英霊召喚『グランドオーダー』   作:新人呪術師マスター

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呪術師の世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時系列は事件のあった一ヶ月前。

 京都に送られた霞夜に傲岸不遜な態度で腕組みして、此方を見定める人物。

「事情は何も聞いてないです……。行けと言われたので来ました」

「成る程。東京は揉めている最中故に此方に送り込んだ、五条悟らしいな。それで、だ」

 そもそも名乗らないこの人は誰だ。

 重要なことを聞く、と前置きして問われた。

 好みの女は何だ。

「えっ?」

「だから、好みの女だ。いや、男でも良いぞ」

 好みのタイプを教えろ。これが重要な案件だ。

 呆ける霞夜に、巨漢は再度問う。

 好みは? どんな相手がいい?

 いきなり突っ込まれた質問に戸惑いつつ、正直に言えと圧をかけられ暫く考える。

 好みのタイプ。霞夜は恋愛経験などなく、男にもあまり興味が無い。

 ……強いて言うなら。無理矢理定義づけるなら。

「共に生きて、共に死ぬ。一心同体。私を信じて、私が信じる。そんな相手ですかね」

 ぱっと思いつく条件は、共依存。

 共に生きて死ぬ、一心同体の相手。

 普通にもありそうで中々無い、常に共に居る存在。

 裏切りは許さない。見捨てるなら殺して死ぬ。

 呆然と浮かぶ条件はこんなモノだった。

「ほぉ。己が真摯に尽くす代わりに相手にもそれを求めるか。面白い。自己完結と共依存、中々聞かないタイプだな」

「そんな相手、居ないんですけどね」

 ニヤッと笑った男は言う。合格だ。

 悪くない趣味。面白い相手と認めよう。

 霞夜も理想の恋愛なら、こんな重たい条件を受け入れる人は居ないと思う。

 男からすれば気持ち悪いだろうし。

「そうかもしれんな。おっと、名乗り遅れた。俺は東堂葵。お前の迎えを爺さんに頼まれた、京都高専の三年だ」

「ええと、楽巌寺学長は此方の……」

「あぁ、責任者だ。本来、お前は甲信越の出身。東日本の拠点、東京の夜蛾学長のほうに向かうが、今は上京出来る状態では無いからな。西日本の拠点である此方に来たと言うことだ」

「そうですか……」

 何かの事情で本当は東京の高専に向かうはずが、トラブルで受け入れ不可だから代わりに遠方からわざわざ京都に来たわけだ。

「行くぞ、ついて来い。緊急措置でお前は京都校で一時預かる。学び舎として此処で呪術師の基礎を学ぶと良い」

「ありがとうございます」

 背を向ける東堂について行く。

 案内されると、結構な往来がある。

 道中すれ違う人々。聞けば呪術師のバックアップの補助監督や、西日本の呪術師の拠点であり、沖縄以外は九州まで管轄しているらしい。

 逆に東京は北海道以外の東日本の拠点であり、沖縄と北海道は呪術師の別の拠点があるという。

 理由として、本島から離れた広大な北海道と島々が点々とする沖縄は昔から別の組織が呪術師を纏めている。

 故に高専と連携こそしているが、実質北端と南端は僻地で別組織でカバーしているとのこと。

 呪術師の世界は旧態依然とした風潮が強く、男性社会や血統を重んじる仕来りを重点を置く、保守的な世界。

 つまり時代錯誤も良いところで、呪術師の歴史において京都は呪術の聖地であり、東京の高専よりも保守派の多い学校である。

「お前はかなり特殊なレアケースだ。一応俺と同じくスカウトになるんだろうが、あの五条悟の発見した呪術師だ。しかも天戸は曲がりなりにも禪院の繋がりのある家系。爺さんも聞いてはいるようだが、分家に近い扱いになるんだろうな」

「私、禪院の人誰も知らないんですけど……」

「本人達が断絶されても上は繋がりを持ってくるぞ。気をつけろ。何を言われるか、お前の場合は分からん」

 東堂はすれ違う呪術師達を見て言う。

 この世界には労働基準法などないし、治外法権で法律が独立している。

 呪術師の上層部が、独自に決めた法律で徹底的に一般人には秘匿しないといけないのが呪術師。

 それを破れば最低停学処分。

 最悪一般への被害によっては死刑も有り得るらしい。

 呪霊を祓うこと。

 これが等級に合わせた基本的な任務という与えられた仕事。

 高専に属さない野良は呪詛師と言って基本的に敵だ。

 殺し合いの世界になる。それが仕事。

「治外法権ってそういう……」

「一般常識は通用しない。労基も無いし上層部は呪術師を金を稼ぐ端末程度の認識だ。ちなみに上は癒着やら天下りやら腐敗しきった典型的な組織。信用するのは止めておけ。身を守るなら、己でやることを基本としろ」

