山一つを囲う決戦は、その場所で違った。
高専の生徒と英霊達は雑魚の大群に鉢合わせ。
モードレッドとジークフリートは大火力の切り札こそあれど、縛りにより霞夜の許可無く使えない。
それを使えば地形が変わる。崩れるという意味で。
土砂災害になる範囲攻撃。論外だった。
本命のがしゃどくろは遠目でも見えている。
体躯はザッと見て20mは超えて、上半身だけの骨が錆びた刀を振り回して暴れている。
その理由は最速の男の息子、禪院直哉が霞夜と共にがしゃどくろの居場所に到達したからだ。
「見つけたで、がしゃどくろ! 一番乗りや。ハッ、やっぱり俺らの方が速かったな。結局足止め食らって、全くトロいんやからあの子らは」
「……」
眼前に到達した直哉は鼻で笑って、音を鳴らして腕を振り上げる怪異に向かって言う。
単なる群れている有象無象のデカ物に何が出来る。
振り下ろされた一刀を軽く避けて小馬鹿にする。
霞夜は後退して、援護射撃。
だが骸骨の剥き出しの骨格に弾かれる。
特級? 歴史上尤も祓われた亡霊風情。
お前は特級の、最底辺。そう直哉は笑う。
「術式も無い、意思もない。デカいだけの呪力の塊が、何度も現れて特級名乗んなや!!」
そう嘲笑すると、掻き消える。
霞夜には見えているが、次第に追えなくなる。
加速度的に怒濤の勢いでラッシュをブチ込んでいく。
殴打の連続。だが骸骨は折れることがない。ヒビすら入らない。
大振りの反撃が空振りだけで、地面を割った。
「あん……? 妙やな。手応えがない? こっちは速度上げて殴ってんやで?」
投射呪法を解いた直哉が一時間合いを取る。
霞夜も分かっている。生半可な攻撃を弾いている。
エミヤのスキルで違和感を抱く。
隙と弱点、急所を的確に直哉は攻撃してるのに通じていない。
手数ならこっちが上。
霞夜の援護射撃は低威力故に弾かれても分かるが、直哉の徒手空拳は速度を乗せた重量級。
人間相手ならミンチになる勢いでやっているのに。
「んー……。ちょい、カウンターしてみるか」
頑丈さが外部から補強されている? と直哉は語る。
試してみるかと敢えて棒立ちで大振りの一刀を受ける。
後退して霞夜は見守る。
直哉に当たった瞬間、本人から呪力の放出で錆びた刀が競り負けた。
食らって大丈夫かヒヤヒヤしている霞夜に、振り返って平気だと朗らかに笑う直哉は、途端に表情を引き締める。
「やっぱな。こいつ、単なるがしゃどくろやない。グランドオーダーと同じや。誰かに意図的に召喚されとる。媒介はこの山、要は土地か。何処にでもある、過去にがしゃどくろが現れた土地なら召喚は容易。古戦場後やから、積み重なる骸は幾らでもある。クソが、何処の呪詛師の仕業やこれ」
一度撤退した直哉と合流する霞夜に説明する。
こいつはグランドオーダーの英霊と同じ。
呪霊でありながら召喚された状態。
つまり、使い魔だ。通常の式神よりも高等な技術の、補助監督の言ってた大規模な儀式の結果。
「なるほど、つまりこのがしゃどくろを叩いても無意味。儀式の根本的に、そのものを絶たないと」
「こいつは土地に根付いて召喚された地縛霊。補強されて無限に再生する、っちゅーカラクリや。然し、初任務なんに、現状の飲み込み早いな霞夜ちゃん」
