指揮官は今日もKAN-SENに振り回される ~アズレン短編SS集~ 作:げーりっく
〜鉄血寮〜
メークレンブルク「」チーン
ダイイングメッセージ『犯人は……き』
フュンちゃん(Z35)「きゃああああああ!!!」
〜数時間後〜
ブリストル「ふむふむ……誰もいないところでダンスしようと移動しようとしたら、倒れているメークレンに遭遇したと……」メモメモ
フュンちゃん「そ、そうなの!!私本当に目撃しただけで何もしてないよ!!」ブンブン
ブリストル「情報提供ありがとう!!」
指揮官「どう?何かわかった?」
ブリストル「いや~まだまだ情報不足だね」
指揮官「探偵役なのに?」
ブリストル「探索者と言ってほしいな!」
指揮官「似たようなもんじゃない?」
ブリストル「全然違うよ!ぼくは未知と神秘と謎を追い求める──」
指揮官「で、メークレンは?」
ブリストル「医務室!命に別状なし!」
指揮官「じゃあダイイングメッセージじゃないじゃん」
ブリストル「雰囲気は大事でしょ?」
指揮官「殺すな」
フュンちゃん「ほんとそれ!!」
ブリストル「証拠袋、番号振っとくね!」キュッキュッ
指揮官「変なペン使ってるな」
ブリストル「探索者仕様!」フフン
ブリストル「それで問題なんだけど、メークレンが倒れたと思われる18時40分から18時45分の間、現場近くの監視カメラに九人映ってるんだ」
指揮官「九人?」
ブリストル「鉄血から五人」
ペラッ
『エルベ』
『ペーター・シュトラッサー』
『ウルリッヒ・フォン・フッテン』
『オットー・フォン・アルフェンスレーベン』
『レーゲンスブルク』
ブリストル「それと今日、鉄血寮に遊びに来ていた四人!」ペラッ
『タリン』
『アクィラ』
『ダンケルク』
『リノ』
指揮官「多いな」
ブリストル「ふっふっふ……」ニヤニヤ
指揮官「嬉しそう」
ブリストル「容疑者九人!謎のダイイングメッセージ!意識不明の被害者!そしてぼくと指揮官の共同捜査!」
指揮官「最後だけ私情入ってない?」
ブリストル「入ってないよ?」
指揮官「目見て言え」
ブリストル「共同捜査……♡」じーっ
指揮官「目を見ろ」
〜鉄血寮・談話室〜
九人「「「「「……」」」」」ジトーッ
指揮官「なんで全員こんな機嫌悪そうなの?」
ブリストル「容疑者扱いされたからじゃない?」
指揮官「まあ……ね」
エルベ「不愉快ですわ」
指揮官「ごめん」
エルベ「昨日は指揮官が使ったタオルから塩を作っていましたから、メークレンブルクさんを襲っている暇なんてありませんわ!」
指揮官「ちょっとまって!?」
ブリストル「アリバイは?」
指揮官「いやいやそこじゃないだろ」
エルベ「洗濯室ですの」
指揮官「塩?」
エルベ「指揮官塩ですわ♪」
エルベ「汗を含んだタオルを精製すれば──」
指揮官「まってまって聞きたくない!!」
エルベ「せっかく悪い子らしいことをしていましたのに……」ムゥ
指揮官「怖いんだよっ!!」
ペーター「下らないわね」
指揮官「ペーターは?」
ペーター「18時37分12秒から18時49分38秒まで自室よ」
ブリストル「細かっ」
ペーター「時間を無駄にする趣味はないもの」
指揮官「何してた?」
ペーター「卿の今月の時間配分を整理していたわ」
指揮官「俺の?」
ペーター「今月、卿が私と過ごした時間は合計4時間13分26秒」
指揮官「え」
ペーター「一方、他のKAN-SENとの私的会話は合計31時間48分11秒」
指揮官「……」
ペーター「差分は来月返してもらうわ」トンッ(予定表を置く)
指揮官「借金みたいに言わないで」
ペーター「時間は金銭より貴重よ、卿」
指揮官「俺の来月もう埋まってない?」
ペーター「当然でしょう?」
指揮官「怖」
ウルリッヒ「次は私か」
指揮官「お願いしますほんとに」
ウルリッヒ「屋上にいた」
ブリストル「証人は?」
ウルリッヒ「いない」
ブリストル「何してたの?」
ウルリッヒ「お前の声を聞いてた」
指揮官「え」
ウルリッヒ「先月の会議録音」
指揮官「会議?」
