『行きましょう! 助太刀します、霞夜様!!』
池に飛び込み漏瑚に向かって走り出す虎杖に続いて、グランドオーダーを起動。黒姫を援軍に出す。
「お願いします、黒姫! 相手は特級呪霊です!」
「承知しました!」
宝刀を抜いて、素早く駆け出す黒姫。
虎杖と黒姫、二人同時に前に出る。
「ほお! これが英霊とやらか! 妙な加護を受けているようだが、これはどうだ!」
不敵に、大胆に、豪快に、漏瑚は迎撃する。
印を結んで何かを生み出す。式神?
「火礫蟲!!」
飛行する虫だった。応戦に素っ飛ぶ。
霞夜が援護射撃で届く前に火礫蟲を撃ち落とす。
接触した途端に爆発。
爆煙で視界が曇るが霞夜は見えている。
速い。後退して森に逃げる。
でも、追える。逃がさない。
漏瑚は直哉ほどじゃない。
速度に関して霞夜は直哉を参考にしている為慣れており、エミヤのスキルとORTの体質で補強された底上げにより漏瑚の速度でも目で追える。
通常の剣じゃダメだ。相手は炎、大地、火山だ。
もっと火力のある剣を連射する。
なれば、エミヤの十八番で。
「
彼の改造品。本物よりも威力も貫通力も下がるが細く、鋭く改造された連射に向いている剣。
当たれば抉り、同時に爆発する。池を飛び越えて、煙を貫いて穿つ。
木々を無視して、身を潜める漏瑚を見つけて爆撃。
「良い目だ。まさに鷹の目とはこの事よ。呪力の探知より視力で儂を見つけるか」
地形を活かした戦いをすれば黒姫が不利だ。
接近できない。追いかける二人と追撃する。
森の中、突然熔岩の腕が眼前に現れた。
森を燃やしながら振り下ろす腕。
「デカ物なら俺に任せろ! 解ッ!!」
虎杖が、指を横に一閃する。
すると熔岩の腕が縦に真っ二つに切れた。
術式か? 霞夜は目で見えるが、空間に多分常人には不可視の斬撃を飛ばしている。
それで切断。大きな液状の熔岩が流れるが、今度はその熔岩が崩れるさなか弾丸のように切り離して飛んでくる。
黒姫は宝刀で切り伏せ、虎杖も術式で切り払う。
「チッ、小僧もやりおる。飛び道具では有効打は得られぬか」
姿を見せる漏瑚。直ぐに螺旋剣で狙っていく。
何本も射ると、熔岩を纏い防御して爆撃を防ぐ。
爆風で液状を飛散するが、それすら武器にする漏瑚。
散弾のように前面に放つ。黒姫は被弾したが、セーラー服が焦げた程度。虎杖はぶち当たっても無視だ。
「熱いだけで怯んでられっか!」
「熔岩は普通なら死んでいますけど!」
基礎的な呪力の防御力で虎杖は無視して突き進み、黒姫は元々山神の加護というスキルと霊妙なる御髪という二つの守護を備え、露払いで進む。
前者は山神の加護により外部から。
後者は己の自慢の黒髪による退魔を内部から。
双方呪いに対する強力な破魔の効力を持ち、術式には滅法強い。呪力の穢れを正を清める事で弱体化させる。
術式防御力に関しては西洋の英霊がよく使う騎士の甲冑の加護と同等である。
攻撃的な逸話などがない黒姫は、見た目に反して頑丈で機敏で、切り札も持たないが基礎能力で堅実に攻める英霊。
つまり呪術師の秘密裏の作戦に向いている。
大規模破壊のない剣士という純粋な武家の娘だから。
「大地の灼熱も堪えるか、小童共!」
何処か、期待しているのか前衛達を見て楽しそうに笑っている漏瑚。
援護の螺旋剣で見つけて射貫く。
漏瑚は腕を振るって弾くが爆発。
その隙に二人が接近する。
殴りかかった虎杖の拳を体術のように受け流し、黒姫の斬撃も片手で受け止め、横に退かす。
連撃で猛攻を組み立てる連打を、漏瑚は二人がかりの攻撃をいなす。
通常の剣に切り替え連射する霞夜。
隙があれば突き刺さる。
脳天から火炎弾を放って飛来する剣を相殺。
器用な真似をする。虎杖の打撃、黒姫の斬撃。
両方とも両手で防御といなしで捌いていく。
飛来する剣は火炎弾で撃ち落とす。
完全に三人同時に相手取って拮抗を保つ漏瑚。
流石特級呪霊。切り込めない。
「どうした? 威勢だけか小僧。貴様の打撃など儂には効かぬわ。英霊の娘の方が技量は上だぞ」
「そいつは、どうかな!」
不意に、虎杖の呪力が速度が一瞬、ブレる。
いなしていく普通の呪力の込めた打撃。
その後、不意打ちでもう一度呪力の打撃が入った。
「ぬぅ!?」
漏瑚の体勢が不意打ちで崩れる。
出来た隙にそこに顔面に拳をブチ込む虎杖。
黒姫の宝刀も切りつける。
チャンス到来。連射もしていく霞夜。
一度傾く戦況。攻め立てる一向に。
「小細工か、猪口才な!」
苛ついたように漏瑚は迎撃。
霞夜の目に二人の足元に何かが見えた。小さい火口?
