするような、そんな人間にはまったく見えない。
『みぃ……ボクは圭一が好きなのです、にぱ~☆』
……ダメだ、どう考えても冗談か、良くて親愛の情を示しているとしか思われない。
羽入が実体化したこともあり仲間の前ではたまに素が出てしまうこともあるが、圭一がどこまで素の私を理解してくれているのかは不明だし、素の私というのは歳や外見に似合わない口調で喋る、不思議系ならぬ不気味系少女なのだ。
自分で言うのも何だが、暇潰し編では、赤坂に思いっきり気味悪がられていたから間違いない。とほほ。
『可愛い梨花ちゃん』を愛でる圭一が、果たして素の私を受け容れてくれるだろうか。
……うぅ、なんか果てしなく無理そうに思えてきたわ。
おまけに、私は雛見沢という共同体の中で特別と言える立場にいる。
古手家の頭首という以上に、オヤシロ様の生まれ変わりとして村の皆に愛され、崇拝されているのだ。
さて、そんな私が3つばかり年上の男の子に恋して、たまたま圭一も受け容れてくれたとして、村の皆々様がいったいどう思うだろうか。
今でこそ圭一も村の人気者だから、うん。
いきなり八つ裂き、ワタ流しってところまではいかないはずよね。
それでも皆殺し編の話ではないけど、圧力のひとつやふたつはかかるんじゃなかろうか。
梨花ちゃまと別れろ、さもなくば前原家は村八分。いやいや、村から出ていってもらうほうがいいかね……。
あぅあぅあぅ、思わず羽入になってしまいそうなくらい怖い未来予想図だ。
そのとき圭一が、私との仲と、村の調和や仲間たちとの生活、どちらをとるか……?
前者だと自信をもって言える理由など、私の引き出しのどこをひっくり返しても見あたらない。
当たり前か……あくまでこれは仮の話、まだ告白さえしていないのだから。
……はぁ。
そもそも告白する必要って、あるのだろうか?
気持ちを伝えなくたって、圭一のそばにはいられるはずだ。
ええと……とりあえず、圭一が雛見沢分校を卒業する再来年の春までは、仲間としてなら一緒にいられる。圭一は私を可愛がってくれるし、今までと何も変わりない。
でも……それで、私はほんとうに満足できる?
たとえば魅音やレナが、圭一の彼女におさまって幸せそうにしているところを傍目で見て後悔しないだろうか?
告白していれば、もしも圭一がOKしてくれれば、その隣にいたのは自分だったかもしれないと思いながら指をくわえて見ているなんて……あああ、イヤ、絶対にイヤ!
せめて告白して断られたなら自分なりに納得もできるかもしれないけど、試しもせずに後悔するなんて嫌すぎる。
いろいろな世界を渡りながら可能性を追いかけ、とりあえず試すだけは試してきたこの私が、なにもせずに見過ごすなんて、それだけはできない。
私は、思ったより我が儘だったみたいね……。
たしかに、敵は多い。
それも史上最強に手強い奴らが。
だが、戦わないという選択肢は、古手梨花にはもう残されていないのだ。
うぅう、山狗と戦うほうがまだマシな気がしてきた……。