「そういう英霊を降ろしているので」
いくら殴っても、土地に補強されて召喚された地縛霊には、再生するし硬いしでいたちごっこで意味が無い。
対処法は、儀式の中断。或いは媒介の破壊。
丁度直哉に下っ端から通達。雑魚が無限に沸いてくる。抑えきれないという。
「アホ。数だけの群れなら禪院家なら慣れとるやろ。泣き言言わんでやれや」
呆れた直哉は現状維持に徹しろという。
大規模な儀式なら何処かに顕界させる呪物があるハズだ。
これを維持する為の呪物。隠匿されているだろう、継続の要。
それを破壊すれば、儀式は無効化。
がしゃどくろは勝手に消える。
「真正面から相手しても無駄や。こいつは召喚された呪霊やから、儀式を絶たないと続くだけ。アホらしいわ」
「でも、こんな規模の大きい儀式って何日も続くんですか?」
上層部が発見するまで、何故続く。
直哉が言うには、この手の儀式は一度降臨すると媒介さえあれば縛りの恩恵で何日も継続可能。
がしゃどくろの場合は、自分で縄張りから動けないという縛りで固定化されているから、土地から呪力を吸い上げて何日も継続出来るわけだ。
ただ、あくまで理論上。
普通の呪術師には、五条悟だってこの大がかりな儀式は無理。
「……分からん。誰や、こんな天元様みたいなレベルの儀式出来る奴。がしゃどくろとオマケの召喚やて、相応の準備が必要や。下準備も苦労する。せやけど、不自然よな。分かるか霞夜ちゃん」
「はい。何でこんな人里離れる山間部で儀式など行うのか。意図は見えません」
見えない。直哉も腕組みして考える。
何故、こんなことを。こんな場所で。
誰が、どういう目的で。
見て確実に言えるのは、五条悟もドン引きのその天元様なる存在の規模の次元の儀式だと言うこと。
分かりやすい話が、非常に高度な技術なのに害の無い無駄遣い状態なのである。
「意味分からん。底辺って言えどもがしゃどくろや。特級の看板背負った伝統的な呪霊の一体。儀式の人目を避けた? にしたって山の中でやるかいな、こんなん。まるで実験でもしてるみたいやな」
「ええ。儀式の確立、それ自体が成果であり目的なら一応の筋は通ります」
そう、推測だがこの儀式がそもそも実験で、成功さえすればオッケーと思えば放置も理解できる。
起動さえすれば、山一つを儀式場に出来るが、それにしても。
分からない事を考えても打破は出来ない。
「問題はこの儀式の継続のブツが何処に隠れているか」
「絶対に結界で隠しますよね」
霞夜はそう思うが、結界の呪力の残穢で見つかるから逆手もあると直哉が言った。
「案外雑にその辺に埋めてるだけとかも有り得るで? 結界は勘の良い呪術師の呪力探知に引っ掛かるからな」
「がしゃどくろが居れば、普通の呪術師は返り討ちですもんね……」
門番で結果であるがしゃどくろが居れば近寄らない。
兎に角、バカ正直に付き合う理由は無い。
がしゃどくろは動けないという縛りがあるから寄らないと攻撃できない。
山一つ、丸々使う儀式の要を探すにしても。
無限沸きの雑魚に対処しながらは厳しいか。
「面倒やな。虱潰しは埒があかん。かと言って、呪力の逆探知なんぞ出来へんしなぁ……」
直哉は面倒そうに頭の後ろで手を組み帳を見上げた。
……逆探知?
