指揮官は今日もKAN-SENに振り回される ~アズレン短編SS集~   作:げーりっく

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いえーい✌
流石にこれはやりすぎだよね……?


樫野に腕相撲で負けた結果とんでもないことになってしまった……

 

~~母港~~

 

樫野「指揮官、お茶をお持ちし――ひゃああ!?」ずてーん

 

樫野「うぅ…すみません指揮官……」

 

指揮官「樫野、大丈夫?」

 

樫野「は、はい…大丈夫です……あ」

 

指揮官のズボン「」べちゃ…

 

樫野「す、すみません…私ったらなんでいつもこうなんでしょうか…」どよーん

 

指揮官「そういう樫野も大好きだけどね」

 

樫野「ふぇっ!?///」

 

指揮官「ふふ、樫野はいつも可愛いからね」

 

樫野「も、もう…からかわないでください~///」

 

指揮官「でも自信を付けたら変わるかもしれないよ?」

 

樫野「えっ…そ、そうですか?」

 

指揮官「僕と腕相撲でもしてみたらどうかな」

 

樫野「えっ……そ、そんな……」

 

指揮官「大丈夫、手加減するから」

 

樫野「……わ、わかりました やってみます!」

 

指揮官「うん、じゃあいくよ?」

 

指揮官(艤装がなかったら多分大丈夫なはず)

 

樫野「は、はい!」

 

指揮官「……ふんっ!」ぐぐー!

 

樫野「えっ……」しーん

 

樫野「あ、あの指揮官…?本気出してもいいんですよ…?」

 

指揮官「えっ…こ、これ本気だよ?」

 

樫野「えっ」

 

樫野(あんなにかっこよくて頼りになる指揮官ってこんなにも弱いなんて…)きゅん

 

樫野「へ、へへっ」にやぁ

 

樫野「で、では指揮官そろそろいきますね…」ぐいぃ

 

指揮官「えっ…うわっ!?」ダーン!!

 

樫野「か、勝てちゃった……」にや

 

指揮官「か、樫野…どう?自信は付いたかな?」ぜーぜー

 

樫野(私相手に全力を出して負けてる指揮官かわいい♡)

 

樫野「は、はい…とても……♡」

 

指揮官「よ、よかった。じゃあ仕事に――」

 

樫野「指揮官、手を出してくれませんか?」

 

指揮官「えっ…?は、はい……」スッ

 

樫野「」ガシッ

 

樫野「ふふ、指揮官の手って温かいですね…♡」ぎゅうう

 

樫野(指揮官の手ごつごつしてる♡でも私にも勝てないんだ……♡)

 

樫野「ふふっ……♡」じーっ♡

 

指揮官「か、樫野…?そろそろ離してもらえると嬉しいんだけど……」

 

樫野「い、いやです」ぐいー♡

 

指揮官「な、なんで…!?」ぐいっ

 

樫野(あ、あれっ……これもしかしたら押し倒せばいける……?)

 

樫野「……」ぐいっ

 

指揮官「い、いたっ」

 

樫野「……」ムラムラ

 

樫野「指揮官、私――」

 

ベルファスト「失礼いたします、ご主人さ……ま……?」

 

ベルファスト「……樫野様、一体何をなさっているのですか」

 

樫野「……」ぎゅうう♡

 

指揮官「か、樫野……ベルファストが来たから、そろそろ……」

 

樫野「指揮官」

 

指揮官「はい」びくっ

 

樫野「ベルファストさんが来なかったら、離れなくてもよかったんですか?」にこっ

 

指揮官「えっ」

 

ベルファスト「樫野様、まずはご主人様のお手を離してくださいませ」

 

樫野「……どうしてですか?」

 

ベルファスト「どうして、と申されましても……」

 

樫野「私は指揮官を傷つけていませんよ?」

 

樫野「ただ、逃げてしまわないように持っているだけです」ぎゅっ♡

 

指揮官「逃げないよ!?」

 

樫野「では、離さなくても同じですね♡」

 

指揮官「!?」

 

ベルファスト「ご主人様もお困りです。樫野様、今すぐ――」

 

樫野「ベルファストさんは、ご存じでしたか?」

 

ベルファスト「……何をでしょうか」

 

樫野「指揮官、とっても弱いんですよ♡」

 

指揮官「!?」

 

樫野「私に腕相撲で負けてしまうくらい……♡」にやぁ

 

ベルファスト「……」

 

指揮官「いや、その……今日は少し疲れていたというか……」

 

樫野「指揮官」

 

指揮官「な、何かな……」

 

樫野「もう一度しますか?」

 

指揮官「……」

 

樫野「今度は指一本でしますね♡」

 

指揮官「や、やだ」

 

樫野「ふふっ♡」

 

ベルファスト「ご主人様……」

 

指揮官「そんな悲しそうな顔をしないでぇ!?」

 

樫野「頼りになる指揮官が、私よりずっとずっと非力で……」

 

樫野「少し引っ張っただけで、こんなに簡単に連れていけてしまうんです」ぐいっ

 

指揮官「わっ!?」ずるっ

 

樫野「ほら♡」

 

指揮官「ほら、じゃないよ!?」

 

樫野「かわいい……♡」きゅん

 

ベルファスト「……樫野様」

 

樫野「はい?」

 

ベルファスト「次にご主人様を乱暴に扱った場合、私も相応の対応を取らせていただきます」

 

樫野「乱暴になんてしていませんよ?」

 

樫野「壊れてしまわないように、ちゃあんと"手加減"していますから♡ ね~♡」なでなで

 

指揮官「物じゃないんだけど……///」

 

樫野「そうでしょうか?」

 

指揮官「そうだよ///」

 

樫野「では、私の手を振りほどいてみてください♡」

 

指揮官「……」ぐぐっ

 

樫野「……」にこにこ

 

指揮官「ふんっ……!」ぐぐぐぐっ!

