指揮官は今日もKAN-SENに振り回される ~アズレン短編SS集~   作:げーりっく

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年下に甘えるのって本当に気持ちいいんだよね……


気弱なZ14(イーン)に弱みを握られて全面的に服従する指揮官

~サディア・温泉保養地~

 

蝉「」ミーンミンミンミン

 

Z14「ぴぇぇぇぇぇっ!!!」ビクゥッ!!

 

指揮官「うわっ!?」ビクッ

 

Z14「し、指揮官……! 飛んだ、今こっちに飛んだよぉ……!」ぎゅぅっ

 

指揮官「もう向こうの木に止まったよ。大丈夫だって、イーン」なでなで

 

Z14「本当に……?」

 

指揮官「本当。だから、そんなに腕を締めなくても――痛っ」

 

Z14「ご、ごめんなさい……!」パッ

 

指揮官「いや、平気だよ」

 

Z14「また『平気』って言った……」

 

指揮官「え?」

 

Z14「昨日はニーミに、今日はフィーゼに、それからニュルンベルクさんとライプツィヒさんにも同じことを言ってたよ……」

 

指揮官「みんな心配してくれたからね」

 

Z14「指揮官、さっきから三回あくびを我慢してるし、歩幅もいつもより狭いよ」

 

指揮官「よく見てるなぁ」

 

Z14「ずっと見てるもん……」ぼそっ

 

指揮官「何か言った?」

 

Z14「な、何でもないよ……!」

 

Z14「とにかく、今日はお仕事しちゃ駄目。あたしの部屋で休んでいって」

 

指揮官「でも、緊急連絡が――」

 

Z14「あたしの通信端末で確認できるよ」

 

指揮官「イーンまで休めなくなるだろう?」

 

Z14「指揮官を寝かせたら、あたしも休むから……」

 

指揮官「寝かせるって、ずいぶん強い言い方だね」

 

Z14「……嫌?」

 

指揮官「嫌じゃないよ」

 

Z14「じゃあ、来て……?」袖をきゅっとつまむ

 

指揮官「分かった。少しだけ、お世話になろうかな」

 

Z14「……!」

 

指揮官「ああ、今行くよ」

 

Z14「えへへ……♡」ぎゅっ

 

指揮官がZ14の後を歩き出す。

 

背後では、ニーミがこちらをじっと見ていた。フィーゼは意味ありげに目を細め、ライプツィヒのさかなきゅんは廊下の角から尾だけを覗かせている。

 

そしてニュルンベルクは、鞄から落とした『指揮官さんを確実に眠らせる十三の手順』という冊子を、誰にも見られていないと思いながら慌てて拾っていた。

 

指揮官「……みんな、本当に心配性だなぁ」

 

Z14「そうだね」

 

Z14「……あたしもだけど」

 

~Z14の客室~

 

襖「」スーッ

 

Z14「どうぞ、指揮官……」

 

指揮官「お邪魔します」

 

Z14「お邪魔じゃないよ。今日は、あたしが連れてきたんだから……」

 

部屋「」キラキラ

 

布団「」

 

通信端末「」

 

クマの抱き枕「」

 

指揮官「布団まで敷いてくれてたの?」

 

Z14「指揮官が疲れてるの、分かってたから……」

 

指揮官「最初から休ませるつもりだったんだね」

 

Z14「嫌だった……?」

 

指揮官「いや。ここまでしてもらうのが、少し申し訳なくて」

 

Z14「そうやって遠慮するから、みんな心配するんだよぉ……」

 

指揮官「ごめん」

 

Z14「謝らないで……」

 

Z14「温かいミルクもあるよ。眠る前は、お茶よりいいかなって……」もじ

 

指揮官「ありがとう、イーン」

 

Z14「……」

 

指揮官「どうしたの?」

 

Z14「そんなふうに素直にお礼を言われると……もっと色々してあげたくなるよ……///」もじもじ

 

指揮官「えっ」

 

指揮官「いや、無理はしなくていいよ」

 

Z14「指揮官に言われたくないよぉ……」

 

指揮官「それはそうかもしれないね」

 

Z14「お茶も淹れてくるから、座って待ってて」

 

指揮官「手伝うよ」腰を浮かせる

 

Z14「来ちゃ駄目っ!」バッ

 

指揮官「わっ!?」

 

Z14「む、向こうに洗濯物があるから……!」

 

指揮官「あっ……ごめん。ここで待ってる」

 

Z14「絶対に見ないでね……?」

 

指揮官「見ないよ」

 

Z14「床に何か落ちても、触らなくていいから……」

 

指揮官「何か落ちるの?」

 

Z14「窓が少し開いてるから、風で籠が倒れるかもしれないの……」

 

指揮官「それなら窓を――」

 

Z14「来ちゃ駄目って言ったよぉ……!」くわっ

 

指揮官「あ、ごめん!」

 

Z14「すぐ戻るから……!」

 

襖「」ピシャッ

 

指揮官「……怒らせたかな」

 

壁時計「」十四時十三分

 

通信端末「」

 

指揮官「眠いな……」

 

窓「」ガララッ

 

洗濯籠「」ぐらっ

 

指揮官「ん?」

 

白い布「」ひらり

 

床「」ぽとっ

 

クマさんパンツ「」

 

指揮官「…………」

 

クマさんパンツ「」

 

指揮官「見なかったことにしよう」

 

風「」ふわっ

 

下着「」畳の中央へ移動

 

指揮官「えっ!?」

 

襖の向こう「」足音

 

指揮官「まずい」

 

指揮官「いや、何も悪いことはしてない」

 

