英霊召喚『グランドオーダー』 作:新人呪術師マスター
こうして、とある地方の峠道に向かう一同。
だがここで、不意打ちを食らう。
なんとがしゃどくろの規模が肥大化している。
聞けば特級呪霊のがしゃどくろに加えて、三級相当の骨の呪霊が無数に、というか多数に居るらしい。
その規模は峠道の山一つ分。
山一個が丸々、夜な夜な骨の楽園になっている。
武者のような格好の骨だということは、古戦場で死んだ武者が呪霊として蘇ったと補助監督達が言っている。
術式か何かで大規模な儀式で黄泉がえりを人為的な可能性があると。
そこで、だ。この西日本の大騒ぎに、助っ人が来た。
かの御三家次期当主、禪院直哉。本人は未熟な京都の高専の連中に山一つを制圧できると思っていなかった。
だから禪院家に所属する術式を持たないが帳ぐらいなら降ろせる呪術師を何人も取り巻きで連れてきた。
物量には物量。御三家最大規模の禪院家の本気。
「悪いなぁ。今回の任務、俺もお邪魔させてもらうで?」
山一個を囲み、超広範囲の帳を補助監督と禪院家の有象無象と彼が言う役立たずにやらせて外界と切り離す。
峠道の入り口に集合する一同の前に、けんもほろろの飄々たる態度で和装にピアスに金髪ともう和洋折衷の美形が薄笑いを浮かべて合流する。
「……直哉」
心底忌々しそうに真依が舌打ちする。
生徒達の反応は、応援に感謝するのは霞夜ぐらいで、皆嫌悪の温度で見ている。
地獄の禪院家の次期当主。
理由は何となく分かるが、嫌われ具合が酷い。
呪術師同士で啀み合う訳が分からず困惑する霞夜。
「んで、君かぁ。渦中の天戸霞夜ちゃん、つーのは」
値踏みするように準備作業の霞夜によって、一瞥する。
今回は遠くまでありがとうございます、と素直に礼を言う。
上の命令だから良いと直哉は笑う。
「ええやん君。見た目はちいと地味やけど態度も素直やし、生意気なガキと違ってちゃんと大人への礼も言える。京都校の呪術師は基本気に入らへんけど、君うちの親戚だけあって、礼儀作法は確りしとる。うん、呪力の総量は妥協点って感じやな。グランドオーダー持ってる分、戦闘時は跳ね上がるんやろ」
お眼鏡にかなうようで何よりだが、申し訳ないと霞夜は謝罪する。
「私、初任務ですけど……」
「マジかいな。初でがしゃどくろはキツいなぁ」
などと喋っていると、不意に周りを見る直哉。
呆れたような目だった。
「さて、まあ君らは不甲斐ない取り巻きでも適当に祓っとき。然し、上も目ぇ腐っとるん? 霞夜ちゃん三級? 見込みあるんに、もう少し盛っても良かったやん。どんだけグランドオーダーのレベル知らんねん。だから雑魚の思考はそこで止まるんや」
「はい?」
直哉は言う。直哉が見るに、潜在能力的にも霞夜の適切な評価はもう少し上だ。
初任務でがしゃどくろとは厳しいだろうが、少し付き合えと言い出す。
夜空を覆う、闇より黒い帳が見上げる範囲に降りていく。
そろそろ頃合いか。
「俺は生意気なガキは嫌いや。感情で思考停止の雑魚も嫌いや。身の程知らずも当然な。ま、今回の任務本来がしゃどくろ一体なら、俺らが出払う事無く終わってたやろね。まあ東堂君や憲紀君、メカ丸君おるから弱い足手纏いが死ぬだけで祓えはする」
「……」
直哉は女子達を雑魚と呼ぶ。
尊敬する先輩故に不愉快だが、堪えて聞く。
「せやけど、君ちゃうやろ。本当にサポート必要なんは君だけや。現場経験必要なのは。君が実れば、禪院家の血筋は遠縁でも優秀やて証明になる。つまり禪院家の株が上層部から上がる。最近の出来の悪いうちの無能なアホ共よりも遠縁の子が出来が良いなら、御三家の中でも上層部の受けも良い。伏黒君と良い君ら有能株なんやで?」
「ええと、伏黒君?」
何度か聞いたが、本当に誰だ?