 

樫野「……へへっ♡」

 

指揮官「くっ……!」ぷるぷる

 

樫野「指揮官?」

 

指揮官「な、何かな……」ぜーぜー

 

樫野「お顔が真っ赤ですよ?」くすくす♡

 

指揮官「樫野が強すぎるんだよ!」

 

樫野「そうですね」

 

樫野「私は強くて、指揮官は弱いんです♡」

 

樫野「生物としての格が違いすぎてごめんなさい♡」

 

指揮官「言い切った!?」

 

樫野「ですから、非力な指揮官を私がお守りするのは、当然のことですよね?」

 

指揮官「おかしいよ……」

 

樫野「どこがおかしいんですか?」

 

指揮官「どこって……」

 

樫野「説明できますか?」

 

指揮官「……」

 

樫野「できないんですね♡」

 

指揮官「ううっ……」

 

ベルファスト「樫野様、ご主人様は樫野様の保護対象ではなく、この母港の指揮官でございます」

 

樫野「もちろん分かっています」

 

樫野「指揮官は、とても偉い方です」

 

樫野「偉い方ですから、危険なことも、重い物を持つことも、誰かに捕まることもあってはいけません」

 

指揮官「最後のは今まさに起きてるよね?」

 

樫野「捕まっているのではありません」

 

樫野「保管されているんです♡」

 

指揮官「僕は荷物なの!?」

 

樫野「大切な、大切な荷物です」

 

樫野「誰にも触らせたくないくらい……♡」ぎゅうう

 

指揮官「く、苦しい……!」

 

樫野「あっ……すみません」ぱっ

 

指揮官「ふぅ……」

 

樫野「やっぱり、もっと優しくお守りしないといけませんね」

 

指揮官「今のは樫野が締めすぎたからだよ!?」

 

ベルファスト「ともかく、本日はここまでです。ご主人様にはお着替えも必要ですので――」

 

樫野「でしたら、私がお部屋までお運びしますね」ぱあぁ

 

指揮官「運ぶ?」

 

樫野「失礼します」

 

指揮官「わっ!?」ひょいっ

 

ベルファスト「……」ギロッ

 

ベルファストが扉の前へ立つ

 

樫野「ベルファストさん?」

 

ベルファスト「ご主人様を下ろしてくださいませ」

 

樫野「床にお茶がこぼれています」

 

指揮官「そこを避ければ歩けるよ!」

 

樫野「もし避けられなかったら、どうするんですか?」じぃっ

 

指揮官「どうするって……」

 

樫野「転んで、頭を打ってしまうかもしれません」

 

樫野「手首を捻って、執務ができなくなるかもしれません」

 

樫野「小さな傷から、ばい菌が入ってしまうかもしれません」

 

樫野「指揮官は私の手も振りほどけないくらい弱いんですから、少しの危険も見過ごせません♡」

 

指揮官「腕相撲一回で、僕の耐久性が最低評価になってる……!」

 

ベルファスト「床は私が拭きます」

 

ベルファストがハンカチを取り出す

 

ベルファスト「これで問題ございません」

 

樫野「床は硬いです」

 

指揮官「床だからね!?」

 

樫野「転んでも、受け止めてくれません」

 

ベルファスト「通常、人は転ばないよう注意して歩くものです」

 

樫野「指揮官は弱いんですよ?」

 

指揮官「弱くても歩けるよ!」

 

樫野「では、私の腕を振りほどいてみてください♡」

 

指揮官「歩けることと関係ないよね!?」

 

ベルファストは通信端末を手に取る

 

ベルファスト「シェフィールド、ダイドー、シリアス。執務室までお越しください」

 

樫野「……誰を呼んだんですか?」

 

ベルファスト「ご主人様をお救いする者たちです」

 

樫野「指揮官は捕まっていません」

 

樫野「安全に保管されているだけです♡」ぎゅっ

 

指揮官「もっと悪い言い方になったよ!?」

 

 

~~数分後~~

 

 

シェフィールド「状況は理解しました」

 

ダイドー「ご、ご主人様が樫野さんに捕獲されて……!」

 

指揮官「捕獲じゃないよ!」

 

シリアス「誇らしきご主人様、今すぐこのシリアスがお救いいたします!」

 

シリアス「きゃっ!?」つるっ

 

ベルファスト「シリアス」

 

樫野「ほら」

 

指揮官「あちゃー……」

 

樫野「床は危険です♡」

 

指揮官「シリアスが滑っただけだよ!」

 

シリアス「面目次第もございません……」しゅん

 

シェフィールド「樫野さん、ご主人様をこちらへ」

 

樫野「どうやって取り返すんですか?」

 

シェフィールド「必要であれば、相応の手段を取ります」

 

シェフィールドの手が、スカートの内側の拳銃へ伸びる

 

樫野「銃は出さないでください」じっ

 

シェフィールド「まだ抜いていません」

 

樫野「暴発したらどうするんですか?」

 

シェフィールド「暴発など――」

 

樫野「跳弾が指揮官に当たったら?」

 

シェフィールド「……」

 

樫野「責任を取れるんですか?」

 

シェフィールドの手が止まる

 

指揮官「僕から離れた方向に向ければ大丈夫だよ?」

 

シェフィールド「万が一ということはあります」

 

指揮官「シェフィールドまで!?」

 

ダイドー「確かに、銃は危険です……」

 

シリアス「誇らしきご主人様のお近くで発砲するなど、護衛として許容できません!」

 