ウルリッヒ「ああ」
指揮官「何が楽しいの?」
ウルリッヒ「内容なんて聞いてない」
指揮官「……」
ウルリッヒ「お前の声だけ切り出して二時間流してた」
指揮官「……」ピタッ
ウルリッヒ「何だその顔」
指揮官「ウルリッヒまでそっちなの?」
ウルリッヒ「何の話だ」
指揮官「何でもない」
オットー「指揮官!」
指揮官「はい」
オットー「私は無実!」ズイッ
指揮官「根拠は?」
オットー「その時間は指揮官の執務室にいたから!」
指揮官「なんで?」
オットー「……」
指揮官「なんで?」
オットー「……机の下に録音機を仕掛けてた」
指揮官「おいっ!!」
オットー「違う!」
指揮官「何が」
オットー「私が欲しかったのは機密じゃない!」
指揮官「じゃあ何?」
オットー「指揮官が私を褒めた部分だけ自動保存する機械!」
指揮官「もっと怖い!」
オットー「昨日だけで三回しか褒めてくれなかったんだけど!?」
指揮官「普通は一日三回も褒めないよ」
オットー「少ない!!」
指揮官「怒られた」
レーゲンスブルク「くだらない尋問ね」
指揮官「レーゲンスブルクは?」
レーゲンスブルク「中庭よレジーナと訓練していたわ」
レジーナ「」ゴォォ…
指揮官「何の?」
レーゲンスブルク「貴様の匂いを覚えさせる訓練」
指揮官「なんで?」
レーゲンスブルク「貴様がどこかへ消えてもレジーナなら見つけられるように」
指揮官「消えないよ」
レーゲンスブルク「貴様の意思など聞いていないわ」
指揮官「訓練の目的から怖い」
レーゲンスブルク「安心しなさい地の果てでも連れ戻してやる」フッ
指揮官「どこに安心できる要素があるの??」
ブリストル「鉄血組、全員怪しいね!」
指揮官「事件以外の部分でな」
〜訪問者側〜
アクィラ「アクィラは厨房におりましたわ、指揮官さま♪」
指揮官「何してたの?」
アクィラ「お料理のお勉強です~」
指揮官「普通だ」
アクィラ「将来、指揮官さまとの新婚生活で毎朝お出しする朝食を今から完璧にしておこうかと」
指揮官「前言撤回」
アクィラ「まだ献立は七年分しか決まっていませんけれど……」ペラペラ
指揮官「十分だよ」
アクィラ「やっぱり少ないでしょうか?」
指揮官「多いよ」
ダンケルク「私は厨房の奥でお菓子を作っていたわ」
指揮官「アクィラと一緒?」
ダンケルク「途中までは」
ブリストル「何作ってたの?」
ダンケルク「マカロンよ」
指揮官「普通だ」
ダンケルク「指揮官の唇と同じ大きさになるよう、直径を調整していたところだったわ」
指揮官「ごめん普通じゃなかった」
ダンケルク「食べる時、間接的に同じ場所へ触れられるでしょう?」にこっ
指揮官「お菓子の楽しみ方じゃないって……」
ダンケルク「あら?」
リノ「リノはヒーローガジェットのテスト中でした!」
指揮官「どんな?」
リノ「指揮官が危険に巻き込まれた瞬間、位置情報と脈拍と周囲の映像をリノへ自動送信する指揮官救出ビーコン!」ジャーン
指揮官「それ俺につける予定?」
リノ「もちろん!」
指揮官「嫌なんだけど」
リノ「ヒーローはいつ事件に巻き込まれるか分からないんですよ!?」
指揮官「俺が拒否した場合は?」
リノ「こっそり付けます!」
指揮官「正義とは」
リノ「指揮官を守ることです!」キラキラ
指揮官「強い」
ブリストル「残るはタリンだね」
タリン「随分待たせるじゃない」
指揮官「ごめん」
タリン「謝る必要はないわ。あなたが指揮官だからといって、私が何でも従うと思わないことね」
ブリストル「18時40分頃は?」
タリン「客室よ」
ブリストル「一人?」
タリン「そうよ」
ブリストル「証明できる?」
タリン「できないわね」
指揮官「何してた?」
タリン「お茶を飲んでいただけ」
ブリストル「ふむふむ……」メモメモ
指揮官「……」
タリン「何?」
指揮官「そのカップ、今日持ってきた?」
タリン「そうだけど」
ブリストル「え?」
タリン「北方連合から持ってきたものよ」
金属製のホルダーに入ったガラスのティーカップ
指揮官「ちょっと見せて」