そこから勢い良く豪炎を放つ。巻き込まれる二人。
大丈夫、気配は感じる。死んではいない。
だったら、こっちも。追いかける猟犬の出番だ。
「行って、緋の猟犬!!」
真っ直ぐ射貫く。猟犬は漏瑚を目がけて駆け抜ける。
漏瑚が羽虫の式神で迎撃したが、貫通して進む。
こっちに羽虫が来た。慌てて後退。だが追いつかれた。
「――!!」
撃ち落とす前に接近して取り囲み、大音量で鳴き声を上げて封殺。
震動で、身動きが取れず羽虫が爆発。
霞夜も直撃を貰った。
猟犬がその間に漏瑚に噛みついた。
邪魔なように叩き落とすも、勝手に浮かんでまた食いつく。
「鬱陶しいわ!」
掌の火炎で焼き払う漏瑚。
そんなことをすると猟犬は自爆する。
文字通りの結果に舌打ちして、様子を見る。
吹っ飛んだ三人は、多少焦げたような煙を上げて立ち上がる。
「ったく、こいつの攻撃熱いな。熱湯被った気分だわ」
「炎熱は、地獄谷にて慣れております」
「この程度なら問題ないですね」
漏瑚は認識を改める。成る程、少しは出来るらしい。
此方の一撃は、一発が呪術師一級程度なら術式の炎熱で殺せるほどの余裕がある。
なのにこの程度の損傷しか食らってない。
基礎的な部分で格下と見るのは止めよう。
もう少し火力を上げるか。
熔岩を拳に纏い、徒手空拳にて焼き殺す。
これならばどうだ。如何に呪力の防御力が高かろうが物理的な熱で焦げれば死ぬだろうに。
再び互いに殴り合う。
熔岩の拳を連続で振るう。
だがやはり英霊の娘は、何かの加護を受けている。
熔岩その物を形成する呪力の低下で弱体化する。
殴っても、焦げ臭い程度しか効かない。
対して、虎杖も面倒臭い。
肉体の強度も高いが殴り合いの打撃が二重に混ざって時折体勢が崩れる。
攻勢が一時持っていかれる。
霞夜の援護射撃が相変わらず頭部の火炎弾で相殺して防ぐ。
足元の火口から吹っ飛ぶ噴火も、今度は一度間合いを引いて避けた。
不意打ちも通じない。虎杖が指を横に一閃。
途端、漏瑚の首元に斬撃が走る。
斬撃を飛ばす術式。これは。
「貴様、宿儺の御厨子を!」
「俺の御厨子じゃ、やっぱり特級呪霊には通じないか」
有効かと思ったが、試してみて虎杖も理解していた。
威力が低く、急所を狙っても殺がれて下がる。
術式のデカ物なら両断出来るが、生憎と捌はまだ使えない。
やっぱり殴った方が技量不足で使えない術式よりも有効。
黒姫ともう一度飛びかかる。
思い切り殴るも、呪霊に格闘術の心得でもあるのか、何故かいなされる。
黒姫も切っても凪のように流されているせいで、効果が無い。
霞夜の援護は防がれ、無駄と悟って霞夜はやり方を変える。
エミヤは弓の兵。でも、本人曰く白兵戦も出来るらしい。
洋弓を引っ込めて、投影をする。
確か、エミヤの愛用は二刀流だったと思う。
干将と莫邪。二本の短刀を作って、握る。
そのまま加勢する。
この二刀流は、互いに引き合う性質がある。
同時に、身体能力の向上もする。
大地を蹴って、突っ込む。
切り続ける黒姫の間をカバーするように、割り込む。
虎杖達と三人の手数で押し切る。
「無謀だな、小娘! 弓を使う呪術師が剣を握って何になる!?」
「一応、これでも多芸ですから!」
分かっている。戦術が中途半端と笑われても。