ベルファスト「シェフィールド、今回は銃を収めてください」

 

シェフィールド「……承知しました」スッ

 

樫野「ありがとうございます♡」

 

シェフィールド「あなたに感謝される筋合いはありません」

 

樫野「でも、指揮官の安全を考えてくれたんですよね?」

 

シェフィールド「当然です」

 

樫野「では、私たちは同じですね♡」

 

シェフィールド「一緒にしないでください」

 

ベルファスト「今回は、ご主人様をお部屋まで運ぶことを許可します」

 

指揮官「許可するの!?」

 

ベルファスト「ただし、メイド隊が同行いたします」

 

樫野「……どうしてもですか?」

 

ベルファスト「ええ、どうしてもです」

 

樫野「仕方ありませんね」

 

樫野「指揮官が皆さんに助けを求めないよう、しっかり抱いておきます♡」ぎゅうっ

 

指揮官「同行する意味がないよ!?」

 

 

~~ロイヤルメイド隊会議室~~

 

 

ベルファスト「これより、緊急メイド隊会議を開始します」

 

ニューカッスル「シラは任務で、今は母港外縁部へ出ています」

 

ニューカッスル「議題は、貴方様の安全管理について――ですね」

 

グロスター「樫野様による過剰な接触と行動制限は、看過できません」

 

エディンバラ「いくら大切だからって、ずっと抱っこはやりすぎだよ!」

 

カリブディス「でも、床で滑る可能性はありますよね? ご主人さま」

 

キュラソー「可能性だけを挙げれば、どのような行動にも危険は伴います」

 

カーリュー「だからといって、すべてを禁止するのは適切ではないかと存じます」

 

ハーマイオニー「指揮官様の精神的なご負担も考える必要があります」

 

ダイドー「ですが、ご主人様は樫野さんに腕相撲で負けたそうです……」

 

エディンバラ「腕相撲と日常生活は関係ないって!」

 

シリアス「しかし、誇らしきご主人様が私より非力である可能性は高いかと存じます!」

 

シェフィールド「あなたより非力な人間は多いでしょう」

 

シリアス「それでは、やはりお守りしなくては!」

 

シェフィールド「話を聞いていましたか?」

 

ベルファスト「皆様、どうかお静かに」

 

全員「……」

 

ベルファスト「樫野様の行動は過剰です」

 

ベルファスト「しかし、ご主人様が日頃からご自身の安全を軽視しておられることも事実です」

 

ハーマイオニー「睡眠時間も十分とは言えません」

 

ニューカッスル「貴方様がお食事を抜かれる日もありますね」

 

グロスター「廊下を走る姿も目撃されています」

 

指揮官「どうして僕も会議に呼ばれてるの!?」

 

ベルファスト「当事者ですので」

 

指揮官「じゃあ意見を言ってもいい?」

 

ベルファスト「もちろんです」

 

指揮官「普通に生活させてください」

 

樫野「危険です」

 

指揮官「即答!?」

 

ベルファスト「樫野様、ご主人様の発言中です」

 

樫野「すみません……」しゅん

 

指揮官「自分で歩く 自分で食事をする 自分で仕事をする」

 

指揮官「それだけだから」

 

ハーマイオニー「刃物もお使いになりますか?」

 

指揮官「料理をする時は使うよ」

 

シリアス「危険です!」

 

指揮官「シリアス?」

 

シリアス「……失礼しました」

 

指揮官「万年筆も使う」

 

ダイドー「先端が尖っています……」

 

指揮官「ダイドー?」

 

ダイドー「申し訳ございません……」

 

指揮官「夜中に水を飲みたくなったら、一人で飲みに行く」

 

カリブディス「暗い廊下をお一人で、ですか? ご主人さま、よければ私もお供しますね」

 

指揮官「カリブディスまで付き添おうとしないで! 一人で行けるから!」

 

キュラソー「まずは実際に、ご主人様がお一人で行動可能か確認してはいかがでしょうか」

 

カーリュー「実証できれば、樫野様もご納得なさるでしょう」

 

グロスター「自立能力試験、ということですね」

 

指揮官「名称が情けないよ!」

 

ベルファスト「その案を採用いたします」

 

樫野「私は反対です」

 

ベルファスト「ご主人様を信用していないのですか?」

 

樫野「信用しています」

 

樫野「だからこそ、無茶をすると分かっているんです♡」

 

指揮官「信用の方向がおかしいよ!」

 

 

~~翌日・執務室~~

 

 

指揮官「……」

 

執務机「」ぷちぷち

 

椅子「」ぷちぷち

 

本棚「」ぷちぷち

 

花瓶「」ぷちぷち

 

ドアノブ「」ぷちぷち

 

エディンバラ「全部ぷちぷちだ!」

 

グロスター「感心している場合ではありません」

 

樫野「おはようございます」

 

ベルファスト「樫野様、これは何でしょうか」

 

樫野「安全な執務室です」えっへん

 

指揮官「机が柔らかくて字が書けないよ!」

 

樫野「私がお手伝いします」

 

樫野が板と万年筆を取り出す

 

指揮官「ありがとう じゃあペンを――」

 

樫野「駄目です」すっ

 

指揮官「どうして隠すの!?」

 

樫野「先端が尖っています」

 

指揮官「万年筆だからね!」

 

樫野「目に刺さったら失明してしまいます」

 

指揮官「自分の目に万年筆を刺すような書き方はしないよ!」

 

樫野「地震が起きるかもしれません」

 

指揮官「そこまで考えたら何もできないよ!」

 

樫野「ですから、何もしなくていいんですよ♡」

 