足音「」近づく

 

指揮官「でも、この位置だと俺が出したみたいに――」

 

襖「」指が掛かる

 

指揮官「っ……!」

 

手「」下着へ伸びる

 

指揮官「ごめん、イーン……!」ひょい

 

襖「」スーッ

 

Z14「指揮官、お茶の温度は七十七度で――」

 

指揮官「っ!?」体を大きく跳ねさせる

 

下着を持つ手「」サッ

 

Z14「……」

 

指揮官「……」

 

Z14「指揮官?」

 

指揮官「ナンデモナイヨ」早口

 

Z14「どうして手を隠したの……?」

 

指揮官「隠してない」

 

Z14「隠してるよ……」

 

指揮官「これは……違うんだ」

 

Z14「まだ何も聞いてないよ……?」

 

指揮官「そうだけど、違うんだ!」声が裏返る

 

Z14「ひゃうっ!?」ビクッ

 

指揮官「ごめん! 大きな声を出すつもりじゃなかった」

 

Z14「何を持ってるの……?」

 

指揮官「……先に説明させて」

 

Z14「説明……?」

 

指揮官「風で籠が揺れて、何かが落ちたんだ。俺は触らないつもりだったけど、畳の真ん中へ飛んでいって……」

 

Z14「指揮官」

 

指揮官「……はい」

 

Z14「見せて……」

 

指揮官「……」ごくり

 

背中の手「」ゆっくり前へ

 

クマさんパンツ「」バンザーイ

 

Z14「……ぴ」

 

指揮官「本当に拾っただけなんだ!」

 

指揮官「見ようともしてないし、触るつもりもなかった!」

 

指揮官「いや、今は触ってるけど、そういう意味ではなくて!」

 

Z14「し、指揮官……」

 

指揮官「ごめん!」

 

Z14「どうして謝るの……?」

 

指揮官「謝る以外に何を言えばいいか分からないんだよ……!」

 

指揮官「と、とにかく返すから!」

 

足「」座布団へ引っかかる

 

指揮官「うわっ!?」

 

机「」ガタンッ!!

 

Z14「ひゃうっ!?」

 

携帯端末「」手から滑る

 

指揮官「危ない!」

 

虫「」窓の外からブーン

 

Z14「ぴぇっ!?」腕を振る

 

携帯端末「」カシャッ!!

 

シャッター「」カシャカシャカシャッ!!

 

Z14「あっ……!」

 

指揮官「イーン、待って! 画面を見ないで!」

 

Z14「え……?」

 

撮影「」終了

 

部屋「」シーン

 

Z14「撮れちゃった……」

 

指揮官「消して」バッ!!

 

Z14「まだ見てないよ……?」

 

指揮官「見なくていいから!」

 

Z14「ひゃうっ……!」肩をすくめる

 

指揮官「……!」

 

指揮官「ごめん……」慌てて身を引く

 

下着「」畳へ落下

 

指揮官「怒鳴るつもりじゃなかった。俺が慌てただけなんだ」

 

右手「」端末へ伸びる

 

Z14「……」サッ

 

手「」宙で止まる

 

指揮官「取らないよ」

 

Z14「……」

 

指揮官「本当だって」

 

Z14「今の指揮官の『本当』、怖いよ……」

 

指揮官「……そうだね」

 

指揮官「ここから動かない。だから、写真を消してほしい……」膝の上で両手を握る

 

Z14「……うん」

 

携帯端末「」画像一覧を開く

 

指揮官「ありがとう……」震える息を吐く

 

写真「」クマさん柄の下着を握り、目を見開く指揮官

 

クマさんパンツ「」

 

Z14「……」

 

指揮官「イーン?」

 

Z14「指揮官、すごく怖そうな顔……」

 

指揮官「だから消してほしいんだよ……」

 

Z14「誰かに見られるのが怖いの……?」

 

指揮官「……当たり前だろう?」

 

Z14「ニーミに……?」

 

指揮官「名前を出さないでくれ……」

 

Z14「フィーゼにも……?」

 

指揮官「イーン……」

 

Z14「ニュルンベルクさんなら、表では怒りながら、部屋へ戻ってから何度も拡大するかも……」

 

指揮官「やめてくれ!」机を叩く

 

机「」バンッ!!

 

Z14「ひゃっ!?」

 

指揮官「……!」

 

指揮官「違う、ごめん……」

 

指揮官「頼むよ、イーン。お願いだから、誰にも見せないでくれ……」浅い呼吸

 

Z14「指揮官、本当に怖いんだね」

 

指揮官「……怖いよ」膝の上の手を固く握る

 

Z14「……!」

 

指揮官「本当に怖いんだ。だから、消してくれ……」

 

Z14(指揮官が、あたしを見てる)

 

Z14(写真じゃなくて、あたしの指を見て、怖がってる)

 

親指「」共有ボタンへ近づく

 

指揮官「待って……!」肩が跳ねる

 

Z14「まだ押してないよ……?」

 

指揮官「押さないでくれ……」

 

Z14「……」

 

指揮官「何をすれば消してくれる?」

 

Z14「え……?」

 

指揮官「条件があるなら聞く。できることなら、何でもするから……」

 

Z14「何でも……?」

 

指揮官「危険なことと、誰かを傷つけること以外なら」

 

Z14「指揮官を傷つけることは……?」

 

指揮官「それもやめてほしい……」

 

Z14「……」

 

Z14の視線が、指揮官の膝の上へ落ちる。

 

握りしめられた指先は、爪の跡が残るほど白くなっていた。

 

Z14「手、開いて」

 

指揮官「え?」

 