「君と同じ東京におるうちの親戚や。俺の……そうやね。見ただけで分かる、完全にあっち側だった、俺が知っとる真の最強の呪術師だった人の息子や。うちのアホ共が誰一人、今でも恐怖しか持たん、持てへんレベルの最強。一回は悟君に半殺しで勝ったらしいわ。もう、呪詛師やったから昔に死んどるけどな」
「そんな人が……」
直哉は熱弁する。
そもそもその人物、禪院甚爾が如何に強かったか。
究極のゼロ。一切の呪力を持たない、天与呪縛。
フィジカルギフテッドという特異な体質で、呪具の扱いも一流。何なら通常の銃火器だって持つだけで強い。
なのに禪院家はフィジカルギフテッドの彼を見下して、血の気の多い逆鱗に触れて一回半殺しにされたそうだ。
だから恐怖する。天与の暴君の気紛れで滅びかけた、禪院家。
現当主、直毘人が呆れて出て行けと叩き出して、本人も嫌気がして出て行ってしまった。
以降、完全体のフィジカルギフテッドが生まれたら警戒するが、次に生まれたのはまさかの双子。
凶兆のフィジカルギフテッド。つまり不完全。
ぞんざいに扱っても良い。
「ほら、そこで不貞腐れてる出涸らしおるやん? 真依ちゃんな、双子のフィジカルギフテッドの妹やねん。中途半端に双子のせいで、折角の天与呪縛も持ち腐れ。姉の真希ちゃんはどう足掻いてもニセモノって訳やな」
「チッ……」
嘲笑う直哉は舌打ちする真依に正論だろうと言う。
客観的に見て双子は凶兆で、天与呪縛も意味が無い。
なのにクソ生意気に真希という人物は啖呵を切って出ていった。
呪術師になる。目指すは当主になる事とほざいて。
「な? 生意気やろ? 無知で無能、雑魚の癖におつむも弱い。せめて客観的に考える頭があれば身の程知らずなこと言わんやん」
「…………」
暗に絶対的実力主義で、男尊女卑とは聞いていたが。
本人を目の前にして言えることは一理あるというか。
何も持たない呪術師が、多分ハードルの高い当主という次の世代に繋ぐ一家の顔になるのは無理だと思う。
「無茶なことを……」
思わず溢れる本音に、直哉は笑ってその通りだと言った。
「なぁ、高専の君ら? 結局禪院、ってか俺のこと真依ちゃんから聞いとるから嫌いやろ? 態度で見て取れるで。これでも俺は実力で君らを呪術師として測っとるけど、文句ある? そもそもなんか間違うとる?」
挑発するように直哉は一同に問う。
呪術師として、実力……つまり等級で判断して何が悪い。
事実、女子は西宮も三輪も真依も、直哉より低い。
術式もパッとしない。役に立たない。死んでも良い。
沈黙する女子一同。
「加茂君は文句なしや。これが手本って感じでグット。メカ丸君は傀儡操術の規模がピカイチ。天才とちゃう? 東堂は実力に何も文句ないし君は一番やけど顔がダメや。強面過ぎるで。君の推しの高田ちゃんみたいな万人受け狙わんと」
「俺達は貴様にああだこうだと言われる所以は無い」
腕組みする不愉快そうに東堂が言い返す。
直哉の不遜な態度も大概にしておけ。
そう言うと、そこが生意気だと言う直哉。
助太刀されてる癖に霞夜みたいに感謝もしない。
がしゃどくろ一体なら勝てても雑魚の群れに対応できるのか。
男子が出来ても女子が足手纏いになるだろうに。
霞夜ぐらいだろう。雑魚の多数を処理できるのは。
「君ら、学生の癖に年功序列って言葉知らんの?」
「知ったことか。貴様が俺と同じ一級だが、次期当主だろうが俺達の邪魔だけはするな」
「ほんま、生意気やな。君はあっち側の乙骨君とやり合えるからええけど、他の呪術師なら俺殴っとんで」
腐敗というか、理不尽というか。
英霊達も正論で威圧する直哉に嫌悪している。
正しい理不尽とでも言おうか。呪術師の理屈で語るなら、直哉は正論でしか物事を言っていない。
萎縮する三輪や西宮は邪魔。真依は論外。
男子だけが戦力になる。
「直哉さん。ここでいざこざを起こされても困ります」
御三家の加茂が調停に入る。最早仲裁では無い。
殺気立つ東堂が今にも直哉をぶん殴り、メカ丸が無言でウルトラキャノンで吹っ飛ばそうとしているから。
「硬いなぁ、憲紀君。同じ次期当主やんけ。フランクに行こうや」
ニヤニヤ笑って、加茂の肩を組む直哉。
立場上断れずに困り果てる加茂。
そこに現れた禪院家の下っ端が一人駆け寄る。
周囲の禪院家の面々が、全方位から名無しの骸骨呪霊と交戦に入ったと報告する。
「ん。分かったわ。お前もいけ。呪霊、逃がすなや」
指示を出して、直哉は不敵に笑う。
皆に言い出す。だったら競争でもするか?