樫野「書類も、お食事も、お着替えも、移動も……」

 

樫野「息をする以外は、全部私がしてあげますから♡」うっとり

 

指揮官「僕が駄目になるよ!」

 

樫野「駄目になっても大丈夫です」

 

樫野「私だけがいれば生きていけるようにしてあげますね♡」にこぉ

 

ベルファスト「樫野様」ギロッ

 

樫野「冗談です」

 

ベルファスト「冗談としても不適切です」

 

グロスター「依存を促す教育は認められません」

 

ダイドー「ですが、ご主人様がダイドーだけを必要としてくださるなら……」

 

グロスター「ダイドー」

 

ダイドー「ひっ……申し訳ございません!」

 

ニューカッスル「皆、貴方様に必要とされたいという思いは同じでしょう」

 

ニューカッスル「だからこそ、節度を弁えなければなりません」

 

樫野「節度……」

 

指揮官「そう、それが大事だよ!」

 

エディンバラ「じゃあ私がお茶を淹れて、指揮官を落ち着かせるね!」

 

エディンバラ「ひゃっ!?」がしゃん

 

ティーカップ「」ぱりん

 

エディンバラ「……」

 

樫野「……」

 

指揮官「……」

 

樫野「ほら」

 

指揮官「今回はエディンバラが割ったんだよ!?」

 

エディンバラ「ご、ごめんなさい!」

 

樫野「破片が指揮官に刺さっていたかもしれません」

 

ハーマイオニー「動かないでください、指揮官様」

 

指揮官「破片は離れた場所だよ?」

 

ハーマイオニー「念のためです」

 

ハーマイオニーが指揮官の手足を確認する

 

樫野「刃物だけではありません」

 

樫野「陶器も禁止するべきですね」

 

ベルファスト「禁止するつもりはございません」

 

キュラソー「割れにくい食器へ変更する程度なら、検討してもよいかもしれません」

 

カーリュー「銀器も、角を丸く加工したほうがよろしいかと存じます」

 

指揮官「検討を始めないで!?」

 

シェフィールド「執務室にある危険物を列挙します」

 

指揮官「列挙しなくていいよ!」

 

シェフィールド「万年筆、ペーパーナイフ、はさみ、ガラス製品、家具の角、窓、電気ケーブル」

 

カリブディス「危険になりそうなものや場所が、こんなにあるんですね。では、一つずつ確認しておきますね♪」

 

指揮官「確認しなくていいよ! 普通の部屋だから!」

 

樫野「やはり、何もしなくていいんですよ♡」

 

指揮官「結論を戻さないで!」

 

樫野「では、こちらの物資受領書だけでも片づけてしまいましょう」

 

樫野は『梱包資材受領書』と書かれた書類を、数枚重ねて差し出す

 

指揮官「それなら、自分で署名するよ」

 

樫野「万年筆は危険ですから、私がお手伝いしますね♡」

 

樫野が指揮官の手を包み、重ねられた書類へ順番に署名させる

 

指揮官「……全部、いつもの受領書だよね?」

 

樫野「はい。指揮官の安全に必要な物資の書類です♡」

 

 

~~昼・食堂~~

 

 

樫野「熱いので冷ましてから食べましょうね」

 

指揮官「自分でできるよ」

 

樫野「ふー、ふー……」

 

指揮官「もう冷ましてる……」

 

樫野「お口を開けてください」

 

指揮官「一人で食べられるって!」

 

ダイドー「食事のお世話でしたら、ダイドーにも……」

 

シリアス「このシリアスもお手伝いいたします!」

 

エディンバラ「私だってできるよ!」

 

グロスター「三人がかりでご主人様に食べさせて、どうするのですか」

 

樫野「必要ありません」

 

樫野「指揮官が口を開けるタイミングも、飲み込む速さも、私が一番分かっていますから」

 

指揮官「昨日からだよね!?」

 

樫野「昨日からずっと見ています♡」

 

カーリュー「ずいぶん熱心でいらっしゃいますね」

 

キュラソー「熱心という言葉で済ませてよいのでしょうか」

 

樫野「あーん」

 

指揮官「……あーん」

 

ベルファスト「ご主人様、簡単に順応なさらないでくださいませ」

 

指揮官「お腹は空いてるから……」

 

 

~~食後~~

 

 

指揮官「リンゴくらい自分で切るよ」

 

樫野「切る?」ピクッ

 

指揮官「包丁を貸して」

 

樫野「駄目です」

 

指揮官「まだ触ってないよ!」

 

樫野「刃物は絶対に触らせません」

 

指揮官「リンゴを切るだけだよ」

 

樫野「指も切れてしまいます」

 

指揮官「気を付けるから」

 

樫野「気を付けるだけで事故がなくなるなら、病院は必要ありません」

 

ハーマイオニー「確かに、一理ありますね」

 

指揮官「ハーマイオニー!?」

 

ハーマイオニー「指の裂傷は軽傷に見えて、感染症につながる可能性もあります」

 

樫野「ですよね♡」

 

ハーマイオニー「ただし、適切に扱えば包丁の使用自体は問題ありません」

 

樫野「……」

 

ハーマイオニー「……」

 

樫野「万が一があります」

 

ハーマイオニー「確かに……」

 

指揮官「負けないで!」

 

シェフィールド「銃よりは安全でしょう」

 

指揮官「比較対象がおかしいよ!」

 

シェフィールド「ご主人様には、どちらも持たせませんが」

 

指揮官「拳銃を持ちたいとは言ってないよ!」

 

樫野「包丁、ナイフ、はさみ、カッター、レターオープナー……」

 

樫野「指揮官の手が届く場所にあった刃物は、全部回収しました」

 