Z14「傷になるよ」

 

指揮官「……君が言うのか?」

 

Z14「言うよ。指揮官を傷つけたいわけじゃないから……」

 

指揮官「だったら、写真を消してくれ」

 

Z14「それは嫌」

 

指揮官「……」

 

Z14「手を開いて」

 

指揮官「……」ゆっくり指をほどく

 

Z14「いい子……♡」

 

指揮官「そういう言い方はやめて」

 

Z14「まだ何も始めてないよ……?」

 

指揮官「……何を始めるつもりなんだ」

 

Z14「そこに座って」

 

指揮官「もう座ってる」

 

Z14「背筋を伸ばして。端末を机に置いて、両手は膝の上」

 

指揮官「イーン……」

 

Z14「写真、送るよ」

 

個人端末「」コトッ

 

両手「」膝の上

 

Z14「えへへ……♡」

 

指揮官「笑わないでくれ……」

 

Z14「ご、ごめんなさい……」

 

指揮官「楽しんでるの?」

 

Z14「分からない……」

 

Z14「胸が苦しくて、手も震えてるのに……指揮官があたしの言葉だけを聞いてると思うと、嬉しいの……///」

 

指揮官「写真で脅してるからだよ……」

 

Z14「知ってる」

 

指揮官「なら、もうやめよう」

 

Z14「嫌」

 

即答「」

 

指揮官「……」息を呑む

 

Z14「今やめたら、指揮官はまたみんなの指揮官に戻る」

 

Z14「でも今は、あたしだけを見てる」

 

指揮官「怖くて見てるんだよ……」

 

Z14「うん……♡」

 

Z14「目を逸らさないで」

 

指揮官「……」

 

Z14「指揮官は、怖いものから目を逸らす癖があるの」

 

指揮官「そんな癖はない」

 

Z14「あるよ。苦い薬を飲む時も、ニーミに睡眠時間を聞かれた時も、あたしが泣きそうな時も」

 

指揮官「……最後のは、どう答えればいいか迷ってるだけだ」

 

Z14「今も迷ってる?」

 

指揮官「今は、君が何をするのか怖い」

 

Z14「そっか……」

 

Z14「じゃあ、ちゃんとあたしを見ててね」

 

通信端末「」ピッ

 

指揮官「っ……!」ビクッ

 

Z14「写真を母港の緊急放送用フォルダに移したの」

 

指揮官「……」サーッ

 

Z14「指揮官が立ち上がったら、大きな声を出したら、端末に触ったら、扉を開けたら――」

 

画面「」母港一斉放送を開始

 

指揮官「やめろ……」

 

Z14「動いちゃ駄目」

 

指揮官「緊急回線を私用で使うな……」

 

Z14「緊急通信は遮断しないよ」

 

指揮官「そういう問題じゃない!」思わず声を荒らげる

 

音量計「」上昇

 

Z14「しーっ」

 

指揮官「っ……!」両手で口元を押さえる

 

Z14「大きな声を出したら流れるよ」

 

指揮官「解除してくれ……」囁き

 

Z14「命令を聞いてくれたら」

 

指揮官「何をさせるつもりなんだ……?」

 

Z14「まだ分からないよ」

 

指揮官「分からない……?」

 

Z14「こんなことになると思ってなかったから……」

 

Z14「でも、指揮官がこんなに怖がってるなら、色々できると思う……♡」

 

指揮官「イーン……」

 

Z14「まず、『イーンの命令を聞きます』って言って」

 

指揮官「嫌だ」

 

Z14「十秒」

 

画面「」10

 

指揮官「待ってくれ。話し合おう」

 

画面「」9

 

Z14「今、話してるよ」

 

画面「」8

 

指揮官「これは話し合いじゃない」

 

画面「」7

 

Z14「そうだね」

 

画面「」6

 

指揮官「イーン……頼む……」

 

画面「」5

 

Z14「言って」

 

画面「」4

 

指揮官「……分かった」

 

画面「」3

 

Z14「ちゃんと言って」

 

画面「」2

 

指揮官「イーンの命令を聞くよ……」

 

画面「」1

 

Z14「『聞きます』」

 

画面「」0

 

指揮官「イーンの命令を聞きます!」目を強く閉じる

 

カウント「」ピッ

 

指揮官「はっ……はぁ……」

 

Z14「本当に言った……」

 

指揮官「言わせたんだろう……」ぜーぜー

 

Z14「うん……♡」

 

Z14「もう一つ」

 

指揮官「まだあるのか……」

 

Z14「『イーンが怖いです』」

 

指揮官「……」

 

Z14「言って」

 

指揮官「それを聞いて、どうするんだ」

 

Z14「覚えておくの」

 

指揮官「……君は怖いよ」

 

Z14「違う。あたしが言った通りに」

 

指揮官「……」

 

Z14の親指「」送信画面へ触れる

 

指揮官「分かった」

 

一度、唇を閉じる。

 

指揮官「……イーンが怖いです」

 

Z14「……♡」

 

指揮官「満足した?」

 

Z14「少しだけ」

 

Z14「次は、押し入れを開けて」

 

指揮官「自分で開けられるだろう……」

 

Z14「命令を聞いて」

 

指揮官「……」

 

押し入れ「」ガラッ

 

クマの抱き枕「」ドンッ

 

毛布「」ふわっ

 

温かいミルク「」ほかほか

 

絵本『クマさんはおうちでねんね』

 

哺乳瓶

 

よだれかけ「」クマ柄

 

ガラガラ「」赤ちゃん用

 

指揮官「……」

 

Z14「ち、違うの……! これは指揮官を脅すために用意したんじゃないよ……!」

 

