英霊召喚『グランドオーダー』   作:新人呪術師マスター

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初任務から特級呪霊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高専で授業を受ける。普通の高校生みたいな風に。

 そもそも長野に居た頃の高校は急遽転校、在籍は現在京都の学生寮。

 ただ高専というだけあって教師も少なく、一年の担当の補助監督で、霞夜にあれこれ教えてくれたが一般素養は成績は悪くない。

 そもそも高専は四年制。

 最上級生、見ないのだが?

「あぁ、今の時代だと運が悪いと死ぬからな。在学中、四年になる前に。俺が来年無事に進級すれば四年になる」

 如何に厳しい世界か、東堂がいう。

 現状、東京も京都も四年制なのに最上級生がいないのは、向こうは年齢的には四年でもおかしくないが諸々あったり上層部と揉めて停学食らっている。

 こっちは任務中に以前死亡したらしい。

 だから三年の東堂達が最上級生。

 そんなこんなで授業と訓練を続けていると。

 ……唐突に、とんでもない任務が入った。

 とある山間部で、巨大な呪霊が目撃されている。

 峠を近寄った一般人に襲いかかって暴走しているという。

 その名も……。

「特級呪霊、がしゃどくろ。今回は高専の俺達全員で行くぞ。他の呪術師はとっくに返り討ちにされている。こっちには五条悟は居ない。九十九さんも来れない。乙骨は今は海外。上の連中のご指名は俺達で、実際にやるしかない。爺さんも来れんらしい」

 緊急招集を受けて、ある地方の峠に出た特級の相手をすると腕組みして東堂が重々しい空気で言いだした。

 がしゃどくろ。有名な妖怪だが、まさか実在していたのか。

 驚く霞夜に、近くで竦み上がる三輪。

「が、がしゃどくろ!? 国に指定されている特級ですよね!? 前に祓われたハズじゃ無いんですか!?」

「がしゃどくろは発生条件が緩い。元々、何度でも自然に湧き出る特級だぞ三輪。今回は古戦場跡地で発生している。山間部だったのが幸いだな。これが都市部、例えば長野の古戦場跡地とかでがしゃどくろが発生したら大災害だ。五条悟が真っ先に祓いに行く案件に匹敵する」

 歴史上、何度でも自然発生する特級呪霊。

 野垂れ死の怨念が、集合して巨大化して現れるのががしゃどくろ。

 全員、神妙な顔になる。

 先輩達は上からの命令、つまり楽巌寺の指示で動く。

 無事な保証は無い。全員が命懸けである。

「……私も、行くんですか」

 新人の呪術師、霞夜にも行けと楽巌寺は言っている。

 初任務で特級呪霊。しかも巨大。

「あら? もしかして、怖いのあなた」

 皮肉るよう真依が言う。

 荷が重いのは同じだろうに、強制的に言われているから真依は渋々行くという。

 こういう無茶振りを諦めているというか、慣れている。

「真依、天戸さんはこれが初任務だ。挙げ句に特級呪霊に登録されているがしゃどくろだぞ。共に行く以上、キチンと協調性を持て」

「憲紀に言われたくないわね。あんただって、特級相手なんて去年の交流戦以来じゃない。あの時真っ先に逆鱗に触れて潰されたの、あんたでしょ?」

「それはそうだが……。彼女とがしゃどくろ、どちらが危険かは自明の理だろう」

「……?」

 嘲笑う真依は、渋い表情の加茂に指摘する。何の話だろうか。

「うーん……正直、私達総動員でも祓えるかって言われたら、五分だよね。東堂君が前衛で食い止めて、真依ちゃんがメカ丸と援護して、私と加茂君で陽動とか攪乱。霞は……」

「桃ちゃん、前衛だと私死んじゃうよぅ……」

 情けない声で三級に特級相手には無理だと嘆く三輪。

 それは分かっていると西宮も告げる。

 接近戦しか出来ない三輪が足を引っ張るのが懸念材料。

 援護できる真依やそもそも手数の多いメカ丸なら兎も角、三輪が接近戦をやるのにがしゃどくろがデカすぎる。

 呪力の身体能力の向上も限度がある。

 曰く、三輪は術式を持ってないらしい。

 単純な技量だけで呪術師をやっている。

 そんなのが妖怪相手に磨り潰されてミンチになるだけだと三輪は弱音を吐く。

「落ち着け、三輪。俺達は全員で行くんだ。お前一人では無い。最悪、俺の後ろに隠れていれば良い。火力なら俺が一番出せる。食い止めることは可能なんだから、前に出なくても良いだろう?」

