卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~   作:露李鈴

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第十九話 開拓編:穢れを田に返す【下水整備・弐】

 名張の朝に、広場で集会を開くことが、

 習慣のようになり始めていた。

 

 シラガに、イワホコ。

 火の巫女を受け入れる村人たちの顔が並ぶ。

 

 その視線の中央には、俺と、イミコ。

 

 

「今度は、汚れの塊についてなんだけど……」

 

「にぃに……また、きたないの、わけるの……?」

 

 先日、環濠に受け場を作り、

 汚水の穢れを弱める仕組みを作った。

 

 今日は、その先だ。

 

 

「食い残し、腐ったもの、汚れた敷き草、

 ……そういった固形の穢れをわけていきます」

 

「そこまでする必要、あるのか?」

 

 イワホコが、渋い表情を浮かべていた。

 

 

「穢れが溝に溜まると、排水が詰まり、

 また臭い、虫が湧きます……」

 

 俺は、まわりに説明をする。

 

「流せる穢れと、塊の穢れは、

 分けて捨てなければならないでしょう」

 

 

「なら、村の外に投げ捨てるか……」

 

 シラガが顎に手を当てながら考え込む。

 

「それでもいいですが……、

 どうせなら穢れを活用したいのです」

 

「活用……?」

 

「地面に、穴を掘って穢れを埋めましょう」

 

「穴……」

 

 イワホコが渋い表情を浮かべた。

 地面に穴を掘ることの労力の大きさを物語っている。

 

 だが、それでもだ――

 

 

「形のある腐りものは穴に入れて、

 灰をかけ、枯れ葉を重ね、土を薄くかぶせます」

 

「それに、なんの意味が」

 

「時間はかかりますが、きちんと穢れが鎮まれば、

 最後には田へ返せる土となります」

 

 

「穢れを、田に返すだと」

 

 イワホコが驚いた顔をした。

 

「穢れというのも、また、生きてます。

 それらを正しく用いれば土が豊かになります」

 

「イミナ殿の言葉でなければ、

 これは、にわかには信じられませんが……」

 

 シラガが、ゆっくりと息を吐く。

 

「まずは、いくつかの田で試してみるかのぅ」

 

 

「きたないの……ねかせたら、いいつちになるの……?」

 

「イミコが疲れても、眠れば元気になるように、

 穢れも眠らせれば変わるんだよ」

 

「……きたないの……ねる……」

 

 

――――――――――

 

 話が決まると、俺達は村の橋を越えて、

 環濠を渡った先の斜面を歩いた。

 

 村の入口に近く、

 田畑へも、ほどよい距離のあるところ。

 

 水源から離れ、風は村と逆へ抜けていくところ。

 

 

「ここなら、臭いも村には届きそうにないな」

 

 イワホコが地形を見回して頷く。

 

 

「それでは掘ってみるか」

 

 イワホコが連れてきた男衆たちに声をかけた。

 

 すぐに、男衆たちが木の鍬や、掘棒を手に、

 ざく、ざくと土を掘り返していく。

 

 やがて、腰ほどの深さの穴が三つ、

 すこし離れて並んでいた。

 

「こんなもんでどうだ」

 

 掘り出した土で土手が作られ、

 汚物が溢れないよう地面より一段高くしてある。

 

 

「まず、底に枯れ葉を入れましょう、

 その上に、今日の腐りものを入れてください」

 

 桶に溜められた汚物を、

 ひとつ、また、ひとつと穴に注ぎ込む。

 

「……ぅー、くさぃ……」

 

 イミコは鼻を塞いでいた。

 

 

「その上から、灰を振ります」

 

 白い粉を、ふわりと穴の中に落とす。

 

「にぃに、また、はぃ……」

 

「火の後のものは、ここでも、役に立つんだ」

 

 

「そして、灰をかけたら、また、枯れ葉。

 その上へ、土を薄く重ねる……これを繰り返します」

 

「腐るもの、灰、葉、土……か」

 

 イワホコが指を折るように繰り返した。

 

「面倒でも、これらをやらないと、

 ただの穢れの穴になってしまいます」

 

「穢れを、鎮めるための穴か……」

 

 

――――――――――

 

 その日のうちに。

 

 村中の人々に話は伝えられた。

 

 

「なんで、そんな遠くまで……」

 

「灰に、葉も……?」

 

 手間が増えることにより、

 戸惑いの声が上がるのは当然のことだった。

 

「村から出る穢れが、最後には、

 田へ、実りを与えるようになるのじゃ……」

 

 シラガは、皆によく説明をしてくれた。

 

 だが、そこで、

 皆を納得させたのは――

 

 

「……みこのひで、むらを……みんな、まもりたい……」

 

 イミコの一言だった。

 

 

――――――――――

 

 夕方、村の外れ。

 

 汚物の桶を担いで歩く男衆を、俺は眺めていた。

 

 穴へ流し、灰を振り、枯れ葉をかぶせ、土をかける。

 それだけのことが、村の穢れの流れを変えていく。

 

「火床の灰、足りなければ言ってください」

 

 遠くからはアサメの声も聞こえてきた。

 皆、よくやってくれている。

 

 

 

「にぃに……きたないのも、ちゃんと、ばしょ、いるんだね」

 

 イミコが、土のかかった穴を、じっと見つめていた。

 

「……きたないものは……、

 ……まざらないほうが、いいのかな……」

 

 イミコの小さな手が、

 ぎゅっと、自分の服の裾を掴んでいた。

 

 

 ふと忘れそうになるが――

 

 数日前まで俺達は「忌み」と呼ばれ、

 村から拒絶されていたのだ。

 

「無理に、混ざらない方が、いいのかもな……」

 

「……そう、かな……やっぱり……」

 

 イミコが、悲しそうな声をあげる。

 

 

「村は、村……俺達は、俺達……、

 混ざるより、分けて関わり合う……かな……」

 

 水は、水のまま。

 火は、火のまま。

 

 忌み子は、巫女のままに――

 

 

「……そうだよね、うん……」

 

 イミコは、静かに村を眺めていた。

 

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