指揮官「全部!?」

 

シェフィールド「私の拳銃には触れないでください」

 

樫野「指揮官に近づけなければ構いません」

 

シェフィールド「そこは徹底しています」

 

樫野「安心しました♡」

 

指揮官「仲良くなってない!?」

 

樫野「鉛筆も危ないので処分しました」

 

指揮官「鉛筆まで!?」

 

樫野「代わりにクレヨンを用意しました」じゃーん

 

エディンバラ「可愛い~」

 

カーリュー「作戦書類には不向きかと存じます」

 

カリブディス「丸いクレヨンなら、けがをしにくそうですね♪」

 

ニューカッスル「その形では、転がって足を取られるかもしれませんね」

 

樫野「では、四角い物を注文します」

 

指揮官「改良しなくていいよ!」

 

ベルファスト「ご主人様の自立能力試験を早めましょう」

 

樫野「……誰と歩かせるんですか?」

 

指揮官「え?」

 

樫野「ベルファストさんですか?」

 

樫野「シリアスさんですか?」

 

樫野「それとも、私の知らない誰かのところへ行くためですか?」じぃぃっ

 

指揮官「そういう話じゃないよ……」

 

樫野「指揮官は弱いですから」

 

樫野「誰かに手を引かれたら、逆らえませんよね?」

 

樫野「少し優しくされただけで、ついていってしまうかもしれません」

 

ダイドー「……」

 

シリアス「……」

 

ベルファスト「樫野様、ご主人様は迷子の子供ではありません」

 

樫野「知っています」

 

樫野「子供なら、成長すれば強くなってしまいますから」

 

樫野「指揮官はずっと、このままですよね♡」にこぉ

 

ダイドーが指揮官のスプーンを遠ざける

 

指揮官「どうして取ったの?」

 

ダイドー「足に落とされると危険ですので……」

 

指揮官「感化されてるよ!?」

 

シリアス「誇らしきご主人様、椅子の背にもたれてくださいませ」

 

指揮官「どうして?」

 

シリアス「転落防止です!」

 

指揮官「シリアスも!?」

 

グロスター「二人とも、樫野様の極端な思想に影響されてはいけません」

 

グロスターが指揮官の椅子を机へ寄せる

 

指揮官「どうして椅子を動かしたの?」

 

グロスター「立ち上がれないように……ではなく、姿勢を正すためです」

 

指揮官「今、本音が出たよね!?」

 

 

~~倉庫前・自立能力試験~~

 

 

ベルファスト「まずは、こちらから倉庫までお一人で歩いてくださいませ」

 

指揮官「よし」

 

樫野「……」そわそわ

 

指揮官「両手を広げて待たないで」

 

樫野「転んだら受け止めます」

 

指揮官「普通に歩くだけだから!」

 

指揮官が歩き出す

 

樫野、シリアス、ダイドーが後ろをついていく

 

さらに後方を、メイド隊全員が囲んでいる

 

指揮官「どうして隊列を組んでるの?」

 

ニューカッスル「前方と左右、それに後方の警戒を、それぞれ分担しています」

 

指揮官「戦場じゃないよ!」

 

カリブディス「ご主人さま、小石がありますよ。私が除けておきますね」

 

カーリュー「ただの砂利でございます」

 

キュラソー「念のため、除去しておきましょう」

 

指揮官「そのままで大丈夫だよ!」

 

指揮官がわずかにふらつく

 

樫野「指揮官!」

 

シリアス「誇らしきご主人様!」

 

ダイドー「危ないです!」

 

ベルファスト「皆様、お待ちください」

 

ベルファスト自身の右手も伸びていた

 

シェフィールド「メイド長も救助しようとしていましたが」

 

ベルファスト「気のせいです」

 

指揮官「気のせいじゃないよね!?」

 

指揮官が倉庫前へ到着する

 

ベルファスト「問題ありません」

 

樫野「歩いただけで疲れていませんか?」

 

指揮官「疲れてないよ!」

 

ベルファスト「続いて、こちらの書類三枚を隣の建物まで運んでくださいませ」

 

指揮官「任せて」

 

樫野「三枚も……?」さあぁ

 

指揮官「三枚しか、だよ!」

 

ダイドー「紙で指を切ってしまうかもしれません」

 

シリアス「風に飛ばされる可能性もあります!」

 

シェフィールド「ご主人様の体重では、強風にあおられる可能性も否定できません」

 

指揮官「紙と一緒に飛ばされないよ!」

 

その時、坂の上から荷車が下ってくる

 

明石「ど、どくにゃーっ!!」

 

ベルファスト「明石様、ブレーキを!」

 

明石「壊れたにゃ! 止まらないにゃー!」

 

樫野「指揮官!」がしっ

 

シリアス「お下がりください!」

 

ダイドー「危ないです!」

 

指揮官「僕じゃなくて荷車を見て!」

 

樫野「避難を――」

 

指揮官「樫野は荷車の右側!」

 

指揮官「ベルファストは倉庫の扉を!」

 

指揮官「シリアスとダイドーは明石を受け止めて!」

 

指揮官「シェフィールドは固定ロープを切って、積み荷を降ろして! 荷車を軽くするんだ!」

 

シェフィールド「承知しました」

 

シェフィールドが拳銃を抜く

 

指揮官「撃つの!?」

 

シェフィールド「ロープの留め具を破壊します」

 

シェフィールド「ご主人様から銃口は外しています」

 

指揮官「そこは安心だけど怖いよ!」

 

銃声「」パンッ

 

ロープが外れ、積み荷が横へ崩れる

 

ニューカッスル「エディンバラ、カリブディス。梱包材を押さえてください」

 

エディンバラ「わ、分かった!」

 

カリブディス「わわっ、押さえます!」

 

グロスター「キュラソー、カーリュー。通路の封鎖を」

 

キュラソー「承知しました」

 

カーリュー「どなたも近づけぬようにいたします」

 

指揮官「今だ、樫野!」

 

樫野「止まってくださいっ!」がしぃっ!!