どっちが先に本丸を駆除できるか。
こっちは直哉だけ。
高専の生徒には人数のハンデをやる。
但し。
「霞夜ちゃん、ここで今グランドオーダー起動してや。事前の作戦通りに英霊の配置はやってええ。英霊の統制も任せる。でも、君自身は俺とこっちに来て学ぶとええわ。本物の呪術を、本家の本領を君に、次期当主として見せたる」
霞夜は直哉についてこい。英霊の援護は良いから。
「……良いわよ、霞夜。直哉の言うとおりにして」
真依に初めて名指しで呼ばれて、驚く。
良いのか? 三輪が危険になるのに。
驚く視線で見たら察しろという顔で真依は浮かべる。
要するに直哉の自慢に付き合うのは怠いから、さっさと終わらせたい。
一同そういう事だと。
何となく、ナルシストな気がする霞夜は英霊を召喚する。
モードレッド、ジークフリート、黒姫、清姫。
それぞれモードレッドは露骨に直哉を睨み、ジークフリートは溜息をついて、黒姫は戦闘前の戯れ言と流して、清姫は呪術師らしい言動にウンザリしていた。
皆に一同と共に行ってとお願いする。
同時に降霊状態になり、エミヤを降ろす。
「へえ? 複数召喚と降霊同時に出来るんか。やっぱ君才能あるわ。悟君もええ子見つけたなぁ」
技量を褒める直哉は、これだけハンデをやるなら精々頑張れと嫌味を言って、霞夜を誘う。
そっちは団体戦。こっちはバディ戦。
英雄付きの状態で負けたら笑ってやると。
それぞれ出発する。先手は直哉だ。
軽い足取りで、森の中に飛ぶ。
「……上のつまらん横槍で興が殺がれたな。天戸、あの天狗に付き合うのも一種の処世術だ。ちょっと行ってこい。こっちは任せておけ」
どうにも啀み合う彼等についていけない霞夜だが、東堂が行けというので、取りあえず追いかける。
直哉の高いプライドと見合うだけの実力を期待する。
エミヤの身体能力で追いかける。
エミヤにはスキルで生前の鍛錬と経験で染み付いた戦闘理論の『心眼』と、視力向上の『千里眼』のスキルを持つ。
その二つを通して、追いついた直哉を見て即座に理解した。
豪語するだけあって極めて合理的に、かつ瞬時に判断して雑魚を屠る。
森の中、術式で常時加速しているのだろうが、霞夜の目には違和感のある加速にしか見えない。
高速移動の類じゃない。アレは、強引に身体能力を無視して動いている、後付けの動き方。
そこに合わせて、黒い洋弓を投影して支援する。
「ええやん! そのタイミング、最高やで! その調子や! 俺の援護も良いけど、確り動き見とき!」
直哉が目で追えていると分かると絶賛して更に加速する。
エミヤのおかげで合理的に理論を組み立て、嫌だが波長は合わせられる。
つまり本当に直哉は経験豊富で熟練の呪術師。
エミヤの戦闘理論が噛み合うだけの理屈的な戦いが出来る。
これが禪院直哉。本家の次期当主。
(直哉さんは本当に強い。これは英霊の目で見た事実。これを台無しにするのがあの性格と言うことですかね……?)