指揮官「では何なんだ……」

 

Z14「ミルクと毛布は、普通に休ませようと思って……」

 

Z14「クマさんは、あたしが眠れない時に使ってるの」

 

Z14「よだれかけと哺乳瓶とガラガラは、旅館の人が子供用の部屋と間違えて置いていっただけで……」

 

指揮官「返さなかったの?」

 

Z14「いつか何かに使えるかもしれないと思って……」

 

指揮官「今、使うつもりなんだね……」ジリ……

 

Z14「……うん」

 

Z14「靴を脱いで、布団に横になって」

 

指揮官「俺は疲れていても、今は眠れない」

 

Z14「眠らせてあげるよ」

 

指揮官「この状況で……?」

 

Z14「この状況だから」

 

指揮官「……嫌だ」

 

Z14「写真」

 

指揮官「っ……!」両肩が跳ねる

 

Z14「母港中の画面で恥ずかしい指揮官が見られるよ?」

 

指揮官「やめてくれ……」

 

Z14「じゃあ、ねんねして」

 

指揮官「……」震える足で布団へ近づく

 

布団「」ぽすっ

 

Z14「お布団、かけまちょうね……♡」ふぁさっ

 

毛布の端「」肩口までそっと整えられる

 

Z14「寒くない? 苦しくない?」

 

指揮官「……大丈夫」

 

Z14「また大丈夫って言った……」

 

手の甲「」指揮官の額へそっと触れる

 

Z14「熱はないみたい。じゃあ、ちゃんと温かくして休もうね……♡」

 

指揮官「自分でできる」

 

Z14「ばぶちゃんは、なーんにもしなくていいよ……♡」

 

指揮官「ば、ばぶちゃん……?」

 

Z14「今日の指揮官は、あたしのばぶちゃん」

 

Z14「お行儀よくしないと流すよ」

 

指揮官「……」

 

Z14「クマさん、ぎゅってしようね……♡」

 

Z14「腕が疲れたら、あたしが支えてあげるからね」

 

Z14「両手は離しちゃ駄目」

 

指揮官「端末を取らないため?」

 

Z14「ばぶちゃんは、物を勝手に触ったら駄目だから」

 

クマの抱き枕「」ぎゅっ

 

Z14「よだれかけ、つけようね……♡」

 

指揮官「待って」

 

Z14「動かないで」

 

指揮官「それは本当に必要ない」

 

Z14「ミルクをこぼしたら、服が汚れちゃうよ……♡」

 

指揮官「こぼさない」

 

Z14「ばぶちゃんは自分で決められないの」

 

指揮官「イーン……」

 

Z14「首を上げて」

 

指揮官「嫌だ」

 

携帯端末「」ピッ

 

画面「」送信予約 五分後

 

指揮官「ひっ……!」電子音に身体を縮める

 

Z14「首」

 

指揮官「……」目を閉じて首を上げる

 

よだれかけ「」カチッ

 

Z14「とっても似合ってるよ……♡」

 

指先「」よだれかけの襟元を苦しくないように整える

 

Z14「きつくない? 首、痛くない?」

 

指揮官「……平気だ」

 

Z14「苦しくなったら、ちゃんと言ってね。そこだけは我慢しなくていいから……♡」

 

指揮官「笑わないでくれ……」ぬいぐるみへ顔を伏せる

 

Z14「よだれかけをつけて、クマさんを抱いてる指揮官……とってもかわいいよ……///」

 

指揮官「……怖いよ」ぎゅうう

 

Z14「怖かったね……♡」

 

Z14「だから、あたしが優しくしてあげるの」

 

指揮官「脅しておいて……?」

 

Z14「うん♡」

 

Z14「怖いことをするのも、優しくするのも、あたしだけ……♡」

 

Z14「は~い、ミルクを飲もうね……♡」

 

Z14「急がなくていいよ。少しずつでいいからね……♡」

 

哺乳瓶「」温かいミルク

 

指揮官「普通に飲ませて」

 

Z14「ミルクの時間だよ……♡」

 

指揮官「嫌だ」

 

Z14「送信まで四分三十秒」

 

指揮官「……」視線が画面へ釘づけになる

 

Z14「おくち、あーんしまちょうね……♡」

 

Z14「両手はクマさん」

 

指揮官「……」

 

Z14「はい、あーん♡」

 

指揮官「ミルクに『あーん』は必要ないだろう……」

 

Z14「ばぶちゃんは、言われた通りにするの」

 

指揮官「……」唇を震わせて口を開く

 

Z14「上手に飲めるかな……♡」

 

哺乳瓶「」唇の角度に合わせてゆっくり傾く

 

指揮官「……」ちゅうちゅう

 

Z14「えらいでちゅね……♡」

 

指揮官「……」顔を赤らめて身を縮める

 

Z14「まだ一口だよ……♡」

 

Z14「慌てなくていいよ。ちゃんと飲み込んでから、次にしようね」

 

指揮官「普通に飲ませて……」

 

Z14「泣いちゃう?」

 

指揮官「泣かない」

 

Z14「泣いてもいいよ。あたし以外には見せないから」

 

指揮官「それは慰めになってない……」

 

Z14「もう一口、飲もうね……♡」

 

手「」頬へ添えられ、顔が逸れないよう優しく支える

 

指揮官「……」ごくっ

 

Z14「上手、上手……♡」なでなで

 

指揮官「触らないで……」首をすくめる

 

Z14「今はあたしがいないと、ミルクも飲めないんだね♡」

 

Z14「クマさんも離せないし、逃げることもできないね♡」

 