タリン「割ったら許さないわよ」
指揮官「割らないって」
タリン「……」コトッ
ブリストル「何かわかった?」
指揮官「まだ」
タリン「ふん」
指揮官「ただ」
タリン「?」
指揮官「九人の中で一人だけ現場の痕跡と妙に噛み合うKAN-SENがいる」
しん……
ブリストル「え?」
指揮官「確認しに行こう」
〜ランドリー室〜
エルベ「だから言ったでしょう?私は無実ですの!」
指揮官「この白い結晶借りるね」
エルベ「だ、ダメですわ!!」バッ
指揮官「証拠だから」
エルベ「それ指揮官由来なんですのよ!?」
指揮官「言うな!!」
ブリストル「わくわく」
指揮官「エルベの袖についてた白い結晶と現場の机に落ちてた白い粉、一見同じだけど別物だ」
ブリストル「どうして?」
指揮官「エルベの方は塩化物反応が出る。ただの塩。現場の粉には出ない」
エルベ「ただの塩じゃありませんわ!」
指揮官「そこ重要?」
エルベ「指揮官塩ですの!!」
指揮官「黙って」
ブリストル「つまりエルベは?」
指揮官「少なくとも現場の粉を運んだ人物じゃない」
エルベ「当然ですわ♪」
指揮官「でもタオルは返して」
エルベ「嫌ですの」ギュッ
指揮官「事件終わったら話そうか」
エルベ「……♡」
指揮官「なんで嬉しそうなの?」
エルベ「叱っていただけるんですの?」
指揮官「やっぱやめる」
エルベ「そんな!?」
〜時計管理室〜
ペーター「卿、本当にここまで来る必要が?」
指揮官「ある」
ブリストル「時計いっぱい!」
指揮官「この寮の監視カメラ、全部ここの基準時刻と同期してる?」
ペーター「当然よ。0.01秒以上の誤差を放置する趣味はないわ」
指揮官「だと思った」
ペーター「?」
指揮官「ブリストル、監視映像出して」
ブリストル「ほい!」ピッ
映像
18:41:08
廊下
誰もいない
18:41:09
18:41:10
指揮官「戻す」
ブリストル「?」カチカチ
18:40:36
指揮官「ここ」
ブリストル「何?」
指揮官「右上の観葉植物」
ブリストル「葉っぱ?」
指揮官「空調で揺れてるだろ」
ブリストル「うん」
指揮官「18時40分36秒から40秒までの揺れと、18時41分08秒から12秒までの揺れが全く同じ」
ペーター「……」
指揮官「葉の重なり方も、影も、圧縮ノイズまで同一。自然に二回起こる動きじゃない」
ブリストル「……え」ピタッ
指揮官「映像がループしてる」
ペーター「カメラの時刻は?」
指揮官「基準時計より41秒遅れてる」
ペーター「ありえないわ」スッ
指揮官「そう。機械が偶然遅れたんじゃない」
ペーター「誰かが映像を差し替えた」
指揮官「18時40分51秒から18時42分27秒。96秒だけ、本物の映像が消されてる」
ブリストル「……」
指揮官「犯人はこの96秒を使った」
ペーター「卿」
指揮官「ん?」
ペーター「今のをもう一度」
指揮官「何で?」
ペーター「私だけを見ながら」
指揮官「なんで?」
ペーター「……卿が何かに集中している顔、悪くないわ」
指揮官「捜査しようよ」
ペーター「来月の私の時間を一時間追加する」
指揮官「勝手に増やさないで」
ブリストル「……」じーっ
指揮官「ブリストル?」
ブリストル「……かっこいい♡」
指揮官「え?」
ブリストル「なんでもない!///」プイッ
ブリストル「あ、指揮官。これだけサインお願い!」ペラッ
指揮官「何これ?」
ブリストル「監視カメラまで弄られてるでしょ?犯人に捜査状況を悟られないための所在秘匿届!捜査が終わるまで予定変更と外部への定例連絡を共同捜査員に任せるだけ!」
指揮官「共同捜査員って?」
ブリストル「ぼく!」
指揮官「……ちょっと待って、今96秒の方考えてるから」サラサラ
ブリストル「ありがと♡」スッ(書類を回収)
指揮官「あとでちゃんと見せてね」
ブリストル「もちろん♪」
〜現場〜
指揮官「メークレンが倒れてたのはここ」
ブリストル「うん」
指揮官「割れたグラス、ティースプーン、白い粉、それと『犯人は……き』」