「メカ丸、私一応武器がシン・陰流しか無いんだけど?」

「……」

 冷静にメカ丸に言う。

 あまり彼も三輪に出て欲しくは無いと見える。

 高専の戦力は不在の新田と学長、先生の歌姫以外全員出払う。

「メカ丸はウルトラキャノンで火力出せるから良いじゃん! 真依はそもそも銃火器だし、桃ちゃんは飛べるし加茂さんは赤血操術で白兵戦も対応できるもん! 何もないの私だけだよ!?」

「俺はどうして論外なんだ三輪」

「京都校最強の人はどうとでもなりますよね!?」

 やけっぱちで嫌がる三輪。絶対に死ぬ。

 平凡な三級にがしゃどくろを祓えとか不可能だ。

「……はい、分かりました。なら、私が……いえ。私達が、三輪先輩の護衛に回ります」

 だったら。霞夜が前に出る。

 仰天の表情で三輪が霞夜を見た。

 戦えれば良いんだな? 全員が、確実に。

 足手纏いが居なければいい。

 上はそう言いたいのだろう。

 いや、三輪など気にしてないか。

 死んでも良いと思われているように見えて、霞夜も不審に思った。

 そう、だから確認を取る。

「何をする気だ、天戸」

 東堂が問う。お前は未熟、前線に出れば死ぬ。

 場違いに何故前に出ようとする。

「本来、グランドオーダーはこういう時のための術式だと思うんです。自分よりも巨大な相手に立ち向かう、その為にある。英霊達もきっと助けてくれます。だって、巨大な呪霊は祓わないと危険だから。……異論のある人、いる?」

 自分の中の英霊に問う。

 がしゃどくろという邪悪を祓うことに異議があるか。

『ねえな! がしゃどくろって言えば日本でも有数の妖怪じゃねえか! 決戦だぜおい! 腕が鳴るぜ!』

『マスターの君が望むなら、また私を降霊させて行けばいい。何、近距離でも中距離戦闘は得意でね。共に戦友と戦うことも、吝かでは無いよ』

『わたしは……今回は引っ込んでますね。特級相手にわたしが出来ることはないので』

『俺も無理っすね。規模が違いすぎて、戦えやしないっすわ』

 モードレッドが出てくれる。

 エミヤも降霊の同意を得た。

 シャルロットやマンドリカルドは厳しいか。

 デカ物相手に、マンドリカルドは木刀でどうやれと。

 シャルロットは妖怪退治は全然無理。

 モードレッドぐらいか。もう少し呼び掛けを続ける。

 高名な英霊で、大物取りが得意な人物。

『俺で良ければ行こうか、マスター』

 ここで名乗り出た、海外の英雄譚の主人公。

 不死身の肉体を持つ、邪龍殺しの英雄。

(良いんですね、ジークフリート?)

 ニーベルンゲンの主人公、ジークフリート。

 高潔で、人を守るためなら己すら捨てる男。

『あぁ。俺なら彼女を護衛しながら前に出られる。幸い、死ぬのとは縁遠い身体でね。負傷したときも勝手に治る。まぁ、あまり物理攻撃は俺には通じない。護衛と継戦なら俺にやらせて欲しい』

 ……決まりだ。

 大丈夫、不死身のジークフリートなら三輪を守りながら戦える。

 グランドオーダー内部で何処からか、

『またお得意の自己犠牲? 勝手に死んだら呪うわよジーク。分かってるわね?』

 とかいう嫁の忠告が旦那に飛んでいる。

『大丈夫だクリームヒルト。約束する、生きて帰ると。無論だとも。俺はもう死なない。誰も死なせない。必ず俺の手で、守るもの全てを守るさ』

『……ならいいわ。二度と、私を復讐に駆り立てる要因は作らないで頂戴』

 無謀の許可も得た。

 三輪に英霊の護衛をつける。

 庇いながら戦えれば良いのなら、英雄が傍に居る。

「高名な英雄が、三輪先輩に手を貸してくれるそうです。三輪先輩。怖くても呪術師なら、戦うべき時はあると思います。確かに命あっての物種ですけど……だからって、邪悪を放置して良い理由にはなりません」