 法律こそあるが自分の都合で押しつけるのが上層部。

 一般常識は通じない命懸けの任務。死んだら自己責任。

 それでもそれなりの給与は出す。それで呪術師は腐った組織に言うことを聞く。

 皆知っている。呪術師の世界は救いようのない環境。

 それでも働くのは、個々の事情という奴だ。

 保守派は腐ったとはいえ理由もある。

 相容れないなら反発をする。対立すら有り得る。

 五条悟は絵に描いたような治外法権で、法律無視も良い台風だと東堂は言った。

 実力と権力と財力でブイブイ言わせている最強の呪術師。

 そんなのに目をつけられたら、霞夜はどうなるか。

 複雑な家庭環境。聞いたら御三家の五条、加茂、禪院の一つの遠い親戚。

 霞夜も呪術師の名前くらいは小さい頃に聞いたことがある。まだ祖母が生きている頃。

 自分の家は、呪術師という裏社会で活動する家から逃げてきた嫁と結婚した家系。

 呪術師になるにも一般に逃げたような嫁の手前、平穏に暮らしていた。

 そこまでは良い。

 問題は知りもしない繋がりで血統に組み込まれた天戸の家は、非術士の家だから呪術師を知らない。

 でも戦前の嫁が御三家の出身。だから親戚になる。

「禪院の方は天戸の家を知っているらしい。まぁ、無関係のどうでも良い親戚扱いだがな。禪院の親戚には伏黒という東京の高専の一年も居る。何、禪院は前提として御三家最大の規模でデカいから、遠縁の親戚など腐るほどいるさ」

「じゃあ、向こうの人達には」

「呪術師がぽっと出で出たと聞いても、それがどうした程度だと言うことだろうよ。事実、真依もお前の事は知らないらしいからな。遠い親戚数なら、禪院ほど節操の無い家柄も珍しい」

 歴史が長いと、自分の家に嫁入り婿入りは認めても、自分の家から出て行くケースは禪院家くらいなものだそうで。

 それも禪院家の環境が女性には地獄だからという理由だから救えない。

 男尊女卑。実力主義。それを貫く。

 術式の有無、性別も含めて下は無下にされるのが当然という現代からは理解できない家庭環境。

 曾祖母さんも逃げたくなるわけだ。

 そこから来たとしても内部でも後継者争いが起きるのは日常茶飯事。

 詰まるところ御三家最低の治安と最大の規模が禪院家。

 そんなのが親戚と聞いて、ウンザリする霞夜。

 関わりたくない。冗談じゃない。

「まぁ、お前は遠縁の親戚。禪院家の中でも影の薄い存在だからあまり気にするな。向こうから接触する理由が無い。上層部が勝手に期待しても御三家の末端、程度で終われば御の字だ」

「終わらない場合は?」

「お前の術式が危険すぎて、無視できない場合だ。グランドオーダー……後で実際に見せてみろ。俺も爺さんとの謁見に立ち会う。それによっては、九十九さんに口添えしてもらう必要があるだろう」

 東堂の師匠で五条悟に匹敵する呪術師がもしかしたら助けてくれるかも? と淡い希望を見せる。

 因みに等級は霞夜は三級。駆け出し故に術式が未熟で、何の経験も無い真っ白な状態だから。

 取りあえず進み、古い都のような風景が並ぶ。

 校舎という建物の入り口で、履き替えてついて行く。

 長い廊下を歩く。緊張してきた霞夜。

 どんな人だろう、楽巌寺という人。

 聞いてる限り、保守派の人と言うが。

 霞夜はアウトな存在なんだろうか。

 軈て、一室の前で立ち止まる東堂。

 ノックもせずに開けて、堂々と入っていく。

「爺さん。例の生徒を連れてきたぞ」

 続いて入ると、応接室のような室内で、来客用のソファーに腰掛ける和装の老人がいた。

 ハゲ頭で、髭も長い。そこら中にピアスもしてる。

 ちぐはぐな印象の、でも物々しい雰囲気の人。

「ご苦労。して、お前が五条の見つけたという天戸霞夜じゃな?」

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 慌てて背筋を伸ばして、挨拶する霞夜。

 表情は硬く、楽巌寺は一瞥しただけで黙る。

 東堂が座れと促して、恐る恐るソファーに対面で腰掛ける。

 隣に偉そうに足を組んで座る東堂。

「……概要は聞いておる。天戸、お前は禪院家の遠縁の家柄だと聞く。本来は非術士の家でありながら、奔放した禪院家の嫁を受け入れた。よって、お前は仮にも禪院家の親族に当たる。本家と交流は無かろうが、これは歴とした事実。理解できるな?」