ブリストル「ダイイングメッセージ!」
指揮官「生きてるって」
ブリストル「ロマン!」
指揮官「推理にロマン求めすぎ」
リノ「でも分かります!ヒーローも最後に重要なメッセージを残すものです!」
指揮官「増えた」
リノ「指揮官、今の映像解析すっごくヒーローでしたよ!」
指揮官「ありがとう」
リノ「……///」ポッ
指揮官「?」
リノ「やっぱりリノ、このヒーロー一生サポートしたい……」
指揮官「一生?」
リノ「なんでもないです!」ブンブン
ブリストル「……」
指揮官「次メークレンのグラス」
ダンケルク「何か入っていたの?」
指揮官「医務室の分析では、整備用の艤装同調抑制剤が微量」
アクィラ「それは危ないものです?」
指揮官「KAN-SENが飲めば一時的に意識が落ちる。量は少ないから、メークレンが今寝てるのもそのせいだと思う」
ブリストル「つまり毒殺未遂!?」
指揮官「言い方怖いからやめて」
ウルリッヒ「それで、誰が入れた」
指揮官「急がない」
ウルリッヒ「焦らすな」
指揮官「俺だって今考えてるんだよ」
ウルリッヒ「……そういう顔か」
指揮官「何?」
ウルリッヒ「いや」
指揮官「?」
ウルリッヒ「続けろ。悪くない」
指揮官「今日みんなどうしたの?」
ブリストル「知らない!」ムスッ
〜整備倉庫〜
指揮官「同調抑制剤が保管されてたのは?」
オットー「そこの棚」
指揮官「読める?」
オットー「『艤装共鳴抑制・旧規格』でしょ?」
指揮官「現行の表示はその下」
ブリストル「上の文字、古い鉄血式なんだ」
指揮官「そう。十年以上前の管理記号が残ってる」
レーゲンスブルク「だから何だというの?」
指揮官「鉄血の五人なら読める」
レーゲンスブルク「当然でしょう」
指揮官「問題は訪問者四人」
アクィラ「アクィラにはよく分かりませんわ……」
ダンケルク「私もね」
リノ「リノも旧鉄血規格は専門外です」
タリン「……」
指揮官「でも一人だけ読める」
タリン「……」
ブリストル「あ」
指揮官「タリン、元はアドミラル・ヒッパー級リュッツォウ」
タリン「それだけで私を疑うつもり?」
指揮官「疑う材料の一つ」
タリン「弱いわね」
指揮官「だからまだ終わってない」
ブリストル「うわ……♡」
指揮官「何?」
ブリストル「いや今の『だからまだ終わってない』すごく……」
指揮官「すごく?」
ブリストル「えへへ……♡」モジモジ
指揮官「?」
ブリストル「これ、ぼくのお婿さんだから♡」
しん……
指揮官「……は?」
タリン「誰が?」
ブリストル「指揮官♪」
指揮官「違うよ?」
ブリストル「えへへ……♡」
指揮官「ブリストル?」
ブリストル「新居は本棚多めがいいかな……事件資料も置きたいし……寝室は一緒で……子供の名前は謎に関係する感じで……」
指揮官「話聞いてる?」
ブリストル「カーテン何色がいいと思う?」
指揮官「事件の話してたよね!?」
オットー「ちょっと待って!なんでブリストルだけ結婚の話してるの!?」ガタッ
レーゲンスブルク「身の程を知りなさい貴様に指揮官を独占する権利などないわ」
ペーター「卿、今の発言について説明を」
指揮官「俺が一番説明してほしい」
リノ「ヒーローの結婚……!?」
アクィラ「まあ!結婚式でしたらアクィラにもお手伝いを──」
指揮官「しないから!」
ダンケルク「ウェディングケーキなら任せて」
指揮官「だからしないって!」
ブリストル「みんな静かに!捜査の邪魔!」
指揮官「お前が言うな!!」
〜整備倉庫・奥〜
指揮官「これが抑制剤」
ブリストル「見た目は透明だね」
指揮官「漏洩確認用の蛍光トレーサーが混ぜてある。紫外線を当てれば微量でも分かる」
ブリストル「ランプ使用!目星ロール!」パチッ
指揮官「それ便利だな」
ブリストル「でしょ~♪」
棚
青白い蛍光
指揮官「瓶の外側にも少し付いてる」
ブリストル「犯人の手にも?」
指揮官「手袋なら残ってる可能性はある」
オットー「全員調べる?」
指揮官「お願い」
エルベ「指揮官に手を照らされる……♡」スッ