「でもぉ……」

 三輪はすっかり悄気ている。

 聞いたら特級相手の任務など三輪はやったことが無い。

 前提として、お鉢が回ってこない。

 他の一級が総出で祓う。

 だがその人々は敗れている。

 やるなら、高専の呪術師だったら。

 逃げちゃ、ダメだ。

「……三輪。初任務の天戸ですら、覚悟を決めている。先輩のお前が諦めてどうする」

 メカ丸が諫める。しかし霞夜は相応の術式を持つ。

 だからまだ冷静に余裕があるのでは無いか。

 そうとまで反論する。当然のことだと霞夜も言う。

 三輪は死にたくないのだ。だから案を練っている。

 それにしても、三輪の態度は命の危険に取り乱しているようにも見える。

 仲の良い真依も西宮も、その恐怖を流石に見たことが無い。いや、違うか。

 明確に死ぬという確率で見たとき一番高いのは三輪。

 西宮は付喪操術という箒で空を飛べる。 

 真依は遠距離の銃火器の扱いに長ける。

 アドバンテージがそれぞれある。では、三輪は?

 術式を持ってない、否応なしに接近戦。

 シン・陰流はがしゃどくろには巨大すぎて意味が無い。

 霞夜に貰った火之夜藝で漸く抗える。それでもだ。

 対人では無い、呪霊でも怪獣サイズの巨躯の相手。

 ちっぽけな取り柄の無い役立たずに何が出来る。

『……随分と、怯えていらっしゃるのですね。霞夜様、私を喚んでは頂けませんか?』

『……嘘、ではないようです。わたくしも少し混ざりましょうか』

 グランドオーダーの内部で三輪を見て宥めようと二名ほど、姫が名乗り出す。

 霞夜がいきなりグランドオーダーを起動する。

 皆にちょっと説得を手伝って貰うと伝える。

「来て、黒姫。清姫」

 紋章から出て来たのは、帯刀する四角いメガネに右目付近に傷跡のある、黒いセーラー服の美しい黒髪ストレートの美少女。

 豪華な和装をした、緑の長髪で扇子を持って現れた少女。

「どうか、一度落ち着いて下さい。がしゃどくろは古来より日本に出る著名な呪霊。あなた様が恐れるほど一方的になることも有り得ません」

「少なくともわたくしの生前よりがしゃどくろは呪術師に退治されることは多々ありました。我が国においては特級なれど、何度も退治されたよく居る類の呪霊ですわ。寧ろ、そこまで過剰に反応するのは己の弱さに自覚があるから。皆を死なせる恐怖ですか? 死を恐れる感情は理解されど、戦うことを忌避するとはそれでも呪術師を名乗ります?」

 いきなり出て来た二人を皆に霞夜は紹介する。

 長野の民話に出て来る姫君と、和歌山の民話に出て来る姫君。

 黒姫と、清姫。共に古来の日本を知る英霊である。

「ほぉ。生き証人を連れてきたか」

 地元の姫まで連れ出して、説得に来た事に感心する東堂。

 三輪は武家の娘だった黒姫なら兎も角、一般人の清姫にまで言われて怯む。

 想像で絶望するな。

 呪術師全員で行くというのに、自分の存在が枷になるから、それで逃げても上が敵前逃亡と見なして罰する。

「昔からそうなのか、清姫」

「ええ。呪術師というものは、わたくしの生前より居ましたが、今で言う国に管理されていました。武士や農民に代わって、呪霊を祓っていた。それは当時からです。まぁ、それ以上に今よりも呪術師同士での戦争が多発していた時代ですけれど」

 呆れる清姫が、何時の時代も呪術師とは身勝手か国の役人か、極端であると扇子を広げてぼやく。

 今の上層部は腐っているのだろう。

 何をされるか、三輪は分かっているのか。

 正当な理由でも任務の拒絶で不機嫌になった連中が、理不尽を振るうだけ。パワハラだ。

「清姫様、あまり三輪様を脅すようなことは……」

「だからこそ、です。黒姫さんとは生きた時代こそ違いますが、がしゃどくろの認識は共通です。愛しのますたぁが死地に向かうというならばこの清姫、共に参ります。それに……どうも嘘吐きの殿方も要らしているので、信用できませんし」