Z14「こっちの指揮官の方が、あたしには安心できるよ……♡」

 

指揮官「……」目を伏せる

 

Z14「あと少しだよ。全部飲もうね……♡」

 

指揮官「もう十分――」

 

Z14「三分五十秒」

 

指揮官「っ……」

 

ミルク「」ごく、ごく

 

Z14「嫌でもちゃんと飲める、いい子だね……♡」

 

指揮官「いい子と言わないでくれ……」

 

Z14「ばぶちゃん♡」

 

指揮官「それもやめて……」

 

Z14「どっちがいい?」

 

指揮官「どちらも嫌だ」

 

Z14「選ばないなら、ばぶちゃんにするね」

 

哺乳瓶「」空

 

Z14「ぜんぶ飲めまちたね……♡」ぱぁぁ

 

Z14「よく頑張ったね。喉、苦しくない?」

 

指揮官「……大丈夫」

 

Z14「ならよかった……♡」ほっと息を吐く

 

Z14「お口、少し白くなってるよ……♡」

 

Z14「すぐきれいにしてあげるから、じっとしててね」

 

指揮官「自分で拭く」

 

Z14「両手はクマさんだよ」

 

ハンカチ「」唇へ近づく

 

指揮官「……」

 

Z14「じーっとしててくだちゃいね……♡」

 

手「」そっと口元を拭う

 

指揮官「……」触れられる直前に目を閉じる

 

Z14「怖かった?」

 

指揮官「次に何をされるか分からないから……」

 

Z14「お口を拭いただけだよ……♡」

 

指揮官「それまでに何をしたか忘れたのか?」

 

Z14「全部覚えてるよ」

 

Z14「指揮官がどこで震えたかも、何回あたしを見たかも……♡」

 

指揮官「……」

 

Z14「お口、きれいになりまちた……♡」

 

指揮官「予約を止めて……」

 

Z14「まだ。ミルクの後は背中をとんとんするの」

 

指揮官「必要ない!」

 

音量計「」赤く点滅

 

指揮官「っ……!」両手で口を塞ぐ

 

送信準備「」15%

 

Z14「大きな声、出しちゃったね」

 

指揮官「待って……」何度も首を横に振る

 

Z14「起きて。こっちに背中を向けて」

 

指揮官「……」身体を起こす

 

Z14の手「」背中へ触れる

 

指揮官「っ……」肩を強張らせる

 

Z14「怖がらなくていいよ……♡」

 

Z14「背中に触るだけ。痛くしないからね」

 

指揮官「君が触るから怖いんだ……」

 

手「」とん、とん

 

Z14「ミルクを全部飲めた、いい子でちゅね……♡」

 

指揮官「……」クマの耳を強く握る

 

Z14「お腹、苦しくない……?」

 

手「」背中をとんとんしながら、呼吸の速さを確かめる

 

指揮官「大丈夫……」

 

Z14「指揮官の『大丈夫』は信用できないよ」

 

指揮官「……」

 

Z14「げっぷが出るまで、とんとんちまちゅね……♡」

 

指揮官「本当にやめてくれ……」掠り声

 

Z14「嫌なの?」

 

指揮官「嫌だよ……」

 

Z14「じゃあ、写真を――」

 

指揮官「分かった!」

 

Z14「静かに」

 

指揮官「……分かったから、続けて……」

 

Z14「『続けてください』」

 

指揮官「……続けてください……」

 

Z14「えらいね……♡」

 

Z14「嫌なのに、ちゃんとお願いできたね」

 

手「」とん、とん

 

Z14「次は、ねんねの絵本だよ……♡」

 

Z14「難しいことは考えなくていいから、声だけ聞いててね」

 

指揮官「まだあるの……?」

 

Z14「ねんねする前は、絵本を読もうね。頭はここだよ……♡」

 

膝「」ぽんぽん

 

指揮官「膝枕……?」

 

Z14「うん」

 

指揮官「嫌だ。逃げられなくなる……」

 

Z14「もう逃げられないよ。写真があるから」

 

指揮官「……」

 

頭「」膝へ下ろされる

 

手「」後頭部を支え、いちばん楽な位置へゆっくり直す

 

Z14「首、痛くない?」

 

指揮官「……大丈夫だ」

 

Z14「よかった。眠くなるまで、ここにいていいからね……♡」

 

絵本「」ぱらっ

 

Z14「『あるところに、働きすぎのクマさんがいました』」

 

指揮官「……」

 

Z14「『クマさんはみんなに優しくして、毎日森の中を走り回っていました』」

 

指揮官「俺のこと……?」

 

Z14「絵本のクマさんだよ」

 

Z14「『ある日、小さな鳥さんが言いました。今日はおうちでねんねして』」

 

Z14「『でも、クマさんは外へ行こうとしました』」

 

Z14「『そこで鳥さんは、クマさんの足に丈夫な紐を結びました』」

 

指揮官「その絵本、本当に子供向け……?」

 

Z14「今、少し変えたの……」

 

指揮官「変えないでくれ……」

 

Z14「『クマさんは怖くなりました。でも鳥さんは、優しく頭を撫でました』」

 

手「」なで、なで

 

Z14「『怖くないよ。もうどこにも行かなくていいんだよ』」

 

指揮官「……怖いよ」膝の上で身体を縮める

 

Z14「絵本のクマさん?」

 

指揮官「俺が……」

 

Z14「怖かったね……♡」

 

手「」額から髪を払うようにゆっくり撫でる

 

Z14「もう頑張って平気な顔をしなくていいよ」

 

指揮官「喜ばないでくれ……」

 