皆がああも険悪になるのは直哉の性格のせいだろうか。
大言壮語とは言わない。ちゃんと実力はある。
なのに嫌われている理由。やっぱり性格か。
人徳無さそうだったけど。
でも呪術師なら納得できる部分もあった。
分からない。どっちに霞夜はつくべきか。
尊敬する高専の先輩を貶されて不愉快だったけど、その言い分は理由も理屈も正論で、言い返せない。
実力主義なら男尊女卑でなくともああもなるし、直哉は弱い奴は真の最強を見たとき思考停止をするという。
……つまり、今の呪術師界隈の五条悟への対応?
適当に五条悟なら何でも良い。押しつけろ。
こういう事を理解しない、思考停止と言いたいのか。
直哉は、ナルシストだが強さにビビらず思考する。
強者を煙たい事をせずにリスペクトしている。
五条悟のように、彼の言うあっち側になろうとしている?
(私も五条さんの事はあの時以外はよく知りませんが……。呪術師において、強さとは重要なことなんでしょうか?)
実際に眼前では効率よく、名無しの呪霊達の急所を的確に一撃で叩いて次々祓う直哉がいる。
直哉は霞夜に魅せる気だった。
次期当主の、本家のメンツにかけて。
呪術師とは、真の強さとは。
呪術師の、御三家の誇りを背中で語れるように。
あの時の衝撃を、彼女に味わわせてみたい。
己の軸を決定打にした、禪院甚爾のように。
嘲笑うガキの自分を今では毛嫌いする程。
そのインパクトを、今の自分なら出来るはずだ。
五条悟のように、あっち側に。
絶対的な実力を持つ、強者に。
自分がなりたい自分。今度は魅せる。
禪院家のバカな身内とは違う。
霞夜は身内でぎゃあぎゃあ怯えるような雑魚じゃない。
きっと、導けば強くなる。
自分が追いつかれる。いいや、全力で突破する。
十種影法術を持つ伏黒恵のような原石に言いたい。
(俺はあっち側や。甚爾君みたいな強さがあるんや!)
グランドオーダーは、あっち側の術式。
投射呪法が霞んで見える。悔しいが、そこは譲る。
だが己を磨いて、グランドオーダーすら抜き去ろう。
己を鍛え、技を磨き、時には流儀を捨てること。
得物は必要なら使う。武芸は己の武器だ。
フィジカルギフテッド。あの領域は特別。
そう。直哉は、己を特別にしたい。
持てる手札は呪術師では才能だけ。
それでも、それでも。
ああなりたいから、今がある。
努力で、投射呪法で、グランドオーダーを、無下限を、六眼を、十種影法術を、全て超える!!
(俺を見ろや、霞夜ちゃん。君が持ってる才能を超えた、本物の、歴史ある呪術師ってのは、こう言うもんや!!)
駆け出しの親戚に、背中で語るは強者の器。
あっち側とは、何か。
『特別』という意味だと直哉は思う。
だから自分は霞夜という才能を努力で否定する。
凌駕する。超えていく。
それでこそ、本物。『特別』という器。
尚、この世界線の直哉はドブカス要素が薄い。
残念ながら、マトモ要素の強い直哉である。
禪院家の中でも腐ってない方で、ドブカスなら扇の方が酷い、本当に普通の飢えた貪欲な呪術師。
次期当主も本流のように自信過剰からなって当たり前が天与の暴君を見たせいで全否定からぶっ壊れて、アレこそ相応しいと貪欲に鍛え抜いた、ストイック過ぎて逆に差別意識があるのは徹底的な実力主義が根拠にある。
男尊女卑とか言われても、禪院家に強い女がまだいない。
九十九あたりや乙骨あたりにも対抗意識を燃やしていたりする。
全部自分が超える踏み台にしてやる。
自分があっち側に行く証明は、才能を持つ全てと親戚の伏黒恵や天戸霞夜に敵わない、参ったと思わせるときだ。
誘った理由はそういう事。自己証明の為。
この辺綺麗な直哉である。
「飛ばすで、霞夜ちゃん! 俺に続きぃ!」
「は、はいっ!!」
禪院直哉、新人に背中で語るは強者という特別。
がしゃどくろまで、突き進む。