指揮官「検査だからね」
エルベ「もっとゆっくりでもいいですのよ?」
指揮官「次」
ペーター「私は?」
指揮官「なし」
ウルリッヒ「私もないな」
オットー「ない!」
レーゲンスブルク「当然よ」
アクィラ「ありませんわ」
ダンケルク「私も」
リノ「セーフ!」
タリン「……」
指揮官「左手」
タリン「……」
指揮官「出して」
タリン「随分命令口調じゃない」
指揮官「今だけ付き合って」
タリン「……仕方ないわね」スッ
パチッ
タリンの左手袋
指先
淡い青
ブリストル「……出た」ゴクリ
タリン「……」
指揮官「まだ決定じゃない」
ブリストル「え!?」
指揮官「整備剤なんだから、別件で触った可能性もある」
タリン「そうね」
指揮官「だから現場へ戻る」
ブリストル「また!?」
指揮官「細かい違和感がまだ二つ残ってる」
ブリストル「……♡」
指揮官「その顔やめて」
〜現場・再検証〜
指揮官「タリン、お茶はいつもそのグラス?」
タリン「ええ」
指揮官「金属製のホルダーも?」
タリン「北方連合から持ってきたものよ」
指揮官「メークレンの机に残ってた円形の跡、直径がこのホルダーと同じ」
タリン「……」
ブリストル「でも普通のカップでも似た跡はつくよ?」
指揮官「だからこれだけじゃ弱い」
指揮官「ダンケルク、現場の赤い汚れ見た?」
ダンケルク「ジャムのように見えるけれど」
指揮官「俺も最初そう思った」
ブリストル「違うの?」
指揮官「赤いジャムに見えるけど、ダンケルクが使っていたベリー系の色素反応と違う。それに抑制剤の識別色素と同じ蛍光が出る」
ダンケルク「じゃあ私のお菓子ではないわね」
指揮官「うん。整備剤に入ってる識別色素」
ブリストル「つまり!」
指揮官「タリンのホルダーの底にも同じものが付着してる」
タリン「……」ピクッ
指揮官「最後にカメラ」
ピッ
指揮官「映像がループした96秒。18時41分02秒にタリンは客室前を通ってる」
タリン「映っているでしょう?」
指揮官「その映像自体が18時40分30秒のコピー」
タリン「……」
指揮官「本物の18時41分02秒、お前は現場にいた」
タリン「証拠は?」
指揮官「無線アクセスポイント」
ブリストル「?」
指揮官「監視カメラを消しても端末の接続記録は残る。タリンの端末は18時40分58秒、客室側APから現場横のAPへローミングしてる」
タリン「……」
指揮官「18時42分23秒に客室側へ戻った」
しん……
指揮官「カメラだけ見れば客室にいたように見える。でもネットワークは端末が移動したことを覚えてた」
ブリストル「……」
指揮官「旧鉄血式の棚を読める経歴、抑制剤の蛍光トレーサー、グラスホルダーの圧痕、端末のローミングログ」
指揮官「四つ全部を説明できるのは一人しかいない」
タリン「……」
指揮官「メークレンに抑制剤を飲ませたのはタリンだ」
しん……
タリン「……ふ」フッ
指揮官「?」
タリン「よくそこまで分かったわね」
ブリストル「認めるの!?」
タリン「ええ、私よ」
アクィラ「まあ……」
リノ「ヴィランだったんですか!?」
タリン「違うわよ」
指揮官「理由は?」
タリン「……」
指揮官「タリン?」
タリン「これ」スッ
小さな銀色のネクタイピン
指揮官「……俺の?」
タリン「一ヶ月前、鉄血寮であなたが落としたもの」
指揮官「なくしたと思ってた」
タリン「メークレンブルクが拾っていたのよ」
指揮官「それで?」
タリン「昨日、匿名のメッセージが来たわ」
ブリストル「匿名?」
タリン「『メークレンブルクが明日、指揮官の落とし物を異物として処分する』って」
指揮官「……」
タリン「そんなことを許すわけないでしょう?」
指揮官「いや俺のなんだけど」
タリン「あなたのものだからよ」
指揮官「返して?」
タリン「嫌」スッ
タリン「匿名の相手から抑制剤の場所も教えられた。少し眠ってもらって、その間に回収しただけ」
指揮官「カメラは?」
タリン「知らない」
ブリストル「え?」