Z14「『クマさんは鳥さんが怖くて、言うことを聞きました』」

 

Z14「『ミルクを飲んで、クマさんを抱いて、鳥さんの膝で目を閉じました』」

 

指揮官「終わり……?」

 

Z14「まだ」

 

顔「」耳元へ近づく

 

指揮官「っ……!」全身を強張らせる

 

Z14「『もう、ほかの子のおうちへ行かないでね』」囁き

 

Z14「返事は?」

 

指揮官「できない……」

 

Z14「写真」

 

指揮官「それは約束できない。みんなも大切な仲間だから……」

 

Z14「今、みんなの話をしないで」

 

Z14「『イーンの部屋で、いい子にねんねします』って言って」

 

指揮官「嫌だ」

 

Z14「送信予約を戻すよ」

 

指揮官「っ……」

 

Z14「五」

 

指揮官「やめて……」

 

Z14「四」

 

指揮官「分かった……」

 

Z14「三」

 

指揮官「イーンの部屋で、いい子にねんねします……」

 

Z14「『ばぶちゃんとして』」

 

指揮官「それは……」

 

Z14「二」

 

指揮官「ばぶちゃんとして、いい子にねんねします!」目を閉じる

 

Z14「えへへ……♡」

 

Z14「録音したよ」

 

指揮官「何……?」目を見開く

 

携帯端末「」録音中

 

指揮官「消して!」起き上がろうとする

 

音量計「」点滅

 

Z14「しーっ」

 

指揮官「っ……!」口を塞ぐ

 

Z14「怖くなったの?」

 

指揮官「……怖いよ。当たり前だろう……」

 

Z14「大丈夫。写真も録音も、誰にも見せない」

 

指揮官「じゃあ、消してくれ……」

 

Z14「それは嫌」

 

Z14「怖がってる指揮官も、よだれかけを着けた指揮官も、ミルクを飲んだ指揮官も……」

 

Z14「全部、あたしだけが知ってるの……♡」

 

指揮官「安心できないよ……」

 

Z14「じゃあ、もっと甘やかしてあげる」

 

指揮官「逆だろう……」

 

Z14「今度は胸元で……おっぱいねんねしようね♡」

 

指揮官「嫌だ」

 

Z14「写真と録音」

 

指揮官「っ……!」

 

Z14「どっちも放送用フォルダに入れられるよ」

 

指揮官「やめてくれ……」

 

Z14「じゃあ、こっちに来て」

 

指揮官「膝枕で十分だ」

 

Z14「ばぶちゃんは自分で決めないの」

 

指揮官「……」震えながら身を起こす

 

Z14「頭を、ここに」

 

胸元「」制服越し

 

指揮官「イーン……」

 

Z14「早く」

 

指揮官「……」身体を傾ける

 

額「」胸元へ触れる

 

Z14「ッ~~///」全身を強張らせる

 

指揮官「君の方が無理をしてる……」

 

Z14「喋らないで……!」

 

指揮官「離れるよ……」

 

Z14「駄目!」後頭部を抱える

 

指揮官「っ……!」身体が跳ねる

 

Z14「ご、ごめんなさい……でも、離れないで」

 

Z14「顔を上げちゃ駄目」

 

指揮官「息苦しい……」

 

Z14「少し向きを変えるね」

 

手「」位置を直す

 

Z14「これなら苦しくない?」

 

指揮官「……少しは」

 

Z14「よかった」

 

Z14「ばぶちゃんが苦しくならないように、ちゃんと見ててあげるからね……♡」

 

Z14「息をゆっくり吸って。あたしに合わせて……」

 

呼吸「」すう……はあ……

 

Z14「そう。上手だよ……♡」

 

指揮官「写真を消してくれ……」

 

Z14「まだねんねできてないよ……♡」

 

指揮官「眠れるわけがない……」

 

Z14「ねんねできるまで、とんとんしてあげるね……♡」

 

Z14「眠れなくても怒らないよ。目を閉じてるだけでもいいからね♡」

 

手「」背中を一定の間隔で叩く

 

Z14「とん、とん……」

 

Z14「怖かったね……♡」

 

指揮官「君が怖がらせてるんだ……」

 

Z14「うん」

 

Z14「でも、怖がった指揮官を慰めるのもあたし」

 

指揮官「自分で火をつけて、自分で消してるだけだ……」

 

Z14「消してないよ」

 

Z14「ずっと怖いままにしてるの♡」耳元で囁く

 

指揮官「っ……」クマを強く抱く

 

Z14「その方が、あたしから離れられないでしょ?」

 

手「」とん、とん

 

Z14「何も考えなくていいよ」

 

Z14「今だけは、全部あたしに預けて。疲れた分まで、ゆっくり休んでね……♡」

 

Z14「明日の仕事も、母港のみんなも、全部忘れて」

 

指揮官「忘れられない……」

 

Z14「忘れるまで、ここにいるの」

 

指揮官「どれくらい……?」

 

Z14「あたし以外のことを考えなくなるまで」

 

指揮官「……」

 

Z14「怖い?」

 

指揮官「……怖いよ」胸元で小さく頷く

 

Z14「逃げたい?」

 

指揮官「逃げたい……」

 

Z14「だーめ♡」

 

即答「」

 

指揮官「……っ」

 

Z14「ばぶちゃんは一人で外へ行ったら危ないから、お部屋から出ちゃ駄目なの♡」

 

指揮官「俺は子供じゃない……」

 

Z14「でも、今は自分で写真も消せない」

 

Z14「あたしが飲ませないとミルクも飲めない」

 

Z14「あたしがいいと言うまで、顔も上げられない」

 