エミヤは、多芸多才の英霊だ。それを信じる。
実際、漏瑚の攻めを同じように剣で流して黒姫に繋いで、虎杖に託す。
虎杖の拳を漏瑚は弾き、霞夜の一刀を切り込み、黒姫が重ねる。
「ぬっ!? 貴様、剣術の才もあるか!!」
「借り物ですけどね!」
皆と戦うならば、多くを納めたエミヤは最高の英霊。
どの分野でも、頼れる。
「ええい、厄介な呪術師だわ!」
構えて火炎放射で一掃される。
距離を開けると、追撃に加速して虎杖から狙う漏瑚。
背後に回って、背中に掌を当てる。
火炎弾をそのまま至近距離でぶっ放す。
「虎杖君!」
思わず霞夜が叫ぶ。
視界から吹っ飛び消える虎杖。
先ずは一人、身体が燃え上がる。
ニヤッと笑う漏瑚。仕留めた、そう思ったのだろう。
……だが。
「俺の人生、火葬はまだ速えんだわ!!」
転がっても無事に起き上がった彼が、勢いをつけ戻るや、同じように背後に回って漏瑚の身体に腕を回す。
「なにっ!? 貴様、今のは直撃したはずだぞ!?」
「生憎と、俺も反転術式使えるんだよね。宿儺の漏れ出した残り滓だけど!」
本来であれば死んでいた。
だが治癒しておけば死にやしない。
掴んだ漏瑚に、背中をえび反りにして、地面に頭から叩きつける。
「うごぉ!?」
まさかの攻撃に頭が潰れるような斬新な痛みを食らう漏瑚。
「噴火は体力減れば威力も減る!」
「それはポ○モンですよ!」
ツッコミを入れつつ更にそのまま剣を投影する霞夜が、大の字でぶっ倒れる漏瑚の手足を剣で地面に突き刺した。
「ぐぅ!?」
念入りに螺旋剣で穴を開けて、縫い付ける。
動けないように、関節にも螺旋剣をぶっ刺す。
標本のように固定して、全員で漏瑚を見下ろす。
「お、おのれェ!! 儂をこれで封じたつもりか!?」
屈辱的な格好をさせられる漏瑚。完全に固定した。
首元に霞夜が莫邪を当てて、詰みだと宣言する。
火口で噴火したら、その前に直ぐに首を切り落とす。
それでも生きてるなら、五条悟に引き渡す。
勝負は、霞夜達の勝ちだ。
「くっ……この程度で勝ったと思うなよ、小童共!」
怒り狂い吠える漏瑚だが、五条も合流して決定打になった。
「いや、お疲れさま。お見事みんな。勝ったじゃん。さて、漏瑚とやら。知ってる情報、素直に吐きなよ。じゃないと僕が続きをやるけど?」
そう脅して、標本になった漏瑚を真顔で問う。
生徒に追い込まれた程度の呪霊が、五条に勝てると思うか。
前半でボコボコにされた癖に、無駄な抵抗をするか。
「おのれ、五条悟! 貴様に言う覚えは無いわ!!」
「詰みだって言ってんだろ。みっともない吠え面かくなよ。僕に矜持聞いといて、自分にプライド無いのか?」
「クソッ……! 小童共と侮ったか……!」
「そっちは認めんのね」
腹の上に足で踏みつけて、五条は冷たく見下す。
負けを認めるのは三人……いや、二人か。
黒姫を引っ込めて、霞夜と虎杖が漏瑚を見る。
強かった。流石特級。
祓うまでは行かずとも、捕縛に成功した。
尋問は、五条に任せれば良い。
「…………」
感覚で虎杖も速く気付いた霞夜が、五条に言う。
状況が変わった。
誰かがこっちに近づいてきている。そこそこの速度。
呪力が大きい。虎杖に似た感じ。
例の呪術師だろうか、と。