タリン「『18時41分から二分間、カメラは気にしなくていい』と書かれていたわ」
指揮官「……」
ブリストル「……」
タリン「私がやったのはメークレンブルクに抑制剤を飲ませて、これを取ったことだけ」
指揮官「ダイイングメッセージは?」
タリン「知らないわ」
ブリストル「でもメークレンが──」
???「私も知らないわよ」
全員「「「!?」」」バッ
メークレンブルク「勝手に人を殺さないでもらえる?」スタスタ
ブリストル「メークレン!?」
指揮官「もう大丈夫なの?」
メークレンブルク「ええ。頭はまだ少し重いけれど」
タリン「……」
メークレンブルク「タリン」
タリン「何」
メークレンブルク「あとで話があるわ」
タリン「望むところよ」
指揮官「その前に一個だけ」
メークレンブルク「?」
指揮官「これ書いた?」ペラッ
紙
『犯人は……き』
メークレンブルク「書いてないわ」
しん……
ブリストル「……」
指揮官「一文字も?」
メークレンブルク「こんな趣味の悪い演出をすると思う?」
指揮官「……」
メークレンブルク「私はタリンが来る前に匿名のメッセージを受け取っただけよ」
指揮官「何て?」
メークレンブルク「『今夜、指揮官のネクタイピンを盗みに来る者がいる』」
タリン「……」
指揮官「つまり」
メークレンブルク「私は盗人を捕まえるため待っていた」
タリン「人のことを盗人扱いするのね」
メークレンブルク「勝手に持って行ったでしょう?」
タリン「そもそもあなたの物じゃないわ」
指揮官「俺のだよ」
二人「「……」」ジロッ
指揮官「なんで俺が無視されるの?」
ブリストル「事件解決だね!」
指揮官「いや」
ブリストル「え?」
指揮官「終わってない」
ブリストル「……」ピタッ
指揮官「タリンがメークレンを倒した。それは解決した」
ブリストル「そうそう!」
指揮官「でもタリンに抑制剤の場所と監視カメラの停止時間を教えた奴がいる」
ブリストル「……」
指揮官「同時にメークレンへタリンが来ることを知らせた奴もいる」
ブリストル「……」
指揮官「二人を同じ時間、同じ場所へ誘導してる」
ブリストル「偶然じゃない?」
指揮官「偶然ならカメラが96秒だけループする理由がない」
ブリストル「……」
指揮官「それに『犯人は……き』」
メークレンブルク「私は書いていない」
指揮官「誰かが事件を事件らしく見せるために置いた」
ブリストル「……」
指揮官「タリンは犯人でも」
指揮官「この事件には演出家がいる」
しん……
ブリストル「……わぁ」
指揮官「何?」
ブリストル「やっぱり指揮官すごいね」ゾクッ
指揮官「まだ褒めなくていい」
ブリストル「いやもう十分だよ♡」
指揮官「?」
ブリストル「続き、地下の捜査本部でやろ!」
指揮官「なんで?」
ブリストル「カメラサーバーの生ログがある!」
指揮官「それ先に言えよ!」
ブリストル「えへへ!」
〜鉄血寮・地下捜査室〜
ガチャ
指揮官「狭いな」
ブリストル「防音だから集中できるよ!」
指揮官「みんなは?」
ブリストル「メークレンの付き添いとタリンの追加聴取!」
指揮官「二人でやるの?」
ブリストル「共同捜査だよ♡」ニコッ
指揮官「その言い方ちょっと怖くなってきた」
ブリストル「スマホ貸して」
指揮官「何で?」
ブリストル「生ログ解析中に無線ノイズ入るから!」
指揮官「そんな影響ある?」
ブリストル「あるある!」
指揮官「ほんと?」
ブリストル「探索者を信じて!」
指揮官「はいはい」スッ
ブリストル「ありがと♪」
カチッ
指揮官「今の音何?」
ブリストル「証拠保全用のロック!」
指揮官「まあいいか」
ブリストル「指揮官、右手貸して」
指揮官「今度は何?」
ブリストル「現場の指跡サイズと比較するから」
指揮官「俺容疑者じゃないよね?」
ブリストル「参考値!」スルッ(薬指に計測テープを巻く)
指揮官「……」
ブリストル「17.4……」メモメモ
指揮官「何が?」
ブリストル「なんでもない♡」
指揮官「ちゃんと捜査してる?」
ブリストル「してるよ~♪」
指揮官「ログ出して」