Z14「自分で何もできないよ?」

 

指揮官「君ができなくしてるんだ……」

 

Z14「うん……♡」

 

Z14「だから、あたしが全部してあげる♡」

 

Z14「食べる時間も、寝る時間も、誰に会うかも」

 

指揮官「それは許さない……」

 

Z14「今は許さなくていいよ。指揮官の許可はいらないから」

 

指揮官「……」

 

Z14「頭をなでなでする?」

 

指揮官「要らない」

 

Z14「子守歌は?」

 

指揮官「要らない……」

 

Z14「全部してあげるね」

 

指揮官「聞いてなかったのか……」

 

Z14「聞いたよ」

 

Z14「ばぶちゃんの『要らない』は、本当の意味じゃないことがあるからね……♡」

 

指揮官「勝手に決めないでくれ……」

 

Z14「よしよし……♡」

 

手「」髪の流れに沿って、何度もゆっくり撫でる

 

Z14「嫌でも、少しだけ我慢してね。指揮官の顔、さっきより楽になってるから……♡」

 

指揮官「やめて……」

 

Z14「怖くなーい、怖くないよ……♡」

 

指揮官「怖いって言ってるだろう……」

 

Z14「泣いてもいいよ。あたしの前だけなら」

 

指揮官「泣かない」

 

Z14「泣いたら、もっと優しくしてあげる」

 

指揮官「それを期待しないでくれ……」

 

Z14「少しだけ期待してる……♡」

 

Z14「は~い、ねんねの時間でちゅよ……♡」

 

Z14「今日くらい、誰かに守られて眠ってもいいんだよ……♡」

 

手「」とん、とん

 

Z14「いい子でちゅから、おめめを閉じまちょうね……♡」

 

指揮官「閉じたら何をする……?」

 

Z14「何もしないよ」

 

指揮官「信じられない……」

 

Z14「じゃあ、閉じるまで数えるね。十」

 

指揮官「それはやめて……」

 

Z14「九」

 

指揮官「写真を消して……」

 

Z14「八」

 

指揮官「分かった……閉じるから……」

 

まぶた「」固く閉じる

 

Z14「肩の力も抜こうね……♡」

 

手「」肩から背中へ、緊張をほどくようにゆっくり撫で下ろす

 

指揮官「無理だ……」

 

Z14「七、六、五……」

 

肩「」少しずつ下がる

 

Z14「四、三……」

 

腕「」頭を優しく包む

 

Z14「二……一」

 

部屋「」シーン

 

Z14「ねんねできまちたか……?」

 

指揮官「眠ってない……」

 

Z14「返事をしたら駄目だよぉ……♡」

 

Z14「もう喋らなくていいよ。あたしがそばにいるからね……♡」

 

Z14「よしよし……♡」

 

手「」なで、なで

 

Z14「ミルクを全部飲めて、えらいでちゅね……♡」

 

Z14「大きな声を我慢できて、えらいね……♡」

 

Z14「写真が怖くても、ちゃんと言うことを聞けて、えらいね……♡」

 

指揮官「……」身体を小さく丸める

 

Z14「もう逃げなくていいよ」

 

Z14「あたしが全部決めるから」

 

Z14「ばぶちゃんは、あたしに抱っこされて、ねんねするだけだよ……♡」

 

Z14「重たくても、震えてても、全部あたしが受け止めるからね」

 

Z14「それだけでいいんだよ……♡」

 

壁時計「」カチ、カチ

 

Z14「母港放送には流さないよ」

 

指揮官の指「」僅かに動く

 

Z14「でも、あたしの言うことを聞かなくなったら、また予約を入れるからね」

 

指「」止まる

 

Z14「えへへ……♡」

 

手「」とん、とん

 

Z14「ねんね……」

 

Z14「ねんねだよ……♡」

 

Z14「いい子、いい子……もう何もしなくていいよ……♡」

 

Z14「いい子に、ねんねしようね……♡」

 

時間「」ゆっくり進む

 

呼吸「」少しずつ長くなる

 

Z14「指揮官?」

 

返事「」なし

 

Z14「……寝ちゃった?」

 

体「」力が抜けている

 

Z14「えへへ……♡」

 

Z14「怖がってたのに、逃げたかったのに……」

 

Z14「最後には、あたしに抱かれて眠った……♡」

 

Z14の指が、眠った指揮官の眉間へ触れる。

 

さっきまで深く寄っていた皺は、もう消えていた。

 

Z14「……本当に、疲れてたんだね」

 

毛布「」眠る肩から落ちないよう、もう一度かけ直される

 

Z14「こんなになるまで頑張らなくてもよかったのに……」

 

返事はない。

 

Z14「普通にお願いしても、こうして眠ってくれたのかな……」

 

指揮官「……」

 

Z14「たぶん、眠ってくれたよね」

 

Z14「指揮官は優しいから」

 

一拍。

 

Z14「でも、それじゃ足りなかったの」

 

Z14「優しくしてもらっただけじゃ、明日も来てくれるか分からないから……」

 

腕「」眠る頭を抱き直す

 

Z14「怖いあたしなら、忘れないでいてくれる」

 

Z14「電子音が鳴るたびに思い出す」

 

Z14「クマさんを見るたびに思い出す」

 

Z14「ミルクを飲むたびに、あたしのことを考える……♡」

 

Z14「だから、ごめんなさい」

 

Z14「……でも、やめないよ」

 

通信端末「」ピッ

 

母港放送予約「」解除

 

緊急放送フォルダ「」削除

 

外部接続「」切断

 

隔離保存領域「」作成

 