「一応、小さい頃に呪術師の話を聞いたような覚えがある程度ですけど……」

 そう言うとそれでいい、と楽巌寺は言う。

 本来逃げ出して嫁入りした一般人の天戸にはその程度の認識が正解だと。

「うむ。問題はお前の術式じゃ。グランドオーダーという、以前にも禪院家の遠縁の親戚で見つかった術式なのだ。禪院家一子相伝の十種影法術の亜種、と儂はみておる」

「グランドオーダー、私以外にも居るんですね」

 それを聞いてホッとした。

 未知の危険な術式だと思っていたが前例はあったか。

「そうじゃ。安心せよ。系統が召喚と降霊の二種の混ざり合いというだけでそれ自体は伝統的な術式。……なのだがな」

 と、溜息をついて楽巌寺が一区切りをつけて続ける。

 問題はその範囲。影法師を実体化させる、己に降霊する。これはまだ良い。

 誰でも知るような伝説や神話、はたまた民間伝承まで多岐に渡る対象の広さ。ここが問題。

 大規模破壊に特化した英霊の召喚。

 周囲の被害を省みない英雄の存在。

 本来ならこれは呪霊では無くもっと違う用途の決戦用の術式の可能性があり、兎に角秘匿したい呪術師に向かない広範囲の破壊と無差別な英霊を出せるのが危険。

「つまり?」

「お前の出す影法師は特撮の怪獣と同じじゃ。壊しすぎる。若き日の五条と同じでのう。秘匿すべき呪術師の存在が、世間に露呈する可能性がある」

「成る程。秘密裏に出来ない、って事ですね」

 英雄の武器は神話では世界を余裕でぶっ壊す逸話がゴロゴロしている。

 インド神話とか、ああいうのすら相性補完が組まれれば出てしまう。

 それこそ天変地異。秘匿も出来ない無差別な破壊。

「まぁ、その辺は追々此処で学べば良い。己を知るは最大の武器。最低でも、此処でお前は今は東京に行くべきではない。向こうは宿儺の受肉で大騒ぎになっている。上層部が彼是忙しいのじゃ。今のお前には理解できんと思うが、此方で気にせず学べ」

「了解です」

 要するに絞らないと規模がデカいから自重しようという話で済んだ。

 因みに喚べるか? と言われて楽巌寺の前でグランドオーダーを起動する。

『はいはい。わたしが参りますよー』

 脳内に返答があった。この声、シャルロットか。

 腕を掲げて、紋章が浮かぶ。

「シャルロット、来て」

 そう言うだけで舞い降りる英霊が実体化して、着地する。

「どうも、初めまして! シャルロットと申します!」

 ハキハキ微笑みシャルロットが実体化して挨拶する。

「ほぉ……。随分と手際が良いな。呪力の消耗も最低限。祝詞も印も要らぬのか。単独の影法師の召喚の術式にしては、省ける工程は全て省いた結果がこれとは。見事なり」

 楽巌寺も術式の完成度は完璧と言った。

 最低限の召喚には成功している。

 此処から伸ばすなら降霊術の方で、自分に降ろす過程を磨けとアドバイスを受ける。

 東堂も舌を巻く。これがグランドオーダー。

 召喚には一切の手順を踏まずに名指しで喚べる。

 召喚のタイムラグがあるが、それはデメリットでもこれでこの低燃費。

 十種影法術だって印と影という媒介が居るのに。

「ここが京都ですか。良いですねマスター。後で皆さんにご挨拶に行きましょう」

「はい。じゃあシャルロット、術式の代表者よろしく」

「任されました。不肖シャルロット、代表としてキッチリお仕事致します」

 しかも調伏なども必要ないとみた。

 とんでもない術式だ。実体化したこの女性はほぼ生身で、呪術師と大差ない生きた人間。

 これで影法師と宣うか。

 悪くない。ただ、この女性は多分東堂から見て弱い。

 術式で出て来た中では最弱の部類だろう。

 歴史に詳しい博学な東堂は見た目と名前で正体が直ぐにバレる。

 シャルロット・コルデー。

 そう遠くない過去で生涯一度の無謀な暗殺を試みた、後世には暗殺の天使と呼ばれる女性。

 歴史的に見ても一般人の枠に近い、英霊という枠組みでは最底辺。

「よろしくお願いしますね、東堂さん」

 内側で見ていたから流れも分かっている。

 シャルロットがソファー近くに立って、彼にも挨拶する。

「あぁ。念の為言っとくがうちの後輩を暗殺するのは止めてくれよ、シャルロット」

「いや、しませんよ!?」

 この反応、大方予想通りの一般常識の通じる相手。

 呪術師が一般常識の通じる生身の英霊を喚ぶ。

 型破りな後輩だ。

 楽巌寺が生徒達に挨拶に行けと言うので向かう。

 処分は特にない。注意だけしておけば良い。

 交流して学んでいけ。学校らしい指導。

 失礼する三人に、これから出会う先輩達。

 霞夜の京都校の物語がここから始まった。

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