 

荷車「」ギギギギギッ!!

 

荷車が倉庫の直前で止まる

 

シリアス「明石さんを確保しました!」

 

ダイドー「お、お怪我はありません!」

 

明石「助かったにゃ……」

 

巨大なプチプチの巻物が、指揮官の頭へ落ちる

 

巨大なプチプチ「」ぽすん

 

指揮官「……」

 

全員「……」

 

指揮官「全然痛くない……」

 

樫野「指揮官!」だきっ

 

指揮官「わっ!?」

 

樫野「お怪我は!? お名前は言えますか!?」

 

ハーマイオニー「瞳孔を確認します」すっ

 

指揮官「ただのプチプチだよ!」

 

ハーマイオニー「吐き気はありませんか?」

 

指揮官「ない」

 

グロスター「記憶の混濁はありませんか?」

 

指揮官「ないよ!」

 

ニューカッスル「貴方様、お名前と役職を言っていただけますか?」

 

指揮官「皆、落ち着いて!?」

 

ベルファスト「ご主人様」

 

指揮官「ベルファストからも言ってあげて」

 

ベルファスト「今回、ご主人様の指揮能力は証明されました」

 

指揮官「そうだよね!」

 

ベルファスト「同時に、危険が迫っても退避なさらないことも証明されました」

 

指揮官「えっ」

 

ベルファスト「もし今の積み荷が梱包材でなければ……」

 

樫野「……」

 

ダイドー「荷車が迫っていたのに、私たちへの指示を優先して……」

 

シリアス「一歩間違えば、誇らしきご主人様が押し潰されていたかもしれません」

 

指揮官「皆がいたから大丈夫だと思って――」

 

ベルファスト「ご主人様は、皆を信用しておられます」

 

指揮官「うん」

 

ベルファスト「だからこそ、ご自身の安全を我々に委ねていただくべきです」

 

指揮官「話が変な方向に……」

 

樫野「私を信じているなら、腕の中からでも指揮できましたよね?」

 

指揮官「それは無茶だよ!」

 

ニューカッスル「指揮能力と、ご自身で移動なさることは、別の問題かもしれませんね」

 

指揮官「ニューカッスル!?」

 

グロスター「ご主人様には、危険に近づかないよう教育する必要があります」

 

指揮官「グロスターまで!?」

 

ハーマイオニー「行動制限は心身に悪影響を及ぼす可能性があります」

 

指揮官「そうだよ!」

 

ハーマイオニー「ですので、定期的に健康状態を確認しながら、行動制限については慎重に検討しましょう」

 

指揮官「結局、行動制限は検討するんだ!?」

 

明石「ちょうど計画書があるにゃ」

 

明石が一枚の書類を差し出す

 

『最重要戦略物資・指揮官専用保護計画』

 

指揮官「……何これ」

 

明石「樫野から注文された半年分の梱包資材にゃ」

 

指揮官「半年分!?」

 

明石「指揮官専用運搬室も完成してるにゃ」

 

指揮官「天幕のアドミラルじゃん」

 

ダイドー「ご主人様は、やはり博識で聡明なお方です……! ダイドー、ますますお慕いしてしまいます……♡」

 

指揮官「メロつくなっ!!」バシッ

 

ダイドー「あんっ♡」

 

樫野「寝台と空調設備を備えた安全なお部屋です」えっへん

 

ベルファスト「書類を拝見します」

 

ベルファスト「実施責任者、樫野様」

 

ベルファスト「指揮官の移動、食事、衣服、危険物への接触を包括的に管理……」

 

指揮官「許可してないよ!」

 

ベルファスト「しかし、ご主人様の署名がございます」

 

指揮官「えっ」

 

樫野「今朝、書いていただきました♡」ぱあぁ

 

指揮官「物資受領書じゃなかったの!?」

 

樫野「梱包資材も物資ですから」

 

指揮官「騙したな!?」

 

ベルファスト「樫野様、欺いて署名させた文書は無効です」ギロッ

 

樫野「……」

 

指揮官「そうだよ! 取り消して!」

 

ベルファスト「承知しました」

 

指揮官「よかった……」

 

ベルファスト「内容を修正します」

 

指揮官「ん?」

 

ベルファスト「樫野様お一人に、ご主人様の管理を一任することはできません」

 

指揮官「そこが問題なの!?」

 

シェフィールド「監視に空白が生じます」

 

ダイドー「お着替えとお食事は、メイド隊の仕事です……!」

 

シリアス「護衛はこのシリアスに!」

 

ハーマイオニー「健康管理は、ハーマイオニーにお任せください」

 

グロスター「危険行動の矯正は、私が担当します」

 

ニューカッスル「勤務表を作成し、交代制も整えましょう」

 

エディンバラ「指揮官の紅茶は私が淹れるよ!」

 

全員「……」じーっ

 

エディンバラ「今度は割らないから!」

 

キュラソー「入浴と身だしなみのお世話は、私たちが」

 

カーリュー「隅々まで美しく整えさせていただきます」

 

カリブディス「夜間の廊下は、私にお任せくださいね♪」

 

指揮官「どうして皆、参加する流れなの!?」

 

ベルファスト「ご主人様の安全を守るためです」

 

指揮官「僕の意見は!?」

 

ベルファスト「ご自身の安全を軽視なさる方の判断は、参考意見といたします」

 