写真・録音「」暗号化

 

外部送信・複製「」無効

 

暗号鍵「」Z14の記憶内にのみ保存

 

Z14「これで、誰にも見られないよ」

 

Z14「ニーミにも、フィーゼにも、ニュルンベルクさんにも、ライプツィヒさんにも」

 

Z14「指揮官の怖い顔も、ばぶちゃんみたいに甘やかされた声も……」

 

Z14「あたしだけの秘密……♡」

 

~四時間二十六分後~

 

壁時計「」十九時三十九分

 

指揮官「……っ!」目を見開いて起き上がろうとする

 

Z14「動いちゃ駄目」ぎゅっ

 

指揮官「イーン……!?」身体を強張らせる

 

Z14「おはよう、ばぶちゃん……♡」

 

指揮官「どれくらい寝てた……?」

 

Z14「四時間二十六分」

 

指揮官「ずっと、こうしてたの……?」

 

Z14「うん。呼吸も数えてたよ」

 

指揮官「……」

 

Z14「寝返りは三回。眉を寄せたのが七回。あたしの服をつかんだのが二回」

 

指揮官「つかんでない……」

 

Z14「高速記憶が得意だから、間違えないよ」

 

指揮官「……」視線を逸らす

 

Z14「怖い夢を見た?」

 

指揮官「覚えてない……」

 

Z14「次は夢を見ないくらい、もっとしっかり抱いてあげるね」

 

指揮官「次……?」

 

Z14「明日の二十二時」

 

指揮官「約束してない……」

 

Z14「したよ。『明日の二十二時に必ず来ます』って」

 

指揮官「それは脅されて――」

 

Z14「録音もあるよ」

 

指揮官「っ……!」口を閉ざす

 

Z14「来てくれるよね?」

 

指揮官「嫌だ……」

 

携帯端末「」ピッ

 

黒い画面「」クマさんの輪郭が一秒だけ笑う

 

指揮官「っ……!」胸元で大きく身を震わせる

 

Z14「大丈夫。母港放送には流さないよ」

 

指揮官「じゃあ、何のために……?」

 

Z14「思い出してもらうため」

 

Z14「指揮官は、あたしのばぶちゃんだって……♡」

 

指揮官「違う……」

 

Z14「明日はその……おっぱい吸わせてあげるね……///絵本の続きも作っておく」

 

指揮官「行かない……」

 

Z14「ガラガラも使おうね」

 

指揮官「それは絶対に嫌だ」

 

Z14「嫌って言えて、えらいね……♡」なでなで

 

指揮官「触らないで……」

 

Z14「でも、最後にはちゃんと言うことを聞ける」

 

Z14「だって、指揮官はいい子だから。ね?」

 

指揮官「……」

 

Z14「返事は?」

 

指揮官「……分かった」掠り声

 

Z14「何が?」

 

指揮官「明日の二十二時に来る……」

 

Z14「『必ず』」

 

指揮官「……必ず来る」

 

Z14「えへへ……♡」ぎゅっ

 

指揮官「もう離してくれ……」

 

Z14「まだ駄目。起きたばかりのばぶちゃんを一人で歩かせたら危ないよ」

 

指揮官「普通に歩ける」

 

Z14「お水を飲んでからだよ……♡」

 

Z14「急に起きたから、喉も乾いてるでしょ。ゆっくりでいいからね」

 

子供用コップ「」水

 

指揮官「自分で飲む」

 

Z14「両手はクマさん」

 

指揮官「……」

 

Z14「はい、あーんでちゅよ……♡」

 

指揮官「……飲む」

 

ストロー「」唇へ触れる

 

指揮官「……」ごくっ

 

Z14「上手、上手……♡」

 

手「」背中を支え、ふらつかないように抱き寄せる

 

Z14「ちゃんと飲めてるよ。えらいでちゅね……♡」

 

指揮官「もういい……」

 

Z14「もう一口、飲もうね……♡」

 

指揮官「……」ごくっ

 

Z14「指揮官」

 

指揮官「何……?」

 

Z14「怖い?」

 

指揮官「……怖いよ」視線を落とす

 

Z14「よかった」

 

Z14「怖かったら、明日も忘れないから」

 

Z14「二十二時。あたしのお部屋」

 

Z14「ミルクを飲んで、クマさんを抱いて、あたしの胸でいい子にねんねするの……♡」

 

指揮官「……」

 

Z14「返事は?」

 

指揮官「……はい」

 

Z14「『はい』だけじゃ駄目」

 

指揮官「……分かったよ」

 

Z14「ばぶちゃんらしく」

 

指揮官「それだけは……」

 

黒い画面「」クマさんが一秒だけ笑う

 

指揮官「っ……!」クマを強く抱く

 

Z14「言って」

 

指揮官「……明日も、イーンの部屋で……」掠り声

 

Z14「うん」

 

指揮官「いい子に……ねんねします……」

 

Z14「えへへ……♡」

 

Z14「よく言えました」

 

Z14「おやすみのなでなでは、明日まで取っておくね……///」

 

指揮官「要らない……」顔を背ける

 

Z14「嫌って言えてえらいね」

 

Z14「明日は、言えなくなるまで甘やかしてあげる……♡」

 

母港一斉放送「」異常なし

 

隔離保存領域「」正常

 

写真「」削除不能

 

録音「」再生待機

 

指揮官の予定表「」

 

『明日 二十二時』

 

『イーンの部屋』

 

『ばぶちゃんのねんね』

 

Z14「大丈夫だよ、指揮官」

 

Z14「もう、何も自分で決めなくていいから……♡」

 

--完--

 

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