 黒姫が現実を突きつける清姫に言うが、霞夜も吃驚する。

「……愛しのますたぁ?」

「はい、そうですよますたぁ」

「清姫様は何を仰っているんでしょうか……」

 ついて行けない黒姫と霞夜。

 いきなり何を言うんだこの子。 

 今まで一度も喚んだことないが。

 何度か以前にグランドオーダーの中で昔の呪術師の知恵を貰ったことは黒姫と一緒にあるけど。

 愛されているなどといきなり言われた。

「あと嘘吐きって……誰のことです?」

 更に気になることを言う。嘘吐き? 

「……いえ、嘘吐きというより呪術的な意味で黙っている、というのが正しいかと。英霊になって得た、わたくしの言うなればスキルというモノです。ますたぁには以前に説明したと思いますが」

 そう。英霊には固有と分類の二つの基準でスキルというそれぞれの逸話や言動に基づいた能力がついている。

 その事は知っているが、それに引っ掛かる相手がいるのか。

「今は本題ではないので、ぐっと堪えて我慢しますわ。問題は、三輪さんの弱音です。怖いのは当然です。等級を遙かに超える理不尽は分かります。分かりますけども、逃げられるほど国は何時の時代も甘くはないのですよ」

「……そうなんだ。逃げちゃダメかぁ」

 正論を言っても無理だと言っても、それで済めば呪術師は要らない。

 祓わねばがしゃどくろは被害を増やして暴れるだけ。

 発起させるように、清姫は言った。

 三輪だって呪術師だろう。

 皆で勝てば良いだけの話だ。 

 絶望する、条件が違うだろう。

 一人じゃない。足手纏いにもならない。

 霞夜が支える。英雄が傍に居る。

 それでも無理と諦めるか。

「霞、この子の言うとおりだよ。皆で行くんだから、そんな弱音は言わなくて良いの」

 優しく西宮も説得に加勢する。

 大丈夫、自分と学友を信じろ。

 勝てればかなりの報酬が出るんだ。

 それで妥協しよう? と。

「うぅ……お給料良くても、入院治療で相殺じゃ……」

「あ、庇うって意味なら絶対に死なない怪我しない英雄が三輪先輩のフォローします。本人が最悪鎧で受けてガードするんで、進んでシールドにしろって言ってます。出来うる限り私も近くに居ますし」

「誰その怖い呪霊みたいな人!?」

 漸く何時もの三輪に戻った。

 相方不死身って誰かと言えば。

「えと、ジークフリートですね」

「……おいおい。天戸、三輪の護衛がよりにも寄って、ニーベルンゲンの旦那の方か。過保護すぎないか?」

 呆れる東堂に、三輪の武器は不死身の英雄と火之夜藝と自分だと霞夜は言った。

 これで足手纏いとは言えない。言わせない。

「あーぁ、初任務の子にここまでされて。あんた、最近調子に乗って後輩出来て喜んでた癖に、情けないわね」

 おちょくる真依が笑いながら言う。

 もう、暗い空気は終わりだ。

「徹底的に三輪を底上げして戦力にする陣営だな……。俺も混ざろう。共に中衛は任せろ、天戸」

「三輪、私達は君を足手纏いとは思わない。共に行く、仲間だ」

 加茂もメカ丸もそう励ます。

 目指せ報酬。一獲千金。

「私も行きますので。不肖黒姫、英霊では武芸など珍しくもない剣士ですが、お供致します」

「わたくしも参ります。あぁ黒姫さん、蛇だからってわたくしもがしゃどくろと一緒に狩らないで下さいね?」

「流石に人から至った大蛇は狩りませんよ!?」

 蛇に嫁ぎ、討ち取った姫と狂熱で大蛇に至った姫。

 これにモードレッドも居れば十分だろう。

「お給料の為……分かりました! 私も頑張ります!」

 やっと、やる気になった三輪。

 大丈夫。先輩達となら、霞夜も怖くない。

 こうして霞夜が初任務に向かう。

 特級呪霊、がしゃどくろの除霊に。

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