指揮官「参考に格下げされた!?」

 

 

~~深夜・指揮官の部屋~~

 

 

樫野「すぅ……すぅ……」Zzz

 

指揮官「……」

 

指揮官が床へ足を下ろす

 

ぷちっ

 

指揮官「……」

 

ぷちぷちっ

 

樫野「……指揮官?」ぱちっ

 

指揮官「み、水を飲みに行くだけだよ」

 

樫野「私を起こしてください」

 

指揮官「一人で行けるから」

 

樫野「廊下は危険です」

 

指揮官「何もないよ!」

 

樫野「どうぞ、確認してください♡」

 

指揮官が扉を開ける

 

ベルファスト「お目覚めですか、ご主人様」

 

指揮官「……」

 

廊下に、招集されたメイド隊が並んでいる

 

指揮官「どうしてみんないるの?」

 

ニューカッスル「夜間警護の交代時間です」

 

シェフィールド「窓の外、廊下、天井裏まで異常なしです」

 

指揮官「天井裏まで!?」

 

シリアス「誇らしきご主人様、お手洗いへもお供いたします!」

 

指揮官「そこは一人にして!」

 

ダイドー「ご主人様がお一人になる時間は、もうありません……」

 

指揮官「えっ」

 

ハーマイオニー「指揮官様、お水はこちらです」

 

ハーマイオニーがストロー付きの容器を差し出す

 

指揮官「普通のコップで飲めるよ!」

 

エディンバラ「落として割るかもしれないよ?」

 

指揮官「エディンバラに言われたくないよ!」

 

グロスター「ご主人様、夜間の単独行動は禁止です」

 

指揮官「いつ決まったの!?」

 

明石「さっき可決されたにゃ」

 

明石が壁へ紙を貼る

 

『指揮官安全管理規則』

 

一、指揮官の単独行動を禁止する

 

二、刃物、火器、筆記具、陶器その他の危険物への接触を禁止する

 

三、移動時は原則として樫野が運搬する

 

四、入浴、食事、着替え、就寝にはメイド隊を配置する

 

五、指揮官本人による本規則の変更を禁止する

 

指揮官「最後がおかしいよ!」

 

ベルファスト「規則を解除なさる危険を防ぐためです」

 

指揮官「解除することが危険なの!?」

 

樫野「指揮官」ひょいっ

 

指揮官「また抱っこ!?」

 

樫野「移動担当は私です♡」

 

ダイドー「お水を飲まれる際は、ダイドーが容器をお持ちします」

 

シリアス「周囲の護衛はお任せください!」

 

キュラソー「お口元が濡れましたら、私がお拭きします」

 

カーリュー「寝衣の乱れも、私が正させていただきます」

 

カリブディス「扉は私が閉めますね」カチャ

 

指揮官「閉じ込めないで!?」

 

シェフィールド「逃走経路を封鎖しました」

 

指揮官「警護じゃなくて監禁だよ!」

 

グロスター「監禁ではありません」

 

グロスター「危険行動を防止するための指導です」

 

ハーマイオニー「指揮官様、心拍数が上がっています」

 

指揮官「皆が怖いからだよ!」

 

ハーマイオニー「少し安静になさったほうがよさそうですね」

 

指揮官「話を聞いて!」

 

ニューカッスル「明日からのご予定を、少し変更しますね」

 

指揮官「どう変更するの?」

 

ニューカッスル「貴方様がご自身で歩く時間は、すべて予定から外しておきました」

 

指揮官「どうやって仕事するの!?」

 

樫野「私が運びます♡」

 

ベルファスト「執務中も樫野様の膝上で問題ないでしょう」

 

指揮官「問題しかないよ!」

 

エディンバラ「お茶も私が指揮官の口元まで運べばいいんだね!」

 

ベルファスト「姉さんは、カップを落とさないことに集中してくださいませ」

 

エディンバラ「うぅ……」

 

指揮官「ベルファスト、皆を止めて!」

 

ベルファスト「ご主人様」

 

ベルファストが指揮官の頬へ手を添える

 

ベルファスト「樫野様の方法は、確かに独善的でした」

 

指揮官「そうだよね!」

 

ベルファスト「一人で全てを行おうとした点が問題です」

 

指揮官「そこじゃないよ!」

 

ベルファスト「これからは、メイド隊全員でお守りいたします」にこっ

 

指揮官「人数を増やせばいいわけじゃないよ!?」

 

樫野「よかったですね、指揮官」ぱあぁ

 

指揮官「どこが!?」

 

樫野「私一人では、眠っている間まで見守れませんでした」

 

樫野「でも、皆さんがいれば……」

 

樫野「指揮官が一人になる瞬間は、もうありません♡」

 

ダイドー「捨てられたりしないように……」

 

シリアス「危険に近づかれないように!」

 

ハーマイオニー「体調を崩されないように」

 

グロスター「規則に逆らわれないように」

 

キュラソー「身も心も清潔に」

 

カーリュー「美しく整えて」

 

カリブディス「どこへも行かず、ここでゆっくりしていただけるように……」

 

シェフィールド「逃走時には射撃を行います」

 

指揮官「しないで!?」

 

シェフィールド「ご主人様に銃口は向けません」

 

指揮官「そういう問題じゃないよ!」

 

明石「試作品を装着するにゃ」

 

指揮官「試作品?」

 

明石が人型に加工された梱包材を取り出す

 

指揮官「待って」

 

樫野「大丈夫ですよ」

 

指揮官「大丈夫じゃない!」

 

ベルファスト「皆様、ご主人様を傷つけないよう慎重に」

 

指揮官「止めてって言ってるんだよ!?」

 