待ってくれ、と霞夜は言った。
その逆探知は、がしゃどくろの呪力の逆探知で良いのか。
儀式の呪力は、要の呪物の呪力と同一か。
「そりゃ、儀式の過程が続く現状と、結果のがしゃどくろの呪力は混ざっとるから何とも言えんけど。霞夜ちゃん、何か秘策あるん?」
「はい。丁度良い魔剣が用意できます。要するに、呪力の嗅ぎ分けが出来ちゃえば良いんですね?」
ニヤッと笑う霞夜は確認する。
実行中の儀式と、結果の呪霊を切り離して追尾できれば問題ないか。
そんな器用な呪具があるわけ、と直哉は思うが。
「投影。おいで、
一振りの剣をどこからともなく投影して持ってくる。
見た目こそ地味な剣だが、術式が奇妙だった。
「……なんやこれ。構築術式? いや、ちゃうな。こんな低燃費で出来るわけないわ。霞夜ちゃん、君何使ってるん?」
「ただのアウトプットですよ」
秘密だと直哉に微笑み、魔剣に言う。
儀式の呪力をがしゃどくろから嗅ぎ分けろ。
お前の役目は、儀式の要を壊すこと。
番えて、天に放つ。
「行きなさい……緋の猟犬!!」
霞夜が放った魔剣は空を目指して、そのままあらぬ方向に突き進む。
直哉が広域で感じ取る呪力は猛スピードで、何かを目指して突っ込んでいく。
そして、隠されていたであろう何かを抉って破壊して、また天に昇る。
「いや、なんやアレ。呪具の特性か? 緋の猟犬? マジで儀式の呪力だけ逆探知して嗅ぎ分けてるん?」
「はい。アレは
そう言うと律儀に突っ込む直哉。
ちょっと待て。
「手っ取り早い話、呪具の改造かいな……。いや、大体何で霞夜ちゃん剣を番えて射ってるん? 矢は?」
「生憎と、私の投影は洋弓も複製品でして。コスパ的に刀剣類を弄くって射ってる方が燃費良いんです」
「剣士か弓使いか分からん無茶苦茶やね。おもろいけど」
勝手に空を舞う猟犬が隠された呪物を嗅ぎ分けて見つけ、ぶち壊す。
複数、キッチリ壊したのだろう。
猟犬は最後の呪物と共に役目を終えて自爆した。
「よっしゃ。ナイスプレー、霞夜ちゃん! これでがしゃどくろは消えるハズや」
儀式の継続の要を壊して中断に成功。
直哉もここまで彼女が器用で出来るとは思ってなかった。
「お役に立てれば幸いです」
霞夜もエミヤの汎用性に感謝する。
がしゃどくろは怨嗟の声を上げながら成仏していく。
霧散するように、徐々に消える。
「残ったのは雑魚の殲滅か」
「直哉さんなら余裕綽々でしょう?」
有象無象の成仏が遅れている。
残った処理を、行えば勝ったも同然。
「当然! 何たって俺、最速の呪術師やから」
決めセリフのように笑い、親指を立てる直哉。
「頼りにしてます」
遠慮無く、直哉を信じて共に駆け出す霞夜。
道中、聞こえる直哉の独白。
「……一回で良いから言ってみたかったんよな、悟君の決めセリフ。うわ、思っていた以上に自分に効くわ。最高に格好ええやん。これがあっち側か」
「よく分かりませんが、直哉さんは呪術師のスペシャリストだと思いますよ。英霊の目で見て、そう思えるんですから」
素直に後ろから独白に相づちを入れる。
その返答に本人が動揺する。
「お、俺が呪術師のスペシャリスト!? 甚爾君や悟君を差し置いて!? ……あかん、あかんわ。アレだけのスペック持っとる霞夜ちゃんが悟君達を知らんから言われたとしても、今までで一番の賛辞や。君にとって、グランドオーダーの一部を通しても、俺は一流か……!」
「少なくとも、この状況でお世辞は言いません」
そもそもお世辞を言えるほど呪術師を知らない。
英霊の目で判断した結論、直哉は一流だと思う。
性格以外はケチのつけようが無い。
「やった……やったわ! あっち側の術式の子に、言わしめたで! これは親父に自慢できる! 禪院家の当主に相応しい評価、親父が気に掛ける子から貰ったんや! 次に悟君に会ったときに自慢したろ!」
興奮して、昂ぶる呪力。
ならば、本気を見ておけと直哉は言う。
「最大速度でぶっちぎったる!!」
ハイテンションで加速していく直哉に必死に追いかける。