「……なんだ。お前、援軍呼んだのか」
「知らぬわ!! 儂は単独でしか来ておらん!」
漏瑚の味方では無いらしい。本人もキレて否定する。
「じゃあなんだ? 霞夜も気付くなら、呪術師の類か」
ブチ切れる漏瑚に、五条はイレギュラーと断じた。
虎杖は置いてけぼりで霞夜に分からずに聞く。
似てるってどういう意味だと。
「何て言うんですかね。虎杖君の身体みたいな感じが……」
気配的にも呪力的にもそういうしかない。
まるで身内みたいな呪力の質。
もう近くまで来ている。
…………遠くから、大声が聞こえた。
「……悠仁ぃぃぃぃ…………!!」
誰だろう。彼の名を道中叫ぶ人物とは。
聞こえたらしい本人も仰天で、首を振る。
知らない。身に覚えない。
気配はどんどん近づく。
軈て、足音が聞こえた。
森の中から、颯爽と飛び出す人影。
「悠仁!! 無事か!? お前、今死にかけたか!?」
……白黒の法衣を来た、顔に鼻当たりに横一線に刺青の入った人物が血相を変えて走ってきた。
「いや、誰……?」
知らない人と虎杖は言う。
霞夜も知らないが、何故か感知できる呪力や気配が虎杖に似ている?
「貴様は、脹相!? 逃げ出したと思ったら、何故此処に!?」
「お前だったか、漏瑚ォ! よくも悠仁を、悠仁を殺したなァッ!!」
「俺死んでねえよ!?」
「……ハッ!? す、済まない悠仁。そうだった、お前は死にかけただけだな」
「ってかお前マジで誰!?」
……いきなり現れた呪術師? は手から血液をぶちまけて、剣のようにする。
これ、術式? 見たこと無い霞夜は驚く。
「へえ? これ、加茂家の呪力に悠仁を足したような感じか。混ざってるね色々。君、誰? こいつの仲間?」
五条が突然の乱入者に尋ねると。
「黙れッ!! 俺はお兄ちゃんだぞッ!!」
怒鳴る自称、誰の兄?
「漏瑚、貴様が悠仁を殺そうとしたのは分かっている!」
「ええい、黙れ裏切り者! 鬱陶しい、失せろ戯け!」
「俺は全力でお兄ちゃんを遂行するッ!!」
……言動全てが意味不明だった。
所謂呪詛師だろうか?
「虎杖君、お兄さんですか?」
「居ねえよ!」
霞夜が聞いても否定する。違うらしい。
「事情は後で語る! 悠仁、よく無事だった!」
「うーん、とりあえずこいつ祓うか」
カオスになってきた現状打破。
漏瑚を祓う。その時だった。
一面がお花畑になった。文字通りに。
「!?」
霞夜の五感がバグる。
他は、五条ですら油断しきった顔でボーッとしている。
何だ。感覚が、狂う。
上から降ってきた巨体が、剣を引っこ抜いて一瞬で漏瑚を救い出すと、脱兎の如く逃走。
お花畑が枯れて、ハッとする一同。
霞夜だけはバグった感覚で片膝をつく。
一瞬、何かが割り込んで漏瑚を持っていった。
我に返ると、漏瑚が逃げている。
術式で五感が狂う霞夜は苦痛に苦しんでいた。
「チッ……今のは花御。コソコソと……」
乱入者の人物が吐き捨てる。
「……特級呪霊がもう一体居たか。隠れるのが上手いな。で、君は?」
「俺は悠仁の兄だ。詳しくは戻って説明しよう」
「俺に兄弟は居ねえよ!」
よく分からないが。
とりあえず、敵意は無いと言うので連れて高専に戻って行く一行。
のちにこいつが夏油の偽者から逃げた受肉体、脹相という人物だと分かったのだった。