樫野「指揮官」

 

樫野が指揮官を抱き締める

 

樫野「刃物に触らない」

 

ぷちぷち

 

樫野「一人で歩かない」

 

ぷちぷち

 

樫野「危険な場所へ行かない」

 

ぷちぷち

 

樫野「私たちの見えないところへ行かない」

 

ぷちぷち

 

指揮官「動けない……」

 

樫野「苦しくありませんか?」

 

指揮官「苦しくはないけど……」

 

樫野「よかったです♡」ぱあぁ

 

指揮官「よくないよ!」

 

ハーマイオニー「呼吸も脈拍も正常です」

 

グロスター「可動範囲は十分に制限されています」

 

シェフィールド「脱出は困難です」

 

シリアス「護衛しやすくなりました!」

 

ダイドー「ずっと私たちのそばにいてくださいます……」

 

指揮官「誰か一人くらい正気に戻って!」

 

全員「……」

 

指揮官「……」

 

ベルファスト「ご主人様」

 

ベルファストが穏やかに微笑む

 

ベルファスト「私たちは正気です」

 

樫野「指揮官を愛しているだけですよ♡」

 

ニューカッスル「愛する貴方様の安全をお守りし」

 

キュラソー「身の回りを整え」

 

カーリュー「危険を遠ざけ」

 

グロスター「正しい生活へ導き」

 

ハーマイオニー「健康を管理し」

 

ダイドー「必要なことを全て代わりに行い」

 

シリアス「一瞬たりともお一人にせず」

 

シェフィールド「逃げ道を塞ぐ」

 

指揮官「最後だけ明らかにおかしいよね!?」

 

シェフィールド「効率的です」

 

ベルファスト「それでは、執務室へお運びください」

 

樫野「分かりました」

 

指揮官「この状態で仕事するの!?」

 

樫野「署名が必要な時は、私が手を動かします♡」

 

指揮官「また勝手に書かせるつもり!?」

 

ベルファスト「署名にはメイド隊三名以上が立ち会います」

 

指揮官「僕を守る規則なのに、僕の権限がなくなってる!」

 

ベルファスト「安全のためです」

 

樫野「指揮官は弱いですから」

 

ダイドー「大切ですから」

 

シリアス「誇らしいお方ですから!」

 

ハーマイオニー「健康でいていただきたいですから」

 

グロスター「無茶をなさいますから」

 

シェフィールド「目を離すと逃げるゴミですから」

 

指揮官「ひどい!?」

 

エディンバラ「安心して! 私たち全員がついてるから!」

 

指揮官「それが一番不安だよ!」

 

 

~~翌朝~~

 

 

ぷちぷちぷちぷち

 

樫野「本日の執務室までお運びしますね♡」

 

指揮官「自分で歩きたい……」

 

ベルファスト「却下いたします」

 

指揮官「食事くらい自分で……」

 

ダイドー「スプーンは危険です……」

 

指揮官「夜は一人で寝たい……」

 

カリブディス「転落しないよう、私がおそばにいますね」

 

指揮官「リンゴを切りたい……」

 

ハーマイオニー「指の裂傷につながる危険があります」

 

指揮官「手紙くらい自分で開けたい……」

 

シェフィールド「爆発物の可能性があります」

 

指揮官「僕の手紙を撃たないでね!?」

 

シェフィールド「内容次第です」

 

指揮官「撃つつもりだな!?」

 

グロスター「ご主人様、会話中に暴れないことです」

 

指揮官「暴れてない!」

 

シリアス「誇らしきご主人様、お身体を動かされると落下の危険が!」

 

樫野「もっと強く抱いておきますね♡」ぎゅっ

 

指揮官「く、苦しくないけど身動きが……」

 

ベルファスト「問題ございません」

 

指揮官「あるよ!」

 

ベルファスト「ご主人様は、母港で最も安全な存在となりました」

 

指揮官「自由は!?」

 

ベルファスト「安全を脅かす要因ですので、我々がお預かりしました」

 

指揮官「返して!!」

 

樫野「大丈夫ですよ、指揮官」

 

樫野「歩くことも、持つことも、選ぶことも……」

 

樫野「危ないことは、全部私たちが代わってあげますから♡」にこぉ

 

誰も指揮官を傷つけなかった

 

誰も指揮官を一人にしなかった

 

誰も、指揮官の意思を聞かなかった

 

母港で最も安全な存在となった指揮官が、自分の足で歩く姿を見た者は――

 

それ以降、誰もいなかった

 

はずだった

 

梱包材の交換中、明石が在庫表の確認に気を取られ、メイド隊が新しい梱包材を取りに向かった一瞬だけ、指揮官の周囲から人がいなくなった

 

その隙を突き、指揮官は交換用の梱包材に紛れて、明石の荷車へ潜り込んでいた

 

 

~~しばらく後・母港外~~

 

 

指揮官「シラ、助けて! 皆が追いかけてくるんだよ!」ぜーぜー

 

遠くから「ご主人様ー!」「危険ですから止まってくださいませー!」と声が近づいてくる

 

シラ「まあ……かわいそうなご主人さま♡」ぎゅっ

 

シラ「ご安心くださいませ♡ シラは、ご主人さまがお望みでないことはいたしません♡」にこっ

 

指揮官「本当……? よかった……」

 

シラ「ですから、あの方たちには絶対に見つからない場所へ行きましょうね♡」

 

指揮官「ありがとう、シラ……!」

 

シラ「ええ♡ ご主人さまが二度と誰にも見つからず、シラ以外を頼れなくなる場所へ♡」ひょいっ

 

指揮官「……えっ」

 

 

――完――

 

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