ブリストル「どうぞ!」
ピッ
指揮官「……」
ブリストル「何か見える?」
指揮官「映像ループを作った端末、MACアドレスはランダム化されてる」
ブリストル「じゃあ追えないね」
指揮官「普通なら」
ブリストル「……」
指揮官「でもDHCPのログに端末名が残ってる」
ブリストル「端末名?」
指揮官「削除したつもりだった?」
ブリストル「……」
指揮官「それともう一つ。ループ映像は一度再圧縮されてる。元の監視カメラ映像とGOP構造が違う」
ブリストル「ごっぷ?」
指揮官「動画圧縮のまとまり。監視カメラは固定長なのに、差し替え部分だけ別のエンコーダを通してる」
ブリストル「へぇ~」
指揮官「そのエンコーダの識別文字列」
ブリストル「……」
指揮官「D857」
しん……
データくん857「」ピコッ
指揮官「……」
ブリストル「……」ピタッ
指揮官「ブリストル」
ブリストル「偶然じゃない?」
指揮官「俺もそう思いたかった」
ブリストル「……」
指揮官「でも匿名メッセージを送った端末も同じ」
ブリストル「……」
指揮官「そしてダイイングメッセージ」
ペラッ
指揮官「現場の『き』だけ、ブラックライトで薄く光った」
ブリストル「……」
指揮官「鉄血寮のペンには入ってない蛍光顔料」
ブリストル「……」
指揮官「でもさっきお前が使った事件現場用マーカーには入ってる」
ブリストル「……」
指揮官「Z35にも聞いた」
ブリストル「何を?」
指揮官「なんで普段使わない西廊下でダンスしようと思ったのか」
ブリストル「……」
指揮官「『ブリストルが、人がいなくて踊りやすい場所を教えてくれた』って」
ブリストル「……」
指揮官「タリンを動かした」
指揮官「メークレンを待たせた」
指揮官「監視カメラを96秒だけループさせた」
指揮官「Z35を発見者として誘導した」
指揮官「それから『犯人は……き』を置いた」
ブリストル「……」
指揮官「事件が起きるところから、発見されるところまで全部組んでる」
ブリストル「……」
指揮官「黒幕はお前だろ、ブリストル」
しん……
ブリストル「……」
指揮官「どう?」
ブリストル「……えへ」
指揮官「?」
ブリストル「えへへへ……♡」ニタァ
指揮官「笑うところ?」
ブリストル「完璧」
指揮官「は?」
ブリストル「完璧だったよ指揮官♡」
指揮官「何が」
ブリストル「途中からずーっと鳥肌立ってた」
指揮官「事件を起こした感想じゃない」
ブリストル「観葉植物の揺れから映像ループ見つけて、粉の違いを調べて、タリンのカンレキから旧鉄血規格に気付いて、無線ログで移動まで追って……」
ブリストル「それでも終わらずに、最後はぼくまで見つけちゃうんだもん♡」ゾクゾク
指揮官「お前なぁ」
ブリストル「かっこいい……♡」
指揮官「怒ってるんだけど」
ブリストル「もっと怒って♡」ズイッ
指揮官「エルベみたいなこと言うな」
ブリストル「指揮官」
指揮官「何」
ブリストル「ぼくね」
ブリストル「ずっと思ってたんだ」
指揮官「何を?」
ブリストル「指揮官と一緒に謎を追い続けられたら、絶対楽しいだろうなって」
指揮官「普通に誘えばよくない?」
ブリストル「それだけじゃ足りないよ」
ブリストル「事件が終わったら解散するでしょ?」
指揮官「まあ」
ブリストル「嫌」ピタッ
指揮官「……」
ブリストル「一つ解決したら次の事件」
ブリストル「次が終わったらまた次」
ブリストル「朝起きても一緒に推理して、ご飯食べても一緒で、夜寝る前にも一緒に謎を考えて」
指揮官「ブリストル」
ブリストル「死ぬまで共同捜査♡」にこっ
指揮官「重いな?」
ブリストル「だから結婚が一番効率いいよね!」
指揮官「何でそうなるの?」
ブリストル「夫婦ならずっと一緒だから!」
指揮官「ならないよ」
ブリストル「なるよ?」
指揮官「ならないって」
ブリストル「……」
指揮官「……」
ブリストル「じゃあ最後の謎だね」
指揮官「何?」
ブリストル「指揮官はこの部屋からどうやって出るでしょう?」