速い。ギリギリに抑えてくれてるので追いつくが、何故か高専の先輩達の居るところを目指して、道中片っ端から呪霊を初手で祓う。霞夜の出番が無い。
手際の良さ、テンポ、技量。
全てが高いなと後ろで見惚れる。
「ハハハッ!! 良い気分や! 俺がスペシャリストか! 悟君が怪物なら、一歩近づいた! 俺は一流やねん、失態はないでぇ!!」
余程の感想が嬉しいのか、調子に乗りまくる直哉。
物量に苦戦する先輩達の居るところを合流。
ニヤニヤしながら着地する彼に、一同苦虫をかみつぶしたような顔をする。
がしゃどくろが消えた。どうやら直哉の勝ちらしい。
「勝負はもうええ。それよか今、俺は気分が最高潮や! やっぱり素直な子は育ちが良いな! 君らと大違いで、俺を立てるのが上手い子は大歓迎やで!!」
手伝うと言うより、見せつける。
主に霞夜に、物量がどうしたと言わんばかりに。
「最速、行くで! 見ててな霞夜ちゃん! 度肝を抜く世界、これが俺の本気や!!」
掻き消える姿。
打撃の音だけが響いて、英霊も絶句の速度で祓いまくる。
道中の連戦で消耗していた一同は、根源を絶ったであろう直哉に軍配をあげるしか無い。
「……口だけじゃねえらしいな、あの野郎」
モードレッドが剣を肩に担いで忌々しいようにぼやく。
「見事な手際だ。身軽な速度が武器のようだな。そもそも見えるか、皆?」
ジークフリートが清姫と黒姫に問う。
二人とも否定。首を振る。
多少慣れている黒姫には残像が、清姫には全く見えない。
モードレッドにはまあ見えているが、好きじゃ無い戦術だった。所謂、効率の良し悪しでやっている。
ケンカ殺法のモードレッドは型破りなので選り好みが激しい。
ジークフリートは堪えて反撃のスタイルなので天敵とも言える手数に称賛する。
「ちょっと。あなた達、あのバカを褒めないでよ。直哉が、見たこと無いくらい浮かれてるのよ気持ち悪い」
真依が不機嫌に英霊達に文句を言う。
太鼓判だと思い上がる直哉が、休みに入った疲弊していた彼等に引っ込めと言い劣勢をひっくり返す。
「やれやれ……。処世術の世辞なら良いが、お前の場合は本音だろう天戸」
「あ、東堂さん」
戻ってきた東堂が呆れて肩を竦める。
霞夜が悪いことかと問うと、素直すぎるのも良くないと言われた。
物量に苦戦するの理由が、後で聞いたら三輪が案の定袋叩きにされて、皆で庇いながら進んでいたらがしゃどくろが霧散したらしい。
「英霊から見ても、直哉さんは一流ですよ?」
「人格的にマトモなら、誰も文句なぞ言わんよ。奴といい、五条悟といい、実力の上の連中は人格に癖が強すぎる。変人奇人の集まりだからな」
お前が言うなと普通の呪術師なら東堂にも言うが、霞夜は東堂の悪癖も慣れてしまっているので、返答に困る。
「俺はァ! あっち側や! 一流やッ!!」
改めての自負と思っていた以上の称賛を受けて絶好調の直哉が本当に皆の前で圧倒して倒しきる。
「あかん、興奮しすぎて若干記憶無いわ。まぁでも、土産話が出来たし上々やね。霞夜ちゃん、また一緒に任務やろや。俺の三歩後ろに行く霞夜ちゃんの援護なら、悟君とも今なら戦える気がしてるわ」
任務終了。全ての呪霊を祓った。
それぞれ、戻って行く。
明け方までかかったが、疲れているのは先輩達だけ。
よっぽど気に入ったのか、直哉から連絡先まで交換する。
「うわぁ……霞夜、あんた何言えばあのクズに気に入られるの? 媚びでも売った?」
「感想を素直に……」
ウキウキで帰っていく禪院家の次期当主と酷使された下っ端の皆さんを見送る中、傍に居た真依に言われた。
「……あぁ、そう。そういう事。直哉なら自画自賛に拍車をかけてるわけね」
「すみません……」
申し訳ない事をした。
謝罪する霞夜に真依は、あのクズは手を組むとはお気の毒。
多分五条悟の模擬戦の相方に連れて行かれるから頑張れ。
「私は先輩達が嫌う理由がよく分かりませんが……」
「性格悪いからよあいつ」
一言だ。奴を嫌う理由に深い意味など無い。
兎も角、初任務は無事終了。
霞夜には直哉というアレな味方が出来たのだった。