指揮官「は?」
ガチャ
指揮官「……」ガチャガチャ
指揮官「ブリストル、開けて」
ブリストル「嫌♡」ニコッ
指揮官「……指揮官カード」
ブリストル「さっき証拠保全用に預かりました♡」ヒラヒラ
指揮官「スマホ」
ブリストル「ぼくが持ってます♡」
指揮官「非常通信」
ブリストル「外部回線は解析中につき隔離済み♡」
指揮官「非常ベル」
ブリストル「旧艤装試験室の誤作動防止モード♡」
指揮官「監視カメラ」
ブリストル「ループ中♡」
指揮官「なら誰かが俺を探しに来る」
ブリストル「来ないよ?」
指揮官「来るだろ。俺が予定全部すっぽかしたら──」
ペラッ
ブリストル「これ覚えてる?」
指揮官「……」
『特殊捜査中の所在秘匿及び外部連絡代行承認』
指揮官「……まさか」サッ
ブリストル「時計管理室で指揮官が自分でサインした書類♡」
指揮官「お前、あれ……!」
ブリストル「捜査終了まで、予定変更も定例連絡も共同捜査員に一任。『指揮官は極秘捜査中、接触不要』ってぼくが毎日報告しておくから、みんな指揮官の邪魔をしに来ないよ♡」
指揮官「……」
ブリストル「推理に夢中で、読まずにサインしてくれたよね?」トントン(署名欄を指差す)
指揮官「俺か……」
ブリストル「せいかーい♡」
指揮官「鍵を奪う」
ブリストル「ぼくKAN-SENだよ?」
指揮官「壁を壊す」
ブリストル「ここKAN-SEN用の旧艤装試験室だよ?」
指揮官「誰かが偶然来る」
ブリストル「この区画も捜査終了まで立入禁止♡」
指揮官「……」
ブリストル「食料も水も寝具もあるよ。お風呂も奥♡」
指揮官「いつ用意した?」
ブリストル「昨日!」
指揮官「事件起こす前から住む気じゃん!!」
ブリストル「新婚旅行前の予行演習♡」
指揮官「まだ結婚してない!!」
ブリストル「するよ?」
指揮官「しない」
ブリストル「する♡」ズイッ
指揮官「……」ジリッ
ブリストル「さあ指揮官。推理結果は?」
指揮官「…………詰み?」
ブリストル「大正解!!」ぱぁぁっ
指揮官「嬉しそうにするな!!」
ブリストル「景品はこちらで~す♡」スッ
白い小箱
指揮官「……」
ブリストル「開けてみて♡」ワクワク
ブリストル「目星ロール!」
指揮官「自分で開けるよ!!」
パカッ
誓いの指輪「」
指揮官「……」ピタッ
ブリストル「指揮官の右手の薬指、17.4。ぴったりサイズ♡」
指揮官「最初からこれ測ってただろ」
ブリストル「えへへ♡」
指揮官「……」
ブリストル「事件ってね、犯人を当てるだけじゃ駄目なんだよ」
指揮官「?」
ブリストル「最後まで生きて帰らないと♡」
ブリストル「でも大丈夫♡」
ブリストル「ぼくは指揮官を殺さないから♡」にこっ
指揮官「知ってる」
ブリストル「一生大事にするだけ♡」
指揮官「そっちの方が怖いんだよ」
ブリストル「明日また結婚するか聞くね♡」
指揮官「明日?」
ブリストル「明後日も、一週間後も、その次も」
指揮官「……」
ブリストル「ぼく、待つの得意だから♡」
指揮官「嘘つけ。事件起こしてまで待てなかった奴が」
ブリストル「じゃあ今日結婚しよ♡」スッ
指揮官「そういう意味じゃない!!」
指揮官「お前」
ブリストル「なぁに?」
指揮官「俺が黒幕まで推理するところも計画通りだった?」
ブリストル「ううん」
指揮官「え?」
ブリストル「タリンまでで終わったら、それはそれでこの部屋に連れてくるつもりだったよ」
指揮官「……」
ブリストル「でもぼくまで見つけてくれたから」
指揮官「……」
ブリストル「もっと好きになっちゃった♡」ぎゅっ
指揮官「ひっ……」
ブリストル「名探偵の宿命だね!」
ブリストル「ほら、指揮官」
指揮官「何」
ブリストル「左手貸して♡」スッ
指揮官「嫌」
ブリストル「じゃあ右手でもいいよ?」
指揮官「そういう問題じゃ……」
ブリストル「えへへ……♡」じりっ
指揮官「……」
ブリストル「だから言ったでしょ?指揮官はぼくのお婿さんだって♡」
ブリストル「事件も家庭も解決解決♡」ぎゅっ
─完─